7-まずいバナナを食って何が悪い
むかしむかしアフリカに、アリ村とキリギリス村という、ふたつの村がありました。
ふたつの村の人々は、ジャングルから野生のバナナを採ってきて、それを食べて暮らしていました。
野生のバナナは種だらけで、実が痩せていて、栄養価も低いし、ちっとも甘くありません。
唯一の取り柄といえば、育てる手間がかからないことぐらいでした。
あるとき白人の宣教師が、キリギリス村を訪れました。
宣教師は先進国から持ってきた食べ物を、村人に食べさせてみました。
「こんなに美味いものは食ったことがない」と、村人は目を丸くしました。
残念なことに、キリギリス村の村人は、先進国の食べ物が買えるお金を持っていませんでした。
貧乏な村人を哀れに思った宣教師は、村人にコーヒーの苗を与えました。
「手入れはこう、水やりはこうやって、このように収穫するのだ。
コーヒー豆が収穫できれば、売ってたくさんのお金を手に入れられるよ」
宣教師は親切丁寧に説明してやりました。
ところがキリギリス村の村人は、教えられたとおりにはしませんでした。
相変わらずジャングルへ行って、野生のバナナを採ってくるだけです。
ほんの少し努力すれば、ずっと美味しい食べ物を買えるのに。
せっかくの苗は放置され、やがて枯れてしまいました。
「なんと頭の悪い、怠け者たちだろうか。
こんなことでは、百年たっても千年たっても貧しいままだろう。
向上心のない人間は、相手にするだけ無駄なことだ」
宣教師は呆れて、村を去ってしまいました。
次に宣教師は、アリ村を訪れました。
アリ村でも同じように、宣教師はコーヒーの苗を与えてみました。
返ってきた反応は、キリギリス村とはまったく違っていました。
働き者で賢いアリ村の村人は、たちまちコーヒーの栽培を覚えました。
そして懸命にコーヒーの木を育て、収穫期には大量のコーヒー豆を実らせました。
お金を手に入れた村人たちは、キリギリス村よりも、ずっと贅沢な暮らしを楽しめるようになりました。
「正しい欲望を叶えるために、全力を尽くして勤勉に働きなさい。
それが自分自身だけでなく、村全体を育てることにもなる」
宣教師は有難いお説教を残して、村を離れました。
数年後、コーヒー豆の価格が世界的に大暴落しました。
アリ村の収入はゼロに近くなりました。
村ではコーヒー農園を作るため、すでにジャングルを焼き払っていたので、いまさらバナナを採ることもできません。
深刻な飢えが村を襲いました。
ある者は先進国へ出稼ぎに行き、またある者は子どもを売り飛ばし、村はバラバラになってしまいました。
一方キリギリス村では、野蛮だ愚鈍だ劣等民族だと侮蔑されながらも、相変わらず野生のバナナを食べつづけています。
幸福なのか不幸なのかは、村人に訊いてみないと判りません。
訊いても判らないかもしれません。