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秘密の夜会と実践

上野にああ言われたので素直に自分の部屋で待っておく。

俺だって男の子だ。

上野ほどの美人に部屋に来たいなんて言われればソワソワする。

そうして落ち着かない気持ちで待っていると、コンコンと扉がノックされる。

俺は扉を開けに行く。

扉を開けるとそこには予想通り上野がいた。


「中入るか?」

「うん。」


上野を部屋に招き入れる。

この世界には電気がないので、ロウソクで明かりをつけるしかないのだが、ロウソクなので少し薄暗い。

俺はベッドに座り、上野は椅子に座る。

しばらく、上野が話しだすのを待っていたが、話しださないので聞いてみる。


「それで、何かあるんだろ?」

「う、うん。あのね。岸田くんはこの世界に来た時にどう思ったのかなって思って。」

「俺がどう思ったか?なんでそんなこと聞くんだ?」

「岸田くんってこの世界に来た時に落ち着いてたでしょ。なんで落ち着いてたのかなって思ったの。」

「……。」

「あ、言いづらいことなら言わなくて良いよ。」

「そんなに大したことじゃないんだが。それでもいいか?」

「うん。」

「少し飽きてたんだよ。元の世界に。何も変わらない日常に。」

「飽きてた?どうして?」

「わからない。ただ、同じような日々が続くことにうんざりもしてたしたな。」

「そうなんだ。」

「他に聞きたいことはないのか?」

「あるにはあるけど、これは聞かなくてもいいかな。」

「そうか、じゃあ俺から質問してもいいか?」

「え?いいよ。」

「何故"自分のステータスを偽っているんだ?"」


俺がそう言った瞬間、上野が驚いたような表情を作る。


「どうしてわかったの?」

「俺は昔から観察が好きでな。この世界に来てからも色々観察していたんだ。そして、ステータスが100平均の女の子があんなに簡単に剣を振れるわけがない。見た感じだとステータスは300平均ってところだろ?」

「すごいね。わかっちゃうんだ。」

「それで?何故隠したんだ?」

「ほら、みんなのステータスって、100平均でしょ?私が300平均だとわかっちゃうとみんな特別扱いするし、それに……。」

「相沢の様な下位の人間に申し訳ない、か?」

「え?」

「まあ、わからないこともないがな。俺や相沢の様な平均以下の奴らはみんな、織田や木戸といったステータスが上の人間に劣等感を抱いている。それを味あわせたくなかったんだろ?」

「うん。」

「……ステータスのことはみんなには言わないでおく。」

「ありがとう。」

「これで俺の質問は終わりだ。上野が優しい奴で良かったよ。」

「岸田くんも思ってたイメージと違った気がする。」

「俺ってどんなイメージだったんだ?」

「ちょっと喋りづらい雰囲気出してる感じがしたかな?」

「そうか。直さないとな。」


そうして、上野が椅子から立ち上がって出て行こうとする。


「あ、そうだ。」

「何?」

「2つ忠告しとくぞ。」

「?どうぞ。」

「1つ目は男の部屋に1人で来ないこと。」

「もう1つは?」

「厳しいことを言う様だが、上野は優しさと同情を履き違えている節がある。同情は人を傷つける。それを忘れない方がいい。」

「わ、わかった。」

「じゃ、おやすみ。」

「うん、おやすみ。」


俺は扉を閉める。

これで、上野が何か気付いてくれれば少しはこれからが良くなるかもしれない。




みんなが稽古を開始して3ヶ月が経っていた。

みんなだいぶ剣を触れる様になってきたし、体術も覚えてきた。

それで、今日は初の迷宮に挑戦してみようということになった。

迷宮とはこの世界にいくつか存在しているゲームで言うところのダンジョンみたいな物で、魔物がいたり、宝があったりする。

何故そんなものがあるかというと過去の偉人が作ったものらしい。

しかし、迷宮の難易度は高く、歴史上誰も制覇したことが無いというのが事実だ。


「まずは隊列の話をするぞ。」


俺たちの教官役の騎士団長が話を始める。

話を簡単に説明すると、迷宮の一階は基本ゴブリンしかいないのでそれを相手にし、1匹につき5人であたるという簡単な配列だった。

実力の均等を図るため。

相沢は織田の班に入っている。

俺は上野、木戸との班だ。

他の2人もステータスが平均な2人だ。


「よろしくね、岸田くん。」

「ああ。」

「よろしく頼むぞ。岸田。」

「足を引っ張らない様にはする。」


上野と木戸に挨拶される。

木戸のステータスが高いことは知っているので、こういう返しでいいだろう。

まず、5人ずつで迷宮に入っていく。

先には騎士団長が待機しているはずだ。

しばらく進むと、前のグループが剣で打ち合っている音が聞こえてくる。

そして、騎士団長の手前付近でゴブリンが一匹現れる。


「今度はそこの班!このゴブリンを相手にしろ!」


俺たちが指差される。


「さくっと片付けちまうか。」


木戸が張り切っている。

今回は5対1なので数的には負けることはない。

問題は温室育ちの日本人に生き物を殺せるかだが、木戸は大丈夫そうだ。


「俺がこいつの剣を抑える。お前らでトドメをさせ!」


木戸が叫ぶ。

他の2人はビビっているのか声がろくに出ていない。

上野も震えている様だった。

そうこうしているうちに木戸がゴブリンと鍔迫り合いになる。

力的にも押し負けてはいない様なので、大丈夫そうだ。

3人を見てみるが、まだ殺す決心がつかなそうだ。


「お前ら!早くしろ!」


木戸が急かす。


「上野、できるか?」

「え、や、やってみる。」


上野が震える手で、剣を握る。


「お前達はやらないのか?」


俺は後ろで固まっている2人を睨みつける。


「お、お、お、俺には無理だぁぁ!」

「私も!」


逃げ出そうとしていないだけマシかもしれない。

上野がゆっくりとゴブリンに近づいていく。

俺もその後ろからついていく。


「やれ!上野!」


木戸がさらに急かす。


「ごめんね。」


上野が剣を振りかぶり、振り下ろす。

その剣はゴブリンの肩を砕く。


「ギャァァァァ!」


かなり人間の様な声をあげる様だ。

しかし、まだ肩が砕けただけで、死んではいない。

ゴブリンは怒りを露わにし、鍔迫り合いをしている木戸を放って、上野を襲おうとする。


「この!」


木戸がゴブリンを抑えようとするが、ゴブリンはそれをかわして、上野に斬りかかる。


「きゃっ!」


上野が悲鳴をあげる。

ゴブリンが砕けていない方の腕で剣を振りかざす。

俺は素早く上野の前にでて、剣を受け流してそのままゴブリンを斬りあげる。


(まだ浅いな)


そう判断した俺はゴブリンが次の攻撃に出る前に、ゴブリンを蹴り飛ばしてこかす。

そして、仰向けになったゴブリンの頭に剣を突き刺す。

グシャリとかなりグロテスクな音がする。

まあ、実際頭に剣が串刺しになるというかなりグロテスクな状況なのだが……。

ゴブリンが死んだのを確認する。

そして、後ろを振り返ると上野と他2人が口に手を当てていた。

うん、やり過ぎた。


その後は少しずつ3人にもこの光景を慣らしていきながら、上野にも狩らせることに成功した。

他の2人はまだ微妙だが、この調子なら何とかなるだろう。

どのくらい迷宮にいただろうか?

わからないが、騎士団長のお呼びがかかったので、帰る。

迷宮を出てみると、なんと日が暮れかけていた。

迷宮内でお弁当を食ったので、相当潜っていた様だ。

いつも通り稽古後の風呂に男女交代で入り、夕食が出る。

夕食が喉を通らない奴は5人というところか。

その中にはユキちゃんと相沢も入っていた。

こればかりは慣れていくしか無いので、仕方ない。

見た所無理に夕食をとっているものもいたが、そいつらは取らないよりマシだ。

なんにせよ初日にしては上々だろう。

1ヶ月もすれば、みんなゴブリンにトドメをさせるくらいにはなっているはずだ。

夕食を食べ終わり、自分の部屋に帰った後、俺は着々と準備を進めた。

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