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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第二章 彼と彼女の第一層
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第六話 舞い込んできた依頼

「ゴブリン退治、ご苦労様でした」

 拠点に戻ってさっそくギルドへ行ってみると、受付嬢が笑顔で迎えてくれた。

「それにしても早かったですね。さては、準備を怠ったでしょう? あ、もしかしてもう準備とか万端でした?」

「準備?」

 受付嬢の言葉に、ランドルフは不思議そうに返す。

「ダメよー、準備を怠っちゃー」

「ぎゃあ!」

 そう簡単に慣れる事の出来ないインパクトを持つ先生が、突然現れて耳元で囁いたのでランドルフは悲鳴を上げる。

「あら? 元気が無い子がいるわねー。どうしたのー? 怪我したのー?」

 先生はアルフレッドの様子に気付いて、アルフレッドのところに来る。

 骸骨が目の前に現れるのは十分過ぎるほど怖いはずだが、今のアルフレッドにはそこにはさほど恐怖も驚きも感じなかった。

 先生の場合、怖いのは骸骨の外見だけで声は愛らしさすらある女性の声だし、その性格もコミカルで面倒見の良さもわかりやすく伝わってくる。

 少なくとも、魔物だったとはいえ人間の子供にも見えるモノを切り殺した恐怖と罪悪感と比べれば、先生はむしろ敵意が無いだけ安心感さえあるほどだった。

「……貴方、『仮面ペルソナ』ね?」

 先生の声のトーンが変わる。

「分かるんですか?」

 憔悴したアルフレッドだったが、先生からの予想外な質問に思わず質問で返す。

「そりゃ分かるわよー。だってもう、反応が違い過ぎるからー」

 いつもの調子に戻った口調で、先生は言う。

 もし表情があったら笑っているだろう。

「何? ペルソナ? 何の事よ」

 シオンが相変わらずランドルフやトーマスを盾にしながら、それでも耳ざとく聞きつけた聞きなれない単語について尋ねてくる。

「ん? 知らなかったのー? 特殊な才能の持ち主の事よー」

 先生はその程度の答えを返す。

 その事を隠しているのに配慮しての事だろう。

「……何よ、どういう事?」

 シオンはアルフレッドに詰め寄ろうとするが、すぐ近くに先生がいるのでそれも出来なかった。

「なるほどねー。『仮面ペルソナ』の子は、中々才能を発揮できないから大変よねー。でも、才能を発揮できれば桁外れなんだけどねー」

「ただの口だけ男じゃないって事?」

「さー、それはどうかなー。私、この子の事詳しく知らないからー。ひょっとすると私の見込み違いかもねー。うっふっふー」

 先生は割と露骨に誤魔化して、答えようとしない。

 シオンは不満な様だったが、先生に詰め寄れるほどの度胸は無かった。

「準備についてですけど」

 元々その話をしていたところ先生が横槍を入れてきたので、受付嬢が本題に戻る。

「最近の魔窟探索者は防具を軽視する傾向が強いんですよ。確かに色々と不便なところはあるかもしれませんけど、魔窟探索を甘く見たらいけませんよ? 死んでしまってからでは遅いんですからね」

「ふん、当たらなければどうと言う事は無いわ」

 シオンは強気である。

「それならそれで構わないんですが、中々難しいものですよ? 一切の攻撃を当たらない様にするのって」

「余計なお世話よ」

 敵意をむき出しにシオンは受付嬢を睨む。

 何かと戦わなければ気がすまないシオンだったが、受付嬢は慣れた様子で特に相手にしようとしない。

「とりあえずコレでギルドの加入手続きは終了です。これからギルドのサービスを受ける事が出来る様になります。また、仕事の斡旋がある場合には『袋』に連絡が行きますので、呼ばれていない『袋』が現れた時には話を聞いてあげて下さいね」

『よろしくお願いするッス』

 先生と同じく、いつ隣に現れたのかも分からなかった『袋』がアルフレッドに挨拶する。

「あ、ああ、よろしく」

『妹さんもよろしくッス』

 何故かシオンやランドルフではなく、『袋』はレミリアに挨拶する。

 レミリアが無言で頷くと、

『うへへへへへ』

 と、何故か嬉しそうに『袋』は笑う。

 次の瞬間には、シオン達への挨拶もせずに『袋』は姿を消していた。

 もしこれが一般人であればシオンは激怒していただろうが、シオンは『袋』に対してまで自身への尊敬を求めていないらしく、挨拶も無しに姿を消した『袋』に何か言う事は無かった。

 彼女にとって『袋』は、ただの喋る袋程度の認識なのだろう。

「それではさっそく魔窟探索者初心者向けの……」

 受付嬢が言いかけたところで、入口の扉が乱暴に開かれる。

「頼む、助けてくれ!」

 そう言って駆け込んできたのは、銀と言うにはくすんだ灰色の髪の女性だった。

 魔窟探索者の様な雰囲気はあるが、先ほど受付嬢が言っていた様に防具を軽視しているのか軽装備であり、露出度がかなり高い。

 自分のスタイルの良さに絶対の自信を持っているのでなけば、中々出来ない様な露出度である。

 むしろ今身に着けているモノを防具と呼んでいいのかさえ疑わしい。

「あれ? ルイさん。この前、何人かスカウトしていったじゃないですか」

「ダメだ! あの程度の者達では手に負える相手ではない! 頼む! 私の村を救ってくれ!」

 ルイと呼ばれた灰色の髪の女性は、必死に受付嬢に縋っている。

「村の皆さんも、この拠点に来れば良いですよー。私が保護しますからー」

「先生、申し訳ないがそれは出来ないんだ。我々の先祖が眠る土地を捨てて、先生の元へ来る事は出来ない。頼む、先生! 私に出来る事であればどんな事でもするから、誰か手練はいないのか?」

「うーん、ここは第一層で、魔窟に慣れていない探索者が多いからねー。手練と言われても、この層にいる探索者であればさほどその実力に差は無いと思うのよー。一応募集はかけてみるけどー、ルイさんの期待通りに行くかは保障出来ないわねー」

「先生が直接助けにはいけないのですか?」

 ゴブリンの件で憔悴していたアルフレッドだったが、状況の変化によって多少意識を外に向けられる様になったので、先生に質問してみる。

 見た目から考えても先生が弱いはずが無く、この第一層で手練を探すより先生が直接手を下す方が圧倒的に確実ではないかと思ったのである。

「んー、私も出来る事ならそうしたいけどー、ルイさんのところは私の勢力外だからー、私では手出し出来ないのよねー」

 エリアマスターがその層の支配者であるとは言え、その行動には制約が多い。

 その一つが自身の勢力範囲外での行動制限で、勢力範囲内での行動を強化すればその反面範囲外での行動を制限される。

 先生の場合、勢力下であらゆる場所に瞬間移動出来ると言う具合に行動を強化しているかわり、範囲外では行動出来ないらしい。

 つまり先生の提案通り、ルイ達がこの拠点に入れば先生の庇護下に入る事が出来て安全は保障されるが、それを拒まれたのでは先生に打つ手は無いと言う事だった。

「何でもする、と言ったわね」

 シオンが口を挟む。

「ああ。私に出来る事であれば、何でもしよう」

「なら、話は早いわ。貴女が私の奴隷になる事を宣誓するのであれば、私達が手を貸してやっても良いと言っているのよ」

 シオンが勝手な事を言い始める。

「え? ちょっと……」

「何よ、文句があるの?」

 受付嬢が何か言おうとしたが、シオンが敵を見る目で睨みつける。

「いえ、文句と言うわけでは……」

「なら黙っててくれない? 私達で話は進めるから」

 シオンにとってこの美しい異形の受付嬢は、敵である魔物にしか見えていないらしい。

「先生、良いんですか?」

「んー、まぁ本人がやる気なんだしー、私達が強引に口を挟む事ではないかも知れないけどー、さすがに貴女達にはまだ手に余るんじゃないかなー。いくら『仮面』の力を持っていても、それが扱えなければ無意味なんだしー」

「うるさいわね、ほっといてよ」

 シオンは先生にも強気に出るが、それはあくまでもランドルフの後ろからの話である。

「どうするの? 貴女がこの場で奴隷宣言をして、私に絶対服従を誓う事が条件よ?」

「その程度で済むのなら、願ってもない事だ。村を救ってくれるのであれば、奴隷にでも何でもなる事を約束しよう」

「決まりね。貴方達も文句は無いわね」

 シオンがランドルフ達に言う。

「シオンさん、奴隷はシオンさんの奴隷なんですか? それとも、我々の共有物となるんですか?」

 ランドルフが報酬の確認をする。

「……そうね。私が独占するのも横暴かしら」

 これまでも十分横暴な暴君だったが、ここでは多少の自覚が働いたらしい。

「働き次第で、報酬は約束するわ」

 シオンの言葉に、ランドルフとトーマスはルイをまじまじと見る。

 貴族の子弟である彼らからすると、ルイは気品と言うものには欠けるかもしれない。

 だが、手足の引き締まり方とは裏腹に女性として出るべきところは豊満なほどに出ている、メリハリのはっきりした体型は十分過ぎるほどに魅力的と言えた。

「アルフ、貴方はどうするの? 正直なところ口だけの貴方は戦力としては乏しいのだけれど、それでもいないよりはマシなんだし。働き次第では、私の評価も変えられるかもしれないわよ?」

 シオンとしては自分なりに魅力的な条件を出しているつもりかもしれないが、シオンの評価など特に意識してはいない。

「……俺も行きますよ」

 アルフレッドが絞り出す様に答えると、影の様に寄り添うレミリアも小さく頷く。

「そう。あまり期待していないけれど、せいぜい励むが良いわ」

「あまり無理はしないようにして下さいね」

 受付嬢が遠慮がちに言ってくるが、やはりシオンが睨みつけて黙らせる。

「さあ、行くわよ! 必要なら私も本気を出してあげるわよ」

「……大丈夫かなぁ」

 やる気に満ちたシオン達と違い、受付嬢は心配そうに呟いていた。

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