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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第八話 行きつけの武器屋

「随分と人目を忍んでいるんだな」


 ルイの率直過ぎる意見だった。


 二層の賑わっている街をソルは真っ直ぐに通り過ぎて行き、街外れさえも通り過ぎたのではないかと思うほどに山に近付くと、ようやくそれらしき建物を見つけた。


 暑い。


 あまり感じないくらいに慣れてきた暑さだったが、ここは暑い。


「ね? 偏屈でしょ?」


 暑さを感じていないらしい異形剣は楽しそうだ。


「何と言うか、いかにも『職人』って感じですね」


 アルフレッドが苦し紛れな擁護をしている。


 確かにここまで離れれば作業の邪魔は少ないかも知れないが、顧客も苦労させられそうだ。


 商売においてはまず何よりも立地である事を分かっていないのだろう。


 と言うより、最初から商売としてはやっていないのかもしれない。


 魔窟の場合、自分で魔窟探索して収入を得ると言う方法もある。


 最低限の収入をそうやって得て、あとは自分の為に時間も金も使うと言う事も、外の街以上にやりやすい。


 ここの主人はそう言うタイプなのかもしれない。


「で、ここは勝手に入っても良いモノなのか?」


 ルイは建物の前で、ソルに確認する。


 建物はそれなりに大きいのだが、武具店と言う店構えではなく大きいとは言っても『店』ではなく『家』と言う感じだった。


「意外だな。そう言うの気にするのか」


 ソルが驚くほど失礼な事をルイに言っている。


 確かにその露出度で肉弾戦はどうなの? と思う様な常識の無さはあるが、言動そのものは至って常識的なルイである。


 少なくともソルには言われたくないだろう。


「いいから入れ。問題無い」


 どう見ても店には見えないので入るのを躊躇っているルイに、ソルは後ろからせっつく様に言う。


 外から見る分には家だったが、中は紛れもなく武具店だった。


『いらっしゃいませッスー』


 中に入るとカウンターの上にちょこんと座った『小袋』が、来客に気付いて気の抜けた緩い声で出迎える。


 壁に飾られた多種多様な武器に対し、防具となる物は盾が少数目に付く程度と、ここは武具店と言うより武器店らしい。


 でも、何だろう。妙な違和感がある。


 メーヴェは飾られた武器を見ながら、不思議に思った。


 飾られた武器は匠な装飾が施され、見る分には非常に素晴らしく見える。


 それだけで見ればソルが贔屓にしているのも納得と言えるのだが、肝心の武器としての価値がついて来ていないと感じるのだ。


「何だ何だ。客自体が珍しいってのに、その客もえらく珍しいのが来てるじゃねえか」


 え? 魔物?


 店の奥からのっそりと現れた店主を見て、メーヴェは目を疑う。


 ルイも素早く武器に手をかけ、オギンも素早くメーヴェの後ろに隠れる。


「よう、異形剣。相変わらず美しいじゃないか。ソル、現役復帰にしては妙な連中引き連れてんなぁ」


 店主は気さくに話しかけて来るが、とにかく見た目が怖い。


 メーヴェはてっきり店主はヒゲのずんぐりむっくりな、いかにも工匠と言う人物が出てくると思っていたのだが、まったく違った。


 長身のソルと比べても劣らない高さと、その筋肉量はソルの二倍以上ありそうな幅。


 それだけでも巨人かと思うほどの威圧感があるのだが、その人物には額と側頭部からの計三本もの角が生え、さらに両肩にも角と言うべきかトゲと言うべきか分からない凶悪な突起が生えている。


 ついでに翼や尻尾もあるのだから、これで人ですと言われても信じられない人物だった。


「この娘を誘拐しているついでだ」


「はっはっは! ついに誘拐までしたか!」


 笑い事では無いはずだが、どう見ても魔物の店主は本当に楽しそうに笑っている。


 それで良いの? 私、誘拐されてる被害者で、しかも目の前にいて、犯人も自白してるのに助けようとか思わない?


 メーヴェはそう思うのだが、この店主に人としての常識を期待するのは間違っていると言うのは、誰に言われるまでもなくメーヴェにも分かる。


 魔物の中でも相当な上位。オギンはもちろん、蟹モドキや山羊頭の変態と比べてさえも圧倒的上位の実力者。


 その割に妙に気さくで、顧客のソルより異形剣の方を歓迎しているみたいだ。


「追っ手が面倒なんでこの連中に任せようと思って武器を見に来たんだ」


「この連中に?」


 店主がルイやアルフレッドを見て、表情が険しくなる。


 ソルやこの店主と比べて実力不足なのは仕方が無いだろう。いくらなんでも比べる相手が人外過ぎる。


「俺は客を選んで商売しているのは、ソルにも分かっているよな?」


「もちろん」


「まぁ、お前の連れと言うのであれば譲れるところではあるが、二つ条件がある」


 店主の言葉に、ソルは小さく頷く。


「一つは異形剣を磨かせてもらう。それは構わんよな?」


「仕方ないわねー」


 答えたのはソルではなく異形剣だった。


「もう一つは?」


 そこについてはソルからも言う事は無いらしく、店主に尋ねる。


「俺は、俺の武器は俺が選んだ者に使ってもらいたい。お前であればこちらから頼みたいところだが、さすがにまだ異形剣に匹敵する武器は作れていないからな。俺が納得出来なければ、いかにお前の連れでも譲れんものは譲れん。それは構わんよな?」


「もちろんだ」


 本来であればそれは武器を使うべきルイやアルフレッドが答えるべきところだろうが、ソルが二つ返事で答えた。


「……そうだな、そこの小僧に尋ねよう」


 店主はアルフレッドを選んで言う。


「お前は何故優れた武器を欲する? その理由を聞かせてもらえるか?」


 店主だけでなく、全員がアルフレッドに注目する。


「……それは、もちろん、大切な仲間を守る為」


 アルフレッドは遠慮がちにではあったが、さほど悩む事無くそう答えた。

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