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5-私が住むファンタジー世界

標高の差は川の流れを生み、気圧の差は風を吹かせます。

流水や風を上手く捉えれば、エネルギーに変えることができます。

同じように、人と人との属性の差も、エネルギーを産み出す元になります。

これを取り出して固定化する技術は、古代から魔法と呼ばれていました。


多くの古代社会では、魔法は得体の知れぬ怪しい力とされ、警戒されていました。

洋の東西を問わず、魔法使いは最も卑しい身分とされ、軽蔑や迫害の対象になっていました。

けれども魔法さえあれば、ほとんどの欲望を叶えられることも事実です。

豪華な邸宅に住み、美酒や美食を堪能し、美男美女を侍らせて遊興に耽ることも、思いのままになります。

ですから王侯貴族や高位の聖職者たちは、有力な大魔法使いに特権を与え、引き換えに贅沢な暮らしを満喫していました。


迫害されていた中小の魔法使いたちも、次第に実力を蓄えていきます。

かれらは団結し、やがて旧来の大魔法使いや、王侯貴族にも迫る力を持つに至ります。

ある国では、ついに国王を打倒し、魔法使いが支配する国を建国します。

別の国では、国王の下に取り込まれ、共存共栄の道を歩みはじめます。

こうして魔法が宗教的な偏見から解放された時期を、近代の幕開けと考える人もいます。


魔法の発動には「よりしろ」が必要です。

発動する魔法が大がかりになるほど、「よりしろ」にも価値の高いものが要求されます。

ですから使える魔法の総量には、おのずと限界が存在していました。

ところが300年ほど昔、ある魔法使いが画期的な術式を発明しました。

この術式では、呪符を使用するだけで魔法を発動させられます。

呪符とは呪文を書き込んだだけの、単なる紙切れです。

しかも魔法を使えば使うほど、新たな魔法の力が湧いてくるという、夢のような性質を備えていました。

ただし「よりしろ」がないために、その力は極めて不安定で、ひとたび崩壊すれば全てが無に帰す危険性をも秘めています。

力を安定させるには、さらに大きな力で押さえつける必要があります。そのためには新しい魔法を使わねばなりません。

こうした悪循環のせいで、誰も魔法の使用に歯止めをかけられなくなりました。ひたすら魔法の使用を拡大しつづけなければ、それまでのツケが一気に回ってくるからです。

近年では技術がさらに進歩し、コンピューター上の電子的なデータのみで、魔法を発動させられるようになっています。

もはや暴走といえるほど拡大した魔法は、新たな神として人々の上に君臨しています。


今では全世界が無条件で魔法を信仰し、最も強い魔法の力を持った帝国が、世界の盟主となっています。

人々は魔法の力を求めて、ときには争奪戦に鎬を削り、ときには心を合わせて研鑽に励みます。

国内では魔法を管理する官庁が国家の最高権威とされ、大学では魔法学の講座が人気を集めています。

それどころか、幼い子どものうちから魔法に習熟させるため、早期教育の試みも始まっています。

老いも若きも、魔法こそが至高の価値と信じて疑いません。


ところが前述のように、魔法の力は実は不安定なものです。

ことに人々が、魔法の効果に少しでも疑問を抱くと、その力は急激に弱まるという性質を持っています。

過去には何度かの「魔法危機」と呼ばれる事件が起こりました。

人々が魔法を信じなくなったため、魔法が発動しなくなるという現象です。

このような事態を避けるためにも、支配者たちは魔法の有効性を、事あるごとに証明しつづけなければなりません。

魔法に疑念を差し挟むような言動をする者は、陰に陽に迫害を受けることになりました。


ときには魔法を習得しそこねた人や、弱い魔法の力しか持たぬ人が、魔法全盛の世界に不満を抱くこともあります。

そうした人々には、国家から魔法の一部が分け与えられます。

一見すると慈善事業のようですが、必ずしも人道的な意味ばかりではありません。

魔法の有難さを布教し、魔法への依存から脱け出せないようにしているのです。

誰もが魔法なしには生きられないと思っている限り、この世界は安泰です。


それでもなお、魔法に対する根本的な疑念を抱く人がいます。

魔法を軽視する宗教の影響を受けると、こうした考えに取りつかれる傾向が顕著になります。

魔法で世界を支配する人々にとって、このような相手は最も恐ろしい敵になります。

いかに強力な魔法であろうと、物理力を完全に抑えこむことはできません。

物理力で魔法が破られるのを見れば、人々は魔法への信頼を失い、魔法そのものが消え去ってしまいます。それは現行世界の秩序の崩壊を意味します。

ですから彼らは人類共通の敵と決めつけられ、徹底的に討伐されます。

この戦いの行方は、いまだ不透明な状況にあります。


すでに皆様ご推察のとおり、これは私たちの住む現実世界の物語です。

「魔法」を「お金」と置き換えたならば。

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