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氷結の吸血鬼

1時間ほど扉を開けるかどうか迷ったが、迷っているのが無駄だと感じてきたので取り敢えず開けることにした。

そもそもずっと洞窟にいて、割と飽きていていたのだ。

これが何かのアクセントになるならば良いだろう。

それで死にさえしなければ。

意を決して扉に手をかける。

魔法陣が書いてあったので開けられないのかと思ったが、存外簡単に開いた。

中は真っ暗で何も見えない。

迷宮の中は基本真っ暗なのだが、時折鉱石の中に光を放つものがある。

俺はその鉱石を取り、光源として使っている。

火は昔の人間の様に燃えやすい素材を擦り合わせて起こしていたりしたが、最近は火打石の様な性質の鉱石を見つけたのでそれを使っている。

俺は袋から光源の鉱石を取り出し、暗い部屋にかざしていく。

壁を伝って回っていく。

一周してみたが、壁際には何もない様だ。

それを確認してから、俺は部屋の真ん中へと向かう。

罠がないか足下を十分に確認しながら、真ん中に進むと、段差に会う。

それを登って見ると、なかなか奇妙なものに出会った。

ガラスのショーケースの様な箱の中に横たわっている裸の少女だ。

顔は上野と遜色ないくらい美少女だ。

髪は金髪の長いストレートだ。

身長は小さく、胸はあるにはある。

少し童顔だろうか?

俺より若く見える。

しかし、驚いた。

迷宮に人がいるとは思わなかった。

まあ、いるというよりはあると言った方が正しいが。

この様子では死んでいるのかもわからない。

ガラスのショーケースの様な箱を叩いて見る。

コツコツという音がする。

どうやら中は空洞の様だ。

そして、ガラスのショーケースの様なものはとても冷たかった。

俺は少し考える。

これは罠かもしれない。

何もない階層にわざわざ台の上に乗せてまでこの子を飾っておく必要は罠以外にない。

もしくはこの世界の独特の理由でここに飾られている可能性もある。

どちらにせよ箱に閉じ込められる様な人間なのだ危険の方が大きい。


「……。」


顎に手を当てしばらく考え込む。

そして、ようやく答えを出す。


「よし、出そう。」


俺はそう決心した。

危険を考慮したが、何より暇だったのだ。

長い間人と話していないのでそろそろ旅仲間が欲しかった。

もしかしたらこの子が旅仲間になってくれるかもしれないし、この子が"俺の求めているもの"を持っているかもしれない。

俺は剣を取り出して、箱に向かって振る。

しかし、箱はビクともしなかったどころか、ヒビすら入っていない。

何回か振り続けてみるが、箱は一向に壊れる様子はなく、剣が傷ついていくだけだった。

仕方ないので俺はある決心をする。


「よしわかった。爪の1枚くらいくれてやる。」


俺は能力を起動させる。

右手の人差し指の爪を対価に能力を発動させ、右手が光り出す。

そして、大きく振りかぶり、中の子に破片が飛び散らない様に注意しながら箱を殴り飛ばす。

箱は俺の拳の衝撃は受け止めていたが、その後の光には耐えられず、何かの魔法陣が浮き出てきて割れて、箱も壊れる。

どうやら何かの魔法が貼られていた様で物理では並大抵の物理攻撃では壊せなかった様だ。

取り敢えずこれで中の子に対面できる。

こういう時は封印が解けた瞬間起きるとかが定石なのだが女の子は起きる気配がない。

心配になったので女の子の顔を覗く。

そして、胸に手を当てる。

断じてセクハラではない。

トクトクと可愛いらしい心臓の音が聞こえる。

どうやらちゃんと生きている様だ。

だが、体温が低い。

もしかしたら、先ほどの箱は元の世界で言うコールドスリープの様な物だったのかもしれない。

そうだとすると、体を温めた方が良いだろう。

しかし、そんな間をくれるほど封印はたやすくなかった様だ。

俺は少女を抱き抱えて後ろに大きく飛ぶ。

寝ている体勢だったのでお姫様抱っこで抱えてしまったが、これでは色々目のやりどころに困る。

俺が少女をおんぶにし直していると、先程まで少女が寝ていた場所から魔物が出てくる。

暗くて詳しくは見えないが、全長3〜4mというところだろうか。

俺は急いでその部屋から出る。

すると、その魔物も部屋の扉を壊して出てきた。

外の部屋は明るかったので魔物の全体像が見える。

魔物は大きな蜘蛛だった。

いわゆるタランチュラの様な形の蜘蛛だ。

蜘蛛型の魔物は俺をめがけて一直線に追いかけてくる。

しかもかなりの速度で。

今まで迷宮で戦っていた魔物よりも少し早い気がする。

俺は魔物達から得た特能の1つ、『飛翔』を使う。

『飛翔』は文字通り大きく体を上空に飛ばす特能だ。

連続では2回しか使用できず、使い切った後は1分の間がある。

欠点はあるが、移動手段としては強い。

それに、発生が早いので戦闘中でも使用できる。

感覚的にはワイヤーで一気に引き上げられる感覚だ。

『飛翔』によって蜘蛛を飛び越え、蜘蛛の後ろに回る。

どんな魔物であっても基本的には背後を取るのに限るのである。

取り敢えず、地上からでは胴体部分に攻撃できないので足を切る。

しかし、筋力の上がった俺の斬りかかりでも蜘蛛の足にダメージを与える事は出来なかった。

キィィンという音がして、剣が弾かれる。

攻撃が通らないのではまずいので一旦引く。

蜘蛛は俺の斬りかかりなど気にもしない様に俺を追ってくる。

俺は背中に乗っている少女が落ちない様にもう一度『飛翔』を使う。

今度は蜘蛛も対応してきた様で、俺の『飛翔』に合わせてジャンプしてくる。

そして、俺はほくそ笑む。

俺は剣を対価に能力を発動させる。

空中で体勢を変えるため、2つ目の特能『空壁』を使い、足場を作る。

『空壁』は自由な場所に透明な壁を作ることができる。

ただし、何かに接触していない場合でしか作れないし、連続して生成することもできない。

だが、このタイミングなら完璧だ。

俺は空中で体勢を変えると蜘蛛の腹めがけて、剣を振り下ろす。

剣から放たれた衝撃は蜘蛛の腹にヒットし、蜘蛛の体を貫く。

蜘蛛の腹の部分は柔らかいのだ。

蜘蛛は衝撃で壁にぶつかるとともに体液を撒き散らしながら落ちる。

俺も着地の体勢に入るが、蜘蛛はまだ息があったようで、俺たちに向かって攻撃を仕掛けようと足をカクカクさせながら、必死に体勢を整えている。

さすがに、これは予想していなかったので、後ろの少女に当たらないようにと体勢を整えながら落下する。

そして、蜘蛛が再び俺たちに飛び込もうとした時、


「『雷龍』。」


俺の後ろから可愛いらしい声が聞こえたかと思うと、目の前に大きな光が落ち、蜘蛛は黒焦げになっていた。

よく確認してみると、少女が俺の顔の横から手を伸ばしていた。

手の先からは煙が立ち上っており、間違いなくこの少女が何かしたようだ。

俺は少女を抱えたまま、着地する。

そして、今の事を聞こうと顔を振り返るが、スーという寝息が聞こえるだけだった。

色々聞きたいことがあるが、ひとまず休む事にした。




安全なところに少女を連れて行った俺は取り敢えず火を起こす。

そして、今まで狩ってきた動物型の魔物から剥ぎ取った暖かそうな毛皮を少女に被せ、少女の体を温める。

少女の体は冷たかったので取り敢えず温めておけば良いだろう。

食べ物は少女が起きた後に取りに行けば良い。

しばらく待っていると、少女がゆっくりと目を開く。


「ん……。」


そして、起きると俺と目が合う。

少女の目は綺麗な赤色で、吸い込まれてしまいそうだった。


「ここは……?」

「迷宮の中だ。」

「迷宮……?」


どうやら錯乱しているようだ。

取り敢えず、色々説明していく。

ここが迷宮である事とか、少女が凍らされていた事とかを。


「そう……大体状況はわかった。」

「なら、俺から質問しても良いか?」


俺は少女の瞳をまっすぐ見て聞く。

絶対に嘘を見逃さないように。


「なんでこんなところに冷凍されていたんだ?」

「……。」

「言いたくなくても言ってくれ。でなければ、殺すか置いていくかどちらかしなければならない。」

「!……わかった。」


そうして、彼女は渋々自分の事を説明していく。

いつものように要約すると、彼女は吸血鬼で、真っ当に生きていたが、魔力の高い吸血鬼の中でも特別魔力が高かったらしい。

しかし、どんな世界でも出る杭は打たれるという事で、彼女は優遇される反面、色々妬まれていたらしい。

彼女の魔力は成長するごとに大きくなっていき、やがては種族の中でも1、2を争うほどになっていた。

だから、今までトップを走っていた人間は彼女に抜かれた人間を束ねて彼女を封印した。

殺さなかったのは温情なのか、単に吸血鬼は殺しにくいのが原因なのかはわからないという事だった。

単純に不幸なだけだったようだ。

罠が用意されていたのは彼女が自力で封印を破れてしまった時のためだったのかもしれない。

本来の彼女ならあんな魔物一撃かもしれないが、封印を解くために魔力を使った後ならあの魔物でも倒せるという予測からだろう。

俺がそこまで聞いていると彼女が俺から目を逸らす。


「これで全て。」

「大体わかった。」


俺はそれから黙り込み考える。

今の話を聞く限り彼女は悪い人間ではないし、目を見る限り彼女は安全だ。


「あの……」

「何?」

「これから私はどうなるの?」

「……。」


俺は少し考えて考えをまとめてから話す。


「俺についてくるか、自分1人で何処かに行くか選んでくれないか?」

「え?」

「だから、俺とくるか、自由にするか選んでくれ。」

「……選んで良いの?」

「そう言ってるんだが。」

「じゃあ、ついていっても良い?」

「ああ、もちろん。」


こうして俺の迷宮探索に同行者が増えた。

この話はじっくり書けるので良いです。

今回は割と急に時間が経ちましたが、レベル上げの場面は割と地味になり、つまらないかと思いましたので割愛させてもらいました。

いつか書くかもしれませんけど。

彼女の名前は次回公開です。

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