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嫌われ者達の魔窟逃避行  作者: 元精肉鮮魚店
第二章 彼と彼女の第一層
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第四話 魔窟探索者組合(ギルド)

「いらっしゃ……、あ、先生。と言う事は初心者さんですか?」

 先生は姿を消す事無く、アルフレッド達をギルドまで案内してくれた。

 本当に面倒見が良く、世話を焼くのが好きらしい。

 ギルドと呼ばれる所は魔窟の拠点でも一際大きな建物であり、入ってすぐの広いロビーには数十人の探索者達がたむろしている。

 とはいえ、受付は入口近くにあり、そこにいた受付嬢がすぐにアルフレッド達に気付いて声をかけてきた。

 入口近くで入ってきた人物が分かりやすい様に受付が置かれているので当然でもあるが、何より半透明ながらこれ以上無いほど目立つ先生が一緒なので、受付嬢でなくても気付くのに時間はかからない。

「こーんにちわー。お察しの通り、初心者を連れてきたから。よろしくねー」

「はーい。って言っても、先生もここにいるんでしょ?」

「うっふっふー」

 受付嬢と先生は楽しそうに話している。

 美しい受付嬢だが、まっとうな人間ではない事は一目でわかる。

 青い肌と赤い瞳。深緑の髪など、街でもまず見かけない人種であり、即頭部から短いながら角まで生えている。

 異形ながら美しい娘だが、受付の服装も露出度はさほど高く無いものの、どんな素材で作られているのか恐ろしくタイトなメイド服の様なデザインの服は、その豊満なラインがはっきりと見て取れる扇情的なデザインなのでついつい目が行ってしまう。

 魔窟探索者に男性が多いのは、この受付嬢の影響かもしれない。

「それじゃ、初心者の皆さん。パーティー編成はそちらの五人で大丈夫ですか?」

「それは今後も変更出来るのか?」

 先生には怯えていたランドルフだったが、異形ながら受付嬢には恐れる事無く堂々としている。

「もちろんですよ。ここでのパーティー登録は、それぞれの生存確認や『袋』に所有権を覚えさせるのに便利と言うだけで、普遍のモノではありませんから」

 慣れたものらしく、受付嬢は笑顔で答える。

「それをする事で、何が変わるんで?」

 負けじとトーマスも受付嬢に質問する。

 シオンは面白くなさそうだが、残念ながら見た目で言えば完全に受付嬢の圧勝である。

「一番の利点は、各層の拠点や仮拠点の施設を格安で利用出来る事ですね」

 受付嬢は笑顔で説明する。

 言うなればギルドに加入すると言う事は、魔窟での身分証明になるらしい。

 と言うのも、魔窟は基本的には無法地帯であり治安も何も無いのだが、各層のエリアマスターの協力の元、それぞれの拠点においての治安を守る為の妥協案がこのギルドと言う形になったと言う。

 だが、全てのエリアマスターが全てに賛同している訳ではなく、それ故に非協力的なエリアマスターの層には仮拠点を作っているらしく、ギルドの仕事の量はその仮拠点の方が多い。

 ギルドに加入する事によって、それらの仕事を斡旋してもらえる様になると言う。

「他にも、ポタールの利用が可能になりますよ」

 受付嬢は奥の方を差しながら言う。

 魔窟と言う空間は非常識極まりない場所であり、例えば一層から二層までは地続きで歩いて行く事は出来る。

 地形的に一層の下が二層となるらしいが、一層の地面を掘り続けても、それは一層を深く掘り進むだけで二層に到達する事は無いらしい。

 どこかで次元の狭間があるらしく、道なりに移動する事は出来てもショートカット出来る道は見つかっていない。

 そこでポタールである。

 コレは各層のエリアマスターの合意があれば、それぞれの層に移動する事が出来ると言う優れモノで、先生の影響力は強烈極まりない事もあって、一層からは五層までの各層と八層には自由に往復出来ると言う。

 コレを利用出来るのも、ギルド加入者に限られている。

 こっそりとであれば非加入者でも使えなくはないが、それは先生の目を盗んでと言う話なので、それはそれで難しい事である。

 六層には一層からは行く事は出来るのだが、六層からは一層に移動出来ないので、その場合には六層から五層に移動しなければ一層に戻って来られない状況であった。

「とは言え、一層から二層に変わるだけで魔物の危険度は大きく変わってきますから、まずはこの一層で十分に魔物に慣れてからポタールの利用をオススメします」

 アルフレッドとしてはすんなり受け入れられる情報だった。

 むしろ作為的なモノを感じずにはいられないほど、よくある設定と思えるほどだ。

「ではまず最初の仕事ですけど、拠点を出た所でゴブリンがたむろしてるんですよ。色々迷惑なんで、五体ほど倒してきて下さい。まぁ、加入テストみたいなモノですね」

 受付嬢は笑顔で言う。

「あんた、同類じゃないの?」

 シオンが敵意むき出しの目で、受付嬢を睨みながら言う。

「はい?」

「ゴブリン退治を言って来たけど、あんたも同じ魔物じゃない。ソレを殺せとは大したモノね」

「シオンさん」

 喧嘩腰なシオンをランドルフが宥める。

「うーん、魔物と言うくくりで言えばそうかもしれないけど、それを言いだしたら魔物もヒトも大した違いは無いし、同類と言えば同類でしょうけどね」

「はぁ? 私を魔物と同類って言うの!」

 シオンが掴みかかろうとするのを、ランドルフ達が止める。

「深く考えすぎない事が、魔窟では大事ですよ? 私達と探索者達の利害が一致しているので共同戦線を張れるんですけど、とにかく害意のみを撒き散らす魔物が魔窟には多く存在しています。それは私達にとっても非常に迷惑なんですよ。わかってもらえますか?」

「もちろんです」

 トーマスがすぐに頷く。

 こちらはこちらでシオンとは別ではあるものの、掴みかからんほどに身を乗り出して言うので、受付嬢は僅かに身を引いて苦笑いしている。

「ゴブリン五匹倒してくるのは良いとして、それって何か証拠の品を持ってこないといけないものですか? 例えば首とか」

「いえいえいえ、そんなモノはいりませんよ」

 アルフレッドの質問に、受付嬢は首と手を振る。

「魔窟には『袋』の亜種として『死体袋』と言うのがいるんですよ。魔窟の死体を片付けてくれる存在で、ソレが教えてくれるから大丈夫ですよ」

 魔窟で魔物退治は日常茶飯事なのだが、もしその時に退治した魔物の死体をそのままにしておくと、非常に大きな問題になるところである。

 が、それらの処分は魔窟の中だけの生物である『死体袋』と言う存在が処理してくれると言う。

 その『死体袋』が処理した魔物を倒した探索者の『袋』に、その魔物に見合った代金が振込まれると言うシステムらしい。

 この時、ギルドに登録したパーティーで共有している『袋』に送金されるので、後の金銭トラブルにならない様、ギルドでパーティーメンバーを確認出来る様にしていると言う。

「よし、それならすぐにでも退治してみせよう!」

 ランドルフはシオンを抑えながら、それでもやる気を見せる。

「では、よろしくお願いしますね」

「何か質問があったら、いつでも私に聞いてねー」

 受付嬢と先生が送り出す。

 これ以上ここにいると、本当にシオンが大暴れしそうだったのでアルフレッド達もギルドから出る。

「ゴブリン程度なら、何も問題ないな。この剣で一刀のもとに切り捨ててやる」

「ここで抜いたらダメよー」

 剣を抜いて自慢しようとしたランドルフの真後ろに先生が現れて、耳元で囁く。

「ぬぉあ!」

「うっふっふー。剣を抜くのは鍛冶屋か拠点外でねー」

 そう言うと、先生は姿を消す。

 エリアマスターの権限なのか先生の能力なのかは分からないが、少なくともこの拠点の中で何かすると言う事は、文字通りいつでもどこでも現れる事の出来る半透明の骸骨を敵に回すことになると言うのは理解出来た。

「さて、それじゃ拠点外に向かいますか」

 呆然自失なランドルフ達をせっつく様に、アルフレッドが声をかける。

 拠点外までは道なりに進むだけで行ける。

 拠点が魔窟探索の中心部である事は間違いないが、魔窟探索と言うくらいなので拠点外行動が探索の基本となるので出入り口は非常にわかりやすい。

「ところで、あんた達。そもそも戦えるの?」

 シオンが拠点出口に差し掛かったところで、アルフレッド達に尋ねる。

「俺は言うまでもない。ゴブリン如き、この剣で切り捨ててやる」

 ランドルフは鼻息荒く宣言している。

「俺も、ゴブリンくらいなら問題ないはず」

 トーマスはランドルフほどではないにしても、腰の剣を叩いて言う。

「貴方達が大丈夫なら、問題無いわ。アルフは当然やれるわよね」

 シオンは当然と言う言葉まで付けて言ってくるが、一番不安を感じているのはアルフレッドだった。

 確かに剣をひと振り渡されているし、『武のソムリンド』の名は街では知らぬ者などない。

 そこの三男なのだから弱いはずはないと思われているのだが、何分アルフレッドには実戦の経験が無い。

 イメージ通りのゴブリンが相手であればおそらく大丈夫だとは思うのだが、こればかりはやってみないと分からないと言うのが本音である。

 が、シオン達はまったくそう思っていないのが困りものだった。

 ランドルフやトーマスはシオンのお抱えの様なモノなので、基本的に女性との接触はシオンを介してになる。

 シオンは並外れた自尊心を持っているので、お抱えの二人が他の女性に目を奪われる事を絶対に許さない。

 そんな息苦しい環境の中で、あの異形の受付嬢は清涼剤の様なモノだったのだろう。

 魔物退治の大義名分を得ているので、シオンとしても口を挟みづらいと言う事もあって、ランドルフ達が鼻息を荒くしているのはわかる。

 自分はどうだろうか。

 確かにあの受付嬢はエロ可愛いのは間違いないし、良いところを見せたいと思わなくはない。

 しかし、たかがその程度であの受付嬢がなびくと言うのであればあの受付嬢はとっくに誰かのお手付きだろうと言う事くらい、簡単に予想できそうなものである。

 生粋の貴族であり、これまでに望めば家の名前を出すだけで手に入ってきた彼らと違い、アルフレッドにはこの世界ではない前世の記憶がある。

 世の中とは、それほどこちらの期待に応えてくれないものだ。

 何も決断する事をしてこなかった寄生虫。

 実戦への不安は強いが、アルフレッドを支え行動に移させているのは、ウィルフからぶつけられた言葉に対する怒りだった。

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