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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第二十五話 カウンター対策

「特に勿体付ける様な事も無いから、一つ想像してもらおうか」


 ソルは周りに言う。


「例えば全力疾走しているところで転んだ時。長い階段を下っている時に踏み外した時。歩いている時に足を柱にぶつけた時でもいい。しっかりダメージは受けただろう?」


「……それが?」


 メーヴェもうっかり想像してしまって脳内だけで大ダメージを受けていたところだが、レオラは挑む様に尋ねてくる。


「ダメージは受けたところまでは想像出来たみたいだが、攻撃された訳ではないのも分かるよな?」


 ……ん? どういう事?


 メーヴェはすぐにその意味を理解出来なかった。


 だが、転んだ時のダメージも地面によって受ける事になるが、別に地面から攻撃されたわけでもなく、同じように階段や柱が自分の意思を持って攻撃してきた訳ではない事は分かる。


「カウンターってのは無理に攻撃しなくても、そこにあるだけで成立するモノなんだ。迎撃型では特に問題にならない事だが、反射型のカウンターには致命的な弱点になる事がある」


「……向かっていけない、と言う事か」


 ケンゴが答えると、ソルは頷く。


 反射型のカウンターは受けた衝撃をそのまま反射する事によってダメージを返すのが主なのだが、それはあくまでも『向こうから来た衝撃を反射させる』のであってそこにあるだけのモノにこちらからぶつかった場合にはそのダメージを反射させる事が出来ないと言う弱点を抱えている事が多い。


「今、異形剣には攻撃をさせてないが、目を狙って刃を向ける様に言っている。向こうが動かないのであれば、おそらく眼球に触れるくらい近くにな」


「それは動けんな」


 反射の能力を発揮していれば一切攻撃を受けないだろうが、そこまで刃に肉薄されている状態では反射能力は解除出来ない上に身動きも取れない。


「持久戦と言う事か?」


「いや、もうちょっと酷い事をしている」


 ケンゴの質問にソルは平然と答える。


 実際に反射能力で無効化されていると言っても、眼球に触れるくらい近くに刃を向けている時点で非常識なレベルの酷さなのだが、それでも甘いらしい。


「もし出来る様なら、耳や鼻からも侵入する様に伝えてる」


「おいおい、いくらなんでもそれはやり過ぎだろう?」


 ケンゴが言う様に、いくらなんでもやり過ぎだとメーヴェも思うが、ソルは首を傾げている。


「何か勘違いしているみたいだから説明するが、耳や鼻からも侵入する様に『伝えている』んだ。相手にな」


「それだけじゃないくらい、色々と伝えてるわよー」


 ソルの腕に残っている異形剣の柄部分から、異形剣の声が聞こえる。


「……地獄だな」


 ケンゴが険しい表情で言う。


「物理攻撃に対して極めて有効なカウンターだが、精神攻撃には基本的には無力だからな」


 エグいな、さすがソルだわ。


 条件は回復薬で回復出来る程度の怪我に抑えると言う事だったが、これで受ける傷はたぶん回復薬では回復しない恐れがあるのでは?


 と、メーヴェは心配になってくる。


「で、どうだ?」


「んー、頑張ってはいるけど、もう少しで落ちるかなぁ」


 異形剣の声もどこか楽しそうなのも気になる。


 しかも頑張っているのは恐らく異形剣ではなく、精神攻撃に耐えているテリーの方だろう。


 テリー達とアルフレッド達の間には等級にも大きな差があり、それに見合った実力差でもあった。


 しかし、実際にはソルの等級は認定を受けていないものの、ケンゴが言うにはS級と言う事で、テリー達とは一つしか違わない。


 そのはずだが、その実力差はテリーとアルフレッド以上の差に思える。


 最初に遊んでやると言った事もあるかもしれないが、ソルは本当に遊んでいる感じで、それを証明する様にソルの側から積極的に攻撃したのはミニスカ魔術士に対してのみであり、レオラやテリーに対してはほぼ攻撃をする事なく無力化している。


 しかも何故か必要以上に『卑怯』な手法に拘っている様にも見える。


 例えばレオラとの戦いの時などは、その気になれば一瞬で勝負を決める事も出来たくらいの実力差があったにも関わらず、相手をからかい怒らせる様な事を続けていた。


 テリーに対しても、ひょっとするとまともに勝負してもどうにかなったのではないかと思うのだが、あえてそれではなく反感を買う様な事をやっている。


 ソルの性格が悪いから、と言えば間違いなくそうなのだが、それだけが原因なのだろうかとも疑問を持つ。


 そう言えば、卑怯について考えろとも言ってたな。一応ソルなりに後進を育てるつもりはあるのかも。


 徹底的に卑怯な手段に拘っているのも、元の性格の悪さもあるには違いないだろうが、それだけではない何かがある、と伝えているのだろう。


 レオラにそれが分かるだろうか? ついでに言えば、こちらのルイにも伝わっているのだろうか。


「終わったよー」


 異形剣は軽く言うとテリーに対する包囲を解き、ソルの傍らに立つ。


 今まで異形剣に包まれていたテリーは座り込んでいた。


「見た事ないくらいに凹んでるな。何を言ったんだ?」


 ケンゴが異形剣とソルに向かって尋ねる。


「ん? ちょっとだけ刺激強めに不安を煽っただけよ? ただ、子供に聴かせる内容じゃないから具体的な事は避けるけど、あれくらいの歳なら大丈夫かなーって思ったけど、私の想像より刺激が強過ぎたのかなぁ?」


 異形剣は首を傾げながら言う。


「おい、無事か?」


「……レオラ? レオラ、無事か!」


 我に返ったテリーが、自分を心配するレオラを逆に心配していた。


「あ、ああ、私は無事だが、お前はどうなんだ?」


 テリーの困惑ぶりに、レオラもつられる様に混乱する。


「……では、全て嘘か?」


「あったり前でしょ? ちゃんとルールは守るわよ。そうじゃないと、遊びもつまらないでよう?」


 具体的に何を言ったのかは口を濁したものの、異形剣は余程の事をテリーに伝えていたらしい。


「どこまでも、どこまでも卑怯で恥知らずだな。それでS級の実力者だと?」


「それは勝手にそっちが言っているだけで、俺はそう名乗ったつもりは無いし、おそらく今後もS級とやらになる予定は無いからなぁ」


 睨みつけてくるテリーに対して、ソルは肩を竦めてそう言った。

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