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俺たちは夜を明かした後、街から出ようとしていた。


「姉ちゃんたち待って!」


ダンテに呼び止められる。


「どうしたの?」


ミラが答える。


「姉ちゃんたちにはお世話になったから、お礼がしたいんだ。」

「私は今そんなに欲しいものはないんだけど……。」


ミラが俺のほうを向いてくる。


「そうだな。ダンテ、お前剣を作れるか?」

「剣?」

「そうだ。錬金術なら簡単にできるかなと思ってな。」

「できるにはできるけど、鍛冶屋さんが作るような精巧なものはできないよ?」

「別に精巧なものはいらない。むしろ剣としての役割を果たせばなんでもいいんだ。」


ダンテとはあの後話づらくなっていたが、普通に話してくることに驚いている。

俺は宝物庫から迷宮の素材をダンテに渡す。


「これかなりの量だよ?」

「ありったけ作ってくれ。」

「どのくらいかかるの?」

「うーん、3時間もあればできると思うよ。」

「わかった。それまで待とう。」


俺たちはしばらく待つことにした。


「ユウジ、今からどうするの?」


ミラが俺が座っていたところに話しかけてくる。


「とりあえずこの近くの町に行く。それから冒険者として登録する。」

「冒険者?」

「ミラは冒険者を知らないのか?」

「聞いたことはあるけど見たことはない。私たち吸血鬼にはそんな制度なかったから。」

「冒険者に登録しておけばとりあえず身分の証明にはなる。地位は低いけどな。」

「それで、登録した後はどうするの?」

「宿と店をあらかた確認する。長くとどまるつもりはないがやはり寝床は大事だからな。」

「わかった。」

「その後のことは行ってから考えよう。」

「うん。」

「ねえねえ、お姉ちゃん、遊ぼ?」


俺たちが話していると、イーリアがミラの袖を引っ張る。

イーリアはいつもより元気がない様子だった。


「ミラ、行っておいで。彼女と会うことはしばらく無くなるからな。」

「うん。それじゃあ、行こうか。」


ミラはイーリアの手を引いてそのまま俺から離れていった。

俺はそこから立ち上がり、少し町から離れた丘に行く。

そこで寝転がり、少し考える。

子供というのは強い生き物なのだろう。

あれだけ前日に心が折れていたのに、次の日になればケロッとというほどではないが、ある程度回復している。

もちろん彼らが一度町を襲われるいう濃い体験をしている影響も強いのだろうが。

ミラの前で意地を張るために耐えているということもあるだろう。

男という生き物はやはり女のために頑張るものなのだ。

ダンテの心持的には幼稚園の先生を好いている感覚に近いと思うが。

さらに時間が空き、暇だったので俺はひと眠りすることにした。

正直今いるこの丘は魔物も普通に出るが、迷宮の魔物に比べ絶望的に弱いので俺に傷をつけれる魔物はいないだろう。

そうして、4時間は経っただろうか?

俺はもう一度街に向かう。

太陽らしき恒星は今ちょうど俺たちの真上にある。

俺が街に帰るとそこにはミラやダンテ、イーリアが勢ぞろいしていた。


「ユウジ、寝てたの?」

「ん?ああ、なんでわかったんだ?」

「だって、寝ぐせついてる。」


ミラはそういいながら、俺の髪を手で梳く。


「これでいい。ちゃんと直った。」

「兄ちゃん、剣できたよ。」


ミラに髪を梳かれる俺をうらやましそうに見ながらも、ダンテが言ってきた。


「少し見せてくれるか?」


ダンテにそう言い、ダンテの作業場についていくと、そこにはおよそ50本ほどの剣ができていた。

迷宮の特殊な鉱石なために刀身がピンク色に淡く輝いている。

握り手の部分も迷宮の獣型の魔物の毛皮から作られている。

この剣は魔玉を使うほどではないときのための犠牲の剣だ。

だから大量に用意する必要があった。

街で頼んでもよかったのだが、その場合時間と金が大量にかかるため、あまりしたくはなかった。

さすがに、鍛冶はやったことがないので、武器を作るのは少々時間がかかる。

もちろん長旅のため、鍛冶を覚えてもいいとは思ってはいるが、今回は急務なので、ダンテに用意してもらって大変助かった。


「ああ、これでいい。ありがとう。」

「本当にこんなものでいいの?正直、完成度高くないよ?」

「いいんだ。完成度はあまり問題じゃない。」

「ならいいんだけど。」

「ユウジ、そろそろ行くの?」

「ミラお姉ちゃん。行っちゃうの?」


ミラの手を握っていたイーリアが聞く。


「うん。そろそろ街に行かなくちゃいけないから。」

「また会える?」

「うん。いつか会えるよ。」


不安そうなイーリアに向けてミラが笑顔を向ける。

あれが母性というものなのだろう。

俺もダンテに近寄る。


「ダンテ、お兄さんから一つ助言をしておいてやろう。」

「何?」

「一番守りたいものを考えておけ。そして、それが分かったならそれ以外のすべてを捨てる覚悟をしておけ。そうでなければ世界から大事なものを守るなどできはしないからな。」

「兄ちゃんはその経験があるの?」

「……ああ。大事なものを生かそうとして大事なものをなくしてしまった経験がな。」


俺はダンテにメッセージを伝えミラの下まで行く。


「もう行くの?」

「ああ、そろそろ行かないとな。」

「わかった。」


ミラは俺に対して、うなずいて、イーリアに向けて屈み込む。

ミラはイーリアと目線を合わせ、頭を撫でる。


「ミラお姉ちゃん、行っちゃやだよぉぉ~。」


イーリアが泣きつく。


「ごめんね。」


ミラはイーリアを抱きしめながら、謝る。

イーリアはひと際ミラに懐いていたため、別れが寂しいのだろう。


「ダンテもおいで。」


ミラがダンテを呼び、ダンテもミラに恥ずかしそうに抱きつく。

俺はそれを見守り、少し経ってからもう一度ミラに告げる。


「ミラ、さすがにもう行くぞ。」

「うん。じゃあ、バイバイ。」

「うん、じゃあね。」

「バイバイ。」


ダンテとイーリアが手を振って見送りをしている。

ミラは振り返りながら、手を振り返す。

俺たちはそのまま道を下って行った。




しばらく道を歩くと高めの壁で囲まれたいかにも街という街が見えてきた。


「やっと、見えてきたな。」

「初めての街、ちょっと楽しみ。」

「ああ、だが、まずはどうやって入るか考えないとな。」


街の近くにまで行ってみると、やはり検問がされていた。

まだ列には並ばず、少し様子を見る。

見た感じだと、この街は王都よりは小さい。

しかし、大きな街であることはわかる。

街に入る商人の量が多いのだ。

よく観察していると商人たちや街に入る冒険者らしきものたちはみなステータスプレートを見せている。

ステータスプレートはどうやら身分証のような役割のようだ。


「ユウジ、どうするの?私、あれ持ってないんだけど。」

「そこは何とかなる。だが問題はステータスだな。今の俺たちのステータスは化け物すぎる。」

「うん。特にユウジは化け物。」

「なかなかひどいこと言うな。」

「だって本当のこと。吸血鬼の私よりステータスが高い人間なんて本当に化け物だよ?」

「そうかもな。」

「ここで少し待っててもらえるか?」

「わかった。」


俺は少し壁門から離れ、壁の近くにいる貧しそうな男のもとに行く。

街はどうやら通行料もとるようで、こうやって街に入れないものもいるようだ。


「おい。」


俺はいかにも貧しそうな男に声をかける。


「な、なんだ?」


男は少しおびえながら答える。


「街の中に入りたいか?」

「はいれるものならな。」

「俺がお前を入れてやる。だから、協力してくれないか?」

「協力って何をすればいいんだよ?」

「お前のステータスプレートを貸してくれないか?」

「だ、だめだ!」


まあ、当然の反応だろう。

ステータスプレートはこの世界ではとても大切な物なのだ。


「なぁに、悪い話ではないだろう?ステータスプレートを貸すだけで街の中に入れるんだぞ?何なら少しの金も払おうじゃないか。」

「……本当に入れるんだな?」

「ああ、もちろんだ。」


俺はそうして男からステータスプレートを手に入れた。

ああいう馬鹿は利用しやすい。

わざわざあんなキャラまで演じてみたが、騙されやすそうな奴でよかった。

もちろん騙す気はない。

今回は騙さず、本当に借りるだけだ。

俺は男から譲り受けたステータスプレート持ってミラとともに列に並ぶ。


「次!」


俺たちの順番が来た。


「お前たちは見ない顔だな。」

「ああ、最近こちらに着いたばかりなんだ。」

「ステータスプレートを。」


そういわれて俺はステータスプレートを渡す。


「お前このレベルでよくこの近隣を歩けたな。」

「運が良くてな。」

「それで?そちらのは?」


門番の男はミラのほうを見る。


「道中でなくしてしまってな。再発行したいんだが。」

「そうか。なら後で冒険者ギルドか商業ギルドに行くといい。」

「ありがとう。」

「通行料を渡してくれ。」


門番がそういいながら手を出す。


「すまないが今持ち合わせがないんだ。素材の買取はここでやってるか?」

「ああ、この板をもってあそこの列に並んでくれ。」


男はそう言って、俺に木製の板を手渡す。


「うん、見た感じそこまで怪しくないし。通っていいぞ。お嬢さんもお気をつけて。お前もこのべっぴんさんをちゃんと守るんだぞ。街中でも安全ってわけじゃないからな。」

「気遣いありがとう。」


ミラが笑顔で対応する。

ミラの意外と社交的な面が見れた。

それにしても警備が杜撰過ぎやしないだろうか?

いや、男の言っていた街中が安全ではないというのはそういう意味があるのかもしれない。

ある程度緩くしていたほうが町民からの愚痴がなくていいもかもしれない。

俺たちは素材を売って街中に入った。

そこで少しミラに待ってもらい、ステータスプレートを男に返し、ミラの下に帰ってきた。


「私べっぴんさんって言われた。」

「まあ、ミラは間違いなくべっぴんさんだな。」

「ふふふ。」


ミラは嬉しそうだ。


「まずは、ギルドを探すぞ。ステータスプレートがなければどうにもならんからな。」

「うん。」



添いして俺たちは街中に入った。

少し遅めの投稿となってしまいましたが、無事投稿できました。

今回でダンテとイーリアとはお別れです。

ここからまたゆっくりとした話になっていくかもしれません。

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