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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第二十五話 闘争のその後に

 

 ──此方のためにわざわざ我らが邪悪なりし女王様が出しゃばってくるなんてねえ。実は暇だったり?


 ──まあのう。あやつの告げ口一つで動くほどだからのう。ここには娯楽が足りないのじゃ!


 ──へえ。あんな木っ端悪魔が何を告げ口してきたって?


 ──ミリフィアが人間に肩入れしている、ということじゃ。復讐に躍起になっているあやつを退かせたって話じゃぞ


 ──だってぇ。せっかく見つけた暇潰しのおもちゃ、木っ端悪魔に横取りされるなんて嫌だったもの


 ──まったく。賢者との一件、忘れたのかえ? そうやって遊んで終わりのはずが、気がつけば使役術に縛られていたというのを


 ──そんなこと言ったって退屈なものは退屈だからねえ。我らが邪悪なりし女王様の命令だからって、退屈極まっている此方は止まらないのよねえ!!


 ──ふむ。では、好きにするのじゃ


 ──わざわざ此方を足止めしておいて、そんなこと言う???


 ──それはそれ、これはこれじゃ。現に告げ口してきたあやつは()()()()のじゃし、ミリフィアを無罪放免としたって咎める者はおらぬからのう


 ──ええと、我らが邪悪なりし女王様? はじめからそれが目的で動いていたとか?


 ──まさか。結末を決めていては娯楽にならぬじゃろう。だからこそ余計な邪魔者を排除して、どう転ぶか楽しませてもらった、というわけじゃの


 ──女王様っ! 此方のおもちゃなんだけどっ!!


 ──ふははっ! そうケチなこと言ってくれるな、ミリフィアよ。お主が底抜けに甘いことは知っておるが、ああいうのは地獄の底でこそ輝くものじゃぞ



 ーーー☆ーーー



「……ん、ぅ……」


「お嬢様っ! わっ、わわっ、大丈夫お嬢様あ!!」


 目が覚めた途端にメイドの甲高い声が出迎えてくれた。というか、思いきり抱きしめられた。


「レッサー、重いですよ」


「うるさいばーっか! 無茶して、本当無茶して!最善だったとか、結果的にみんな生き残ったとか、そんな言い訳なしだからねっ!!」


「……、心配かけたようですね」


「まったくなの! メチャクチャ心配したんだからねお嬢様のばかあ!!」


 どうやら洞窟の中の寝袋に寝かせられていたシェルファに覆いかぶさり、頬ずりするレッサー。暑苦しい上に異形に叩き潰されたお腹に響くのだが、それでも受け入れたのはシェルファなりに思うところがあったのか。


 薬特有の強烈なニオイが洞窟内に漂っていた。どうやら適切な量だの考えず、ありったけの塗り薬を調合してシェルファに塗りたくっているようだ。寝袋の中がネチャネチャ気持ち悪いので、おそらく寝袋内は塗り薬で埋め尽くされているのだろう。


「あの一つ目野郎は、どうなりましたか?」


「ああ、あれならズバッと切って倒した後、シロたちが埋葬していたっけ?」


「埋葬?」


 眉をひそめたのは敵を弔ってやったことに対して、ではない。大陸ではスタンダードな死者を土に埋める文化を隔絶された領域に住んでいるシロたちが知っていることに眉をひそめたのだ。


 似たような文化が形成されていた、という理由かもしれない。だが、シロたちと言葉が通じていることも鑑みれば、この共通項を偶然と片付けるには無理が出てくる。


 遠い過去。

 歴史書にさえ残っていない『何か』があったのだ。

 文化を携えた誰かがいつかの時代にて隔絶された領域へと足を踏み入れて『途中から』文化を広めたのか、それともこの森が隔絶されたのは文化を持つ誰かが外部の干渉を防ぐために瘴気を『はじめから』撒き散らしたのか。


 答えは未だ見えず、だがこの共通項は『魔沼』に関する重大な事実へと繋がっている……気がする。あくまで予感でしかないが、それでも頭の片隅に留めておくべきだろう。


「それより! 塗り薬だけでよかった? 他に何かやるべきことない!?」


「ひとまずは問題ありません。傷に関しては今塗ってくれている薬で十分ですから。感染症などがある場合は別の薬が必要ですが、どうやらそういったものはなさそうですしね」


「本当? お嬢様大丈夫!?」


「ええ、大丈夫です。ですから、そんなに泣かないでください」


 おそらくシェルファが目覚めるまでそばにいてくれたのだろうメイドの瞳は涙で濡れていた。涙が伝う頬をシェルファは指で拭う。


 やはり自分は恵まれている、と口元を緩めながら。


「う、ひっく。お嬢様はもっと自分のことを大切にするべきなの。お願いだから、お嬢様が傷ついたら悲しむ人がいることを覚えていてほしいの!!」


「……、そうですね。できるだけ傷つかないよう努力はします」


「努力? どーりょーくーっ!?」


「ええ。あれ? レッサー、どうしてそんな怒っているんですか???」


「それくらい見抜いてよばーかっ!!」


「いえ、わたくしのためを想ってくれているのはわかるのですが、それでもどうしようもないことはあるものです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、万が一の時は被害を最小とするよう──」


「何にも、まったく、これっぽっちも伝わってないのお!!」


 うがーっ! と頭を抱えるメイド。

 分かってはいたけど一筋縄ではいかないのーっ! と感情を爆発させる。



 ーーー☆ーーー



 月明かりが森を照らしていた。洞窟の周囲の木々は異形が考えなしに焼いていたようだが、その辺りはシロたちが燃えた木々を切断して延焼を防いだようだ。


 そして。

 シェルファは完全に燃え尽き、黒く炭化した家の前に立っていた。


 元に戻すのは無理だとわかっていた。だからこそその手でトドメを刺したって何の影響もないと考えていた。


 だけど、だ。

 こうして見ていると胸が痛む。シロたちと共に積み上げたものが壊れてしまったことに思うところがあるようだ。


 それが何であるかまでは、わからない。

 完璧な令嬢としての側面が理解不能と投げ出すのだから、合理性から逸れに逸れた何かなのだろう。ゆえに、論理的に計算しては答えが見えないのだ。


 そういえば、とふと考えたのはどこぞの国の第一王子。あれもまた理解不能な部分が見受けられた。完璧な令嬢としての側面では計算できない行動が多く、シェルファとの婚約破棄など最たるものだろう。


 ()()()()()()()()()()()()()利益はなんだったのか。とはいえ、どう転んでも構わないと他人事のように眺めていたシェルファはとっくにまあなんでもいいと切り捨てているのだが。


 と。

 その時だった。


 そっと、隣に並ぶ少年が一人。


「クサイ、ナ」


「シロ。それは塗り薬のことを指しているんですよね? わかっています、ええわかっていますとも。ですけど、そういったことは軽々しく言わないでくれません!?」


「? クサイ、モノ、ハ、クサイ、ダロ」


「ふぐう!」


 幼い子供のように頬を膨らませるシェルファ。どうにもシロの前だと幼い側面が顔を出す。思えば出会った瞬間からそうであったような気がしないでもないが、ではその理由は?


「ソンナコト、ヨリ。モウ、ダイジョウブ、ナノカ?」


「え、ええ。ある程度は治っていますので。……乙女心踏みにじっておいて、そんなことって……」


「ン? ドウカ、シタ、ノカ???」


「とりあえずもふもふさせてください話はそれからです」


「ナ、ナァ!?」


 乙女心を踏みにじる下手人へと『いつものように』罰として抱きついて、シェルファはふへえと吐息を漏らす。


 そんなシェルファの奇行を『らしい』と受け入れてしまっていることに果たしてシロは気づいていたか。少なくとも抱きつく気力もない状態だった頃に比べれば比較的マシだと思えるくらいではあった。


「ソウダ。メイド、ガ、シンパイ、ソウ、ニ、カクレテ、オマエ、ヲ、ミテイル、ゾ」


「レッサーは心配性ですからね。それでいてわたくしの意思を汲んでくれるので、隠れて見ているのが妥協点になったのでしょう」


「ヨク、ワカラン、ガ……オマエ、ガ、メイド、ヲ、コマラセテ、イル、ト、イウコト、カ」


「まあ、そういうことですね」


「コマッタ、ヤツ、ダ」


「まったくです。こんなわたくしによくついてきてくれるものですよね」


 ザァ……と燃えずに済んだ木々の枝が風に揺れる。しばし森が奏でる音に耳をすませていたシェルファは、ふとこう口火を切った。


「ありがとうございます」


「ン?」


「わたくし、わかった気になっていました。痛みというものがどんなものかを。ええ、そうです、怖かったんです。あの時、わたくしは恐怖に屈していたんです」


「…………、」


「だから、その……嬉しかったんです。シロが来てくれて、わたくし、本当に嬉しかったんです」


「クル、ニ、キマッテイル、ダロ」


 あの時の勇ましさはどこへやら、照れ臭そうにしながらも、だが確かにシロはこう続けたのだ。


「オマエ、ガ、ナイテイル、ナラ、セカイ、ノ、ドコニ、イタッテ、カケツケテ、ヤル」


「シロ……」


 そして。

 そして。

 そして。


「それは物理的に不可能ではないですか?」


「ソッソウ、ダケド! ソウジャ、ナクテ……ッ!!」


「そうじゃなくて?」


「ソレクライ、ノ、キモチ、ダト、イウ、コト、ダ!!」


「……、なるほど。そういった言い回しもあるものなんですね。それならわたくしも同じです。シロのためなら、わたくしだってそれくらいの気持ちで頑張れますもの」


「ム。ソウ、ナノカ?」


「ええ」


「ソウカ……オナジ、ナノカ」


 呟き、屈託なく笑うシロ。

 そんな彼を見て、シェルファは胸が温かくなっていた。



 ーーー☆ーーー



 そして。

 隠れてシェルファたちの会話を聞いていたメイドさんは頭を抱えていた。


「え、え? あれ絶対『そういう意味』だよね? なのに、あれ??? もしかしてお嬢様気づいていない感じ? いや、まさかシロもってこともあるんじゃ!? もどかしい、あそこまで雰囲気出ておいて寸止めだなんてもどかしいのお!!」

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