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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第二章 彼と彼女の第一層
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第七話 ルイの案内で

 思い立ったら即行動と言わんばかりに、シオンは準備もそこそこに出発した。

 急いで村を救出してほしいルイや、ランドルフ、トーマスも異論は無かった様だが、アルフレッドは不安が大きかった。

 いくらなんでもナメ過ぎではないか。

 先ほどのギルドでの会話を考えるに、ルイはこれまでに数回ギルドに救援を求めている様だったが、その全てが失敗していると言う事になる。

 先生も言っていた通り、この第一層は魔窟探索に慣れていない者が多く、アルフレッド達もその例に漏れない。

 つまりこれまで失敗していた者達は、アルフレッド達と実力的にさほど違いは無いはずなのだ。

 特に根拠もなく、と言うわけではないかも知れないが自分の魔力に絶対の自信を持っているシオンならともかく、ゴブリンに苦戦する様なランドルフやトーマス、先の戦いで戦いそのものに恐怖を覚えたアルフレッドでは手に負えない事態ではないか。

 助けを求めに来たルイにしても、ただの無力な村娘と言う訳ではない。

 極端に高い露出度のせいで、豊満な胸元や無防備な腰周りに視線が行ってしまうが、その腕や足はそこそこに鍛えられていて、おそらくこれまでに幾度かの実戦も行っているはずだった。

 その戦力で言えば、ランドルフとトーマスの二人を足したより上に見える。

 そんな人物が全てを投げ打って助けを求める様な敵を相手に、自分達でどうにか出来るものなのだろうか。

 アルフレッドは自分の不安を払う様に、頭を振る。

 言ってもまだ第一層なんだし、そんな手に負えない様な事態になるはずが無い。そこまでバランスが悪いのはクソゲーじゃないか。

 アルフレッドはそう考えていた。

 思い込もうとしていたのだろう。

 転生者ならではの思い込みだと言えなくもないが、アルフレッド以上に問題のある考え方をしているのがシオン達だった。

 彼女達は生粋の貴族であり、特にシオンは街でも最上位の家柄で彼女が望めば彼女の思う結果が出るのが当然であり、それが彼女の常識だった。

 実際に才能もあったかもしれない。

 が、魔窟の常識は彼女達の常識とはかけ離れていると言う事をまったく理解していなかったのが、取り返しのつかない悲劇を招く結果となる事を彼女達はまだ知らない。

 ルイに案内されるままについて行くアルフレッド達は、拠点からかなり離れたところにあるルイの村を目指していた。

 特に迷う様な道のりでは無いのだが、とにかく遠い。

 思いの外長く移動する事になったのでシオンは飽きてきたのかブツブツと文句を言い始めたが、ここでアルフレッドは妙な事に気付いた。

 疲れていないのだ。

 ただ歩くと言うだけでも普通ならそれなりの体力を使うし、案内があるとは言え魔物の現れる魔窟と言う緊張感を保った状態でそれなりの距離を移動するとなれば、本来なら相当な疲労があって然るべきところだが、移動による疲労がほとんど感じられない。

 不満たらたらなシオンも、いつまで移動するのかと言う文句は言っているものの疲れたとは言っていない。

 実際アルフレッドは初の実戦を終え、切り殺したゴブリンの姿が目に焼き付いていて疲労困憊だったはずだが、その自分が疲れを感じる事無く長時間歩けている事が不思議でならない。

 確かに一般的なRPGで言えば徒歩で休まず世界一周するくらい歩いても疲れた様子は見せないけど、この魔窟でも同じシステムなのか?

 魔物退治に向かっているのだから同じ惨劇を目にする事になる、と言う現実から目を背ける為に、アルフレッドはそんな違和感の事を考えていた。

「待て、止まれ」

 先頭を歩くルイが止まって鋭く言う。

「何よ、やっと……」

 シオンが嫌味の一つも言ってやろうとした時、ルイは鋭い表情でシオンの言葉を遮る様に手のひらをこちらに向ける。

「事情が変わった。アレはダメだ。もっとも手に負えないヤツが来ている。悪いが、村に入るにはヤツが消えてからでなければ無理だ」

 ルイの言葉に、シオンだけでなく、前髪で顔の半分以上が見えないレミリア以外の全員が眉を寄せる。

 ソレを倒す為に呼ばれたはずだが、先ほどまで勇ましかったルイがあからさまに怯えて震えている。

 見ただけで異常と分かる怯え方をしているルイの恐怖は、実戦経験に乏しいアルフレッド達にも簡単に伝染する。

「ふん、そんな事を言って、今更になって奴隷になるのが嫌になったんでしょう? ランドルフ、どの程度のヤツがいるのか見てみなさい」

「俺が見るよ」

 ランドルフではなくアルフレッドが言う。

「あ? アルフ、でしゃばるなよ」

「いや、ちょっと興味があるだけだよ」

 アルフレッドはそう言うと物陰に隠れた状態で、ルイが見ていたモノを見ようとした。

 少し先に魔物の群れが見える。

 と言ってもゴブリンの集まりで、その数は五、六体と手に負えないと言うほど多い訳ではない。

 が、明らかに一体ゴブリンでは無い者が混ざっていた。

 二本の雄々しい角が生えた人型の姿だが、目立つ特徴はその角だけで翼がある訳でも尻尾があるわけでも無く、鎧も身につけず着古した衣服と腰に剣を一本だけ持っている。

 角が生えているものの、それ以外は一層の探索者と同じ様な出で立ちであり、身に着けているものだけで言うのならアルフレッド達とさほど変わらない。

「……まだこっちには気づいていないな」

 アルフレッドだけではなく、ランドルフやトーマスも様子を見ていた。

「アレが頭だな」

 ランドルフも二本角を見て言う。

「ああいう集団は、頭を取ってしまえば楽勝だ。どうにか気づかれずに不意打ち出来ないか?」

 ランドルフはやる気らしい。

「ヤツはまだ武器を抜いていないから、一気に制圧してしまえばイケるんじゃないかな?」

「それは危険過ぎる」

 トーマスの乱暴な計画に、アルフレッドは反対する。

「いくら今は剣を抜いていないと言っても、俺達が突撃してゴブリンと戦っている間に剣を抜くくらい簡単に出来る。そうなったら不意打ちどころじゃ無いだろう」

「そうとは限らないじゃないか。俺の持っている剣は家宝の剣だし、お前の剣だってソムリンド家の剣だろう? あの二本角がどれほどのモノかは知らないが、俺達の剣で切れないはずが無いし、切ってしまえば倒せるはずじゃないか」

 ランドルフは不思議そうに言う。

「まぁ、貴族ともあろうものが不意打ちみたいな姑息な手を使いたくないと言うのは分からないじゃないけどな」

 そう言う事ではないのだが、ランドルフの中ではそれで納得しているようだった。

「そんな悠長な話をしているんじゃない。ルイさんがあそこまで怯えると言う事は、それだけの事を見たと言う事だろう? 不意打ちには賛成だが、無策で突撃は無謀だと言っているんだ」

「要は怖気づいただけでしょ? この期に及んで情けない」

 シオンは鼻で笑う。

「作戦はこうよ。まず、腰抜けのアルフが先頭に立って、注意を引きつける。あんた程度でもゴブリンなら適当にいなせるでしょ? そこでランドとトムが奇襲をかける。一撃で仕留めなさい」

 驚く程単純な作戦を、シオンはドヤ顔で言う。

 もしそれが成功すれば確かに致命的なダメージを与える事が出来るはずだ。

 が、あの二本角にそんな単純な作戦が通用するのだろうか。

 その程度の事なら、これまでの探索者によって行われていないのか。それでも今なお危機が続いているのは、それが上手く行かない事を示していないのか。

「さて、準備は良い?」

 シオンが皆を見ながら確認する。

 その時、アルフレッドの服をレミリアが引く。

 レミリアは小さく首を振っている。

 明らかに警戒している。

「アルフ、あんた、どういうつもり?」

 シオンの確認に応えようとしないアルフレッドに、短気なシオンが痺れを切らし始める。

「その作戦はさすがに雑なのでは?」

「はっ、だったらあんたは良いわ! ランド、トム、あんた達だけでやりなさい。私が援護してあげるわ」

「了解です、シオンさん」

「待って下さい。ここは一度退いて、戦力を整えてから出直すべきでしょう。ねえ、ルイさん?」

 アルフレッドはルイに援護を求めたが、ルイはあの二本角を見てから異常なほどに怯えている。

 その姿から、アレの危険性は伝わって来るはずだったが、生粋の貴族であるシオン達には伝わっていないらしい。

 警戒を促すアルフレッドに対して、シオンが手を向けて制する。

「アルフ、これまで貴方がソムリンド家と言う事で遠慮していたけど、はっきり言わせてもらうわ。貴方のその臆病なところが気に入らないのよ。自分から動こうとしないところが。今後、貴族を名乗らないでもらえる? 不快だわ」

 シオンはそう言うと、アルフレッドと目を合わせようともしなくなった。

「ランド、トム、貴方達二人でやるのよ。成功すれば、あの奴隷を共有させてやるわ」

「了解です、シオンさん」

「援護、お願いしますよ」

 シオンとその取り巻き二人はやる気に満ちている。

 作戦は極めて単純。ランドルフがゴブリンの群れに襲い掛かり、その援護をシオン。そこに意識を向けさせた後、トーマスが二本角を切り捨てると言う作戦である。

 本来であれば体格でも所有する武器でもランドルフの方が戦力的にも上なのだが、不意討ちと言う奇襲であれば目立たない事が重要と言う単純極まりない理由で、トーマスが適任となった。

 あまりにも単純な作戦をドヤ顔で披露するシオンにも、それをノリノリでやろうとするランドルフにもトーマスにも、危機感らしいものは一切無い。

 この時の事を、アルフレッドはずっと後悔する事になる。

 何故、あの時もっと強く止めなかったのか、と。

 すでに嫌われていると言うのであれば、何故もっと必死になって引き止めなかったのか、と。

 だが、この時のアルフレッドは三人の無謀過ぎる挑戦を、失敗するであろう事を予想しながらも、必死になって止める事をしなかった。

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