第七話 彼のルーツ
彼は幼い頃から野良犬と蔑まれ、少年の頃には狂犬と言われ、住んでいた場所からも追い出され、そのまま魔窟へと入った。
人々は恐れる魔窟だったが、彼は魔窟が好きだった。
そこには得体の知れない倫理観や、押し付けがましい道徳が存在しない、原始的な弱肉強食の世界が広がっていた。
彼が初めて魔窟に入った時の装備は、盗んだナイフを長めの木の棒に結びつけた、手作りの槍もどき一本のみ。それ以外の武器も無く、防具も無い状態だった。
今考えれば無謀ここに極まれり、と我ながら感心するが、当時の彼に揃えられる最強装備であり、時間をかけてもそれ以上の装備は入手出来そうに無かった。
そのボロ槍だけを頼りに魔物を襲い、ボロ槍だけでなく刃こぼれした剣や刃の潰れた斧などを入手して、さらに別の魔物に襲いかかった。
彼には才能があった。
魔窟を一人で探索するのは、通常では自殺行為であるとされている。
魔窟の最初の階層に現れる魔物であっても、入って間もない者と比べると魔物の方が強い事もある。
なので、複数の人数で当たり、ある程度の装備を整える事が絶対条件となる。
それを彼は一人で行った。
彼が三層まで到達する頃には、魔窟の中でもちょっとした噂になるほどになっていた。
後に妻となる少女に出会ったのは、この頃だった。