第二十七話 訓練が終わって
「私の技が、芸だと?」
ツンデレのところで話を終わらせていれば丸く収まっただろうに、ソルが余計な事を言った為にまたレオラに火が着いてしまった。
が、これで迷惑するのはソルだけなので、メーヴェは見守る事にする。
と言うより、ちょっと面白いので気が済むまで放っておこうとすら思っていた。
「まさか、あれで完成のつもりだったのか?」
「……いや、改善点がある事は認めているが、だが、言い方が気に食わない!」
完全な八つ当たりなところが、いかにもレオラが話し合いに向かないと分かるところである。
「どれだけ言い方が気に食わなかろうと、今のままでは使い物にならない事は事実だ。……いや、お前達の目的が五層で完了と言うのであればそうとも言えないか」
「ふざけるな、私達が五層程度で満足すると思うか!」
「なら、さっきも言った通り、威力を高めるか速度を早めるかする方法を考えるべきだな。今の状態では五層でも効果的とは言えないだろう」
言葉は悪いが、ソルの指摘は正しいのがレオラの表情で分かる。
自慢気に最速でA級に昇格したと言っていたが、ここまでの話からレオラ達は四層での実力者だった事も分かる。
これから五層探索と言ったところだったはずなので、レオラの技は四層までなら効果的だったのだろう。
予想でしかないが、一層から二層になっただけで魔物の強さは跳ね上がったので、四層から五層へも同じように魔物の強さが跳ね上がってもおかしくない。
いや、だからこそ、これまでよりも強力な武器を求めてここに来たのだ。
相当な修羅場なんだろうな、五層とか。
「……お? ガキ共が減ってるな」
店主がオギンを連れてやって来て、状況に首を傾げている。
「おう、作業が終わったのか?」
「それなんだが、ちょっと悪い知らせがある」
何やら表情が険しい店主に、何故かレオラが嬉しそうな表情になっている。
「どうした? 剣が壊れたか? 別に俺のじゃないから気にするな」
「そんなヘマするかよ。むしろ逆だ。ちょっと手を入れるだけじゃ満足出来なくなってきてな。本腰を入れて作業したくなってきた。だから時間がかかると伝えたくてな。許可してもらえるか?」
これほどの職人からそれほどの提案をしてもらえるのであれば、それはもう反対する様な理由もないほど名誉な事である。
「どうする?」
それでもソルはアルフレッドに尋ねる。
本人が言う様に、強化しているのはアルフレッドの剣なのだから決めるのはアルフレッドである。
「もちろん、こちらから無理を提案しているのだから、それなりにこちらからも譲歩させてもらうところは譲歩しよう」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
アルフレッドもその利点には気付いたのか、二つ返事で頷く。
「それを聞いて安心した。よし、それじゃ作業を再開しようか」
店主がそう言うと、オギンが大きく頷いて一緒に歩いて行く。
「あの、その子、邪魔してませんか?」
どう考えても役に立つ様な事は無いオギンなので、邪魔していないのかは本当に気になっていたところだ。
「ん? いや、いい感じだぞ」
店主がそう言うと、オギンの角付き兜をコンコンと叩く。
懐いてるな。怖がりなオギンにしては珍しい。
人見知りもするし小心者のオギンなのだが、あからさまに厳つい店主にはすっかり懐いているのは、どこかに父親を感じてるのかもしれない。
一方の店主もさほど面倒見が良い様には見えないものの、腕だけではなく義理堅く責任感も強い様だ。
偏屈極まりないソルや実績十分なケンゴなどからも信頼されるのは、おそらく腕だけでなくそう言うところもあるからだろう。
「何と言うか、じっと見られていると緊張感が増すな。サボったり妙な手抜きは許さないぞってなプレッシャーを感じて、悪くないよ」
絶対そんな大した事ではないとメーヴェは思うのだが、店主としては自分の作業を興味深く見ているオギンに、まったく違う意味を見出してくれて、それが良い方向に働いている。
「と言う訳で、もう少し遊んでてくれ」
「冗談じゃない。私は仲間のところに戻る」
キレながらレオラが宣言する。
「別にお前には言ってないだろう」
「あぁ? 私にモノを言いたいのであれば、相応の実力を付けてから言うんだな!」
相変わらずルイとレオラの仲は悪いが、レオラがこちらに対して歩み寄るつもりは無いのも見ていて分かる。
「ケンゴにでも面倒見てもらうんだな」
レオラは怒りながら去って行く。
「だとよ」
「俺には俺の都合もあるんだがなぁ」
おそらくケンゴのススメでこの武具店に来たのだろうが、将来有望と期待していたテリー達は全員がこの武具店で武具を手に入れるどころか、ケンゴを残して全員が去っていってしまった。
「まぁ切り刻まれる様な事は無かったにしても、こうなりそうだったから止めたんだがな」
ケンゴは溜息をつく。
「今の魔窟探索ってのは、あんな感じなんだな。そりゃ育たない訳だ」
「いや、あいつらは本当にスジと運が良かったんだ。かなりの速さで成長してたし、セット装備なんかは望んでも揃えられないモノを、実力で手に入れたくらいの幸運にも恵まれた。五層の本格攻略の前にテリー以外の装備も新調した方が良いと思っての事が、まさかお前がいるとはなぁ」
ケンゴは恨みがましい事を言っているが、口調は出てきた言葉ほどではなく、むしろ軽い感じである。
セット装備、と言うのはテリーの装備である事はメーヴェにも予想出来た。
少なくとも兜が無かった時にはカウンター能力も無かったので、一式装備する事で能力が追加される装備なのだろう。
レオラにしても性格には少々どころではない問題がありそうだが、ルイでは足元にも及ばない戦闘能力と身体強化を付与する装備品などは一級品である事も疑いない。
ただただ相手が悪かったと言うだけなのだ。
「じゃ、私は店主の仕事の見学に行くけど、貴方達は?」
メーヴェがソル達に尋ねる。
「ケンゴ、暇だったらウチのも育ててやってくれよ」
「誰が暇だ。お前が責任持って育てろ」
と、軽く口論はあったみたいだが、ケンゴとソルはアルフレッドとルイを連れて魔窟の二層探索に出ていく事になった。