プロローグ
今日もいつもと同じように月曜日がやってくる。
いつもと変わらぬ商店街の人達。
いつもと変わらぬ生徒達の声。
いつもと変わらぬ通学路。
いつもと同じ日なんてない、日々が楽しさで満ち溢れている、なんて子供の頃に詩で聞いたことがあるが、そんなものは恵まれた人間の言えることなのだ。
そういう人はいつもと変わらない日常を何かが変わったように見えるという卓越した感性に恵まれた人間なのだ。
そんな感性を誰もが持てるわけではなく、そういう感性を持てなかった人間はやはり、何も変わらない日常を生きて行くのだと思う。
俺こと、岸田 裕二もそんな感性を持てなかった1人だ。
俺の母親は俺を生んで間も無く死に、父親は俺がまだ小さかった時、俺を庇って交通事故で死んだらしい。
らしいというのは俺はその時の記憶が残っていないからだ。
だが、俺にはそんな父親の気持ちは分からなかった。
何故、自らの命を投げ出してまで俺を助けたのか。
俺には自らの命を投げ出してまで助けたいという命などない。
だからと言って、自らの命が大切だとも思わない。
俺の命がなくなったところで、世界は変わらないし、誰も悲しみはしないだろう。
もしかしたら、両親は悲しんでくれたかもしれないが、そんな両親すらも俺にはいない。
クラスメイトなんかは俺が死んだという事実に驚いたりはするかもしれないが、次の日には普通の生活に戻っているだろう。
それほど俺は他者から見れば軽い存在なのだ。
そうして、いつもと変わらぬ通学路を通り、学校に着く。
一応、今引き取られている家からの勧めで高校には入学したが、やはりここでも何も変わらない。
ただひたすらに人の流れに流されるだけだ。
いつも通りに教室に入る。
「あ!おはよう、岸田くん。」
「おはよう。」
今挨拶してきたのは、クラスのアイドル的な存在とも言われている上野 楓だ。
髪は色素が薄く、長髪の茶髪で、顔も可愛らしい。
それに、教室に入ってくる生徒全てに挨拶をしたりと優しそうな一面を見せる。
成績も優秀で、いつも学年でトップクラスの成績を維持している。
部活はバドミントン部。
彼女がいるせいでたまに男子の見学者がいるらしい。
まさに完璧という文字を体現したかの様な人物だ。
ああいう人種に関われば、日常が何か変わるかもしないが、それと同時に平穏すらも失ってしまうことになりかねないので、基本は関わらない。
「やあ、楓くん。おはよう。」
「お、おはよう。織田くん。」
ガラガラガラと教室のドアを開けながら入ってきたいかにもイケメンオーラが滲み出ている男は織田 将輝だ。
こいつもスポーツ万能で、テニスで一年生にしてレギュラーを勝ち取っている。
成績はそこそこだ。
詳しくいうなら150人の学年で30〜40位くらい。
いわゆる上の下か中の上といった順位に位置している。
ただし、天然だ。
自らの正義感を他人も信じていると勝手に思い込んでいる。
別に間違った事を言わないぶん、たちが悪い。
そして、こいつの一番の問題は先ほどのクラスのアイドル的な存在の上野 楓を好いていることだ。
本人は隠している気でいるらしく、本人なりのさりげないアプローチというのを入れている。
もちろん、天然なので周囲にはバレバレだ。
だが、イケメンで人当たりも良いため、あいつに取られるなら仕方ないと他の男子達も公認している様だ。
肝心の上野はというと、微塵もそんな気は無い様だが。
何にせよ、俺の平穏を壊す要注意人物だ。
寧ろ積極的に関わってくるので上野よりも厄介だ。
そうこうしているうちに朝のHRの開始のチャイムが鳴る。
生徒達は一斉に席に着き、先生が入ってくるのを待つ。
ガラガラガラという音がして、先生がドアを開けて入ってくる。
「はぁーい!皆さん、いますかぁ!」
元気よく高い声で入ってきたのは半田 雪子先生だ。
身長は小さく、150くらいだ。
外見は名前通りの雪の様な白い肌に短髪の眼鏡である。
ただし、コーヒーや酒が飲めなかったり、甘いものが大好きだったりと、その子供っぽい仕草や容姿からユキちゃんという愛称で呼ばれている。
本人はその愛称を嫌がっているが、生徒達が呼び続けるので諦めている様だ。
ユキちゃんこと半田先生が、生徒一人一人の名前を呼びあげ、出席簿にチェックをつけていく。
このクラスは30人なので、呼び上げるのにおよそ1分ほどかかる。
「はい!皆さん、今日もちゃんと出席してますね。それじゃ、今日も1日頑張って行きましょー!」
そういって、先生は右手を突き上げる。
これもいつもの光景で、先生は1日のやる気づけのためにこうやって大きめの声で、叫ぶのだ。
こうして右手を突き上げた時に、先生の大きめな胸が揺れて、それに男子達の視線が吸い寄せられているのは気づいていないようだが。
そうして、先生が教室から出て行こうとドアに近づいていくと、床が青く光る。
さすがにこれはいつもの日常では無いので、警戒する。
「わわわ!何なんですこれは⁉︎誰かのイタズラですか?」
先生も驚いているようだ。
そして、光はどんどんと強くなっていき、やがて前が見えなくなるほど光が強くなる。
そして、次の瞬間、俺たちは見知らぬ場所に飛ばされていた。
周りを見渡すと明らかに文明の遅れている室内だった。
部屋は大きく、天井もかなり高い。
何より、扉が物凄く大きいのだ。
まるで、写真で見たことのある外国の宮殿のような部屋だった。
その室内には人がいて、その中の1人が冠をかぶり、大きな椅子に腰掛けている。
その隣には髭面の老人がいる。
それに、全身鎧で武装したもの達が左右に一列で並んでいる。
「そなたらを呼んだのは他でも無い。この世界を救って欲しいのじゃ。」
いつもと変わらぬ日常はこうして壊れた。
この新作はほぼお試しですので次回の更新予定は未定です。