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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第二話 典型的な弱点

「……ここはまだ一層だよな」


 ルイは足を止めて振り返り、異形剣とソルに向かって尋ねる。


「ああ、まだ一層だ」


「どうかした?」


「アレは一層の魔物で間違いないか?」


 ルイの視線の先には、親ゴブリンとも言うべきこれまで一層で見てきたゴブリンより体格が優れ、その手にも棍棒などの原始的な鈍器ではなく、とても名品とは呼べないものの剣と盾、粗末とは言え革の鎧を身に付けた個体がいた。


「ああ、一層のゴブリンだな。なんだ? 恐れをなしたか?」


「あの程度を恐れるか」


 ルイは強い口調で言うが、強がっていると言うより本当に恐れている様子も無く、ちょっと変わった個体がいたから確認した、と言う感じだった。


 一層でよく見かけるゴブリンはオギンよりは大きいものの、大体は小柄で貧相な体格の個体が多かった。


 しかし、魔窟の外でもあれくらいの成人男性の体格をしたゴブリンはいた事を考えても、一層のゴブリンで間違いないと思われる。


「待て、女」


 ソルが切り込もうとしたルイを止める。


「何だ?」


「アレはお前じゃなく、『仮面』の小僧が相手をした方が良い」


「俺が?」


 指名されたアルフレッドが驚いている。


「私では遅れを取ると?」


「遅れを取るとすればお前ではなく『仮面』の方だ」


 ソルのアルフレッドに対する評価は著しく低い。


「だが、この男はあのゴートと同種の魔物を撃退している。今さらゴブリンなど相手にならないだろう」


「なら問題ないだろう」


 ソルはルイを一蹴する様に言う。


 何か問題があるんだな。


 メーヴェですらそう思う。


「女、お前は周りのザコ処理処理だ。やれるな」


「馬鹿にするのもいい加減にしろよ。その程度の事が出来ないとでも思っているのか?」


「いや、馬鹿にしているのはお前じゃない。そっちの小僧だ」


 ソルはルイを相手にせず、アルフレッドに向かっていう。


「……俺が?」


「ああ、まさにお前だ。『仮面』の奴らには驚く程面白いくらいに典型的な弱点があるからな。試してやるよ」


 ソルの言葉に、全員が不思議そうな表情を浮かべる。


 見るからに逞しそうな親ゴブリンだが、実は見た目ほど子ゴブリンほど差がある訳ではない。


 森でも見かけていたのでメーヴェも知っているが、見た目には腕力がありそうだが野良の子犬に吠えられるだけで腰が引ける程度である。


 アルフレッドはゴブリンの巣では一瞬で数体のゴブリンを切った実績もあるし、『仮面』の力を出した時には山羊頭の魔物とも戦えるほどの実力を持っている。


 子ゴブリンと比べると親ゴブリンは多少迫力があると言う程度で、山羊頭の魔物と比べると明らかに格落ちである事はメーヴェにすら分かる。


「それじゃ、蹴散らしてみろ」


 ソルに言われ、ルイとアルフレッドは少数のゴブリンの集まりに挑む。


 ゴブリンと称される魔物だが、直接的な危険度は決して高くないものの、非常に繁殖力が高い為に魔窟探索者は定期的に駆除する必要がある、とルイは言っていた。


 いかに直接的な危険度が低いと言っても、数が揃うと手に余り、もし生け捕りにでもされようものならその高すぎる繁殖力に協力させられる事になってしまう。


 ルイは隙を突いて周りのゴブリンを切り倒し、アルフレッドがリーダーに専念出来る様に動く。


 アルフレッドはリーダーゴブリンと一騎討ちとなり、一刀の元にリーダーを切り伏せる。


 と、メーヴェは思ったのだが、そうはならなかった。


 一撃で切り伏せる隙はあったにも関わらず、アルフレッドの一撃の動きは異常なまでに重く、その一撃はリーダーのみすぼらしい盾によって防がれる事となった。


「……やはりか。『仮面』の奴らは不思議な連中だ」


 後方で見守りながら、ソルは肩を竦めて言う。


「どういう事?」


 メーヴェより先に異形剣の方がソルに尋ねる。


「どういう事かは俺にも分からないが、『仮面』の連中には妙な欠点がある事が多い。一つには人型の魔物との戦いになると異常に忌避感が強まる。それはゴブリン相手でも出るから、初戦で命を落としたり、その経験で急激な老化を招いて戦闘不能になる奴らも多い。同じ様に刃物に対する恐怖心が強過ぎる事もある。それは、あの通りだな」


 アルフレッドは攻撃すればゴブリンを切り倒せるはずなのに、ソルに言われてから意識して見れば確かにあの見るからに切れ味の悪そうな剣を異常なまでに警戒しているのが分かる。


 一々敵の剣を確認しているせいで、アルフレッドの攻撃には思い切りが無く、不格好な盾でソムリンド家の名剣の攻撃がほぼ完全に無効化されてしまっていた。


「それに、この後にも色々と『仮面』ならではの意味不明な弱点やら欠点やらがあるんだが、まずはここを切り抜けてからだな。妹ちゃんも黙って見守ってろよ」


 ソルは何故かレミリアに釘を刺している。


 ……まぁ、いざとなったらレミリアも攻撃魔術くらいは使えるだろうけど、それもするなって言う事?


 メーヴェは不思議に思う事ばかりなのだが、何故かレミリアもそれを受け入れているらしく、黙って見守っている。


 実力を出せばアルフレッドが剣と盾で武装しているとは言え、ゴブリン程度に苦戦するはずはない。


 もし『仮面』の力を発揮すれば楽勝だろうが、お互いに決め手に欠けるグダグダの泥仕合である。


「あいつらの奇妙なところだが、あの状況でも『仮面』の力を出し惜しみするんだから、話にならないな」


 ソルが呆れている様に、お互いに腰の引けた泥仕合をしているにも関わらず、アルフレッドは『仮面』の力を解放しようとはしない。


「……そこまで意識が回ってない?」


 メーヴェが尋ねると、ソルも異形剣も頷く。


「なんでだろうな? 自分は剣を振り回して相手を切り倒すのに、相手も同じ事をするという事を何故か考えてない。やらなければやられるってのにな」


「何をしている!」


 メーヴェ達は黙って見守っていたのだが、こちらの会話内容を知らないルイはいつまでも決着がつかないアルフレッドに業を煮やしたらしく怒鳴る。


 それにリーダーゴブリンは飛び上がる様に驚き、そのあからさまな隙を突いてアルフレッドはリーダーゴブリンを袈裟斬りに切る。


 が、それも浅い。


 それでもその一太刀がきっかけとなって自信が付いたのか、アルフレッドの動きは格段に良くなって攻撃にも腰が入り、速さと重さが増した。


 こうなってはいかに体格が良いと言っても、所詮はゴブリン。


 すぐに決着は着く事となった。


「つくづく弱いヤツだな。『仮面』とは言え、あのままじゃ長くは生きられそうにない」


 ソルはその事を何故かレミリアに向かって言っていた。

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