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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第四十一話 戦う理由

 

 ソラリナ国、王都。

 その片隅にひっそりと存在するは大陸中の国家を股にかける輸送専門組織、『スピアレイライン運輸』本店。


 大陸でも屈指の規模を誇る巨大組織の本店とは思えないほど寂れたそれははじまりの象徴にして、再起の起点であった。


 大魔導師タルガ。

 かつて大陸でも最高峰だった研究所の所長であり、魔導の普及によって撒き散らされる残留物『魔粒』が空気を汚染する危険性を暴き、その対抗策として『魔粒』を吸着する魔道具を開発しようとして──研究員やその家族の失踪や死が連続、また複数の国家の圧力によって研究所を閉鎖せざるを得なかった過去を持つ。


 そうして全てを失い、自暴自棄になっていた彼を救ってくれたのがシェルファであった。(大将軍にして兄たるルシア=バーニングフォトンの権威でもって)庇護してくれたり、初期投資費用を肩代わりしてくれたりと再起の手伝いをしてくれたのがシェルファなのだ。


 能力以外が不足しているならば大抵のことは補える。そうするだけで成功が約束されるのならば投資しない理由はない。それがシェルファの『建前』だったか。


 善意が全てではないにしても、手札を手に入れるためだけでもない。何ともシェルファらしい思考回路だろう。


 そんなシェルファだからこそ、タルガは惹かれた。だからこそ、かつて自分の全てを奪う原因となった『魔粒』除去関連の仕組みを手に入れて、それをばら撒こうとしているシェルファからそれを肩代わりしたのだ。


 シェルファは全て見抜いている。またも全てを失うかもしれないリスクを背負ってでも手助けしてくれなくともいいという意思表示はされていた。


 それでも。

 例え多大なリスクを背負おうとも。


 タルガに手を差し伸べてくれたように、他の大勢を救ってみせた時のように、今日もまた誰かのために突き進む彼女の力になるとタルガは決めたのだ。


 婚約破棄や勘当、あれだけのことがあろうとも何も変わらない芯を持つ好きな人のためならば、大陸でも最高峰の研究所を潰した『勢力』だろうとも粉砕してみせる。


(研究所が潰れたのは『魔粒』除去のための魔道具を完成させないためだろう。ならば、似たような効果を持つ土地浄化農薬も潰すために動くだろう。複数の国家……いいや、大陸中の国家、だろうな。もしも『勢力』に属さない国家があったならば、土地浄化農薬の有用性をチラつかせて味方に引き入れるくらいするだろうしな。となれば、ソラリナ国にだけばら撒くのは仲間割れを期待しているのか、それとも単に『勢力』が仕掛けてくるのを返り討ちとした後に情報源とするためか、ともかく『勢力』の全貌を明確とするためってことだろうな)


 研究所壊滅にはソラリナ国も関わっていた。ゆえにこそ、ソラリナ国のみに土地浄化農薬を売りさばくことが味方に引き入れるためであるとは思えない……となれば、少なくともシェルファは全ての国家が『魔粒』除去に反対している『勢力』であると見抜いているのだろう。


 だが、なぜ?

『魔粒』による汚染が進めばいずれ人間も生きていられなくなるほどの環境となる。それを阻止するための仕組みをわざわざ率先して潰す理由はなんだ?


(何らかの理由はあるんだろうな。それを大陸中の国家は是として、シェルファの嬢ちゃんは否とした。だったら、それで十分。敵討ちだなんだもありはするが、それ以上に惚れた女の進む道に力を貸してやれないってんじゃ男が廃るってもんだ)


 そして。

 そして。

 そして、だ。



 ズズン……ッッッ!!!! と。

 王都全域を揺さぶる激震と共に魂を抉るような力の波動が炸裂した。



「な、んだ!?」


 それは。

 王都の中心──すなわち王が住まう主城クリスタルラピアから炸裂していた。



 ーーー☆ーーー



「──『勇者』には異界の神と愛した先祖がおりました。その神よりプレゼントされた聖剣には神が愛した血筋を守護するため、血筋を引く者にしか真の力を引き出せないという制限がありました。すなわち聖剣伝説。選抜の地に突き刺さったその聖剣を引き抜いてみせたミリファ=スカイブルーは『勇者』として迫る七の悪魔に立ち向かったのです」


 シェルファは最近子犬たちに人気の覇権大戦に関する物語を読み聞かせていた。ぴょんぴょんと跳ねたり、キラキラと熱心に見つめてきたりと反応は上々である。


「──『聖女』はありとあらゆる種族の性質を司り、また死以外の負傷の全てを癒す力を持っていました。その力でもって悪魔との戦争で傷つく仲間を癒したのです」


 土地浄化農薬の発売は明日に控えていた。どこぞの第一王子、いいや国王が『勢力』の一員であるとは考えられないので、おそらくソラリナ国においては宰相辺りが『勢力』と通じていると見ていい。民のための政策を、と志していた前国王に尽くしておきながら、前国王が病に倒れたと共に方針を一転させた宰相の性根などわざわざ見なくとも見破れる。


 未だ『勢力』の全貌は見えず、しかしそれも時間の問題である。幸運なことに大魔導師タルガが協力してくれることになったので攻略はそう難しくはないだろう。


「──『賢者』は全ての魔導を操り、また召喚術や封印術など新たな系譜を作り上げ、その力でもって『勇者』の力を底上げしました」


『勢力』の狙いが何であれ、『魔粒』汚染による緩やかな自殺を放置しておいていいわけがない。それを阻止するためならばとシェルファは貴族であった時から動いてきた。というか、そうでなければ第一王子との婚約など成立する前に潰すに決まっているではないか。


 ──あの小屋の外へと飛び出たシェルファを迎えたのは広い、本当に広い世界であった。まさに未知の山。こんなにも輝く世界の全てを堪能したいと望むのはそうおかしなことではないだろう。


 そのための書物。人間一人が踏破して、見聞きするだけでは堪能できないほどに広い世界を隅から隅まで知るための手段であった。そこでシェルファは魔導を知り、その奥深さにのめり込んだが……本来は魔導に限らず色んなことを知りたいだけなのだ。


 であれば。

 こんなにも光り輝く世界が汚染されるのを放置なんてできるわけがない。まだ堪能できていない未知を殺させやしない。それが、それこそが、シェルファが戦う理由であった。



 第一プランは婚約破棄や勘当により破綻した。

 ならば第二プランでもって立ち向かうのみ。



 さあ、始めよう。

 くだらない汚染を是とする『勢力』を粉砕するための戦争の。


「ひゃっふあ!?」


 と。

 さらりとした感触が頬を揺らした。読み聞かせている本を横から覗き込むシロの真っ白な毛並みによるものだと、触れ合うほどに近づいているのだと気づいた瞬間、シェルファの肩が大きく跳ねた。


「ム。ワルイ、オドロカセタカ」


「い、いえ、そんな、……ふ、ふあ」


 バクバクと心臓が暴れる。ほんの少し距離が近いだけで頬が熱くなり、思考が空転して、しかして心地よさすら感じていた。


 本当に世界は広い。

 こんな気持ち、今まで知らなかったのだから。

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