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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 嵐の前の第二層
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第一話 二層を目指す前に

 一言に二層を目指すと言っても、そこへの道筋はソルしか知らず、しかもそのソルは必ずしもこちらに対して好意的に協力していくれると言う態度ではない。


 が、ソルはともかく異形剣の方はメーヴェ達に協力的だった。


「ここからならすぐ近く、と言うワケじゃないけど、まぁ腕試しも込みで魔物を倒しながら進みましょうか。困った事があったら、このオッサンが何とかしてくれるだろうし」


 異形剣はそんな事を言っているが、そのオッサンはとてもそんな態度ではないとメーヴェは不安を覚えていた。


 戦えば強いのは分かる。


 と言うより、強いどころではない破格の実力者である事は何度も目にしてきた。


 それでも同じくらい困っている時に助けてくれなかった事も、十分身を持って味わってきた。


「確かにいざという時に手助けしてくれる存在は有難いが、それよりもまず私達自身が実力を付ける必要があるのは間違いないな」


 そう言ったのは、集落に残らず同行しているルイだった。


 本来であれば彼女は集落を救った救世主とも言えるはずの立場だったのだが、実際にはほとんど役に立っていなかった事を自覚しているので、実力を付ける為にもと言う理由もあって同行を望んだ。


 ソルは乗り気では無かったのだが、メーヴェとしては断る理由も無かったし、何より貴重な戦力を確保出来るので断る理由が無かった。


 ソルは別格の実力者である事は疑いないが、それ以外の戦力がアルフレッドだけではなんとも心許ない。


 メーヴェ自身が前列に出て戦う事はまず論外として、それ以外となるとアルフレッドの妹のレミリアと子供のゴブリンであるオギンしかいないのだから、前衛にしても後衛にしてもまったく戦力不足である。


 いざとなったらレミリアは後衛として戦えそうだが、いかにも戦い慣れているルイの存在は大きいとメーヴェは感じていた。


 後はもう少し慎みを言うか恥じらいと言うか、自身の防御力に対しての意識を向けるべきかとも思うのだが、女性の魔窟探索者には何故か肌を露出している者が多いのがメーヴェには不思議だった。


 く言うメーヴェも街では考えられない様な短いスカートに、何故か胸の中心部分に近いところだけ守るつもりがない謎のデザインの胸当てを身に付けているのだが、そこは異形剣のオススメもあったので恥ずかしさが無い訳ではないものの、それで魔窟探索を行っている。


 何しろ異形剣は魔窟探索者としてはベテランと言ってもいいはずだ。


 厳密に言えば魔窟探索者ではないし、そもそも人間でもないが、それでも並の魔窟探索者とは比べ物にならないほど深層を知っているのは事実である。


 その存在からのアドバイスであれば聞いておいた方が良いはずだ、と言うのがメーヴェの判断だった。


 それに、この防具一式を買ったところの店員もニコニコ笑っていたし、間違っていないだろう。


 それこそ、戦いなれている雰囲気があるとは言えルイより異形剣の方が経験豊富なはずだし、アルフレッドはそもそも学校でも飛び抜けて成績が良かった訳ではないので、この中でまともにアドバイスをくれるのが異形剣しかいないのだから、仕方が無いとも言える。


「あ、魔物だ。さっそくやってみよー」


 異形剣はそう言うと後方に下がる。


 一層の魔物はある程度戦える、と言うよりまともに動けて武器を振る事が出来ればそこまで危険度が高い魔物は多くない。


 あのド級変態のヤギ頭は例外の中の例外であって、そこまで成績の良くなかったアルフレッドでも十分過ぎるくらいに魔物を倒す事は難しくなかった。


「……なぁ、何故『仮面』の力を使おうとしないんだ?」


 基本的に他人への興味が薄いソルが、アルフレッドに尋ねる。


「え?」


「お前程度の力で出し惜しみするほどの実力は無いだろう?」


 嫌味とかではなく、単純に疑問らしくソルは不思議そうにアルフレッドに尋ねる。


 実はそこに関してはメーヴェも不思議だった。


 アルフレッドは武のソムリンド家の生まれの割に、その身体能力はそぐわないほどに平凡極まりなかった。


 が、それも『仮面』の能力を持っている事を考えると少し分かる気もした。


 アルフレッドが『仮面』の能力を発揮した時は、明らかにソムリンド家に相応しい動きを見せた。


 それでもソルにとっては不服だったらしい。


 もし比べているのが自身とだったら、それはさすがに無茶が過ぎるだろうとメーヴェは思う。


 ソルの身体能力は人のソレではないのだから、十分なのではないかと思うのだが何が不満なんだろうと言うのも、メーヴェの疑問の一つだった。


「いや、別に出し惜しみと言うワケでは……」


「だとすれば随分と自信過剰だな。長生き出来そうに無いが、お前さんなら案外大丈夫なのかもな」


 ソルは一瞬レミリアの方を見て、呆れ気味に言う。


 何で妹ちゃんを見た?


 何気にソルはアルフレッドの妹であるレミリアを気にしているところがある。


 そうか! やっぱりこのオッサンは低目が好きなんだ! だから私に冷たいんだな。


 少なからずそうではないかと、疑ってはいたのだ。


 メーヴェやルイより、秋からにレミリアを気にかけているのは明らかなので、つまりはそう言う事なのだろう。


 妹ちゃんが可愛いのは認めるけど、さすがに引くなぁ。


「……前にも言ったけど、たぶん違うわよ」


 異形剣が笑いながら、メーヴェに言う。


「でも、妹ちゃんに対しては明らかにそうとしか」


「んー、そこからちょっと違うと思うわよ」


 何が、とは言わないが、異形剣は笑いを含ませながら言う。


「私は『仮面』の力には頼らない方が良いと思う」


 ルイがソルに向かって反論している。


「私には分からない事ではあるが、『仮面』の能力とは能力の引き上げなのだろう? それであれば地力が重要になるのだから、まずは地力をあげるべきだ」


「なら勝手にすれば良いだろ」


 ルイとしては議論するつもりだったようだが、ソルはまったく興味無さそうに会話を区切る。


「そう言うところ、良くないわよねー」


 と、人間ではない異形剣に注意されているが、ソルは改善するつもりは無いようだ。


 議論する気満々だったルイも、肩透かしを食らってムカついているのを隠そうともしない。


 外見だけの話をするのであれば、多少野性味が強いもののルイは美女と言っても差し支えないほどに美しい。


 だが、こう言う子供っぽさのせいもあって、洗練されていないのはもったいないとメーヴェは感じているのだが、言っても素直に聞きそうない。


 もしヘソを曲げて暴力に訴えかけられたら、メーヴェや子ゴブリンのオギンではどうする事も出来ないので黙っておく事にした。

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