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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第十三話 武器を強化しよう

 と言う事を、店主は異形剣を磨きながらメーヴェに話した。


 目の前で作業を見ていても、どう見ても魔物で無骨極まりない店主だったが作業している姿には目を奪われる美しさがあった。


 気さくに話す様も厳つい事この上ないはずなのだが、一つ一つの所作には洗練されたところが見られ、この店主の卓越した腕前によるものだろう。


「本当ならソル以外には触れられたく無いんだけどね。悔しいけど、腕が良いから譲っちゃうのよね」


 異形剣がソルの手に戻ると、その姿も女性の姿に変わる。


 明らかにつやが増し、鉱石ならではの輝きはあるものの、どこかなまめかしささえ感じさせるほど艶やかになっている。


 ……エロいな、異形剣。


 さすがに肌の質感は鉱石だが、その姿はスタイル抜群の全裸の女性そのものなのである。


「やっぱ良いなぁ、異形剣は。俺ではまったくその域には届いていないからなぁ」


 惚れ惚れとした表情で店主は異形剣を見ているが、壁に掛けられている炎の剣は決して異形剣と比べても見劣りする物ではないとメーヴェは思う。


 もし問題があるとすれば、誰にも扱えない事だろう。


「異形剣に触れたら、今日は気分が良くなってきた。お前らの武器も見てやろうか」


 店主がアルフレッドとルイに向かって言う。


「アルフレッドの剣は、ソムリンド家の名剣だから見てもらった方が良いわよ」


「ほう、そんなモノを持ってるのか?」


 店主に目を向けられ、アルフレッドは一瞬身構える。


 うん、その気持ちは分かる気がする。


 見た目ほど怖くないし気さくな良いヒトなのは分かるのだが、店主はとにかく見た目が怖い。


 いきなり目を向けられたら、本能的に恐怖を感じるのは仕方が無い。


 とはいえ、怖いヒトではない事は分かっているのでアルフレッドは剣を店主に渡す。


「あ? 何だ、コレ? お前、生意気にもこんな良い剣使ってやがるのか?」


 店主はソムリンド家の名剣を抜いてまじまじと眺めながら、アルフレッドに向かって言う。


「正直に言ってみろ。使えてないだろ?」


「一応その剣で魔物は倒してはいるのですが……」


「そう言う事じゃないんだよなぁ。お嬢ちゃんなら分かるんじゃないか? 正直に言ってみ? この剣、使えてないだろ?」


 正直に言うと、使えてないと思う。


「あ、でも『仮面』の力を使ってあの蟹と戦ってた時には、悪くなかったと思う」


「仮面? ああ、お前そうなのか。それも込みで生意気だから、この剣、もっと強化しても良いか?」


 店主がおかしな事を言い出す。


「まだクセみたなのもついてないから、とりあえず剣の切れ味と強度を上げられるだけ上げる方向で伸ばして行こうと思うんだが、ソルはそれで良いか?」


「俺に聞くなよ。俺が使う訳じゃないんだ。使い手に確認しろよ」


 ソルにしてはまともな意見だ。


「ソルなら分かるだろ? 武器にクセがついてないって事は、まだそれほど実戦経験を積んでないって事だし、使い慣れてないのも見え見えだ。お前が指導してやれよ」


「実戦が一番だろ?」


「……まぁ、あまりにも実力差があると指導もためにならない事はあるか」


 店主はそう言うと、ソムリンド家の名剣を磨き始める。


「強化って具体的にはどんな事をするの?」


 ふと疑問に思って、メーヴェは店主に尋ねてみる。


「一番基本的で手っ取り早いのは、やっぱり金の力による強化だな」


「新しい武器を買うの?」


「いや、そう言う意味じゃない」


 店主は笑って答える。


「俺はここのルールしか知らないが、ここではどんな連中であっても命を奪えば『袋』を介して金が入る仕組みになっているのは知っているよな?」


 確かにそんな説明を受けた気がする。


 だから魔窟探索には『袋』は必要不可欠で、『袋』をいじめたりするなと注意された。


「その金だが、一応硬貨としての形は保っているものの、実際には生命力の欠片ともいうべき特殊な素材でもあるんだ。ここでは『金』はかなり直接的な力の証明にもなる。何しろほとんどの強化を『金』で出来るからな」


 店主はそう言うと、磨いたソムリンド家の名剣を眺める。


「例えば俺みたいな職人であれば、こうやって武具の強化が出来るし、別の階層だったら身体能力や精霊力なんかも強化出来るところがあるって話だ。極端に雑な言い方をすれば、魔窟探索では金を持っているヤツほど強いって話だな」


 例えばソルなどは現金の持ち合わせは少なそうだが、その全身に纏っている武具に関してなら国宝級の装備である事を考えると、極端かつ雑な説明であったとしてもそれが大きく間違った認識と言うワケでは無いだろう。


「と言う訳で武器の強化には金がかかるのだが、それは構わないよな?」


「そう言う事なら、惜しむ様な事は無いわ。存分に腕前を披露していただけるかしら」


「おい、良いのか? そんな安請け合いして」


 一切周りに意見を求めようとしないメーヴェに対し、さすがに不安を覚えたのかルイが口を挟んでくる。


「安請け合い? とんでもない! 賞賛に足る腕前の職人さんに報酬は惜しむべきではないわ。ましてその方が腕を披露して下さると言うのであれば尚の事。むしろ惜しむ事こそ、貴族の名折れだわ」


「お、おおう、そうか」


 予想外の剣幕で噛み付かれた為、ルイも驚きを隠せずに言う。


「質問なんですが、つまり有り金全部つぎ込めばさらに武器が強化されると言う事になりますか?」


 アルフレッドが恐る恐る質問すると、店主は首を振る。


「極論すればそうかもしれないが、武器は強化される度に吸収効率が下がっていくから、結果的により高額の金が必要になる。そこの見極めは職人の腕にもよるんだが、腕によってはつぎ込んだ金ほどの効果を得られない事もあるし、注いだ力に耐えられず武器が溶解する事もある。そう言う意味では、大金をつぎ込めば際限なく強化出来ると言うワケじゃない」


「だとすれば、尚更腕を見込んで惜しむべきじゃないわ。それに職人にとっても自身の腕に掛けて金額に対する責任は発生する訳だし」


 店主の説明に対するメーヴェの後押しもあって、アルフレッドやルイも納得する。


「ソルの連れにしては随分と育ちの良いお嬢ちゃんだな。どこから拐ってきたんだ?」


「成り行きで向こうから拐われに来たんだよ」


「だが、お嬢ちゃんからそう言われるのは悪い気はしないな。せっかくだから、期待にも応えてやらないとな」


 店主がそう言ってまさに作業に入ろうとした時、


『いらっさいませッスー』


 と来店を告げる『小袋』の声が聞こえてきた。

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