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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第四十一話 強くなるためには

 遠目にでも立ち入り禁止区画を見たいと言うルイを宥めながら、武具店に戻る途中に熱トカゲを見かけた。


「そう言えば仮面の力を使うのは気持ち悪いと言っていたが、それでも能力が跳ね上がるのは実感出来るだろう? あの熱トカゲは勝てる相手とはいえまったく問題にならないくらいに楽勝と言う相手では無かったはずだ。どうだ? 仮面の力でやってみないか?」


 ケンゴからの提案に魅力が無い訳ではない。


 実際に仮面の力を使った時の能力の跳ね上がり方は尋常じゃない。


 一層での山羊頭、二層でのカニモドキの時に本来の力とは違う力を発揮出来た。


「あの突きを仮面の状態で繰り出してみろ。それが君の真価だろう」


 ソルに言われると凹むが、ケンゴに言われるとやってみようと思うのは、やはり育成に力を入れてきた経験の差だろう。


 あの熱トカゲは見た目の割に俊敏ではあるが、いくつかの弱点はある。


 まず強力な攻撃方法である高温の熱湯ブレスだが、それは自由自在に吐き散らせる訳ではなく、前方に限られている。


 しかも前準備も必要な為、そこで動きを止める為に分かっていれば避ける事は難しくない。


 同じく強力なアゴによる噛み付きも致命的な打撃に繋がるものの、やはりその攻撃は前に限定されている。


 間合いが遠い場合には熱湯ブレスが、近い時には噛み付きが来るのだが、そこを掴む事が出来れば安全な戦い方と言うのはある。


 アルフレッドは剣を構えて、仮面を引き出す。


 この剣も店主から渡された刃のついていない演習用の剣ではなく、ソルが持っていた予備の剣であり、切れ味はかなり良い。


 アルフレッドはゆっくりと熱トカゲに近付いて行く。


 間合いに入った時、熱トカゲがブレスのモーションとして動きを止めて首を持ち上げる。


 まだだ。今はまだ軌道修正が出来る。


 熱トカゲがブレスを吐き出す為に首を下ろす、まさにその瞬間にアルフレッドは熱トカゲへと踏み出す。


 それは真正面ではなく、火トカゲの側面を捉えるところへ。


 ブレスを吐き出した火トカゲは、突然目の前から消えた様に見えただろう。


 その熱トカゲがもう一度アルフレッドを捉える前に、アルフレッドはソルの突きを真似た、捻りを加えた突きを繰り出す。


 滅トカゲはカニモドキの様な分かり易い甲殻も無く、ゴブリンの様に防具を身に付けている訳でもないのだが、その皮膚は並の防具より固く、力任せのルイの攻撃の直撃を受けても両断する事が出来ない程であり、また弾力も持っているので一層での攻撃力の高さは二層では通用しないのを痛感させられる。


 が、その熱トカゲを前後に分断するほどに、強烈な突きは一撃で胴体に大きな穴を開けた。


「確かに、その能力を眠らせておくのは惜しいな」


 勝てるにしてもそれなりに苦戦させられたルイも、一撃で熱トカゲを葬ったアルフレッドの一撃を見ると、仮面の力に否定的だった考え方を改めさせられる。


「その突きだが、明らかに君の動きとは違うな。誰かを真似ているのか?」


 ケンゴは違うところを見ていたらしく、アルフレッドに質問してくる。


「これは、前にソルがやっていたのを自分なりに真似てみたモノで」


 あの時にはワザと避けさせる為に、本来のソルの動きより明らかに大きなモーションで繰り出した攻撃だったが、それだけにアルフレッドでも目で追う事が出来た為にその動きを真似る事が出来ている。


「そう言う事か。仮面の剣の使い方は基本的に切る事を好むし、突くにしてもそこまで捻りを加えて剣で突く事は珍しいと思ってな。だが、ちょっと分かってきた」


 ケンゴは頷きながら言う。


「これも仮面の特徴と言えなくはないんだが、人真似が上手いんだ。ちょっと言葉が悪かったか? だが、上級者の動きを見て、それを吸収するのが上手いのは仮面の特徴とも言える。ソルなら確かに理想的と言えなくもないんだが……」


 本来であればそうと言えるかもしれないが、残念ながらソルの動きは次元が違い過ぎて目で追う事も出来ず、そもそも何をどうしてそうなっているのかが分からないのだから、真似ると言う段階ですらない。


「つまり、ソルにもっと働いてもらった方が良いと言う事か。それは私もそう思う」


「動き、ねぇ。俺は別に特別な事をしてるワケじゃないから、基本を繰り返すのが一番だろう」


 ソルは不思議そうに言う。


 アルフレッドが繰り出したソルの動きを真似た突きも、本来であれば技名を付けて特殊な技として扱っても良いほどのスキルである。


 ソル本人としては、それすらも基本攻撃であって特殊な技とは思っていない様だ。


「だいたい、技って言うほど重要か? 攻撃の本質は『早く』『正確に』『鋭く』『重い』攻撃を敵の『急所』に『攻撃の有効部分』を当てる事だろう? 出来る事ならそれを『より遠く』で当てる事が出来る事が理想で、その為の技じゃないのか?」


「そりゃそうなんだが」


「だったら、磨くのは見た目を飾った技がどうとかじゃなく、基本だと思うんだが、最近の魔窟では違うのか?」


 ソルはケンゴに質問している。


「……そうなんだが、やはりソルには若手の育成には向かないみたいだな」


「たぶん、俺達が深層に行けたのは、そう言う技を磨かなかったからだろうな。余計な攻撃方法を考えず、どんな格好でも有効打にする事だけしか考えてなかったからな。俺もあいつも」


 身も蓋もない様な事をソルは言う。


 そう言えば、レオラの波動拳みたいな技に対しても厳しかったなぁ。


 アルフレッドはそんな事を思う。


「ちょっとだけ本気を見せてあげなさいよ」


 異形剣が楽しそうにソルに提案すると、異形剣が指差す方向に熱トカゲがいた。


「言っても、特別な事は出来ないから真似る面白味は無いだろ?」


 そう言いながらソルは無造作に熱トカゲに近付くと、軽く剣の姿になった異形剣を振る。


 何かしらの攻撃を繰り出した事は分かるが、具体的にどんな攻撃を繰り出したのかはやはり目で追う事は出来なかった。


 が、熱トカゲは目と喉を切り裂かれ、四肢を切断され、首と胴と尾を切り落とされていた。


「な? 基本的な事しかしてないだろ?」


 ソルは振り返りながら言うが、全員が言葉を失っていた。


「……アレは真似出来ないな」


「あれでもまだ基本だって言うくらいだからな」


 ルイとケンゴはなんとか言葉を絞り出して、そう言っていた。

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