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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第四十話 ヌシはどこから?

 アルフレッド達は二層の魔物との腕試しの為に、二層の拠点からだけでなく、そこからも外れたメーヴェの待つ武器屋からも離れたところまで移動していた。


 探索、と言うより単純に魔物を狩る為の行動だったので、あのカニモドキの他に二層の体格が良くなったゴブリンやかなり大きなトカゲなどもいた。


 トカゲは炎を吐く様にも見えたが、実際には赤い色の付いた高温の熱湯で、直撃を受ければかなり酷い火傷を負う事にもなる、それなりに危険な魔物だった。


 基本的にソルだけでなくケンゴも見ているだけであり、レミリアも付いてきてはいるものの戦闘には参加していない為、魔物と戦っているのはアルフレッドとルイだけである。


 熱トカゲの熱湯ブレスによって、直撃では無かったにしてもルイが足へのダメージを受けた事もあって、今は回復待ちとなっている。


「薬は使わないのか?」


 特に治療行為を行おうとしないアルフレッド達を見て、ケンゴが不思議に思う。


「ああ、回復効果の高い護符を持っているからな。特にその女には効果がある」


 ソルが説明する通り、同じ護符を持っていてもアルフレッドとルイでは効果が違い、ルイの方が明らかに回復が早い。


 この護符がルイの出身地の集落のヌシのモノであった事を考えても、そこまで不思議な事ではない。


「一層でそんなモノが手に入るのか? 初耳だな」


「普通では手に入らないさ。一層のヌシから気に入られてるからこそ、こいつらが手に入れたモノだ」


「ヌシ、か。随分前に一度会ったきりだが、そんなモノがもらえたのか。知らなかった」


「俺も知らなかった。むしろヌシが人間に興味を持っているどころか、自分の集落を大事に思っているなんてまったく想像もしてなかった」


 ベテラン二人がそんな話をしている間に、ルイの足はそれなりに回復し、軽い火傷痕が残った程度までになった。


「凄い回復力だな」


「この火傷痕もしばらくすれば言われても分からないくらいに消えるだろうな。さすがはヌシといったところだ」


「あの、質問なんですが」


 ベテラン二人の会話に、アルフレッドが遠慮がちに入っていく。


「ヌシって言うのは、本当に一層の魔物なんですか? あまりにもかけ離れていると言うか、とても一層の存在じゃないですよね?」


「まあ、諸説あるんだが、魔窟は今でも深く深くなっていっているらしいが、何をどう言っても最初は一層な訳だから、そこからの名残と言う説が有力だな。実際のところ、ヌシに限らずこの二層の山爺なんかも本来の二層の魔物とはかけ離れている訳だし」


「立ち入り禁止区画からじゃないのか?」


 さらっと言うソルに対して、ケンゴは大きく溜息をつく。


「あのなぁ、そう言うのは調子に乗りやすい若手には伏せる様にしてんだよ。そんな事を教えるとすぐ行きたがるヤツは多いんだ。だから地図も新しい物は立ち入り禁止区画部分は削除してあるんだぞ」


「涙ぐましい努力だなぁ」


 まったく興味無さそうにソルは頷く。


「具体的にどういう魔物が出るんだ?」


「ほらな、こうなるだろう?」


 興味を示すルイに向かって、ケンゴが答える。


「なるほど。今のはわかりやすかった」


「だろ? 若手を大事に育てたいと思っている親心を、調子に乗りやすい若手は分かってくれないんだよ。とはいえ、ここで秘密にしていても勝手にそっちに行かれても困るから教えておくと、それぞれの層には妙な時空の『ねじれ』の様なモノがあって、魔窟の深層部分に繋がっているところがあるらしい。二層の山爺はそこから来たと言われているくらいだから、魔物の強さの想像は出来るだろう?」


「あのサイズの魔物がゾロゾロいる、と言う事か?」


「その辺はソルの方が詳しいだろう? どうなんだ?」


「山爺ほどの大きさのヤツは珍しいが、いないワケじゃないな。もう少し小さいヤツならさほど珍しくない」


「と言う事だ。だから、遊び感覚で立ち入り禁止区画には近付くなよ」


「逆に言えば、低層でも深層の武具を手に入れるチャンスとも言えるのでは?」


 アルフレッドも会話に参加すると、ケンゴから呆れられる様に溜息をつかれる。


「いかにも仮面らしい意見だが、そう言って帰ってきたヤツが一人もいなかったからこそ立ち入り禁止区画にされたんだ。だから何度でも言うが、立ち入り禁止区画には近付くな。お前達には見込みがあるからこそ、そう言っているんだ」


「見込みねぇ。ケンゴが言うのであれば、そうなんだろうな」


 ソルからのアルフレッドとルイの評価は、どこまでも低い。


「そんな若手を見てきたケンゴの目から見て、この小僧の実力はどう映る? 俺の目には仮面にしては弱すぎると思うんだが」


 ソルは本人を前にしても、容赦なくそんな事を言ってくる。


「そうだな、特別優れていると言う訳ではないが、そこまで言うほど酷い訳でもない。仮面は最初の一戦目で耐えられない者も多いからな」


 ソルとは違い、ケンゴの方は極めて無難な評価である。


「ただ、伸びる仮面と標準から脱せない仮面とでは、明確な違いがある。先へ進むのが早い、あるいは戦果を上げていく仮面と言うのは、ほとんどが『仮面』の能力を出し惜しみしないものだ。俺の感覚では地力を付けてから仮面で強化した方が効果的な気がしていたのだが、結果としては仮面の力を振り回す様な力の使い方の方が伸びている。これは紛れもない事実だ」


「だとよ。お前も仮面の力を使う方向でやっていけよ」


 散々出し惜しみするなとソルに言われてきたが、アルフレッドは基本的に仮面の力に頼らない戦い方をしている。


「俺も仮面では無いから偉そうに言える立場ではないんだが、何か使うのに支障があったりするものなのか?」


 ケンゴから不思議そうに尋ねられる。


「言葉にするのは難しいんですが、強化されるのは分かるんですが、まるで自分ではない何かに乗っ取られていく様な感覚で気持ち悪いんです」


 アルフレッドはケンゴに向かって言う。


 こればかりは感覚的なモノなので言葉だけで理解してもらうのは難しいだろうが、仮面の力を使えば使う程にその感覚は強まっていく。


 その不快感は慣れると言う次元の話ではない。


 と、アルフレッドは思うのだが、少なくともソムリンド家に現れたウィルフはまったくそんな素振りは見せていなかった事を思い出す。


 何か明確な違いや、それを脱する方法でもあるのだろうか。


「本人がそう言うなら強制は出来ないが、やはりせっかくの能力を活かさないのは惜しい気はするな」


 ケンゴが言う事も、もっともな事だと言うのはアルフレッドにもわかっていた。

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