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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第十六話 ご先祖様の話

「知らない事が増えているなぁ」


「お前さんが外に出てから十数年経っているんだ。そりゃ色々変わるさ」


「食物に困らなくなったってのが、一番驚かされたけどな」


「確かにそれは一番大きく変わったところだな」


 よほど食料関係の問題は深刻だったんだな、とメーヴェは思う。


 とはいえ、街の方も食料問題はわりと大きな問題になっていた。


 現状では問題無いものの、僅かずつであっても年々耕地が荒れて弱っているのは事実であり、今後同じように耕地が狭まっていくと、食糧難になる事はそう遠くない事である。


 と、父が心配していた事があった事をメーヴェは思い出していた。


 それに、どれほど改善されているのかは魔窟探索者の肉付きの良さで一目瞭然である。


 一層の食堂で食べた料理は、贅と趣向を凝らしたモノではなかったものの、味は素晴らしかった。


「なぁ、俺から一つ良いか?」


 店主がソルとケンゴに向かって言う。


「俺は仕事があるから、遊ぶなら外で遊んでくれないか?」


「それなら外で訓練の形で模擬戦やりませんか? それならルールを決めれば危険は抑えられるし、こちらも伝説のS級の実力を知る事が出来る」


「ダメだ。ソルの実力はお前達が想像出来る様な生易しいモノではない。訓練によって得られるモノより失うモノの方が多くなるのであれば、やらない方がマシだ」


 ケンゴは絶対に譲るつもりは無いらしい。


「そこまで言われると、逆にこちらも譲れなくなるな。それに、向こうの若いのも多少は訓練が必要なのではないか?」


 短気な女拳士が拳を叩きながら、アルフレッドやルイの方を見て言う。


「そう言う事で決まりなら、外で遊んで来い。ほれ、訓練用に武器も貸してやる」


 店主は適当に壁に立てかけていた武器をアルフレッドに持たせる。


「ソルも良い大人になったんだから、誰彼構わず八つ裂きにしたりしないだろ?」


 それは想像を遥かに超えた危険人物っぷりである。


「それならルールを決めましょう。回復薬で回復出来ない様な、後遺症の残る様な打撃は禁止とか。それでどうです?」


 少年の提案に、ソルは肩を竦める。


「良いみたいですよ、ケンゴさんもそれなら良いでしょ」


「ダメだ。と言っても聞かないんだろう? 後悔しても知らないぞ」


「ここでS級逃す方が後悔しますよ」


 ついにケンゴも折れた為、少年達は店の外に出る。


 本来であれば放っておいても良さそうなものなのだが、少なくともルイは乗り気だし、ここに留まっているといつまでもソムリンド家の名剣を強化出来ず店主の仕事の妨げになるのも事実である。


 ルイやアルフレッドに続いて、ソルやメーヴェも仕方無く外に出ていく。


「まぁ、俺の作業見てるより外での遊びの方が楽しいだろうな」


 店主はちょっと寂しそうだった。


「……ソーレ様?」


 メーヴェを見たケンゴが、言葉を失うほどに驚いている。


「……え? 私?」


 今までもいたのだが、ケンゴからは店主やソルやルイなどの陰になっていてメーヴェは見えていなかったらしい。


「ソーレ様? いや、そんなはずは無いか。孫か?」


「孫? ……あ、ソーレは私の曾祖母様の名前です」


「そうか、もうそれほどの時が過ぎているのか。改めて考えると、俺も長く魔窟にいるのだな」


 ケンゴは感慨深そうに呟く。


 ……ん? って事はこの人、百歳超えてない?


 魔窟の中では時間の流れさえ平等ではない、と言う話は聞いていたが、それなりに歳を重ねているのは分かるものの、ケンゴが百歳を超えている様にはまったく見えない。


 見たところで言うなら、五十代から六十代。実年齢の半分程度である。


 と言う事は、この人が見た事が無いと言っていた『仮面』の父親も百年以上前の人物と言う事になるので、今から見つける事は不可能だろう。


「だが、ソーレ様の曾孫と言う事は領主の子息と言う事だな。なんでソルと一緒に?」


「勝手に攫われに来たんだ。で、そのまま誘拐している途中だ」


「いや、ダメだろ。ちゃんと元のところに返して来なさい」


「そういう訳にもいかない事情があるみたいでな」


「まぁ、身を守ると言う事だけで言うのなら、ソルの近くほど安全なところは無いとも言えるからな」


 ケンゴは複雑な表情で言う。


 確かに身の安全と言うだけで言うのなら、ソルほど頼れる存在はいないだろう。


 ただ、それに特化しすぎていてそれ以外の問題が大きく多い事も十分な問題ではある。


 だが、メーヴェとしてはそんな今さら分かりきったソルの問題より、ケンゴに聞きたい事があった。


「曾祖母様はどの様な方だったのか、覚えてますか?」


 残念ながらメーヴェが誕生した時には既に他界していたので、ソーレと言う人物に直接の面識は無いのだが、クラウディバッハの家系でもソーレ・クラウディバッハは異端であったと言う話は聞かされてきた。


 おおよそ貴族らしからぬ人物で、何故か異常なほどに自身の姿を嫌っていたとされ、自画像などもまったく残っていない為、メーヴェは自分に似ていると言われても見た事が無いので分からない。


 まったく身なりに気を使わなかったとか、ソムリンド、ローデの両家の面子を潰しかねないほどの戦闘力を持っていたとも言われ、単身で魔窟に挑んだ事がバレて屋敷に閉じ込められた事もあるらしい。


「俺も領主様に近付ける様な家柄じゃなかったし子供だったからなぁ。だが、今の話はいかにもソーレ様らしいかも知れないな」


 ケンゴが言う様にソーレは気安く会える人物では無かったらしいのだが、ソーレ自身は時折屋敷から逃げ出し、当時悪ガキ集団で魔窟に挑もうとしていたケンゴ達に戦い方を教えた人物なのらしい。


 当然領主であり年頃の美少女と言う事もあってよからぬ事を考える輩もいたらしいが、実力に差があり過ぎて、とことん分からされる事になったそうだ。


「そう言うところは似ても似つかないな」


 ソルにそんな事を言われるが、召喚士の血筋であるクラウディバッハ家でそんな単身の戦闘能力を身に付けていたソーレが歴代領主の中でも異端とされる所以である。

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