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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第十六話 お買い物デート

 

 ざわざわしていた。

 お嬢様風の美しい少女にメイド、そして全身を葉っぱで覆った何者かが衣服店に入ってきたのだから無理もないだろうが。


 賑やかしにやってきた客にさえも服を買わせることから、押し売りヴァルキリーの異名を持つ女店員(二十九歳、独身)は異様な三人組を前に一瞬硬直してしまったが──即座にどんな衣服が似合い、また売ることができるか分析を開始する。


 服を売るためにはトーク力や雰囲気作りも重要だろうが、一番はその人に似合い、それでいて求めているコーディネイトを提供することである。


 こんなに似合うなら、ここまで好みと一致しているなら、買っちゃおう。そう思わせるだけの腕があってこそ、トークや雰囲気作りによる押し売りが効果を発揮するのだから。


 ゆえに女店員(彼氏募集中)は思考を高速回転させる。


 漆黒ドレスの少女には……素材が良すぎるので、飾り気のないシンプルな組み合わせにて素材の良さを生かすべきだろう。


 銀のボブカットの少女には……メイド服を基調にミニスカや過剰なヒラヒラ改造といった『目立ちたい、枠からはみ出たい』という欲求が見て取れるので、多少攻めた服も受け入れやすいだろう。


 そして、難関。

 そもそも顔もわかりゃあしねえ葉っぱ男? 女? とにかくこれはまず葉っぱを引っ剥がして顔やスタイルを確認するところから始める必要がある。


 というわけで、だ。

 素早く計算を終えた女店員(イケメンで金持ちで優しくて共働きに理解のあるパートナーが欲しい)がとびっきりの笑顔で口を開く。


「いらっしゃっせえ! おっ客さまあっ。本日はいかがされまっしたあーっ!?」


「なっなのっ!?」


「むむっ。綺麗な銀髪でっすね。そんなお客様には、これとかどうでっしょうか!?」


「いや、それ、なにそれ!? 透けてるのっ。そんなの着たらアレコレ見え放題なのっ」


「まあまあ、試着だけでもっ!!」


「そもそも! あたしはメイドだから!! メイド服以外は身につけないと決めているの!!」


「なるほど。それなら、これなんてどうっですか!?」


「あ、メイド服……って、なんでそんなに背中バッサリ切れちゃってるのお!?」


「チラリズムでっす☆」


「チラ、って、それ丸見えなのっ」


「まあまあ、まあまあ」


「あれ、待って、引きずられ、ちょっと待ってよお!!」


 ひとまずチョロそうな奴から狙おう、というわけで銀髪メイドさんを試着室まで引きずる女店員(出会いが、出会いが欲しいです!!)。


 ズルズルとナンダカンダ流れに身を任せちゃっているメイドは予想通り簡単に落とせそうだった。



 ーーー☆ーーー



「ナ、ナンダ、イマノハ……っ!?」


「衣服店では普通の光景ですので、気にしないでいいですよ」


「アレ、ガ、フツウ……?」


 困惑気味に呟くシロ。その視線の先には試着室があり、カーテンで区切られた奥から『やっぱり丸見えなのっ、背中がスースーするのお!』『いいえチラリズムでっす! 大体ですね、貴女は胸部武装が貧弱なんですから、その分背中で勝負するべきなんでっす!! 背中のチラリズムには巨乳を打ち破る可能性が秘められているんですよッッッ!!!!』『なん、だと……なの』という声が漏れていた。あの様子ではレッサーが陥落するのは時間の問題だろう。


 それよりも、だ。

 シロの正体を人目に晒すわけにもいかないので店員が寄っていない今が好機であった。そう、きちんと理由はあり、決してシロと二人きりで服選びをしたかったわけではない、はずだ。


「それでは服を選ぶとしましょうか、シロ」


「フク? ナンダ、ソレハ???」


「まあ、もふもふオンリーな時点で予想はしていましたが、やはりそこからでしたか。服というのは、ほら、こうしてわたくしたちが着ているものですよ。保温等の効果を狙って、というのももちろんですが、一番はファッション、見た目を変えることに楽しみを見出している文化……シロ?」


「ナ、ナナ……ッ!?」


 ぺらり、と。

 何気なく漆黒のドレスをめくり、鎖骨辺りを露わにして説明しているシェルファを見て、シロが目を見開いていた。


 慌てたようにドレスをめくる腕を掴み、


「ケ、ガ、ハガレッ、ダイジョウブ、カ!?」


「ケ……? ああ、毛ですか」


 どうやら服そのものがシロたちの全身を覆うもふもふのようなものと見なしていたようだ。葉っぱの奥から心配そうにこちらを見る彼の反応に、そこまで素直に己が感情をぶつけることができることに、シェルファは眩しそうに目を細める。


 レッサーもそうだが、そこまで無防備で真っ直ぐな反応をシェルファはできそうになかった。別に無表情というわけではなく、喜怒哀楽に合わせて表情を変えるが──そこには薄く、しかし確かな壁がある。


 貴族としてなのか、シェルファ自身がそういう人間なのか。物事を俯瞰して、それこそ他人事みたいに眺めているのだ。


 ゆえに、だろうか。

 婚約者であった第一王子や実の父親である公爵家当主がシェルファのことを気味が悪いと評したのは。


 だから。

 だから、だ。


「大丈夫ですよ。元々こういう服を着ていただけですから。シロが今葉っぱで作ったものをかぶっているのと同じように、ですね」


「ソウナノカ? ホントウ、ニ、ハガレタ、ワケ、デハ、ナイノカ!?」


「ええ」


「ソウカ……。ヨカッタ」


 葉っぱで隠れてきちんとは見えなかったが。

 隙間から覗く安堵した表情に、シェルファは温かな心地がした。



 ーーー☆ーーー



 それはそれとして服選びである。

 姿を隠す用に濃い青のローブを買うとして、それはそれ、これはこれである。


 せっかく服を買いに来たのならば、シロに似合うものを買うべきだろう。


「とりあえずタキシードは外せないですね。燕尾服に、騎士風の鎧、革ジャンやサングラスを組み合わせたり、いっそもふもふセーターでもふもふ相乗効果を狙うのもアリですねっ!!」


「オマエ……?」


 メイド服の改造一つでモチベーションが上がる、とレッサーに言われた時はイマイチ実感が湧かなかったが……こうしてシロの服を選ぼうとアレコレ考えると、こうもテンションが上がるのだから、人間とは不思議な生き物である。


 想像だけで心臓がドキドキと高鳴り、早く想像の中のシロを現実のものとして見たいシェルファはとりあえず真っ白なタキシードを掴む。


 そこで、気づく。

 そもそもシロは服を着れるのだろうか。


「シロ、これ着れますか?」


「キル、ッテ、ドウスル、ンダ???」


「…………、」


 イッショ、ニ、ミズアビ、シタ、ナカ、ダカラ、モンダイ、ナイ、というわけで、タキシードとシロを掴んだシェルファは試着室へと飛び込んだ。

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