異世界召喚と能力解析
「この世界を救って欲しいのじゃ」
みんながキョトンとした表情をする。
俺はその間にとりあえず人数を確認する。
あの時クラスにいた全員が呼ばれているようで、先生もこの中にはいた。
つまり、総員31名という事だ。
そして、俺たちを呼びつけた側の人間たちはこの場にいるものだけでも20名。
奥の扉の向こうにも当然待機しているものがいるだろうからその数はもっと上だろう。
それに、相手は武装している集団なのだ、武器も持っていない状態でどうにかできる相手ではない。
「なんだよ!いきなり世界を救ってくれだなんて!おい!なんかのドッキリなんだろ!誰だ!こんなドッキリ仕掛けたやつは!」
クラスメイトが騒ぎ出す。
「お願いします!私たちを助けてください!」
大きな椅子に座っていた老人の横に立っていた可愛らしい顔つきの女の子が叫ぶ。
見た目はヨーロッパ系の顔つきに赤を主としたドレスを着ている。
髪は金髪。
まるでどこかの絵本から出てきたお姫様のような印象だ。
王様らしい老人の横に立っていたことからほぼ確実にお姫様だろうが。
自分たちと同い年くらいの女の子の叫び声に騒いでいたクラスメイトが静かになる。
「人類は今、危機にさらされているのです。どうかお願いします!勇者様!」
「勇者?もしかして俺たちのことを言ってるんですか?」
「ああ、そうじゃ。ここからはわしが説明させてもらう。この世界はテラ。そして、我々人類は現在危機にさらされている。」
そこから、王様らしき人の長話が始まる。
なかなか長い。
始業式とかによくある校長先生の話くらい長い。
そして、長話が終わる。
約一時間にも及ぶ長話をまとめると、この世界はテラ。この世界には色々な種族が住んでおり、人類もその一種であるという。
そして、人類の天敵である魔人種というもの達がいて、魔人種は基本的に人類が奪われた土地、いわゆる魔人領と呼ばれる場所で住み続けていた。
魔人領との国境があるこの国は国境付近で戦いを続けているが、最近おかしな事に戦いがめっきりなくなったららしい。
しばらくは触らぬ神になんとやらの精神で調べなかったのだが、さすがにおかしいと思い調べてみると、今まで単体でしか挑んで来なかった魔人達が集まってきているとの報告を受けたのだ。
猶予はまだまだあるが、魔人自体の戦闘力は高く、今までは連携がなかったために戦えて来れただけであり、連携を組まれれば一気に国が攻め滅ぼされてしまうので、古い記述にあった勇者召喚というのをやってみると俺たちが現れたという事らしい。
そんなに内容の無い話をここまでよく長話できるものだ。
「本当にここは俺たちのいた世界とは違う世界なんですか?」
「それを証明するためについてきてもらえぬかな?」
俺たちはぞろぞろとこの建物の奥に連れて行かれる。
しばらく歩くと大きなベランダのような場所に連れて来られる。
そこからそこを覗いてみると、明らかに現代とは技術レベルの違った街並みが一望できた。
そして、どうやらここは城のようだ。
ここから街はずれまではおよそ5キロと言ったところだろうか。
この城は街の中心に立っているらしく、城下町は栄えているようだ。
何処を探しても車など機械が動いている様子はなく、馬車が走っている。
技術レベルはさしずめ中世ほどと言ったところだろうか。
さすがにこの光景を見てしまった俺たちはこの世界が本当に俺たちのいた世界では無いということを信じざるを得なくなった。
そして、当然の疑問がみんなから浮かぶ。
「おい!どうしてくれんだよ!俺たちを元の世界に返せよ!」
「そうだ!俺たちを元の世界に返してくれ!」
当然だ。
皆、家族を向こうにおいてきたのだ帰りたくなるのも普通だろう。
その普通が俺には無いが。
「残念じゃがお主らを元の世界に返す方法はない。」
「なっ……。じゃ、俺達は、俺達は一生ここで暮らさなきゃならないのかよ!」
「おかーさーん!」
絶望に膝をあるものもいれば、親を呼ぶものもいる。
若干数名この状況に喜んでいるものもいたが……。
「まあまあ、みんな落ち着こう。僕らが焦ってもどうしようもないよ。」
織田がみんなを宥めにかかる。
上野もそれを見習ってみんなを宥めにかかっていた。
「岸田くんはそんなにショックを受けてないんだね。」
「今は俺より他の人を見てやったほうが良いぞ。」
「え……うん。」
そう言って上野を遠ざける。
取り敢えず観察を続ける。
この状況でショックを受けていないのは、織田、相沢 誠、新垣 竜司、並木 愛菜、そして俺の5人だ。
そして、ショックを受けても行動できるものが上野を含む5人といったところか。
他は上野や織田の励ましを受けなんとか立ち直ることが出来たようだ。
俺たちが立ち直ってきたのを見て、姫らしい人が言う。
「みなさんにはこれからステータスプレートの発行をしてもらいます。それが貴方がたの基本的な能力値や特殊な能力を表すものですので、絶対に失くさないようにお願いします。では、ついてきてください。」
そう言って姫様が奥への扉を、門兵に開けさせ前を歩いていく。
俺たちもそれに続く。
「姫様の名前はなんですか?」
「私の名前はローザ・エリザベート・ウルレイクと言います。気軽にローザとお呼びください。」
いつの間にか男子グループが姫様と仲良くなっていた。
男という生き物はやはり女に弱いようだ。
しばらく歩き、ある広間に着く。
そこは天井がなく、地面は土になっていて、演習場のような場所だった。
「ローザさん。能力を計るだけなら屋内でも良いんじゃないですか?」
「はい。でも、特殊な能力を持っていたら試す場も必要かと思いまして。」
「あ、なるほど。」
男子グループの会話を盗み聞きしながら周囲を見渡す。
壁は石造りで、掴めるところは無さそうだ。
そして、俺達はステータスプレートの作り方と見方の説明を受ける。
簡単に言うなら、特殊な紙をもらい、そこに自分の血を一滴垂らせば反応して、各々に応じた能力値や特殊能力が表示されるらしい。
誰が最初にやるかなど生徒達が話し合っていると。
「まずは安全確認のため私がやります!」
と、ユキちゃんが手を上げて前に出る。
生徒達もユキちゃんなら良いかみたいな雰囲気で納得しているようだ。
みんなだいぶ落ち着いてきて心に余裕が出てきている。
ユキちゃんが紙を受け取り、自分の指に針を刺し、血を紙に垂らす。
すると、遠くからではよくわからないが、先ほどまで何も書かれていなかった紙に文字が映る。
どうやらあれがステータスのようだ。
詳しいステータスは自分の番が来るまで待っておくとして、盗み聞きで情報を集めていくとステータスの平均は大体100らしい。
そして、織田は500と破格の性能があったらしく、称号に"勇者"というものがあったらしい。
称号とはそれ自体に価値があり、スタータスの強化や覚えられるスキルというものが増えるらしい。
今はさっぱりだがそのうち教えてもらえることだろう。
そして、俺の番が来る。
取り敢えず紙を受け取って、みんなの輪から少し離れたところに向かう。
そして、後ろに誰もいないことを確認してから自分の血を垂らす。
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岸田 裕二
16歳
男
レベル : 1
筋力 : 1000
体力 : 1000
耐性 : 624
敏捷 : 1000
魔力 : 500
魔法耐性 : 500
特能 : 『等価犠牲』『言語理解』
称号 : 『犠牲者』
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だいぶ不吉な称号が書いてあった。
そして、ステータスが化け物だ。
まあ、前の世界で"いろいろ"やっていたので、何もやってなかったあいつらより上なのは仕方ないのかもしれない。
取り敢えず知られないように丁寧に懐にしまう。
すると、俺が懐にしまい終えた時、上野が話しかけてくる。
隣には彼女の親友の池内忍がいる。
「岸田くんはどうだった?」
「普通だったよ。100平均くらい。そういう、上野はどうなんだ?」
「私はね、ステータスは割と普通だったんだけど、称号に『聖者』っていうのが付いてたの。」
「私は『伸縮』っていう特殊能力が付いてたわね。」
「岸田くんも何かついてたんじゃないの?」
「……。」
困った。
このまま黙っていても駄目だし、嘘をつけばすぐにバレる。
そして、本当の事を言うのは"絶対に駄目だ"。
そうやって答えに詰まっていると、木戸 拓也が彼女達の後ろからやってくる。
「それくらい、察してやれよ。ステータスも微妙で、能力も大したことじゃなかったんだろ?」
こちらを物凄く侮蔑した目で見ている。
木戸はいじめっ子体質で、すぐに人の弱みを見つけ、人をいじめようとするやつだ。
それは、こちらの世界でも健在らしい。
だが、これは好機なのでそれに乗っかることにする。
「そうなんだよ。あんまり、能力値が良くなかってな。」
「まあまあ、落ち込むなよ。俺もそんなに良くなかったから。」
そう言って俺の肩に手を回し、慰めるように俺の肩を叩き、ステータスを見せびらかしてくる。
顔は全然慰めているようには見えないが。
しかし、ステータスを見せてくれるというのでありがたく見せてもらう。
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木戸 拓也
16歳
男
レベル : 1
筋力 : 240
体力 : 246
耐性 : 126
敏捷 : 250
魔力 : 196
魔法耐性 : 200
特能 : 『陽炎』『言語理解』
称号 : なし
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なるほど、言語理解はこちらの世界の人が言う"勇者"共通の能力のようだ。
そして、木戸は確かに他のクラスメイトよりは高めのステータスを持っている。
自慢がしたかったのかもしれない。
俺は"来たるべき日"のために能力値は隠しておくつもりだが、こいつに目をつけられるのは面倒なので上手くやり過ごさなければならない。
そうして考えを巡らせていると、木戸は飽きたのかいつもの3人グループに戻っていく。
ちなみに3人グループとは木戸、榎 浩二、三村 弘樹の3人からなるいじめグループだ。
基本的にはこの3人からいじめが広がる。
いじめと言っても小規模なもので、最大の規模になってもクラスの三分の一ほどしか参加しない。
もちろん、上野や織田は知らないし、そのほか人をいじめないと思われる人種には知らさないのが彼らのルールだ。
そして、今回は俺ではなく、相沢のようだった。
相沢は背が低く、少しオタク気質で、学校でも1人で漫画やラノベを読んでいる。
別に悪い奴ではないと思うのだが、三村は気に入らなかったらしく、学校の頃からちょくちょくちょっかいをかけている。
今回は相沢のステータスが平均以下だったことにちょっかいをかけているようだ。
三村が相沢を嫌う理由は大体わかっている。
相沢は内気な性格なので、時々上野が気をかけている。
上野は別に気にしていないだろうが、まわりの人間は上野に対して面倒をかけているにも関わらず、本人はそれを気にしていないのでイライラしているのだ。
特に、三村はその典型で、相沢を目の敵にしているのだ。
相沢には悪いが、俺に標的が向かなかったのでよしとしよう。
こうして、俺たちの異世界ライフは始まったのだった。
今回は色々と伏線張ってみました。
この話はゆっくり書いていくので、考える時間が多くて伏線とかも貼りやすくていいです。