吸血鬼との洞窟探検
ミラと行動を共にし始めてからもう1週間ほどが経った。
迷宮の階層もどんどん下に来ている。
ミラが即戦力で良かったと実感している。
現在は俺が下に向かい始めてから124階層だ。
この階層はどこからか光が入っているのかやけに明るい。
魔物も動物的なものが多い。
一部恐竜の様なものもいるが。
それはそれで面白いので観察する。
しばらく探索していると、ひらけた場所に出る。
「綺麗。」
ミラが呟く。
目の前には天井から差し込む光に照らし出された綺麗な青色をした湖があった。
水も澄んでいる。
そして湖の周りには木々が立ち並んでおり、雰囲気を良くしている。
ミラが1人で湖のほとりにかけていく。
俺はそれを見ながら周りの安全を確認する。
取り敢えず、この湖の周りには魔物はいない様だ。
湖の中までは分からないが、こちらから刺激しなければ何も起こらないだろう。
俺はミラの隣に行き、
「そろそろご飯にするか?」
「うん。」
俺は魔物の肉の干し肉と、そこら辺に生えている食べられそうな野草を取り、座る。
俺が座るとミラが俺の膝の上に座り、振り向いて俺の首筋に牙を立て、血を啜る。
ミラは吸血鬼なので基本的には血を飲んで入れば良いらしい。
いちいち食事を用意したりしなくて良いので楽なのだが、食事の際に毎回この体勢になるのはどうかと思う。
客観的に見ると抱き合っているように見えるのだ。
それに、ミラは魔物の毛皮で作ったローブしか着ていない。
だからこうも密着すると、体温や柔らかさが直接感じてしまうので微妙な感じだった。
「ミラ、別にこの体勢じゃなくても、後ろから吸えば良いんじゃないのか?」
「だめ。後ろから吸うと狙いがぶれてしまう。ユウジが大きな血管に穴を開けられても良いって言うなら別だけど。」
「……。」
「だから……はむ。」
ミラは俺の首筋に再び口を当て、チューと血を吸う。
「この体勢が1番。」
「わかった。もうこれで良い。」
俺は諦めた。
頸動脈に穴を開けられればシャレにはならない。
それに、女の子が良いと言っているのだ。
男の俺が嫌がる意味もあまりない気がしたのだ。
俺は食事を再開する。
干し肉の味には慣れた。
最初は血生臭いと思っていたが、今では美味しいと感じられるほどには慣れた。
野草はもともと変な味がするようなものではないのでこれにも慣れた。
そこでふと気になったので聞いてみることにした。
「血の味ってどんなんなんだ?やっぱり鉄の味なのか?」
「いや、吸血鬼の味覚は本来血の味が美味しいと感じられるように出来ている。だから、血の味は人によって違う。」
「俺のはどうなんだ?」
「不思議な味。今まで食べたことないような。でも、美味しい。」
「もしかしたら異世界人っていうのが関係してるかもな。」
「ふふ、そうかもしれない。この味は異世界の味かもしれない。」
そうして、なんだかんだでミラとも仲良くなっている俺はミラが食事を終えたのを確認すると湖の水に手をつけていた。
水の中の振動を感じるためだ。
湖の中には生き物がいる振動がする。
それもかなり大きな。
まあ、迷宮の湖だ。
綺麗なだけではないだろう。
「ミラ、この湖の中には何かいる。それもかなり大きな奴だ。今から俺がそいつをおびき出すから出てきた瞬間に思いっきり魔法を撃ってくれ。」
俺はミラを助けた時の蜘蛛との戦いで最後の剣を失っている。
そのため、現在はミラが主に魔物を狩っていた。
別に素手で狩れない訳ではないが、魔法の方がはるかに効率的なのだ。
俺はそこら辺の石を拾い、能力を起動し、石に光を纏わせてから湖の中に投げ入れる。
黒蠍の時と同じで時限爆弾式の石だ。
石は湖の真ん中に落ちていき、しばらくして大きな爆発が起きて、大きな水しぶきが上がる。
水しぶきが収まると水面から大きな魚が飛び出してきた。
「ミラ!」
「ん!」
俺がミラに合図をするとミラは魔法を発動する。
「雷矢。」
ミラの手から生成された雷の矢は魚に向かって飛んでいく。
よくよく見るとその魚にはヒゲが生えているのでナマズとかだろうか。
雷の矢はナマズに直撃する。
その威力でナマズは吹っ飛ぶが、電撃は効いていないようで、こちらに気づき凄い速度でこちらに近づいてくる。
「どうする?」
ミラが俺の意見を伺ってくる。
「試して見るか。」
俺は近くにあった石を2つ拾い、2つともに能力を起動させる。
まず、1つ目を全速力で近づいてきているナマズの目の前で弾けるように投げる。
ナマズの目の前で爆散した石はナマズの体を悠々と空中に浮かびか上がらせた。
しかし、ナマズは空中で体勢を整えると俺に向かって電撃を放ってきた。
どうやらこいつは電気ナマズらしい。
それがわかれば用済みなので俺はもう1つの石の光を自分に移動させ、石をナマズに投げつける。
石は弾丸のような速度でナマズに向かっていき、貫通する。
この程度の魔物なら石程度の対価でどうにかなるようだ。
もちろん、俺のステータスが上がっていることもあるが。
俺はナマズが空中に浮いているうちに『飛翔』を使い、ナマズを能力で変換してステータスに変える。
そして、もう一度『飛翔』を使い、ミラのところに戻る。
「私の魔法が効かなかった。」
「あいつは電気の能力を持っていたようだな。」
俺達はまた探索を開始した。
さすがにあのナマズだけの階層ではないはずだ。
しばらく歩き回っていると
「きゃっ!」
俺の後ろを歩いていたミラが悲鳴をあげた。
ミラの悲鳴などそうそう聞くことがないので驚いて後ろを振り返ると1匹の魔物がいた。
3頭身くらいの魔物で見た目はゴブリン系の小鬼だろうか。
その小鬼がミラのローブを掴み、めくろうとしているのだ。
ミラはその下には何も着ていないのでもちろん裸だ。
ゴブリン系はそもそも性欲が高く、多種族でも平気で欲情するらしいので今回はミラに欲情しているのかもしれない。
それ自体は珍しいことではない。
実際今までミラに欲情した魔物もいる。
だが、驚きなのはミラがここまで接近を許したことと対処ができていないことだ。
ミラがローブを押さえながら小鬼の殴ろうとすると小鬼は素早い動きでミラの後ろに回る。
ミラが広範囲の魔法でなぎ払おうとすると尋常ではない速度で距離を取り、ミラの魔法が撃ち終わると同時にまた異常な速度でミラのローブを捲ろうとするのだ。
「ユウジ、見ないでどうにかして。」
ミラが必死にローブを押さえながら必死で懇願してくる。
「わかった。努力する。」
俺はミラに近づき、ミラに取り付いている小鬼を殴ろうとするが、小鬼はミラの後ろに隠れる。
「キキキ。」
そんな笑い声を発しながら隠れるのでさすがにイライラした。
だから、俺は魔物達から取得した能力の3つ目『空力』を起動させつつ、ミラを殴る。
しかし、ミラに衝撃が走ることはなく、ミラの体を通して後ろの小鬼の頭が吹っ飛ぶ。
そこまで防御力は高くなかったようだ。
『空力』の能力は俺の唯一の遠距離攻撃能力だ。
基本的にできることは2つ。
1つは、今のように物体を通してその反対側にいるものに攻撃できる。
つまり、壁を越えて攻撃できるのだ。
そして、もう1つが単純に衝撃波を飛ばすことができる。
衝撃波なので当然威力は落ちるがそれでも弱い魔物くらいなら倒せる。
「ミラ、終わったぞ。」
「はぁ……はぁ……。ユウジ。」
「何だ?」
「見た?」
「……。」
「見たの?」
「……。」
「見えたの?」
「……見てない。」
「嘘、絶対見た。ユウジに裸を見られた。しかも2度も。これじゃ、お嫁にいけない。」
「悪かった。悪かったよ。仕方なかったんだ。許してくれ。」
「許してあげるけど、その代わり」
「その代わり?」
「お嫁にもらってくれる?」
「……返しにくい冗談はやめてくれ。」
「冗談じゃないのに。」
「何だって?」
「何でもない。先に行こう。」
「ああ。」
そうして、俺たちはその階層も攻略した。
今回も洞窟探索です。
成長した主人公達のステータスは後々公開する予定です。
最近、小説を書けていないので更新をする速度が遅くなっています。
申し訳ないですが、不定期更新はまだまだ続きそうです。
できれば、1週間にどの作品か1作品は更新したいです。