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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第二十話 アルフレッド対テリー

 そんな不真面目なギャラリーの言葉は届いていないらしく、アルフレッドとA級の少年は向かい合っている。


 見た目で言えば同年代に見えるが、戦い慣れている雰囲気と言うのは明らかに差がある。


 悠然とした態度を崩さない少年に対し、アルフレッドは緊張を隠せずに剣を正面に構える。


「ははっ、そうか、『仮面』だったね。だから当然『仮面』剣術か」


 少年は笑うと軽く盾を持ち上げる。


 あの構え、学校で習う構えじゃ無いわね。『仮面』剣術って何?


「なぁ、その『仮面』剣術って役に立つのかい? 何回か見かけた事はあるけど、正直に言わせてもらうとその構えは実戦的とは思えないね。盾を使われる事を想定していないし、必ず敵は正面にいる事を仮定しているみたいだけど、必ずしも一対一とは限らないじゃないか」


 少年は揺さぶりをかける様に笑いながら話しかける。


 見たところアルフレッドには変化は無い様に見えるが、緊張感が増したのは見ている側にも伝わるくらいだ。


「なるほど、『仮面』らしいな。対人に慣れていないのがよく分かる」


 メーヴェに分かる事なのだから、当然ケンゴにも分かる。


「なぁ、ソルはどう思う? 『仮面』剣術についてだが、虚仮威しだと思うか?」


「いや、考案したヤツは並外れた実力者だろう。そっちの小僧が言った通り盾を想定しているとは思えないが、応用は効く。あの構えは正面に対して強いが、足運びも前後に早い。それじゃ左右に弱いかと言うと、案外そうでもない。ただし、誰にでも出来るほど簡単な事じゃ無い。相当な修練と集中力、あとは桁外れの勝負勘」


 ソルは戦いに事に関してはさすがに鋭い。


 メーヴェにはまったく分からない事ではあるが、その条件をアルフレッドが満たしていない事だけは分かる。


「さすがにそこまで求めるのはコクだな」


「そこまでは求めてない。ただ、あの構えの強みは相手の動きをに合わせる事も完全に殺す事が出来る事だが、ウチの『仮面』がその事に気付いてあの構えをしていれば、の話なんだがな」


 ソルは始まる前にはまったく興味無さそうだったが、今は少し興味がありそうだ。


「名を聞いておこうか」


「アルフレッド。そっちは?」


「テリーだ。よくある良い名前だろ?」


 盾で半身を隠しながら、それでも軽い口調でテリーと言う少年は余裕の態度を崩さない。


 崩す理由が無い、と言う方が正しいだろう。


 アルフレッドは剣先をゆらゆらと動かしているものの、こちらから仕掛けようとはしない。


「アレじゃダメだな」


 ソルは溜息混じりに呟く。


「相手が上手なんだ。こちちの注文通りに動いてくれるはずがないだろうに。こっちから動かないと崩せるはずもないだろう」


「確かにな。『仮面』らしい慎重さではあるが、誰しもがお前やアイツほど大胆と言う訳ではないからな」


 ケンゴもそう言って、テリーとアルフレッドの動きを見守っている。


 アルフレッドが動かないのを確認すると、テリーの方から盾を掲げてゆっくりと距離を詰めてくる。


「お互いに見合ってるだけじゃ、訓練として面白味が無いとは思わないかい?」


「かもね」


 アルフレッドは軽く答えた瞬間に、テリーの盾に向かって剣を突き出す。


 捻りを加えた突きは恐ろしく早く鋭く、今までに見たアルフレッドの攻撃らしく無いほどに強烈な突きだった。


 まるでソルの突きみたい。あの時の攻撃を真似てるのかな?


 メーヴェは一層で見たソルの攻撃を思い出す。


 山羊頭の変態が人質を取った時、ソルはその人質ごと山羊頭を貫こうとする攻撃を繰り出した事があった。


 敢えて躱せる様にソルとは思えないほどに大きなモーションでの攻撃だったが、それはまるで竜巻が水平方向に発生したかの様な迫力があった。


 さすがにそれとは比べ物にならないものの、比べる相手がソルでさえ無ければ中々にレベルの高い攻撃に見えた。


 実際、アルフレッドを口で言う以上に下に見ていたと思われるテリーは大きく盾を弾かれ、危うく手から盾を飛ばされるところだった。


 そこからアルフレッドは素早く斬りかかるが、その動きは焦りが大きく突きほどに鋭くない上に、動きの繋ぎもぎこちない。


 せっかくの大きな隙を見せたとしても、この動きではテリーに有効打を与える事など出来るはずもない。


 テリーは大きく弾かれた盾の動きに耐えて構え直すと言う判断はせず、体を捻って回転する動きで盾をアルフレッドにぶつけてくる。


 攻撃に意識を集中していたアルフレッドだったので、その盾を避ける事は出来ず体の側面を強打される。


「何だ、思ったよりやるじゃないか」


 それでもテリーは笑みを絶やさず、にこやかにアルフレッドに向かって言う。


「だから出し惜しみするなと言ったつもりだったのにな」


 ソルが呆れる様に、アルフレッドは『仮面』の力を出していない。


「もう勝負はついた。今からじゃ何をやっても無駄だ」


 そんなソルの言葉が聞こえたワケではないだろうが、アルフレッドは今になって『仮面』を出す。


 この状態だと動きが数段良くなるのだが、ソルの言っていた様に今となっては遅かった。


 せめてこの『仮面』の時にあの突きを出していれば、一矢報いる事も出来たかもしれないが既に動きを警戒されていては、数段良くなった動きでもテリーを捉えられるほどではない。


 アルフレッドの攻撃はただテリーの盾に防がれるのではなく、テリーは盾でアルフレッドの攻撃を弾く様に防ぐ。


 これでは攻撃の度に大きく体勢を崩し、それを強引に戻して攻撃するアルフレッドの方が明らかに消耗させられる。


「そっちの小僧も良い性格しているみたいだな」


 ソルは苦笑いする様に言う。


「ん? どういう事だ?」


「いたぶる楽しみを知っているって事だよ」


 ケンゴの質問に、ソルが答える。


「とっくに勝負はついているのに、長引かせて楽しんでいる。育てるつもりではないな」


 テリーを見ながら、ソルは小さく笑いながら呟いた。

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