第三十七話 討伐依頼
「とは言っても、私にもやりたい事はあるし、その為に協力出来るくらいの実力が無いと私にはメリットが無いのよね。貴方達、等級は?」
「等級?」
マクドネルとシオンは首を傾げる。
「わぁお、まずそこから? ちょっとワケありであんまり組合には顔出したくないんだけど、仕方無いわね。一度組合に行くわよ」
ブリュンヒルデはすぐに拠点を出ようとしていたのだが、そういう訳にもいかないのも分かったので、初心者二人を連れて組合の方に出向く。
「あ、悪名高いブリュンヒルデさんじゃないですか」
にこやかに受付嬢からイヤミを言われる。
「挨拶の攻撃力が高くない?」
「討伐依頼来てますよ、何件も。まあまあキツめのクレームも来てますから、攻撃力も高くなりますよ、そりゃ」
満面の笑顔で受付嬢は言う。
「で、悔い改めて真面目な探索者になるんですか?」
「初心者を悪の道に染める為に来たの。この二人の等級は?」
ブリュンヒルデはマクドネルとシオンをアゴで指して尋ねる。
「お名前は?」
「マクドネルだ」
「……シオン」
「では、調べますから少々お待ちくださいね」
受付嬢はテーブルの下の何かを見る。
「何見てるんだ?」
「企業秘密です」
興味を持ったマクドネルが覗き込もうとしたのだが、受付嬢から遮られる。
「マクドネルさんは等級が出来てからは魔窟に来られてなかったみたいですね。シオンさんも登録されてからの活動実績がありませんので、現状ではF級ですね」
「シオンはともかく、貴方もそうなのね」
ブリュンヒルデは呆れ気味にマクドネルに言う。
「ははは、照れるな」
「褒めてないからね。F級なのは仕方無いとして、昇級条件は満たしてないの?」
マクドネルを押しのけて、ブリュンヒルデは受付嬢に尋ねる。
「満たしてますよ? ブリュンヒルデさんはとっくにA級です。危険度も跳ね上がりますから、討伐依頼が特A級になります。場合によってはS級の探索者が討伐に動きます。楽しみですね」
満面の笑みで受付嬢は死刑宣告に似た事を言う。
ブリュンヒルデは基本的には低層で活動していたものの、特殊極まる方法で各層を移動してきたので、実際の等級より深いところの探索も可能だったので、自身の等級をあげない様に組合の、特に受付嬢を避けてきたところはあった。
「そう言う訳で、ブリュンヒルデさんはA級の仲間入りです。依頼も書き換えておきますね?」
「やめてくれる?」
「イヤです。ブリュンヒルデさんが悔い改めて心を入れ替えるので無ければ、今からでも書き換えます。私もクレーム対応イヤですから」
「私の事はいいの。今はこっちの話」
「そちらのお二人には魔窟での経験が……、あれ? マクドネルさんの方はC級の条件を満たしてますね。シオンさんの方はE級ですけど、能力的にはD級に近いです」
「じゃ、CとDにしてもらえる?」
「ブリュンヒルデさんもA級にしておきますね」
「私の事はいいから」
「ブリュンヒルデさんのは完了しました。マクドネルさんも問題はありませんが、シオンさんの方はまだD級条件を満たしてはいませんので、E級ですね」
受付嬢は明るくにこやかに話を進めるが、ブリュンヒルデに対してだけは譲るつもりが無い事だけは伝わってくる。
「何かマズいのか?」
「ん? 別にマズいってほどではないけど、ザコいのに足引っ張られるのって本当に萎えるのよ。マジでいらねーってならない?」
「ああ、それなら分かる」
ブリュンヒルデの言葉に、マクドネルは大きく頷く。
「私の事では無いにしても、ムカつく物言いしてるわね」
「いや、貴女の事よ? 貴女以外の誰の話でも無いわよ」
シオンがムッとしているのに対し、ブリュンヒルデは不思議そうに言う。
「むしろ貴女が自分を除外出来ている事に感心するわ」
「殺す。お前は必ず私が……」
「……マクドネル様?」
これまでならシオンの近くに先生が現れるところだったが、今回は違った。
魔窟探索者の一人がマクドネルに気づいて声をかけてきたのだ。
「ああ、確かにマクドネルだが……、確かエーゼン家の者だな? どうした?」
「どうしたではないでしょう! 何故我々が街を追放され、魔窟に追いやられねばならなかったのですか!」
エーゼン家の者と呼ばれた男は、マクドネルに掴みかかる。
「既に領主は倒れ、貴族の制度は崩壊した。それに対応出来る者が街に残り、それに対応出来ず混沌の元となる者を混沌の場所に送った。それが何か?」
まったく悪びれる事無く、当然の事の様にマクドネルは答える。
様に、と言うより、この男にとっては本当に当然の事なのだろうとブリュンヒルデは思う。
「それが何か? 我々がここでどれほど苦労していると思っているんだ!」
「街の者が苦労していないとでも? 自分だけが苦労しているとでも勘違いしているのか?」
感情的になるエーゼンに対して、マクドネルは本当に何に怒っているのか分からないと言う態度だった。
「街は既に新しい秩序で動き出している。それを邪魔する様な輩は街にいらないと思うのは当然じゃないか。それで、新天地でも以前の暮らしにしがみついて何も変えようとしない様では話にもならん」
マクドネルはエーゼンの手を払う。
「お嬢さん、確か危険人物には討伐依頼がかかると言っていたね」
「ブリュンヒルデさんの事ですね」
「私だけじゃないでしょ」
「俺もそれに掛けてもらえないか? 街から追放された連中は、やはり街にはいらない事が分かったから一掃する事にした。俺を殺したいヤツを集めたい」
「……はい?」
あまりにも異例の依頼で、受付嬢の方が困っている。
「討伐依頼と言うのは、他の方から依頼されるモノで、その『悪名』などによって危険度と報酬が決められる訳ですけど、マクドネルさんの場合ですと『悪名』も無ければ危険度による報酬も決めかねますので」
「そうか、ならこうしよう。『マクドネル・ソムリンドが魔窟一層に現れた。恨みを晴らしたい者求む』としよう。報酬も俺が用意する」
そう言うと、マクドネルは腰に下げた小さな袋から大きな宝石を取り出す。
「俺はいらないと言ったんだが、心配性の弟に持たされてな。俺を倒した者には報酬にコレを出す。それなら問題ないだろう?」
「私も参加して良い?」
宝石を見たブリュンヒルデはマクドネルに尋ねる。
「俺が生き延びたら、これらは仲間内の共有財産にするよ。だから俺が生存した方があんたにとっては得するはずだ」
マクドネルが笑いながら言う。
「俺に恨みがあるヤツを優先して集めたい。場所も拠点近くの広場があれば、そこで良い。ただし、命の保障は無いと加えてくれれば都合が良いが、これで問題無いかな?」
「ブリュンヒルデさん、どこからこんなイカれた人見つけてきたんですか?」
「そこら辺で拾ったんだけど、私もこのイカれ具合は知らなかったわ」
受付嬢とブリュンヒルデは、物凄く楽しそうなマクドネルを見ながらそう言っていた。




