グリムの嘘 pregnant
ずいぶんとお久しぶりです。つなまよです。
去年の2月くらいに書いたものを微修正したものです。
以前投稿していたころとは作風が変わったような変わっていないような……。
というわけで童話・病んデレ系作品になっております。
はじめましての方も、お久しぶりですの方も、読んでいただければ幸いです。
これは私の懺悔ではありません。私はこの告白によって、己が罪をこの躯に刻み付けんとするだけなのです。あの日に私は血を流してしまいました。新しい物語の誕生には、出血を伴うのだと教えてくれたのはあの人でした。その物語が喜劇であれ悲劇であれ、はじまりは何時も同じ場所なのだと....。
おばあさん、どうしてかしら。服がきつくなったみたい。
私は、そう無邪気に尋ねられるほどに無知ではありませんでした。
ただ私には、新たな物語の母となることができる程の覚悟などなかったのです。
私は……、私の罪は、その物語を私とあの人の物語だと信じてしまったことでした。
高層ビルが鬱蒼と茂る街の片隅で、私と彼は小さな居を構えました。私がそれまで閉じ込められていた、高い高い楼閣がある場所を遠くに臨むことができました。私は彼がそこから連れ出してくれたことに感激し、彼を深く愛すようになりました。彼も私を愛してくれていることを、疑いすらしませんでした。
しかし彼が愛したのは、少女、という存在そのものだったのです。私が産んだ物語は、私と彼の物語であるはずでした。それなのに、それなのに物語は、自らの物語を紡ぎ始めたのです。私を独り取り残して。
私には明確な境界は判りません。しかしそれは、私にはもう必要のなくなったあの制服を売り払ったときだったのかもしれません。あるいは新たな物語がはじまった瞬間、それとも私が血を流した時点で、私と彼の物語は終焉を迎えていたのでしょうか。
私がオークションで売ってしまった制服は、有名なお嬢さま学校の制服だけあって随分と高い値がつきました。私にはこんなものの価値がさっぱり判りませんでしたが、彼が私を愛したのも、つまりはそういうことだったのだろう、と今では薄らと感じます。
彼の関心が私から、私達の娘へと移ってゆく様子を、私は泣き出しそうな気持ちで眺めていました。私に魅力がなくなったから彼はもう私を愛してはくれないのだろうかと、恐ろしくもなりました。
私はそんなときには決まってSNSに自分の写真を公開しました。とびきり可愛い表情を作った写真を貼り付けると、沢山の反響が返ってくるのです。私のアカウントをお気に入りに登録してくれる人も少なくありませんでしたし、みなが私を褒めそやしてくれました。SNSで沢山の評価を受ける私をみると、自分の目にも私がとても魅力的に映りました。そうして私は自信を失う度にSNSにポートレイを公開することを、辞めなれなくなってゆきました。
しかし私は見つけてしまったのです。あれほど私に優しかったSNSの世界が、私と同じように、厭、私よりもずっと、娘のことを褒めそやしているのを。私はふとした弾みに彼のアカウントを見つけてしまったのでした。仲睦まじい男と少女の肖像ばかりが履歴に残るそのアカウントには、私のものより多いお気に入り登録数が表示されていました。それは、その少女の笑顔のために獲得された評価に間違いありませんでした。
私は絶望しました。私が彼女よりも魅力的だということを必ず証明しなければならないと心に決めました。私はこれまで以上に自らのポートレイをSNSに公開し続けました。しかし……どれほど必死になったとて、彼女は無自覚なまま私を蔑みます。
そうしてとうとう私は悟りました。
私は彼女を、殺すしかないのです。
私が再び彼に愛されるために。
彼女さえいなければ、
私は世界で一番美しい。
私は娘を三度殺すでしょう。一度目は紐で、二度目は櫛で、三度目は毒の林檎で。
私は娘を既に二度、殺しました。あともう一度、もう一度殺しさえすれば、私は彼に愛される。
いつの日か私が娘に復讐されるまで。
おばあさま、私は元の世界に帰りたいのです。憧れていた、お金はなくとも幸せな暮らしなど、幻想にすぎないと知りました。窮屈だけれど何もかもから護られていた、あの学校に戻りたいのです。鎖のように私を縛り付けていた、長い髪が懐かしい。おばあさま、ごめんなさい。私にはもう、あの髪さえないのです。
お願いします。
私は、唯、幸せになりたかったのです。
まだまだ未熟で、作りたい雰囲気をぜんぜん出せないのが悩みです……
書き溜めていた作品も少しずつ公開するので、よければまた遊びに来てください