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DARK´KNIGHT  作者: あごひげ
9/10

七章  消失

                        

                         1

 

話は数分前までさかのぼる。

 

 アレン達が魔法で飛空船に移動していくのを背中で見送り、だんだん迫り来るトロルの軍勢の相手を再開するアミノ。

 自分の科学力で作り上げた、生ける傀儡くぐつ合成獣キマイラあやつり、トロルを引き裂き、八つ裂きにし、噛み殺す。


 そこに、ある珍入者が訪れる。



「久し振りだね、アミノファス、十年振りか?」


 

 その男は、アミノの物と似た白衣を身に纏い、右手にハンドガンをたずさえた、華奢な男だった。



「…………フン、何故お前がこんな所にいるのだネ?」


 アミノが横目で睨む。


「お前………か、

 アミノファス、もう君は、ボクの事を¨兄さん¨とは呼んでくれないんだね?」


 その男はクククと笑いながら言う。


「¨兄さん¨?

 私が、お前の事をそう呼んだ覚えなど無いんだがネ?」


「クククク、そうか、それでもいい」


「………?」


 アミノは怪訝そうな顔をする。


「昔の記憶ぐらい、またそのうちいくらでも思い出させてあげるよ。

 まあ、アミノファスはそれを望んではいないようだけど……………」


「昔の記憶?」


 アミノは目を細める。


「君がファムラス君と帝国を抜けるときに抜き取った記憶……………って言っても、全部抜き取れていたわけじゃ無いみたいだけどね……………。

 そこでトロルと戦っている合成獣キマイラがその証拠なんだけど………」


「何が言いたいんだネ?」


「…………おっと、そんなこと言っても分からないか?」


 男は肩を揺らして笑う。



「………まあ、そんな事はどうでも良いヨ。

 このトロルは、お前らが召喚したのかネ?」


「判ってるだろ?」


 男はそう言うと、腕時計を見て、こう続けた。


「さて、もう時間だ。

 じゃ、ファムラス君に宜しくね?」


 刹那、男の姿が透けていき、大気中に消えていく。

 消えていく寸前、男はこう呟いて消えた。


「今は、ファムラス君じゃなくて、ヴァルド君って名乗ってるんだっけ?」



                         †

 


「大丈夫か!?」


 ―――ヴァルドさんの声?


 アレンは、暗闇の中でヴァルドの声を聞いた。


「おい、しっかりしろ!!」


 ―――ん?ゾル?


「ねえ、大丈夫?」


 ―――ネーア?


 ヴァルドの声に続いて、ゾルやネーアの声も聞こえてくる。

 刹那,アレンの目に光が飛び込んで来て、同時に彼らの姿が目に入る。


「……………ふえ?」


「やっと気付いたか」


 カーンが隣で言う。


「お前,さっきの爆発の後,ずっと気絶してたんだぞ?」


 ヴァルドの話によると、アレンは数分程気絶していたらしい。


「それにしても、俺ら良く助かったよな?」


「………え、ええ」


 アレンは、軽く頷くと、辺りを見渡す。

 そして、絶句した。


「え?えええええええええええええ?」


 アレンの眼下に、セレスの町がぽつんと佇んでいた。


「う、浮いてる?」


「浮いてるよ!!」


 突如、ネーアがアレンに駆け寄って来る。


「な、何でオレたち浮いてんだぁ!?」


「わ、判んないよぉ〜!!」


「まさか、オレら……………さっきの爆発で死んじまった!?」


「ええええええええええええええええええええええ?」


 アレンがそう言うと、ネーアは気が動転したように叫ぶ。


「まだ帝国に復讐してねえのに、まだ死ねないよ〜〜!!」


「私だって、この年で死にたくない〜〜!!」


「もうお終いだあああ〜〜〜」



「うるせえよ、このアホガキが……」


 わめいている二人の後ろで、ヴァルドが二人に叱咤しったする。


「死んでるんじゃねえよ、アレン、手前の魔石の力だ」


 ヴァルドの手には、アレンが以前ネーアから貰った魔石が握られていた。


「アレン君から魔石に魔力が感じられなかったのは、ヴァルドさんが持ってたから?」


 ヴァルドは一回、うなずく。


「あれ?何でヴァルドさんがそれを?」


「さっきお前が落としたのを拾った。 

 ネーア、この魔石の魔力をコントロールして、セレスの町に着地しろ」


「はい!」


 ヴァルドがネーアに魔石を手渡す。

 そして、ネーアが魔石に念じると、アレン達の体がゆっくりとセレスの町に下りていった。



                         2



「マジで死んだかと思った…………」


 アレン一行は、無事に町に着地したようだ。


「じゃ、アミノさんを探すね」

   


 ネーアが始動語を低い声で詠唱を始める。

 刹那、大気中の魔力がネーアの掌に集中していった。


「見つけた!!」


「案内しろ」

 

 ヴァルドが言う。


「えっと、私達の後ろ…………」


 ゾルが身震いする。

 アレンとネーアも、背後から殺気を感じ取る。

 三人は、恐る恐る後ろを向いた。  



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


「………………」


 絶叫する三人の前に、血糊の付いた白衣を身に纏ったアミノの姿が現れた。


「なっ、アミノさん、驚かさないで下さいよ!!」


「驚かされたのは私の方だヨ?

 人の顔を見るなり、急に叫び声上げて……………、君ら本当に失礼な奴だネ、

 解剖バラすヨ?」


 銀色に光る解剖刀メスを両手ににぎっているアミノはアレン達を睨みつけながら呟くように言う。


「す、すいません…………」



「そんなことより、被害は?」


 解剖刀メスを自分達に向けて突き立てようとしているアミノに怯えているアレン達を尻目に、ヴァルドが問う。


「とりあえずトロル共は全て駆除しておいたヨ、

 街が少し壊れたが、【エルグランド】の連中のお蔭で被害も難とか最小限に抑えられたしネ……………」


 アミノは目の前で腰を抜かしているアレンからヴァルドに目線を移す。


「…………そうか、済まなかったな、アミノ、感謝する」


「フン、礼を言うなら、私じゃなく、お前らの部下に言いなヨ」


 感謝を述べるカーンに対し、アミノは一行を迎えに来た【エルグランド】のメンバーの方に目を遣り、低く、呟くように言った。

 カーンが、アミノの目線の先を見た。

 そこには、自分達の部下が、「カーン支部長―――――!!」「ご無事でしたか―――――――、支部長!!」などと叫びながら走って来る、【エルグランド】のメンバー達の姿があった。

 

「お、俺には誰も何も言ってくれねえのかよ!!」


 自分には声を掛けて貰えなかったからなのか、ゾルが頬を膨らまして後ろを向く。


「野郎、俺だってそれなりに活躍したんだぞ、帰れ、消えろ!」


 ゾルは小石を蹴りながら小さく呟く。



「――えっ?」


「!?」


 ネーアの悲鳴にも近い声に気付き、ゾルが再び目線を戻す。


「なん………だ?」


 

 走り寄って来るギルドのメンバー数人の列の、一番前にいる男が、音も無く、空間から消失した。

 それに気付き、立ち止まった後ろの数人も、瞬く間に消えていく。


「…………どういう事だよ」


 アレンが小声で呟く。


 そうしている間にも,メンバー達は段々消えていき、最終的に、数十人居たメンバーが一人残らず消え失せた。    



『やあ、また会ったね、アミノファス…………』


「!?」


 アレン一行以外の人間がいなくなった通りに、謎の声が響く。

 

『こいつ等かい?ボクのトロルを退治しちゃった奴は……………』


 アミノが目を細める。


「?! 誰だ!!」


 アレンが叫ぶ。

 すると、その声はこう返してきた。


『ボクかい?ボクはザルエラ、ザルエラ・パルメデス・ドラクレア、科学者だよ』


 刹那、アレンの目の前に巨大な¨闇¨が現れ、そこから白衣を身に纏った男が現れた。


「!?」


「そんな驚かないでくれ給えよ、失礼だよ?君たち」


 アレンは、男―――ザルエラの目から殺気を感じ取った。 

 アミノの物と同等、もしくはそれ以上の――――



「…………お前が、あの人たちを消したのか?」


 アレンが恐る恐る聞く。

 すると、ザルエラはこう答えた。


「消したんじゃない、ボクが捕らえたんだ。

 今は,ボクの中にちゃんと保管してあるよ」


「………保管?」


 アレンがこう言うと、ザルエラはクククと肩を揺らしながらこう言った。



「ああ、そうだよ。

 こいつ等を使って、これから精霊艇の動力を作るんだ」


 顔を顰める一同を尻目に、男は更に続ける。


「まあ、簡単に言うと、さっき捕らえた人間達を¨精霊¨に作り変えるんだよ。

 精霊艇の動力は¨精霊¨、しかし、自然界に生息する¨精霊¨の数はかなり少ないからね、人工的に作らないと足りないんだよ」


「だから、うちのメンバーを捕まえたってか?」


 ゾルがナイフを強く握り締める。


「うん、

 でも、精霊艇を動かすための¨精霊¨がまだ足りないんだ。

 だから、この街をトロルに襲わせて、混乱している隙に、こうやって人間達を捕らえているんだ。

 この街、結構人口多いし、それに、この街にボクの弟が来ているって言う情報を手に入れたしさ………」


 ザルエラは、アミノを睨みつけながら言葉を紡ぐ。



 ――トロルに、襲わせた?


「お前,まさか………」


「帝国の人間か?………………って、言いたいんだろ?」


「……くっ!」


 アレンは刀を抜く。

 それを見たザルエラは、小さく肩を竦め、両手を軽く上げてこう言った。


「待て待て、今ボクを殺したら、中にいる材料まで死んでしまうじゃないか!」


「………材料、だと?」


「ああ、そうさ。

 そうしたら、捕まっちゃった人間も、助け出すことが出来なくなるんだよ?

 それでも、良いのかい?」


 ザルエラは、そう言いながら冷たい目でアレンを睨む。



「ボクだって、君達と遊んであげたいんだけど、これから実験しないといけないから、帰るよ」


 刹那、ザルエラの輪郭が薄くなる。


「待て!!」


「じゃあね………………」


 ザルエラの体全体が透けていく。

 そして、ザルエラはこう言い残し、そのまま煙のように消えていった。

 


『この街の人口の半分くらいの人捕まえちゃったけど、悪く思わないでね………………』


   


 

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