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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第四話 二層へ

「あっつ! なにこれ! あっつい!」


 第二層に降り立った時、メーヴェの率直な感想だった。


 暑い。まるで酷暑の熱風を浴びせられた様な暑さだ。


「あー、コレコレ。コレこそ二層って感じね」


 異形剣は楽しそうに言う。


「え? 異形剣って暑さも感じられるの?」


 感情豊かで表情も豊富な異形剣だが、それはあくまでも人の姿をしていると言うだけで実際には剣であり、想像を絶するほどに稀少な素材で作られているとは言えその体は鉱石である。


「お、良いところ気付いてくれたわ。そうなの。と言っても人型の時だけね。この状態の時にはそれだけ余裕があるからだけど、あのオッサンが本気出した時にはそんな余裕無くなるからさ」


 本質的に『武器』である異形剣からするとそちらが本文なのだろうが、完全な本気と言うのを見せた事がないにしてもソルが常識の範疇に収まる様な実力者ではない事は、メーヴェにも分かる。


 自分の意思で自在に形状を変えられる異形剣をして、ソルが本気になった場合にはサポートする機能が追いつかないらしい。


「異形剣はある程度自分の意思で形が変えられるみたいだけど、自分の意思で戦闘とかも出来るの?」


「そりゃ出来るわよ。って、ゴブリンの巣で見てなかった?」


「あの時は気持ち悪くて余り周り見てなかったし」


 それにあの時は自分とオギンの事で精一杯だったし、何より異形剣は剣の状態で戦っていたのはソルだったはずだ。


 あの時、異形剣も何か特殊な事をやってたのかな? くっ、見たかった!


 そんな事を考えながら、メーヴェは断層から二層へと行く。


 こんだけ暑かったら、そりゃ露出度も高くなるでしょうね。


 一層の拠点で出会った魔窟探索者の女性が妙に露出しているのが気になっていたところだったが、この熱気なら多少はしたなかろうと仕方ない。


 二層を改めて見ると、メーヴェは言葉を失った。


「……外?」


「二層よ」


 メーヴェが思わず口にした言葉に、異形剣が笑いながら答える。


 メーヴェだけではなくルイやアルフレッドも同じような表情をしていた。


「いやいや、外でしょ?」


「二層よ」


 異形剣はそう答えているが、メーヴェにはとても信じられなかった。


 まず何より壁が無く、天井も無く曇天とは言え空が広がっている。


 厚く暗い雲のせいで日差しが非常に弱く薄暗いとは言え、それは間違いなく空であり一層のように高いと言っても天井がある訳ではない。


 さらに少し離れたところには山も見える。


「……外よね?」


「二層よ。ま、私もこうやって二層見るのは初めてだけどね」


 異形剣は楽しそうに言う。


「空が見えるほど下った気はしなかったが」


 ルイも空を見上げながら言う。


「そう言う常識が通用する空間じゃ無いんだよ、魔窟ってところは」


 ソルが軽く言う。


 確かにそんな説明は受けた気がする。


 一層を深く掘ってもそれは一層の穴であって二層に届く事は無く、二層をどれほど上がってもそれは二層を上がるだけで一層の底に届く訳ではない、と。


 頭では分かっていたつもりだったが、まさか空があるほど非常識だとは思わなかった。


「外じゃない? 火山らしきものも見えるけど」


「ああ、外では無い。あと、アレも火山と言うより山ではない。まぁ、目的地はあそこになるんだから、近くで見れば少しは分かるかもしれないな」


 二層ではソルと異形剣が先頭になって移動する。


 今のところ二層には障害物らしき物も無く広大な大地が広がっているだけなので、後方からの不意打ちなどの心配も少ないと言う事と、二層の事を知っているのがソルしかいないと言う事もあってそうなっているが、ちゃんと前線の働きをしてくれれば何も問題無いのだが。


 メーヴェとオギンとレミリアが最後尾を行っていたのだが、やはりと言うか当然と言うか心配していた通りの問題が起きた。


「コレが二層の魔物だ。お前、ちょっと相手してみろ」


 ソルが足を止めると、ルイに向かって言う。


 その視線の先にいる魔物は、少なくとも一層では見た事の無い型の魔物だった。


 例えるなら、蟹。


 だが、川辺で見かける蟹とは違って大きな岩を背負っている。


 それともう一つ大きな違いがあった。


 デカい。


 川辺で見かける蟹は手のひら大のモノが多いが、この大きな岩を背負った蟹状の魔物の大きさはそれどころではなく、一体がレミリアくらいの大きさである。


 川辺の蟹ですら鋏で挟まれたら相当な痛みがあるのに、この大きさの蟹の鋏で挟まれようものなら人の体すら両断されかねない。


 その上、俊敏である。


 その俊敏さで言えば川辺の蟹とさほど変わらないのだが、人間並の大きさであれほどの動きをするのだから、その危険さは一層の魔物の比ではない。


 二層の蟹状の魔物一体で、おそらく一層のゴブリンの群れ並の危険度かそれ以上である事は間違いないだろう。


 それが三体。


 一層ではそれなりの実力者である事は疑う余地の無いルイだが、三体は手に余りそうではないかとメーヴェは不安になる。


「ふん、造作もない」


 短気なルイはすぐに乗せられて剣を抜く。


 あの蟹状の魔物に剣で効果あるのかな?


 そこも不安を感じる一つであった。

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