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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第十八話 訓練

「訓練と言う事だから、明確なルールを決めよう。まず第一に、大怪我をさせない事だね。多少の怪我はともかく、例えば命に直接関わる様な攻撃は避ける様にしよう。骨折程度ならウチの回復術士が治してくれるが、さすがに死者の復活までは無理だからね」


「逆に言えば、骨折までは良いと言う事だな」


 ルイが好戦的に言う。


 アルフレッドも頷くと、店主から借りた剣を抜く。


 店主自身が外で遊んで来いと言っていたくらいなので、その剣には刃が付いていない、剣の形をした鉄の棒だった。


「いいね! その武器なら全力でかかってきても大丈夫だよ」


 A級探索者を誇る少年は自信満々に言う。


「……さすがにコレを頭に受けたら危ないと思うけど」


「ははは! 大した自信だね。この僕の頭に攻撃を当てる事を心配するなんて。いや、僕が心配されるくらいの実力者なのかな?」


 コイツはコイツで性格的に何かしらの問題が有りそうだな、とメーヴェは思う。


「具体的にA級ってのはどのくらいの実力者なんだ?」


 ソルがケンゴに尋ねる。


「まず組合に登録が済んだらF級になって、組合の設備の使用許可が出る訳だ。それで次のE級に上がれば二層の探索許可が。Dで三層、Cで四層、Bで五層ってな感じだ。で、A級になると探索制限が外れて六層以降に降りて探索する事も許されるって訳だ」


「……五層?」


「今の探索最下層に設定されているのが五層だ。拠点がしっかりしているからな。六層、七層は仮拠点すら無く、八層は特殊極まりない階層で、九層はソルも知っているかもしれないがマスターが狂人で下手にうろつけないんだ。それこそA級の認定を受けるくらいの実力が無ければな」


「狂人? 俺の知っている九層のマスターは……、ああ、なるほど。マスターが変わったんだな。で、狂人と言う事はアレか。それはうろつけないな」


 ソルとケンゴはベテランにしか分からない会話をしている。


「で、Sってのは?」


「十層以降に降りれるヤツだ。今S級に認定されているのが七人しかいないが、そのウチ三人が八層の教団の三騎士と言われている奴らで、後は……」


「いや、別にそこに興味は無い」


「え?」


 凄く興味があったので、メーヴェは思わず声を上げるが、ソルの興味を引く事は出来なかった。


「その等級は本当に先生や組合が造ったのか?」


「骨子は『仮面』の協力があったらしいが、まぁ、アイツだろうな」


「だろうな。そんな気配はある」


 誰? めちゃくちゃ気になる。けど、二人にとっては共通の知り合いみたい。


 メーヴェは今からまさに戦闘訓練を始めようとしている側より、ベテラン二人の会話の方が気になって仕方なかった。


「僕としてはS級の方にも参加して欲しいけど」


 少年の方がソルに向かって言う。


「後でな。まず、そいつらと遊んでくれ」


 ソルは追い払う様に言う。


「と言う事は、コイツらをあしらえばS級とやらが出てくるワケか」


 短気な女拳士が、さっそくルイとバチバチになっている。


 やっぱりあの二人似た者同士だ。


「俺としては大事に育てたかったんだがなぁ」


「生意気なのは言われたからって治らないさ」


 ソルには言われたくないだろうけど。


 メーヴェが思う様に、ケンゴも目の前の人物を見てから納得した様だ。


「言うまでもないと思うが、相手は格上なんだ。お前が全力を出したところで怪我させられないらしいから、良い様にしてやれや」


 ソルはアルフレッドに向かって言う。


 ソルは度々指摘してきたが、確かにアルフレッドは『仮面』の力を出し惜しみする傾向が強いのはメーヴェも感じていた。


 もしかすると何かしらのリスクがあるのかもしれないが、ソルは完全にアルフレッドが怠けていると決めつけている。


「何なら妹ちゃんも遊んでくるか?」


 ソルがレミリアにも声をかける。


「はっは、冗談は辞めて下さいよ。そんな女の子とは戦えないよ」


 少年が笑って答えた時、ソルが一瞬表情を曇らせた事にメーヴェは気付いた。


 確かにレミリアに殴り合えと言うのは無茶な話だが、ソルの表情はそんな感じではなかった。


「まずは格下からだろう? 遊んでやるから二人同時に掛かってきなよ」


 女拳士がルイとアルフレッドを挑発する。


「独り占めは良くないね。僕にも一人回してもらわないと。『仮面』は僕が相手するよ」


「あぁ? どう考えてもそっちが『当たり』だろ? こっちの女を譲ってやるから好きにしてやれ」


「おい、私の剣には刃が付いているぞ。恐れているのなら、そう言えばどうだ?」


 短気なルイは挑発に対して挑発を返すと、女拳士の方はまんまと釣られる。


「ほう、大した度胸だ。さっき言っていたが、骨折程度なら治せるんだ。骨の五、六本折ってやれば大人しくなるだろう。いつまで吠えられるか、興味が沸いてきた」


「俺より向こうを心配した方が良くないか?」


 散々訓練を止められたソルより、確かにあの女拳士の方が直接的に危険だろう。


「口から出る言葉ほど頭が悪い訳ではないから、あの娘は大丈夫だ」


 しかしケンゴは信頼しているらしく、そんな事を言う。


 どうやら戦闘訓練は一対一で行われるらしく、少年とアルフレッド、女拳士とルイに別れ、向こうのムチムチ回復術士と男か女か未だ不明な魔術士は参加しないようだ。


「女の方は馬力勝負になりそうだな」


「馬力ねぇ。こっちのアイツはカラ回ってるだけで馬力があるわけではないんだがな」


 ソルから見たルイの評価は、アルフレッドと同じくどこまでも低い。


 ルイは頑張ってると思うけどなぁ。


 メーヴェはそう思うものの、残念ながらメーヴェの知る実力者、中でも最上級のソルやハンスと比べると物足りないと言うのも、ソルの評価と同じかもしれない。

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