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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第三十五話 生命を滅ぼす破滅の到来

 

 なんだかハッピーエンドのような雰囲気が漂っているが、現実問題何も解決などしてはいなかった。



 ゾッザァ!! と白と黒の竜巻が、迫る。

 触れた物質のことごとくを分解する破滅の根源。命を優先して殺す禁術は依然として君臨していた。



『冥王ノ息吹』。

 世界を滅ぼす可能性を秘めし禁断の奥義と言い伝えられている破滅が真っ直ぐに近くの『命』──すなわちシェルファたちへと襲いかかる。


「お、おおっお嬢様ーっ!! 感動の再会大いに結構本当ルシア様が生きていて良かったんだけど、それはそれとして早く逃げないとなのお!!」


「……、むう」


「すっごく不満そうなの邪魔しやがってってことなのでも今はそんなこと言っている場合じゃないから仕方なっ、うわあーっ! スッゲー近くまで来てるう!?」


「ハヤク、ノレ」


 ぼそり、と。

 いつのまにかシェルファの後ろに回り込んでいたシロが抱き合う二人を荷馬車の上に放り投げる。


 どこか不機嫌そうな彼はそのまま荷馬車の前に回り込み、ゴッバァ!! と轟音と共に発進、白と黒の竜巻から遠ざかる。


 ちなみに。

 荷馬車が発進する直前、先のルシアを覆っていた淡い光と同じものを纏った兵士らしき少女が荷馬車に乗っていたが、不自然なまでに誰にも気づかれていなかった。


 と。

 それなりの高さまで投げられたというのに、軽やかに(その腕に妹を抱いたまま)着地していた兄が口を開く。


「おっと。誰だ、あの全身ローブ?」


「シロ。家を出てから出会った、大切な人です」


「大切な、か。シェルファが他人相手にそんなこと言うだなんて珍しいこともあるものだ」


 呟きながらも、強くシェルファを抱きしめるルシア。その腕の熱からも、その声音からも、兄の気持ちが強く強く伝わってくる。


 シェルファが感じていた怯えなんてくだらないものだったと教えてくれるように。


「それより、だ。シェルファ、お前は早く逃げろ」


「ルシアお兄様は、これからどうするんですか?」


「もちろん、あの忌々しい竜巻を吹っ飛ばす」


「どうやって、ですか?」


「それは……まあ、あれだ、これから考えるさ! 何、さっきも()()()()()()()()()()()()()()()()()し、何度も繰り返せばなんとかなる、はず!!」


「ルシアお兄様がそういった方だということも、そういった考えでついには大将軍にまでのぼりつめたことも知っています。ですが、何の策もなくただ挑むだなんて非効率的です。行動するなら、事前に勝機を見出すべきですよ」


 何やらレッサーが『お嬢様がそれ言う? さっきまであんなだったのにそれ言っちゃっ、ふにゃあ!?』なんてことを言いながら三割増しで荒れ狂う荷馬車の上で跳ね回りお尻をバッコンバッコン打ってにゃあにゃあ悲鳴をあげていたが、目前の破滅にどう対処するかが一番重要であるがためにスルーするとして、だ。


「だがな、シェルファ。実際、どうするんだ? あれは『冥王ノ息吹』。一から十まで魔力で構築された超常であり、異界の超常存在が放つ超常を誘導する目的で用いられる魔法陣で逸らすことはできない。食い止めようにもどんな防壁でもいずれは分解してしまうし、回避しようにもあれは対象が力尽きるまで延々と追いかけてくるというのに」


「ええ。ですからルシアお兄様にはこの近くの街に住む人たちの避難誘導をお願いしてもよろしいでしょうか? 大将軍の地位があれば、指示にも素直に従ってくれるでしょうし。ああ、もちろん念のためでしかありませんが」


「待て、シェルファ。その口ぶり、もしや!?」


「ご想像の通り、あの竜巻はわたくしたちが跡形もなく消してやりますよ」



 ーーー☆ーーー



 ルシアを街で降ろし、ついでに大量の木箱を購入、荷馬車に積み込んでから発進、目的地を目指していた時であった。


 シロは胸の奥にわだかまる何かに眉をひそめる。


(ヘン、ダ)


 ルシアお兄様、と。

 あのシェルファがあそこまで感情をむき出しにするほどには大切な人が生きていた。ゆえに、喜んでいた。それだけの話で、それはとても良いことで、素直に祝福するべきで、なのに、


(ナンデ、オレ、ハ……)


 もやもやする。

 ちょっとくっつきすぎじゃないのかと思ってしまう。


 そんな気持ちになってしまう理由までは言語化できないが、とにかくもやもやするのだ。


 と。

 その時であった。



「シロ」


「……、ナンダ、シェルファ?」


「頼りにしています。これ以上被害者を出さないためにも、シロの力を貸してください」


「ソウ、ダナ。イマ、ハ、アレ、ヲ、ナントカ、シナイ、トナ!!」



 もやもやを、振り切る。

 せめて今だけは感情に左右されずに行動すべきだから。



 ーーー☆ーーー



 パタパタと。

 背中から羽を生やした兵士らしき少女が言う。


「そろそろ限界みたいだし、失礼するわねえ」


「それも『嘘』でしょう? 夢の中で語っていたことが『嘘』だったみたいに」


「ふっふ。さあそれはどうかねえ?」


 嘯き、荷馬車から飛び出す少女。

 その背中の漆黒の翼を羽ばたかせて飛び上がる彼女へと、シェルファは最後にこう声をかけた。


()()()()()()()、わたくしの大切な人を助けてくれて、ありがとうございます」


「むっぐ!? あ、悪魔にお礼なんて言わないことねえ!! 大体、そう、こっちにはちゃんと『目的』があってねえ!!」


「わかっています。それでも、だとしても、貴女の行いがルシアお兄様を救ってくれたのは確かですから」


「ったく。本当『壊れている』わねえ。まあ悪い気はしないけどねっ!!」



 ーーー☆ーーー



「チッ。めんどーなことになってんじゃねーか」


 木組みの街では有名な薬師、ジーラグドは薬屋の外で『それ』を見据えていた。


 数キロ先から迫る破滅。

 白と黒の竜巻を。


「ジーラグドっ! 何やってんだ、避難だ避難っ。あの大将軍が直々に避難勧告しに来るくらいにやっべー状況なんだぞ!!」


「わかってますよ」


 鍛冶屋のおっさんの言葉にジーラグドはそう返しながらも、すぐにその場から動こうとはしなかった。


 周囲は混乱の極みであった。あの竜巻はありとあらゆるものを分解する力を秘めているため、有効な手立ては距離を取ることしかないらしい。ゆえに大将軍ルシア=バーニングフォトンは避難するよう通達してきたのだ。


 視力補正用のメガネ型魔道具にて増幅した視力でもって数キロ先に君臨する破滅を眺めていたジーラグドはその視線を周囲へと向け直す。


 街道は人の波で埋め尽くされていた。我先にと逃げ出す人々。自分だけはと他者を押し退けて走る有様すら見受けられるため、自ずと発生する現象がある。


「きゃっ!?」


 人の波に弾き飛ばされた少女が地面に転がる。そんな少女を構うことなく人の波が迫り、


「ったく、めんどーなことしてんじゃねーよ」



 ぐいっ!! と。

 少女が人の波に踏み潰される寸前、ジーラグドは少女の腕を掴み、街道の隅へと飛ぶように移動した。



「え、あ?」


「大丈夫か?」


「は、はいっ。ありがとうございます!」


「いいってことよ。それより怪我とかしてねーよな? こーゆー時に役立ってこその薬だが、怪我しねーことに越したことはねーし」


「だっ大丈夫です!」


「なら良し。裏道のほうが人少ねーから、そっちから避難するこったな」


 ジーラグドの言葉に少女は勢いよく頭を下げて、裏道へと走っていった。ジーラグドはといえばゴキッ! と首を鳴らし、一度薬屋へと戻っていく。


 例の竜巻は街を滅びし、人々を殺す力があるのかもしれない。だが、あの竜巻が実際に猛威を振るうことがなくとも、恐怖という暴威は確実に負傷者を生み出すことだろう。


「ったく。こーゆーのはあくまで医者の仕事で、薬師の仕事じゃねーんだがなあ」


 面倒くさそうに呟きながらも、多種多様な薬を布の袋に詰め込んでいくジーラグド。負傷者が出ないことが理想だが、出てしまった時に適切に対応できる準備をしておくに越したことはないだろう。


 他人と関わるのはあまり好きじゃないため医者になろうとは思わなかったが、薬師となったのには誰かをために生き抜いた父親の背中を追いかけた結果なのだから。

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