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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第四十四話 異形席巻

 

 ズズン……ッッッ!!!! と王都全域を揺さぶる激震と共に炸裂した力の波動にタルガの本能が最大級の警報を発する。


 大魔導師だなどと呼ばれるくらいには魔導に精通している彼だからこそ、炸裂した力の波動の異質さにも気づくことができた。


 魔法陣が誘導する異界の超常存在の力と同質なれど、規模が極大すぎる。それこそ王都くらい容易く吹き飛ばせるだけのエネルギーが荒れ狂っていた。


 中心点は主城クリスタルラピア。ガラス工芸が盛んなソラリナ国の表徴らしく、強度と美しさを兼ね備えた宝石もかくやといったガラスで構築された、贅の限りを尽くした権威の象徴──だったのだが、



 見る影もなかった。

『スピアレイライン運輸』が本店から飛び出したタルガの目にうつるはクリスタルよりもなお煌びやかなガラスで建てられた主城クリスタルラピアが無残にも『内側から』砕かれていく光景であった。



 次から次へと、至る所から飛び出るはまさしく異形であった。あるいは剣や槍や斧や薙刀やレイピアなど多様な武具を寄せ集めて人の形を作ったような異物、あるいは無数の触手を蛸壺のような球体から生やす軟体生物、あるいは異様に発達した腕と針のような足を持つ一つ目の怪物。


 そのどれもがまさしく異形であり、そのどれもが魔導で呼び出す力と同質の力を感じさせる──そう、異界に住まう悪魔のようであった。


「ちょっ、と……待て。魔粒浄化技術の発展を妨害している連中を炙り出して、始末して、生物が根絶してしまうような事態を阻止する。そんな話じゃなかったのか?」


 一層強く。

 どんな異形も霞むほどに莫大な力は依然として主城クリスタルラピアから迸っていた。『内側から』城を砕き飛び出す異形が霞むほどに莫大なエネルギーがタルガの魂を揺さぶる。


「くっそ! こんな無茶苦茶な展開になる前触れなんて何もなかっただろうが!! 唐突に何やってんだよ、くそったれ!!」



 ーーー☆ーーー



 最近国王と君臨したジークランス=ソラリナ=スカイブルーが強者と振る舞えるとしたら、それは『聖剣』を媒介に、血筋を軸として、神の力の一部を引き出してこそ。


『勇者』ミリファ=スカイブルーを代表として、数多くの英傑を世に送り出してきた祝福なりし血筋。脈々と受け継がれてきた血筋は、しかしジークランス=ソラリナ=スカイブルー以外にも何人か継いでいる。


 その内の一人こそ第二王子。そう、彼だって『聖剣』の力を引き出すために必要な血は宿している。


 ありとあらゆる面において第一王子なんて比較にならないほど優れていた第二王子ではあったが、先代の王は第一王子ジークランス=ソラリナ=スカイブルーこそを王と指名した。おそらくその答えはここにある。こんなことをやらかすと読んでいたわけではないにしても、第二王子の本質に何らかの嫌な予感を感じていたからこそ『馬鹿』な第一王子に王位を任せるしかなかったのだ。


「が、ば、ぶべばっ!?」


 黄金の閃光が迸る。視界を黄金と潰されたジークランスは回避どころか、どんな攻撃を仕掛けられたかも把握できていなかった。


 ただただ尋常ならざる衝撃があった。どんな風に薙ぎ払われたかも理解できないまま、ドガンッ!! と破砕音と共に浮遊感が炸裂する。


 果たしてガラスの壁をぶち抜いて、宙に投げ出されたとジークランスは気づけたか。気づけたとして、何ができるわけでもなかった。


 そのままそこらの民家を縦にいくつも積み重ねたような高さから地面に叩きつけられる。骨が砕け、肉がひしゃげる嫌な音が炸裂する。


 それでも即死だけは回避できたのは、曲がりなりにも王族として鍛錬してきたからか。最低限身を守る術があったからこそ生き残ることができたが──そもそも『聖剣』の力をフルに使えば人間一人など容易くミンチと変えることができるはずなのだから、こうして生き残ったのは手加減されたからに違いない。


 なぜか。

 そんなの決まっている。


「ジグ、バニア……」


 ぐしゃり、とその手で仮面を鷲掴みにして砕き、素顔をさらす男がジークランスがぶち抜いたガラスの壁の穴から見下ろしていた。


 第二王子ジグバニア=ソラリナ=スカイブルー。黄金のように輝く腰まで伸びた金髪は津波のように靡いており、深い海のごとき碧眼は侮蔑に濁り、鍛え上げられた肉体はぎゅるり!! と虚空より現れた黄金の鎧に覆われていく。



 ピエロのような過剰な陽気をばら撒く仮面や格好が消える。黄金の剣に黄金の鎧。煌びやかな黄金にてその存在を示す。



「はっはぁーっ! 不出来な兄よ、これより世界はさいっこうにイカした変貌を遂げる! 強きが幸せに、弱きが不幸となる完全なる弱肉強食の世界へとなぁ!! それこそ自然の摂理、当たり前の生存競争の果てゆえに!! なら、だったら! 生まれた順番、性別に種族、何を信仰して何を好むか、そんなもので区別されない、純粋な『力』だけが全ての世界に不出来な兄の居場所はあると思うかぁ???」


 黄金が黒く腐るのではと錯覚するほどに端整な顔を歪めて第二王子は吐き捨てる。完全なる弱肉強食の世界。もしもそんなものが実現したならば、『聖剣』を失ったジークランスでは瞬く間に殺害されることだろう。


 だから。

 だからこそ。


「くだらない。宰相を異形と変え、大陸を死と絶望で埋め尽くすつもりで、その果てに求めるのが完全なる弱肉強食の世界? 笑わせるなよ、弟よ。ちょっとばかり優れているからと、世界さえ変われば自分の立場も変わると思ったんだろうが……自分が変わるのではなく世界を変えるなんて発想が出てくる時点で王族として終わっているとなぜ気づけないのやら」


 ジークランスは言う。

 これだけは、どうしても伝えなければならないのだから。


「王に必要なのは個人の幸せにあらず、民衆全体の幸せなんだ。そのためなら()()()()だろうと切り捨てるだけの非情さあってこそ。完全なる弱肉強食の世界なんて目指しているのは優秀な自分が正当に評価されない世界は間違っている、なーんてつまんない理由なんだろうが──そんな風に考えてしまうからこそ評価されないと知れ!!」


 叫び、そして。



 ははっ、と。

 嘲るような笑みがあった。



 ジグバニア=ソラリナ=スカイブルーは笑う。ニタニタと、侮蔑のままに。


()()()()()()()()()なぁ。よもや我がこの国の王と指名されないことを気にしていると? 宰相ごときの策略にハマって『頭脳』を失ったことにすら気づけない不出来な兄でも務まるような座に固執などするものか。我が望みは、より高みにこそ。最高の奇術ショーの前振りこそが完全なる弱肉強食の世界なんだよ!! はは、はははははは!!」


 響く哄笑の後に続かんとガッジャアッッッ!!!!と轟音が炸裂する。主城クリスタルラピアの『内側から』多種多様な異形が飛び出したのだ。


 誰に気づかれることなく侵入していた、ではないだろう。ジークランスは目撃している。宰相が異形と変じたことを。


 すなわち、これもまた人間が変じた末路。

 元は主城内部にいた人間だったのだろう、百を軽く超える多種多様な異形が競うようにジークランスへと迫り来る。


「己が部下にいたぶられる、か。ありきたりだが、悪くはない奇術ショーだよなぁ?」


 そして。

 そして。

 そして、だ。



 ザッゾォンッッッ!!!! と。

 迫る異形、その先頭を走っていた十以上もの異形が縦に真っ二つと叩き斬られた。



「悪くはないだと? ふん、悪趣味にもほどがあるというものだ」


 彼は転移してきたかのような唐突さにてジークランスの前に立っていた。


 腰まで伸びた黒髪を後ろで一纏めにしており、右の頬には小さな泣きぼくろが一つ。社交場だろうが戦場だろうがお構いなしにラフな黒のシャツに濃い紺のズボン姿の男は紅色の剣を右手に持っていた。


 ぽた、ぽたぽたっ! と紅の剣から鮮血が垂れる。まさしく一瞬で十以上もの異形を両断してみせた男はブォンッ! とこびりついた血を払うように剣を薙ぎ、その切っ先をジグバニアへと向ける。


「まあ二千人もの兵士を虐殺する、なんてつまらない真似するような奴だ。思いつくのなんてその程度なんだろうがな」


「大将軍、か……ッ!!」


 ギヂリ、と大将軍ルシア=バーニングフォトンは紅の剣の柄を力強く握りしめる。その瞳が真っ直ぐに第二王子ジグバニア=ソラリナ=スカイブルーを見据える。


「覚悟はいいか、クソ野郎。ありきたりな復讐に沈んで朽ち果てるがいい!!」


 瞬間、ルシアの身体がブレる。途端に隙を伺っていた異形の一体の上半身と下半身とが斬り分けられた。

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