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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第三十一話 未知との遭遇

 

「ン、ンンン……ッ!?」


 びっくうっ!! とシロがフォークを口に突っ込んだまま両目を見開き、全身を震わせていた。


 木組みの街でも有名らしい飲食店の一角。目立たないよう隅のほうの席を選んだので人目につくことはない──


「ウマイッ! コレ、ナンダ、スゴイ、ウマイ、ゾ!!」


「シフォンケーキですよ。肉が主食というか、肉しか食べていない食生活だったでしょうからお口に合うか不安だったのですが、喜んでもらえたようでなによりです」


「シフォン、ケーキ。ソト、ハ、コンナモノ、マデ、アル、ナンテ、スゴイ、ナ!!」


 ──という意図があったのだが、ここまではしゃいでは目立ちまくりであった。お昼時ということで八割がた席が埋まっていることもあって多くの視線が向けられつつある。


 シェルファの隣に座るメイドが不安げに視線を彷徨わせて、


「お嬢様、目立ってるの。大丈夫? シロの正体、バレたりしない???」


「下手に挙動不審になるほうが悪目立ちするものです。堂々としていれば、そのうち関心を失いますよ」


「なの? まあ、お嬢様がそういうなら」


 メイドの不安なんて目に入っていないのだろう、はじめてのシフォンケーキに目を輝かせるシロは拳の形で握ったフォークを生クリームがたっぷりかかったシフォンケーキに突き刺し、次から次に口に運んでいく。


 一応缶詰プラス乾パンの丼なんていうゲテモノ枠の割には意外と美味しいレッサーの手料理(?)を食べる際に一通りフォークやナイフの使い方は教えているのだが、まだまだ不慣れなようであった。


 よっぽど美味しかったのか、ガツガツ口に突っ込み、口の周りを生クリームで真っ白にしようともお構いなしである。


「シロ。シフォンケーキは逃げませんから、落ち着いて食べていいんですよ」


「ン、ンンッ」


 シェルファが対面に座るシロへと身を乗り出し、手を伸ばす。胸元から取り出したハンカチで真っ白に汚れた口元を拭う。


 軽く目を瞑り、されるがままのシロの様子に、シェルファは口元を柔らかく緩めていく。


 なんというか、完全に二人の世界が展開されていた。すっかり忘れられているメイドさんは一つ息を吐き、ケーキに伸ばしていたフォークを机の上に置く。


 代わりにコーヒーを手に取り、喉に通して、一言。


「あっまいの」



 ーーー☆ーーー



「俺らん街の近くの山岳地帯で新たなダンジョン見つかったって話だったよな。確か大将軍ルシア=バーニングフォトン様率いる軍勢が自立人形とかを一掃している途中だとか」


「魔鉱石の採掘のために人が集まる、となれば金儲けのチャンス! きっちり儲けねえとなっ」



 隣の席でカラフルなケーキを摘んでいた厳つい男たちの会話はシェルファたちの耳にも届いていた。


 シロの口を拭い終わったシェルファは微かに目を伏せて、誰に聞かせるでもない独り言が意識せずに漏れる。


「ルシアお兄様が近くに、ですか。お仕事で王都の外に出ていたため、家を出る時、お話の一つもできなかったんですよね」


「オニイサマ? オマエ、ノ、アニ、ガ、チカク、ニ、イル、ノカ?」


「あ、……ええ。そうみたいですね」


「ソウカ。ハナシ、ガ、シタイ、ナラ、アイ、ニ、イケバ、イイ、ン、ジャナイカ?」


「そうなんでしょうが……わたくしは公爵家を勘当された身です。ルシアお兄様はわたくしのことなんていないものと割り切っているかもしれません。それにお仕事の邪魔をするのも──」


「ヨク、ワカラン。ソシテ、ソンナ、ノ、ドウデモ、イイ」


 切り込むように。

 純粋な少年は、純粋ゆえに真っ直ぐに、こう告げたのだ。


「オマエ、ハ、ドウシタイ、ンダ?」


「わたくし、は……せめて、一声だけでも……でも、やっぱり」


「ガンボウ、ヲ、カクス、ナ。シタイ、ナラ、スレバ、イインダヨ」


 言って、シロが身を乗り出す。

 対面に座るシェルファの両脇に手を差し込み、そのまま持ち上げたのだ。


「わっ、シロ!?」


「オマエ、ガ、ナヤム、ナンテ、メズラシイ、ヨナ。ソレダケ、ダイジ、ナ、ガンボウ、ナンダロ。ダッタラ、カナエル、ベキ、ダ!!」


「シロ……。そう、ですね。ルシアお兄様なら大丈夫と思いはしますが、万が一もあるということが怖くて目を逸らしていたのですが──それでも、やっぱり、このままで終わるのは嫌です。ルシアお兄様はわたくしにとって数少ない大切な人ですから」


「フンッ! ハジメ、カラ、ソウ、イエバ、イインダ!」


「きゃっ。し、シロ!?」


 言下にシロがシェルファを抱き寄せて、床を蹴る。右手を首の下に、左手を膝の下に添えて、俗に言うお姫様抱っこ状態で駆け抜けていったのだ。


 そう、シェルファをお姫様抱っこして。

 すっかり忘れられているメイドさんが慌てて椅子から立ち上がる。


「ちょっとーっ! 二人の世界に浸るのはいいけど、置いていくのはあんまりなのお!!」



 ーーー☆ーーー



「エット……。セナカ、トイウ、ブキ、デ、キョニュウ、ヲ、ダトウ、スル、ダッケ?」


 洞窟内には様々な(人間にとっての)日用品が増えていた。その中でも一段と大きな──水面のように姿をうつす──鏡の前ではキキがレッサーからもらったメイド服(背中に大胆なスリットつき)を身につけて、くるりと回っていた。


 レッサーの言うことは半分以上よく分からないが、キキのためを思っての言葉であることは伝わっている。キョニュウ、だのなんだのよくわからない単語で興奮することの多いレッサーだが、こうしてプレゼントしてくれたことが嬉しいのだ。


 ……同年代の女の子からのプレゼント、というだけでキキは胸が高鳴っていた。『ヤツ』に殺されたらしき四人の獣人の中には女もいたが、年齢はキキとは何十倍も離れていた。どうやらレッサーはキキやシロと同じで十代らしいということで、気兼ねなく接することができる同年代の友人であるのだ。


「ハヤク、カエッテ、コナイ、カナ」


 流石に子犬たちやキキを連れては目立つということでお留守番せざるを得なかったキキはくるくると回り、プレゼントしてくれた後、友人がすごく似合うと自分のことのように褒めてくれたからこそ特別なメイド服をなびかせ、レッサーの帰宅を今か今かと待ち遠しく思っていた。

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