進め!第57特務実験艦隊
魔力素と呼ばれるエネルギー物資的な何かが充満し、魔法と呼ばれる技術が存在する世界。
その魔法を人間の手を介さずに発動させる技術”魔導”を開発したウィルキア帝国という国家があった。
帝国は大いに栄え、ほぼ永久機関たる魔導機関を手に入れた帝国は栄華を極めていた。
そんな背景のなか帝国の新技術実証艦宗谷を含む第57特務実験艦隊はある海域を航行中、とある事件に巻き込まれる……。
だいぶ前に原型を書いて数年越しになんとか完成させました。
自分でも設定がフワッとしてるなぁって思うのでツッコミやアドバイスがあれば是非お願いします
生体魔力……魔力素を操ることの出来るチカラ。
地球上の大半の生物が持っており、
この量、強度によって魔法の強さが決まる。
また、距離に反比例するので
火球を直接飛ばす、と言うような
技術は術者から離れるほど制御が困難になるため
発達せず、筒に球を入れて飛ばす、
と言うような大砲の原型が主流となった。
人間の攻撃魔法というものは
基本的に二次的効果を利用している。
魔法……生物が魔力素を操って起こす物理現象。
応用は多岐にわたる。
魔導……生物の力を借りずに発動させる魔法の事。
魔法では術者の集中力が切れるとまともに
発動しなくなるが、
魔導では常に同じパフォーマンスを引き出すことが
出来る。帝国を大国へと至らしめた発明である。
魔力……魔力素が生体魔力の制御下に入った状態。
この状態になると様々な物理現象を
引き起こすことが可能になる。
魔力素……空間に存在すると考えられているエネルギー物質。
正確に観測はされていないが経験則的に
あらゆる空間に存在すると考えられている。
擬似衛星システム 天照……魔導機関の特徴を生かし、
より低高度を飛行しながら地表の偵察任務にあたる帝国の観測システム。
衛星をロケットで打ち上げるよりもコスト面で優れており、
地表にそこそこ近いためより詳細な観測情報を得ることが出来る。
ウィトルキア帝国本土から南西に約150海里の無数の岩や無人島が多く並ぶ難所として有名な海域、そこにはまるで島のような大きさの超巨大艦数十隻が見事な輪形陣を描きながら、悠々と航行していた。
外周を囲むのは各種水雷装備を搭載した球磨型巡洋艦1隻及び睦月型駆逐艦2隻。
その内を進むのは巨大なタンカーのような外見の三浦型輸送艦8隻である。
この艦隊の名は第57特務実験艦隊、艦隊指揮官は艦隊旗艦の艦長と兼任のウィリアム少将である。
そして、この艦隊の中心を航行する、この巨大艦の中でも他より一回りは大きい艦、この艦隊の旗艦でもあり帝国の魔導技術の粋を集めた全長600mオーバーの採掘技術実証艦 宗谷の中央司令室では艦長のウィリアム大佐と副官のバーガーが巨大なメインモニターの前で今作戦の最終確認、とは名ばかりの雑談をしていた。
「あと、30分ほどで作業開始ですか。
それにしても海底の物質を転移させて回収するなんて、相変わらず中央研究所の連中はとんでもないことを考え付きますね、頭のネジが何本か飛んでるというかなんというか……」
「変態共に技術を与えた結果だ。
へんちくりんな物しか造らんが、稀にこんな有用なものも造り出す。
普段がアホでも基本的に天才なんだよ、アイツらは」
「それもそうですね。
まぁ、使えるならなんでもいいんですよ、なんでも……」
言葉の端々に僅かな怒気を滲ませながらバーガーが呟く。
「なんだお前この前奴等にやられたことまだ怒ってるのか?」
35という年齢の割にはシワの多い顔にさらにシワを深くしながらニヤニヤとするウィリアム。
先日、バーガーが試作品の"試製魔導洗濯機"という、開発者曰く全ての汚れを消滅させる、という代物のテストを任され、見事に魔導器の暴走に巻き込まれ酷い目にあったのを思い出し段々と口角が上がっていく。
「何ニヤついてるんですか艦長!
ホントに死ぬかと思ったんですからね!
おまけにあいつら文句言ったら魔導機に汚れだと思われたんだなとかふざけたことを抜かすんですよ!?
あぁ~!思い出したらイライラしてきた!」
「はっはっは!
そうカッカするな。
お前がデータを取ったおかげでこの艦に魔導洗濯機が搭載されて綺麗な制服を着られるんだんだから、結果オーライじゃないか!」
「うーん……なんか損してる気分」
▼
どうでもいい話をしていると艦の中央司令室に艦橋から報告が入った。
「艦橋より報告。
作業海域まで残り10分を切りました」
「おっと、もうそんな時間か。
バーガー、気を引き締めろ」
「はい、艦長もですよ。
これだけの膨大な魔力を扱うんです、何かあったら海域ごと艦隊が吹き飛びますからね。
それにこの魔導システムによる本格的な採掘作業は今回が初めてなんですからヘマしないでくださいね」
「あぁ、もちろんだ。
まぁ、作業自体はマニュアル通りに進めればまず問題は起きんだろう。
我々は不測の事態に備えるだけだ」
「なに言ってるんですか、奴らの発明品なんですよ。何かしら問題が起きるに決まってるじゃないですか」
「ふっ、それもそうだな。気を引き締めて作業に取り掛かるとしよう
……通信手、護衛艦を除く各艦に通達!
制御権を本艦に移譲せよ!」
今までの雰囲気が嘘だったように、研ぎ澄まされた刃のような気配を漂わせながら、正に歴戦の兵士に早変わりしたウィリアムが指示すると室内の水兵達が慌ただしく動き出す。
「1番から4番の本艦との接続完了しました。
続いて5番から8番との接続完了。
各輸送艦との接続異常なし、艦隊の陣形を第2輪形陣へ移行します」
"接続"とは宗谷と輸送艦の機関や魔導頭脳を同調させることで、魔導の共鳴現象を人為的に起こし、効果と射程距離を飛躍的に伸ばすことが出来、艦隊そのものを巨大なひとつの船の様に運用することが可能になるのだ。
余談だがこの技術は帝国内で広く採用されており、 高効率化に大きく寄与している。
無論、宗谷一隻だけでも海底地下の物質を転移、回収する事は可能(回収後の収容スペースは乏しいが)だが、そのような大魔力を運用すると機関に無理をさせることになりかねないので、他の艦艇でも魔導を発生させ負担を減らそうとしているのだ。
因みに砲身内で爆発魔導を発生させ、二次的効果で砲弾を飛ばしている砲兵器等ではあまり共鳴現象を期待できないのだが。
また、それ以外にも輸送艦達の制御を宗谷の魔導頭脳にさせることにより、物質の転位時の座標指定などをより円滑にすることが出来るのだ。
「副魔導機関を推進回路に切り替え、主魔導機関始動!
機関出力60%!
採掘魔導回路に魔力伝送開始!」
ウィリアムが命令すると魔導頭脳が機関出力を調整し甲高い機関音と僅かな振動が司令室に鳴り響いた。
同時に周辺海域の魔力素分布に僅かだが変化が起こる。
言わずもがな宗谷の主機関始動によるものである。
宗谷の主機関は周辺の魔力素を吸収し片っ端から魔力に変換、魔力コンデンサに充填しているのだ。
来るべき解放の時に向けて。
この時、数字にして約30%の、宗谷から半径10kmの魔力素が魔力へと変換された。これは生物が魔力的に耐えられるギリギリの数値である。
魔力素量がこれ以上減少すると大多数の生物は魔力代謝のバランスが崩壊し、死に至ってしまうのだ。
これは特に大型の生物で顕著であり、酷いものでは全身の骨格を補強していた魔法が維持出来なくなり生きたまま自壊する、ということもあったようだ。
因みに所謂変換制限と呼ばれる魔力素変換への制限が制定される前の艦隊行動、戦闘時には多数の艦艇がバラバラに魔力素限界まで変換するので魔力素量が急激に減少、艦内は魔力素を一定に保っているから被害は無かったものの周辺海域の水棲生物の被害は甚大で死んだ生き物で海が埋まった程だったという。
もちろんこの制限が成り立つのは魔導機関技術の飛躍的な進歩と魔導の大威力化や効率化が大きい。
もはや限界まで魔力素を変換しなくても十分になったのだ。
閑話休題
世界で最も安全だと言っても過言ではない宗谷の中央司令室内に各種観測装置からの情報や報告が届き、採掘作業の準備が整いつつあった。
「主魔導機関始動、異常ありません。順調に魔力へと変換、コンデンサ内に充填しています。
回路接続、同調完了しました」
「続いて衛星"天照"との回線開け」
「了解、最寄りの天照を検索……天照五号機との通信感度良好、周辺海域のデータ来ました」
ここで言う天照とは帝国が打ち上げた擬似衛星システムの事で、大気圏内をほぼ永久機関たる魔導機関の特徴を生かし恒久的に飛行し、地上をより詳細に観測、地上に死角を無くすというコンセプトの元開発された。
現在数十機の天照が常時目を光らせているという。
「各艦の準備完了、何時でも採掘シークエンスに入れます」
「わかった。
艦隊各艦に通達、これより作業を開始する」
そのとき、室内に小さな揺れと警報が鳴り響いた。
「くっ……!状況を報告せよ!」
「本艦より14000m前方の0-4-0の方位の海域にて大規模な魔法が使用された模様!
損害は極めて軽微!
……ッ!
駆逐艦吹雪より入電!
"我、敵魔法生物による攻撃を受け艦尾消滅により通常航行不能、指示を乞う”です!」
魔法生物、この名称で呼ばれるのは海は海龍、空は飛龍、陸は地龍といった所謂ドラゴン達である。彼らは今でこそどうにかこうにか対抗可能になったが、魔導機関が発明される以前は絶対王者として生態系の頂点に君臨していたのだ。なにせ、たった一匹で地形が変わった、生態系が激変したという話がゴロゴロしているのだ。その理不尽なまでの強力さが見てとれるだろう。
そしてその毒牙に艦隊正面を航行していた吹雪は不幸にもかかってしまう。
「クソ、なんて事だ……!
総員第一種戦闘配置!通信手、睦月に打電!
"吹雪を戦闘海域より離脱させよ"以上!
司令部にも海龍に襲撃されたと伝えておけ!」
「り、了解!打電します!」
「敵魔法生物、光学で捉えました!スクリーンに出します!」
部屋の中央にあるスクリーンに海面から鎌首をもたげ、どこか気だるそうな海龍が写った。牙と牙の間からは超高濃度まで圧縮された赤と黒が混じった魔力が漏れだし、禍々しい雰囲気を助長している。
海面から出ているだけで約50メートル。
全長500メートルを超えると推測される超弩級の海龍だ。
他国の海軍ならば為す術もなく海の藻屑となるだろう。
「こ、これは……」
「か、海龍……ッ!」
「艦長、今すぐ撤退しましょう!相手が悪すぎます!」
新米のオペレーターや経験の足りない者が狼狽え、バーガーまでもが撤退を進言する。
それは生物として、海の男としてある種当然の反応であった。
昔から海で海龍と遭遇したならば例え宝物を運んでいようと
なにをしていようととにかく逃げろ,戦おうなんて考えるな、と言われ続けてきたからだ。
「いや、本艦隊はここで海龍を殲滅する!」
「か、艦長!?」
「安心しろ、あんな海蛇ごときにこの艦が遅れを取るわけが無い。
それに魔力素量が減少し本来の力も出せていないようだしな。
負けはせんよ。
それに奴さんは俺達を逃がす気は無いらしいからな。
この艦隊を生かして返すにはあいつを仕留めるしかない」
明らかな虚勢であった。
宗谷を含む艦艇に搭載された火器では恐らくあの異様にでかい海龍を撃破することは叶わないことはウィリアムが1番よくわかっていた。
しかし海龍は獲物と認識した物を簡単に諦めないという厄介な習性を持っているため、低速の輸送艦を含む艦隊の生還を考えるのなら撃破するしかなかったのである。
「か、艦長。それでは……」
「あぁ。各艦に通達!
本艦隊はこれより海龍の殲滅を行う!
護衛の各艦は本艦の魔導頭脳の制御下に入れ!」
「…接続完了、システムオールグリーン!」
「全艦、戦闘配置!砲雷撃戦用ぉー意ッ!」
司令室内の照明が切り替わり戦闘状態を示す赤色になる。
宗谷の魔導頭脳により統制されひとつの巨大なシステムとなったこの艦隊はまるで生き物のように滑らかな艦隊行動を開始する。
三浦型輸送船は減速していき、それとすれ違うように後方から増速した睦月型駆逐艦と球磨型巡洋艦が航行していく。
宗谷とこの2隻は後方の輸送船や航行不能の吹雪の前に立ち塞がるように隊列を整えた。
「海龍速力20knotで本艦に接近中、相対速度45knot!」
「よし、護衛の各艦は取り舵25、第二戦速にて前進し砲撃戦に持ち込め!
本艦はこのまま前進し海龍を攻撃する!」
「データ、制御頭脳に入力完了しました」
「弾種五式特殊弾、主砲撃ち方用意!」
この時宗谷の前部甲板に搭載された60口径20.5cmサンチ三連装砲が海龍の居る方向に仰角を上げながら旋回していった。
別れた巡洋艦達も四基搭載された60口径15.5サンチ連装砲が同じく海龍に向けて砲身を上げながら旋回し、駆逐艦も1基搭載された60口径15.5サンチ単装砲が海龍を指向した。
56サンチ三連装誘導魚雷発射管も同調した宗谷の魔導頭脳によるデータの送受信テストを行いながら発射の時を待っていた。
宗谷もほか2隻も装填する砲弾は五式対魔法生物弾である。
簡単に言えば着弾と同時に魔力素をも透過させない特殊な障壁を周囲に展開させ、障壁内の魔力素を一瞬で1%未満にまで減少させ、爆発するという砲弾だ。
砲弾の内部には物質として析出するほどにまで圧縮された魔力と使い捨ての魔力素圧縮機、障壁を発生させる魔導装置が入っている。
まず、着弾、または目標にある程度の距離まで近づいた砲弾は
内部の魔力を使い、目標を覆う形で障壁を展開させ閉じ込める。
次にリミッターもクソもない、限界まで魔力素を収集、圧縮することに特化した魔力素圧縮機により障壁内の魔力素が激減。
ここで魔力素の減少により魔法を維持できなくなった目標に
圧縮した魔力素による爆発を加えることにより止めをさすのだ。
この砲弾は共鳴現象が起こるおかげで集中的に運用すれば
より大きな効果を得ることが出来ると言うのも特徴のひとつだ。
そして、この砲弾は帝国の艦挺で最も標準的な装備の一つと言っても過言ではない。
そもそも帝国海軍では主要な敵を外洋と国土近海に出現する魔法生物と定めており、他国の海軍との戦闘も考慮していないこともないが優先度は遥かに低かった。基準として定められた搭載している対艦砲弾、つまり徹鋼弾や対艦榴弾が全体の二割弱しか無いことからもそれが見て取れる。
因みに優先度が低いとは言ってもその性能が低いという訳では決してなく、52サンチ砲弾の場合、装甲貫通能力は20000メートルで1238mm、40000メートルで592mmにも達し敵艦のアウトレンジから一方的に撃滅できる性能を持っていた。
「主砲、何時でも打てます!」
「よしっ、全艦主砲撃ち方始めッ!!」
「主砲全艦発射しました!
着弾まで約8秒!」
各艦の主砲が火を吹き対魔法生物用の必殺の砲弾が音を置き去りにして1750m/sという猛烈なスピードで海龍に殺到する。
「……3、2、1、着弾!
命中4!至近弾5!
ダメです、主砲弾の機構が海龍の生体魔力により誤作動!
損傷認められませんッ!」
「チッ、奴の魔力障壁をぶち抜くには戦艦クラスの艦砲じゃないと厳しいか……。
各武装、攻撃の手を緩めるな!!全力射撃開始!」
宗谷を含む3隻の主砲が狂ったように砲弾を吐き出す。
しかし海龍の強固な障壁を突破することは叶わず、ただ、煩わしそうに身を捩らせる程度の効果しかなかった。
海龍の障壁が想定以上の強度を持ち、また通常の個体の数倍に達する生体魔力量と強度が砲弾を誤作動させたのだ。
これではただの運動エネルギー弾に過ぎず、20cm級の艦砲では威力不足であった。
「塔載火器全ての使用を許可、奴を撃退しろ!」
「は、はいっ!」
ウィリアムが吠える。
3隻の搭載武装である各種誘導弾発射機、魚雷発射管、果ては近接防御用の機関砲まで使用されてのまさに全力の迎撃が始まった。
しかし……
「誘導弾着弾!!続いて魚雷も着弾!
水柱により損害不明……!?む、無傷です、目標健在!」
まさに焼け石に水であった。主砲の砲弾はともかく誘導弾や魚雷は対通常艦艇用の兵器として搭載されたものであり、魔法生物の強固な障壁を破るような、過剰な威力は無かった。
ただ少しだけ目標の足を止める程度の効果しかなかった。
そもそもこの海龍は規格外のサイズであり、記録に残るような強大な個体である事は間違いなく、もしこのような遭遇戦でなければ直ちに討伐任務部隊が編成されるようなものであった。
「ダメだ、火力が全く足らん……救援はまだか?」
「それが、ちょうど艦隊が出払っていて、救援艦隊が合流するのは早くても5時間後とのことです……」
「5時間だと!?話にならん!」
ウィリアムがデスクに拳を叩きつけた。
司令室内に絶望的な雰囲気が流れ出す。
普段ヘラヘラしているバーガーでさえ沈痛な面持ちで艦長を見つめていた。
「艦長……」
「……!そうだ!魔導頭脳内のデータベースに魔導の術式データがが入っているはずだ、そいつを使えば……」
「……あ、ありました!術式データが存在しています!」
「よし、出航前に中央の奴らが言ってやがったんだ、この船は自由にしていいと言われたらしくてな、色んな玩具を積み込んだと」
「なるほど、それで普段なら見ないような物を艦内で見かけるわけですね」
「そういう訳だ。そのデータの中に攻撃魔法はあるか?」
「はっ、……これは!?
攻撃魔法は火焔魔法(改良型)のみです!」
「ここに来て火焔魔法か、中々シャレが利いてるじゃないか」
「ともかく、反撃の目処はたった。
データを解凍、魔導の展開急げ!」
「……!艦長この術式は魔導頭脳を基盤として魔法現象を発生させるもののようです!これを使うと恐らく本艦の魔導頭脳は使用不能に……」
魔導とは生物の力ではなく、機械的な制御により魔法現象を発生させることを指す。
その際には基盤と呼ばれる魔力を流したときに1つの決まった魔法現象を起こす部品が使われる。
近年の民製品を含む基盤は複雑化してきており一概には言えないが、板に魔力伝導率の高い塗料や材料を配置し魔力が流れると魔法が発生するいわば魔法陣を形成。
この”基盤”があるからこそ人間の集中力などに影響を受けない安定した魔法現象を発生させることが出来るのだ。
中央研究所の(変態)研究者達はそこに目をつけた。
基盤がある事により魔法生成の安定化は図られたが人間が魔法を使用する時のように汎用性はなくなってしまう。
またこのまま基盤を増やすことにより機能の多様化を図るのではコストや資源の面から不可能になる、と。
確かに多様な基盤の組み合わせで昨今の兵器を含む魔導具は動いており、製造コストの上昇や必要な資源の多様化は年々加速していた。
そこで単一の基盤で多数の魔導を扱えるようにしようと考え、開発中の魔導頭脳に白羽の矢がたった。
開発は難航したが魔導頭脳が予想以上の高性能を示したことにより魔法現象の生成になんとか成功。
しかしその時点で通常の基盤を複数用意した方がまだマシなほどのコストがかかるということも同時に証明し、更には繊細な魔導頭脳の回路に過剰なまでの負荷がかかり破損する、謂わば失敗した発明であった。
しかし研究者達は諦めなかった。
失敗はしたものの魔導頭脳にデータを読み込ませることにより様々な魔法現象を発生させることが出来るのは十分に愉快だったようで、特殊な艦艇として建造された宗谷の魔導頭脳に忍ばせたようである。
「……なるほど、あくまでも試作品、未完成ということか。
構わん!直ちに攻撃を開始せよ!」
「海龍との距離4000m、方位変わらず、相対速力25knot!」
「僚艦及び本艦の即応主砲弾薬欠乏!、誘導弾もまもなく欠乏します!」
「……!海龍に高魔力反応、火焔魔法です!!」
4000mの彼方、海龍の巨大な口腔に凄まじい熱量の火球が生成されていく。
巨大化と収束を繰り返しながらエネルギー量を増していく火球の色は真っ赤なものから青白いものへと変わっていった。
海龍を海龍たらしめている超高威力魔法であり、その光芒は触れたものを蒸発させ小さな島なら消し去る威力を持つ。
今や海龍の周辺はその尋常な熱量により水が蒸発しまるで雲海のような光景を作り出していた。
「クソ、タイミングの悪い!」
「ぼやくなバーガー。推定目標は!?」
「射線上の艦は……駆逐艦睦月です!」
「本艦と各艦の接続を切断!これ以降は私が直接指示を出す!
睦月には至急回避行動をとらせろ!」
「了解、打電します!」
「術式の解凍完了、本艦の艦首方向に魔法展開されていきます!
必要魔力充填まで残り10秒!」
研究者達が忍ばせた玩具は正常に作動し海龍の魔法にも劣らぬ大魔法を形成していた。
「魔導機関出力最大!不必要な魔力は全部火焔魔法の発射にまわせ!」
「ッ!海龍こちらに回頭、敵火焔魔法間もなく発射されます!」
「なにっ!?勘づかれたというわけか……!
副機関の魔力も火焔魔法にまわせ!」
「艦長!それでは本艦は航行不能にッ!」
「少しなら魔力コンデンサ内の魔力で航行可能です!」
「そういう訳だ!総員対ショック姿勢!」
宗谷の速力がゆっくりと低下する中、艦首方向に生成されていた火焔魔法による火球は青白く鳴動を繰り返し、その膨大な熱量で発生した雲海の如き大量の湯気は宗谷の巨大な艦首に引き裂かれ艦首波の様に海面を漂っていた。
後にこの事件が映像化される際、最も神秘的だと評される事になる。
「魔力充填完了!発射かn「敵火焔魔法発射!!」
「なんだとッ!」
「宗谷を信じろ!!火焔魔法撃てェーッ!!」
「ってェーッ!」
砲雷長がタッチパネル上の発射ボタンを押すと海龍から数瞬遅れて火焔魔法が発射された。
人類史上初の海龍との火焔魔法の打ち合いである。
海龍から発射された火焔魔法は禍々しいまでの魔力を内包し眩い光芒を描きながら宗谷に向かい、
宗谷のはなった火焔魔法は巨大な採掘システムを軽々と運用するその膨大な魔力を内包し眩い光芒を描きながら海龍に向かっていく。
そして両者の火焔魔法が接触する。
海龍の火焔魔法を押し返し、宗谷の火焔魔法が海龍へと迫る。
閃光、爆炎。
膨大な量の海水が爆風により巨大な水柱を形成。
地上に太陽が出来たのかと思われるほどの閃光が海域を照らし、全てを破壊するかのような衝撃波と爆風が数瞬遅れて艦隊を襲った。
「きゃあああああ!!」
「グッ……!!」
常軌を逸するような巨大船たる宗谷をも揺らすほどの巨大な衝撃波は確実に爪痕を残していった。
「報告せよ!」
「衝撃波により光学装置破損及び各種システムダウン!モニター出来ません!」
「艦首に亀裂、浸水発生!」
「レーダー復旧まであと30秒下さい!」
衝撃波や爆風、熱線により各種システムに異常が発生し、特に爆心地に近かった宗谷では深刻なダメージが発生していた。
「ちっ!艦橋無事か!」
『……こちら艦橋、現在海龍周辺に巨大なキノコ雲が形成され状況不明』
「!吹雪より通信、
”我、海龍の魔力反応の消滅を確認、これは天照でも確認済みである。
貴艦の奮闘見事であった、最大の敬意を表する”……以上です!!」
司令室内にどっ、と歓声がわいた。
そして次々にシステムが復旧し外の状況が明らかになる。
室内のメインモニターには外の巨大なキノコ雲と海に浮かぶバラバラの肉片の映像と各種損害情報等が映し出されていた。
ウィリアムが崩れ落ちるよう椅子に座り力を抜く。
「ふぅ〜、寿命が縮んだぜ……」
「ほんと生きた心地がしませんでしたよ……」
「まったくだぜ……」
「そこでなんかかっこいいこと言っておけば威厳とか出ると思うんですけどね」
「あ?そんなの俺の柄じゃないさ」
いつも通りの雰囲気で話すウィリアムとバーガー。
「よし、司令部に打電。
”本艦隊は単独で大海龍を殲滅せり。しかし戦闘能力喪失により至急護衛を要する”以上だ!
さぁお前ら、こんな海域から早くとんずらするぞ!」
「「はいっ!」」
「艦長、本艦は航行不能ですが……」
「……分かっとるわ!球磨に曳航を要請、吹雪は睦月が曳航し現海域を離脱、母港へと帰投する!ただちに航海計画を立案せよ」
「了解!ただちに航海計画の立案にかかります!」
「……各艦への通達完了しました」
「よろしい」
「そういえば艦長、採掘の件はどうしましょう?」
「んなもん決まってるだろバーガー、海龍に襲われて作業能力喪失だからな。
それに、もし上や研究者達がゴネてきたらこの戦闘記録を出せばいい。
あの海龍のデータや火焔魔法のデータは垂涎の代物だからな」
「確かに、それもそうですね」
「特にあの変態共は喜ぶだろうよ」
「……すごい、鮮明に想像出来る……」
「だろ?ともかく無事に帰らなきゃな。
勝って兜の緒を締めよ、帰り道で気を抜いて沈むのが1番アホらしいからな。
通信手、私の声を艦隊内に流してくれ」
「分かりました……(どうぞ)」
「”諸君、私は宗谷艦長兼艦隊司令のウィリアム少将だ。
本艦隊は採掘作業を中止、これより母港へと帰投する。
我々は不測の事態により全滅の危機を迎えたが諸君らの粉骨砕身の努力によりこの窮地を脱することが出来た!
これも偏に諸君らの協力あってこそだった。ありがとう
しかし作戦は中止になったが我々は未だ航海の途上だ、母港に帰るまで気を抜かないで欲しい。
今の我々は大きく戦闘能力を失ったものの諸君らの力添えがあればきっと無事に母港に帰れるものと確信している!
だからもう少しだけ力を抜かずにいてほしい、以上だ”」
「そんな威厳たっぷりに言えるんだったら普段からやればいいのに」
「だから俺の柄じゃないと言ってるだろバーガー」
「ま、それもそうですね」
「さぁ、母港へ帰るぞ。
気を抜くなよお前達、海は何が出るかわからんからな」
「「「はいっ!!」」」
書類など様々なものが戦闘中の衝撃により散乱した司令室内に希望に満ちた声が響いた。
戦闘報告
採掘技術実証艦 宗谷 中破
内訳 艦首第2ブロックに亀裂 浸水多数
艦橋部光学装置大破
睦月型駆逐艦 吹雪 大破
内訳 海龍の火焔魔法直撃により艦尾第3ブロックから消失
睦月型駆逐艦 睦月 小破
内訳 衝撃波により各種観測装置破損、メインマストに歪み
球磨型巡洋艦 球磨
目立った損傷なし
第57特務実験艦隊は任務の途中、目標海域にて500m超級の海龍に襲撃される。
司令官のウィリアム・アームストロング少将の機転により技術実証艦宗谷の魔導頭脳及び大出力魔導機関を転用、超大出力の火焔魔法を放つことによりこれを撃破。
詳細は戦闘データを参照されたし。
追記
本戦闘における火焔魔法等々のデータは今後の研究を待ち、早期の実用化を期待するものとする。
だいぶ前に原型を書いて数年越しになんとか完成させました。
自分でも設定がフワッとしてるなぁって思うのでツッコミやアドバイスがあれば是非お願いします