山中の子供
「きゃぁぁぁーー!」
そんな声が聞こえたのは俺達が適当に歩いて3日ほど経った時だった。
森をさまよいながら歩き、つい先ほどやっとの思いで人の手の入った道を見つけた。
そして、その道を辿っているところにこんな悲鳴が聞こえたのだ。
声の高さからして小さな女の子だろう。
場所は割と近くだ。
俺がミラの方を向くと、
「助けに行こう。小さい子を見捨てるのは夢見が悪い。」
とミラが言うので行くことにした。
声がした方に向かって行くと、草を掻き分けて歩いたような跡がある。
おそらくだが、悲鳴の主はこの先だろう。
取り敢えず、音を立てずに、先に進んで行く。
すると、少しひらけた場所についた。
泉のようなものが目の前にはある。
そして、視界の片隅で何かが動いていた。
よく見てみると、そこには女の子が恐怖で震えていた。
その前には狼のような魔物が3頭。
そして、女の子の目の前に狼と対峙しているであろう少年がいる。
しかし、少年は腕に傷を負っているようだった。
狼のような魔物に噛まれたのであろう。
腕の傷は深く抉れており、血が止まる様子がないように見える。
顔の似ている様子からあの2人は兄妹なのだろう。
そして、この状況から推察されるのは、あの子供達はピンチだということだ。
「ミラ、後ろの2頭をやってくれ、俺は男の子の前にいるやつをやる。」
「わかった。」
ミラが手を前に向ける。
俺も近づいて行く。
すると、魔物の一頭がこちらに気づき、威嚇してくる。
しかし、魔物が威嚇すると同時にミラの魔法が炸裂し、跡形もなく吹っ飛んでいた。
その様子に気づいた残り2頭も男の子達を無視してこちらを向いてくる。
これで男の子達が怪我することはないだろう。
俺は剣を抜く。
どうせもう一頭はミラがやってくれるので魔物が県の間合いに入った瞬間に剣を振り切れば、魔物は倒せるだろう。
しかし、魔物はこちらに攻撃してくることなく、茂みの奥へ逃げ込んでいった。
狼に似ていることから狡猾なのだろうか?
まあ、子供達は無事なので良しとしよう。
男の子に女の子が駆け寄る。
「お兄ちゃん!やだ!死んじゃやだよぉ!」
女の子が泣きじゃくる。
俺もその男の子に近づき、様子を見る。
「ぅうう。」
腕の怪我は動脈まで達している。
しかし、ほかに目立った傷はなく、血が多く出過ぎているくらいだろうか?
俺が詳しく診ている間にミラも近づいてきていた。
「どう?」
「これなら多分大丈夫だろう。ミラ、治してくれるか?」
「うん。」
ミラが男の子の傷口に手を当てる。
女の子は少しこちらを警戒したが、こちらが危害を加える存在ではないと認識したようで大人しく見ていてくれた。
ミラが魔力を流し込むと、ポゥと緑色の光が灯り、男の子の傷が癒えていく。
そうして、数秒して、完全に男の子の傷口が閉じていた。
しかし、何故こんな魔物が出るような場所にこんな子供がいるのだろうか?
それを疑問に思ったが、別段聞く必要は無いので、そのまま立ち去ろうかとも思ったが、助けたのに、まだ意識のない男の子を置いていってはまた襲われかねないので、少し待つことにした。
「……んん。」
待つこと30分。
やっと男の子が目覚めた。
男の子が目覚める前にミラが色々女の子に聞いていた。
まず、この銀髪のロングヘアの女の子はイーリアという名前で、男の子の妹らしい。
男の子の名前はダンテといい、こちらも綺麗な銀髪をしている。
彼らは母親と3人で暮らしており、ここには水と食料を取りに来たらしい。
「に、にいちゃん達誰だ!」
起きるとすぐに腰に携えられている剣を引き抜き対応しようとしてくる。
しかし、ミラの美貌に目を奪われたのか明らかに視線がミラで止まっている。
「もう!お兄ちゃん!この人たちが助けてくれたんだよ!」
「ん?え?あ、そうなのか?」
男の子はハッと我に帰り、事態を飲み込む。
「にいちゃん達、ありがとうな。」
「ん。ちゃんとお礼が言えるのはいい事。」
そう言って、ミラがダンテの頭を撫でる。
「えへへ。」
ダンテの顔がにやける。
「あー!お兄ちゃんずるい!私もー!」
そうして、イーリアまでもがミラのもとに押し寄せる。
ミラは嫌がる様子もなく、イーリアの頭を撫でる。
やはりこういうのは母性本能というものなのだろうか。
男の俺にはなかなかわかりづらいものだ。
「姉ちゃん達、お礼に俺たちの家に招待するよ!」
「えー?お母さんに怒られないかな?」
「大丈夫。母ちゃんならお礼しなさいって言うはずだよ。」
そうやって兄妹が言い合っている間にミラがこちらに近づいてくる。
「ユウジ、どうする?」
「まあ、特に行くところもないし、人が住んでると言うことは街に近いと言うことだ。それなら、行く価値は充分にあると思う。」
「じゃ、決まり。」
そうして、俺たちは彼らの家に行く事になった。
その道中、不思議な感覚が体にかかる。
「これは、結界?」
ミラが口にする。
「うん。これ、私がやったんだよ。」
イーリアが笑顔で答えてくる。
「すごい。この歳でこの規模の結界を張れるなんて。」
どうやら、結界というものはなかなか難しい技術のようだ。
あとでミラに聞いてみよう。
結界を通り、しばらく歩くと驚愕の景色が見えた。
それは滅んだ町の姿だった。
建物はほぼ倒壊しており、人の姿は愚か、人の住んでいる気配すら感じられなかった。
まるで何かに襲撃されたかのように。
前を歩く2人はその事に触れる様子もなしに、
「こっちだよ!」
「早く!早く!」
と急かし立ててくるのだ。
ミラも驚いたような表情をしており、ミラの方を向くと目があった。
「ユウジ……。」
「言うな。もう予想はできている。」
そう。
大体の予想ができた。
まず、こんな山奥に家族3人、しかも男親ではなく、女親で住んでいるという時点で少し違和感があった。
この村は魔物に襲われたのだ。
なぜ、盗賊や山賊のようなものではなく、魔物であるかというと、盗賊や山賊なら家まで壊したりしない。
それに、この程度の村なら税を定期的に徴収する方が明らかに利益につながる。
つまりは、その程度の知恵も持たない低脳の仕業だという事だ。
この世界においてそれは魔物を指す。
知恵は少ないが力はある。
そのため、こんな惨事になったのだろう。
そして、もう一つ予測できたことがある。
援軍が来ていないことからこの町はそもそも街や都からは遠いという事だ。
まだまだ街に着くには長い道のりになりそうだ。
そんなこんなで2人の家に着いた。
「おかーさん!」
「母ちゃん!」
この町の中で唯一綺麗に整備された家、これがこの子達の家だ。
そうして、扉がガチャリと開く。
そこからは"母親らしき物"が出てきた。
「……ユウジ。」
ミラが裾を握ってくる。
「……わかってる。」
予想は少し違った。
3人とも助かったのではない。
この子供達だけが助かったのだ。
目の前にいるこの物は全く生気が感じられない。
目はどこを向いているかわからないほど虚ろで、目に輝きも感じられない。
表情はどこか引きつっており、皮膚も少しカサついている。
まるで、なんらかの方法で蘇らせたようなどこか不完全なのだ。
「すみません。うちの子が。」
「いえ、大丈夫です。でも、あまり外に出さない方が良いですよ。今日、魔物に襲われてましたから。」
思ったより流暢に喋ることに内心驚きながら、話をする。
生物としては不完全かもしれないが人間としてはちゃんと成り立っているようだ。
どこか彼ら2人に向ける視線は柔らかなものを含んでいる。
未だ母親の愛情は残しているのだろう。
それから俺たちは母親の言葉に甘え、家の中で料理をもらい、寝床を用意してもらった。
寝床は家の中ではなく、まだ比較的に使えそうな別の家にしてもらった。
そして、ミラと2人きりになる。
「ユウジ、あの母親、錬金術で作られたものだった。」
「錬金術?」
「錬金術っていうのは払った犠牲の分だけ恩恵が得られる術のこと。」
「ほう、俺の能力と同じなのか。」
「うん。でも、錬金術は基本的には物体にしか作用しない。ユウジの能力とはちょっと違う。」
「それで、もしかしてあの子供のどちらかが錬金術師なのか?」
「多分、男の子の方。女の子は結界を張ったって言ってたから女の子の方は結構すごい魔術師だと思う。」
「なるほど、結界ってどんなもんなんだ?」
「結界っていうのはいろんな種類があるんだけど、基本的には決めた場所に効果を及ぼすもの。この土地の結界は魔物よけの結界が張られてる。だから、夜でも魔物は襲ってこない。」
「……。」
「ユウジ?何を考えてるの?」
少し考える。
彼らはこのまま前に進めるのだろうか?
母親の死を受け入れないまま、もしかしたらこのまま山奥に引きこもっているのだろうか?
多分それはできない。
今日のように魔物に襲われるのがオチだろう。
だから、彼らが前に進む手伝いをしても良いのではないか?
俺たちにはなんのメリットもない。
だが、俺は少し見て見たいのだ。
人の感情というものはどんなものなのかということを。
前回の投稿からだいぶ時間が空いてしまいました。
少しずつ話を考えてるのもありますが、だいぶ忙しかったので書くのが遅れてしまいました。
新作書く前にこっちを書けよとかそういう文句も仕方ないです。
すみません。
書きたかったんです。
さて、本文の方は前回から告知していた通り、新キャラです。
この話は前々から考えてました。
え?○の錬金術師にも最初こんな設定があった?
それはきっと勘違いです。
たとえ似ていたとしても私は鋼のハートで無視して書きます。