光と闇の龍
最終階層に着いた。
なぜ最終階層とわかるかといえば、大きな扉の前に最後の試練と書かれているからだ。
扉には文字が書かれている。
しかし、言語理解でも読み取れないのか、なんと書かれているのかわからない。
「ミラ、この文字読めるか?」
「ん。」
なんとミラは読めるらしい。
昔の人間だから昔の文字が読めるのかもしれない。
なんとなく、ミラを古い人間に感じたが、言うと怒るのでやめておこう。
ミラが扉に顔を近づけて、文字を読み上げる。
「光の龍は希望を喰らい、闇の龍は絶望を与える、って書いてある。」
「何のことかさっぱりわからないな。」
「どうする?」
「入って見るしかないだろ。」
「うん。」
俺はミラと顔を合わせて一緒に扉を開く。
しかし、開けて見るとそこには何もいなかった。
扉は俺とミラが完全に入ると強制的に閉じられた。
「あ!」
「逃げられないようにされたな。」
そうして、目の前の空間に白と黒の粒子の様なものが集まっていくのが見えた。
「ミラ、注意しろ。何か来る。」
戦闘態勢に入る。
すると、収束していた光が急に弾け、大きな光を放った。
反射的に俺たちは目を閉じ、目を開けた次の瞬間、目の前には双頭の龍がいた。
一方の頭は白く輝いており、もう一方の頭はどこまでも黒い。
双頭の首の根元から体を二等分する様に色が分かれている。
尻尾も二本あり、頭と同様に同じ配色をされている。
どうやらこれが、扉に書いてあった光と闇の龍という事らしい。
「ミラ、牽制でいい、何か魔法を撃ってくれ。」
「ん。わかった。」
ミラは得意の雷魔法を放つ。
双頭龍はこちらを向き、咆哮を放つ。
その衝撃波はとてつもないもので、ミラの放った雷魔法をかき消すとともにこちらにも衝撃波が飛んで来ていた。
俺はミラを抱え、その場から飛んで離れる。
衝撃波は後ろの扉にまで届き、大きな砂煙をあげた。
扉の方も頑丈で今のでも壊れなかった様だ。
俺はミラを下ろし、ミラに告げる。
「ミラ、俺が接近するから援護してくれ。」
「わかった。無茶しないで。」
「わかってる。」
双頭龍の周りをグルグルと周回しながらタイミングを計る。
双頭龍もこちらの様子を伺っている様で、2つの頭は俺とミラの両方を向いている。
俺はミラに目配せを送り、一気に双頭龍に近づく。
その瞬間、闇の龍の頭の方が口を開き、口の中に黒い粒子を溜めていた。
しかし、このタイミングでそんな攻撃を出すのは無意味だ。
このタイミングなら俺の攻撃の方が速く届く。
俺は拳を振りかぶり、殴ろうとするが、その前に双頭龍も尻尾で攻撃をして来る。
なので、俺はそれを飛んで避けるが、双頭龍はそれを読んでいた様で背中に付いた大きな翼を羽ばたかせ、風を起こし、俺と距離を作る。
そして、闇の龍の口には、黒い玉の様なものが溜まっていた。
まずい。
この距離なら『飛翔』を使ってもギリギリ避けられない。
するとその時、双頭龍が後ろからぐらついた。
ミラの援護射撃の様だ。
双頭龍はそのまま黒い玉から、黒い光線を放ってきた。
俺は急いで『飛翔』を使い、急速離脱する。
先程のミラの攻撃により、少し軌道が逸れたため、なんとか避けることに成功した。
しかし、『飛翔』を使わされたため、状況は悪くなった。
双頭龍は俺の方が移動が速いと判断し、狙いをミラに変えた様だ。
俺はまだ着地していないので、ミラの援護をすることはできない。
つまり、まずい状況なのだ。
今度は光の龍が口にエネルギーを溜めている様で光の粒子が集まっていっているのが龍の背中ごしにもわかる。
「『雷龍』!」
ミラの声が響く。
双頭龍の向こう側で大きな光が放たれるのが見える。
ミラの『雷龍』だ。
アレを使うということはミラの魔力も相当消費するということで、かなりまずい状況のようだ。
ミラの『雷龍』は双頭龍に直撃する。
双頭龍もそれなりのダメージを受けたようで、後ろに後退させられながら、「グォォォ」という声を上げている。
しかし、後退させられただけであって、まだ光線による攻撃は残っている。
着地した俺は、懐から魔玉を取り出しつつ、『血力』を起動させ、一気にミラの元に近づく。
双頭龍を回り込むと間に合わないので、双頭龍の股の下を通る。
股下を一気に通り、ミラのもとに駆け寄る途中、振り返ると龍の白い光線が見えた。
俺は能力を起動させつつ、ミラのもとに駆け寄る勢いそのままミラを抱え、『飛翔』を使う。
そして、『飛翔』の状態で振り向きながら、光を纏った右手で思いっきり殴る。
すぐそこまで近寄っていた光線は俺の能力の余波によって軌道が逸れたが、完全には逸らしきれなかったようで右手に直撃する。
瞬間的に右手に熱い感覚が流れ、そして、すぐに消えた。
無理に『飛翔』中に方向転換をしてしまったため、着地せずに壁の方にぶつかる軌道を俺たちの体は通っている。
せめて、ミラだけでも無事であってもらわなくては困るので、俺はミラを抱きしめ、俺の体の前側に持ってくる。
そこで、俺の右手が無くなっていることに気づいた。
俺は勢いを殺せぬまま、壁に衝突した。
「ガハッ!」
「ユウジ!」
さすがの防御力で、肋骨や背骨にダメージはない。
しかし、俺は悪寒がしたので抱きしめていたミラを突き飛ばした。
次の瞬間、俺の胸には大きな穴が空いていた。
自然と咳が出る。
俺の口からは空気ではなく、血が出るだけだったが。
そして、俺の胸に刺さっているのが何かを確認すると、闇の龍の尻尾だった。
太く鋭いそれは、俺の胸を貫いていた。
ミラが何か叫んでいるが、この状況では聞き取れなかった。
少し血が流れているせいか、体温が下がってきている気がする。
そして、黒い龍の尻尾を伝って何かが流れ込んでいる。
目を閉じると、黒い龍が流し込んでいるものがわかった。
これは……この龍に殺されていったもの達だ。
誰も踏破したことのないと言われるこの迷宮だが、ここまでたどり着いたいわゆる化け物と呼ばれるもの達は存在したのだ。
そして、その者達は皆同じ思いを抱いていた。
それは……孤独。
誰もが手に入れられるわけではない力を持ってしまい、あるいは身につけてしまい、本来の人間とはかけ離れていってしまったのだ。
そして、ともに歩んできたはずの仲間はとうに居らず、結局ここに1人で来てしまった。
せめてこの迷宮をクリアした唯一の人間という称号すら手に入らず散っていった地上の人間達の記憶には残らない化け物の英雄達。
そして、龍が見せる、この迷宮をクリアした後の未来。
化け物の中の化け物という誰にも理解されぬ力を持て余し、衰退していく自分。
闇の龍が絶望を与えるというあの扉の言葉の意味がわかった気がした。
この龍はずっとこういったものを見せて来たのだ。
こうした、何人もの先人達が残して来た孤独を。
だが、俺には変わりはなかった。
"同じ"だ。
"同じ"なのだ。
こういった悲しみの連鎖を見せられても、俺の心は以前変わりなく、孤独とも違う"何か"だったのだ。
人から見ればそれは孤独だったのかもしれないが、俺の感じ方は違ったのだ。
結局、この世界に来ても変わりはしなかったが、今はミラという1つの希望も持てている。
だから、とりあえずは生きねばと思い、目を開くと、そこにはミラの泣きじゃくった顔があった。
そして、
「好き!好きなの!だから、死なないで!お願い!目を開けて!」
今まで聞いたこともないようなミラの大きな声だった。
俺はいつの間にか尻尾を抜かれ、床に伏せているようだ。
胸の傷はミラの魔法によって塞がれたのか穴はない。
「だから……だから……目を開けて。」
ミラが泣きじゃくっている。
さすがに返事をしてあげないのは酷いので、ミラの頭に手を置いて言う。
「そう言うことは縁起が悪いから言うな。」
「え?ユウジ!」
ミラが抱きついて来た。
俺は起き上がり、周りを見る。
すると、双頭龍は壁にもたれかかって、ぐったりしていた。
その首は1つがなくなっていた。
「あれはミラがやったのか?」
「ん。『ツヴァイ』を使った。でも、再生して来ている。」
「再生か。めんどくさいな。魔法は使えるか?」
「ううん。もう魔力が残ってない。だから、右手も治せなかった。」
「そうか。わかった。ミラはここで休んでてくれ。あとは俺がやる。」
「大丈夫?」
「ああ、次で終わらせてくる。」
「わかった。信じてる。」
「ありがとう。」
俺はゆっくりと立ち上がり、魔玉を取り出す。
残る魔玉は3つこれを全て双頭龍にぶつける。
双頭龍も完全に治癒が終わったようで、のそりと立ち上がった。
「行くぞ、化け物。これでお前の闇も終わらせてやる。」
俺は3つの魔玉を割り、能力で力に変え、左手に纏わせる。
俺は『飛翔』を使い、一気に双頭龍に近づく。
双頭龍も2つの口で同時に光線の準備をし出す。
俺は双頭龍の目の前に来るとさらに、『飛翔』を使い、双頭龍の上空に着くと、『空壁』を使い、壁を蹴って急降下し、かかと落としで1つの口を塞がせる。
俺が着地すると同時に双頭龍の尻尾が俺に襲いかかる。
これを避ければ先ほどと同じだ。
だから、俺はその攻撃を受ける覚悟をした。
体の側面にかなりの衝撃が走るが、腰を低くし、足を踏ん張って耐える。
その時に、左手に纏った光を散らさないように気をつける。
そして、完全に尻尾の勢いを殺したところで懐に飛び込む。
双頭龍は腕を振ってくる。
俺は飛び上がる。
ここまで接近すれば、風の影響もあまり受けない。
双頭龍はもう1つの腕を振ってくる。
おそらくこれが双頭龍の最後の砦だ。
俺は『空壁』を自分の目の前に作り、壁に双頭龍の腕が当たり、止まる一瞬で双頭龍の腕に乗り、一気に腹に向かって踏み込む。
これで防ぐものは何もない。
左手に纏った光があることを確認し、思いっきり双頭龍に向かって拳を振るう。
俺の左手の光は爆発のような光の奔流を起こし、一気に双頭龍の胸めがけて流れて行く。
そして、双頭龍の上半身を消し飛ばした。
双頭龍は後ろに倒れた。
双頭龍は治癒することはなかった。
双頭龍の胸には核の様なものがあったようで、それが消し飛んだことにより、双頭龍は生き絶えたようだ。
俺はその場で倒れる。
体の感覚がない。
この戦いは最もきつかった。
後ろからミラが駆け寄って来ているが、相手をする気力もないまま俺は眠りについた。
この迷宮の最終階層のボス戦でした。
双頭龍はなかなか好きな部類の敵に入ります。
龍ってやっぱりかっこいいですよね。
強さ的には、強い順で、龍→ドラゴン→竜な気がします。
現在更新が不定期になっております。
申し訳ありません。