一章 山村
登場人物
アレン・サーペント 魔物を倒し、自分の名を上げるため旅に出た15歳の少年。この物語の主人公。
ヴァルド スノフォール在住のギルド【暗黒の騎士】(ダーク・ナイト)のギルドマスター。村の近くの峡谷でアレンを拾う。
アミノ スノーフォール在住の狂科学者。ギルド【暗黒の騎士】の副ギルドマスターの1人。
ネーア スノーフォールの道具屋の店主の魔法使い。アミノと同じく、【暗黒の騎士】の副ギルドマスター。
一章 山村
〜アルカノス暦 762年 どこかの峡谷〜
魔物を討伐し、自分の名を上げるために故郷を飛び出した少年―――アレンは吹雪の中を彷徨って
いた。
今、アレンは道に迷っている。
旅の途中、方位磁針は狂い、地図も、魔物との戦闘中に魔物の爪の餌食になってしまった。方位磁針は無くても地図さえあれば、なんとかなるのだが、地図まで無くなってしまったら、もう、どこに何があるのかも、どの方角に歩いていけば町や村にいけるのかも分からなくなってまった。しかも、食料も底を尽き、水も殆ど残ってない。
歩いていればそのうち人の住んでいるところが見つかるだろうと、いろんなところを彷徨っているうちに、山の中に迷い込んでしまい、その山を抜けようとしているあいだにもっと奥に入り込んでしまい、いつしか、この吹雪の吹き荒れる峡谷に迷い込んでしまったのだ。
峡谷の河や土は凍りつき、辺りには、朽ち果てた城壁の跡や岩壁や岩盤などに突き刺さった、大砲などの武器のついた飛空戦艦と小型の飛空船の残骸が、彼方此方に点在していた。
アレンは、その峡谷を彷徨っている。
いつになったら、村や集落に辿り着けるだろうか………………………………。いつになったら、この寒い峡谷の出口が見つかるのだろうか………………………………。いつになったら、食事に在りつけるだろうか…………………………。いつになったら、魔物の恐怖に晒されることも無く、安心して暖かいベッドの上で眠りにつくことができるだろうか……………………………。いつになったら、暖を取ることができるだろうか……………………………。
……………………………こんなことになるのなら、こんな旅なんてしなければよかった。……………………………。
(………………………………………でも、いくら町や村が見つからなくとも……………、いくら人を見つけられなくとも……………、いくらこの峡谷で凍え死にそうになっても………………、いくら魔物に襲われて死にそうになっても………………、生きる希望だけは捨ててはいけないんだ……………………!!)
アレンは、今にも倒れてしまいそうな自分の体にそう言い聞かせようとした。しかし、その言葉は、一瞬にしてかき消された。
「ヴォォォォォォオオオオア!!」
「……!!」
目の前に、狼のような形の魔物が、咆哮をあげてアレンに突っ込んでくる。
「くっ………」
アレンは、背負っていた日本刀を抜いて、構える。
「……!!」
刀が重い………
正確には、腕に溜まったアレンの疲労が、刀を重たく感じさせているのだ。
その間にも、魔物はアレンに迫ってきている。
アレンは、刀を振り上げようと腕に力を入れる。
しかし、腕が上がらない。
このままでは殺られてしまう。
………………殺される………………
………………喰われる………………
あの魔物の歯牙が腹を突き破り、臓物を引きずり出し、目玉や筋肉をズタズタにしながら自分を喰い散らしていく様が、アレンの脳裏に浮かぶ。
そこに、さっき魔物の咆哮にかき消された言葉が、アレンの脳裏に浮かんでいた映像を押し退けて再び蘇ってきた。
………………たまるか………………
………………こんなところで………………
………………死んでたまるか………………
………………こんなところで喰われてたまるか………………!!
魔物の鋭い爪が、鈍く、妖しい光りながら、アレンの眼前に振り下ろされる。
それをなんとか避ける。
と、同時に殆ど気力だけで魔物を斬り捨てる。
ズグシャッ…………………
「グァァァギャァァァァァァア!!!」
魔物の断末魔が、峡谷中に響き渡り、その屈強そうな体がアレンの背後で真っ二つになって地面に叩き付けられる。
「………当たった………………!!」
アレンは、息も切れ切れにそう呟くと、刀を鞘に戻し、安堵の溜息を吐く(つく)。
「………ここは……………、危険だな……………。ここを抜け出さないと……………」
この危険な峡谷を抜け出すため、アレンはまた氷河の上を歩き出した。
「………!!!!」
アレンは、背後に何かの気配を感じた。
アレンは、恐る恐る背後を振り返った。
なんとそこには、さっき斬り捨てた魔物の喰いちぎられた姿と、それを踏み潰している、さっきの魔物よりも体が一回り大きい狼型の魔物が牙を剥いて、アレンを睨んでいた。アレンは、勝ち目が無いと思ったのか、逃げ出そうと前を向き返る。
しかし、そこには逃げ道などどこにも存在しなかった。
なんと、アレンの前には、夥しい数の魔物の歯牙が、凄まじいスピードで襲いかかって来ていた。
「…………嘘…………………だろ………………」
魔物の余りの多さに、アレンは驚嘆の声を上げる。
「………もう駄目だ………。
こんな状態で………、これだけの数相手に…………………………勝てるわけが無い……………」
疲労と恐怖と睡魔が、アレンの意識を蝕んでいく。
「……………俺はこのまま殺されるのかな……………………」
瞼が強制的に降りてくる。
アレンの意識が静かに闇に呑まれていく……………。
†
――………………うっ………………
アレンは目を覚ました。
――…………あれ…………?オレはさっき魔物に殺されたハズ………………
アレンは、起き上がり、周りを見渡す。
―ー………………………………どこ…………………………………だ………………ここは…………………?
アレンの周りには、広大で、何も無い漆黒の世界が広がっていた。
――………………ここが………………死後の世界って奴………………………か…………?
――………………オレは、…………やっぱり殺されたのかな………………?
――………………とりあえず…………、出口……………探すかな………………………………ってか………、出口あるのかな………………
アレンは、歩き出す。
――………………この先には………………、出口……………ちゃんとあるかな……………
―ー………………オレ以外に………………、人いるかな……………………
「……………………い………………」
何処からか、男の声が聞こえてくる。
「……………………い………………、………………………………か………………?」
――………………誰かいる…………………!!
アレンは、その声の聞こえてくる方向へ向かって走る。しかし、走っても、走っても、その声の主は現れない。
「………………………おい……………、……………聞こえてんのか…………………!!」
その男の声は、奔れば奔るほど、より大きく、より鮮明に聞こえてくる。アレンがその声の主に近づいているのは確かなのだが、その声の主は、一向に現れない。
アレンは立ち止まる。
――…………………おい………!!……オレはここに居るぞ!!
アレンは、そう叫ぼうとする。しかし、声が出ない。声が喉の奥から上がってこないのだ。
「………おい……、聞こえてんのか……………………!!おい………!!」
――………………この声の主を探すしかないか……………
アレンは声の聞こえる方向へまた走り出した。そこで、アレンは走っているうちに、だんだん体が軽くなっていくのに気づいた。
アレンは下を向く。
――…………!!!
アレンの体が、宙に浮いている。
――……………えっ…………?
「……おい、ボウズ!!聞こえるか!!大丈夫か……!!」
気づくと、アレンはその声のする方向に凄まじい速度で吸い込まれていっていた。
――……何なんだ……!?
アレンは、吸い込まれていく方向に、光を見つける。そこからあの男の声も聞こえる。
「おい、ボウズ!!おい!!」
――…………光だ…………!!…………あそこに人もいる…………!!
そこから、アレンの意識が肉体から剥がれ、そのまま剥がれた意識のみが、光に吸い込まれていった。
†
「おい!!起きろ!!」
「……………んあ??」
アレンは、目を開ける。
「お………、やっと起きた………」
アレンは、気づくとベッドの上で寝ていた。さっきの声の男の安堵の声がとなりから聞こえる。
「………あれ………どこだ………ここ……………?」
アレンは横を向く。そこには、20代ほどのクールそうな男が椅子の上にすわっていた。
「……あなたは…、誰ですか…?」
アレンは、その男に尋ねる。
「…あ?俺の名か………?俺はヴァルドだ」
その男―――ヴァルドは気障っぽい口調で答える。
「ボウズ、お前、名前何て言うんだ?」
「あ………、オレは、アレンです。アレン=サーペントです」
ヴァルドの問いに、アレンは答える。
「サーペントォ……?どっかで聞いたことあるような名だな………。まあ、いいや。で、なんでお前峡谷にいたんだ?普段、あそこには魔物以外に来るやつなんかいやしないのに………」
アレンは、これまでの経緯をヴァルドに話した。
「成る程な………。それであんなとこで魔物に喰われかけてたんだな………」
「……ええ、もう死んだかと思ってました。あなたが助けてくれたんですね?ありがとうございます……!!」
アレンは、ヴァルドに礼を述べる。
「………別にいいさ」
ヴァルドは、相変わらず気障な口調で答える。
「アレン…………、だったな……?」
「…は、はい……」
「お前、魔物共を討伐して、自分の名を上げたいんだよな?」
「…ええ」
ヴァルドの口元が笑う。
「だったら、俺らと一緒に組まねぇか?明日から、俺と俺のギルドのメンバーとで、旅に出るんだが………」
そう言うと、ヴァルドが引き出しの中を物色し出した。
――ヴァルド………、ギルド………、なんか引っかかるな…。
アレンは、ヴァルドの話を聞いて何かを思い出しかけていたのだが、思い出せず、少しイライラしていた。
「……ん〜と、どこやったかな………」
ヴァルドは、まだ引き出しに頭を突っ込んでいる。
「…………あの…、何て言う名前のギルドなんですか…?」
アレンは、引き出しに頭を突っ込んだままのヴァルドに聞く。
「………っと、あった、あった!!…っとだな、こういう名前のギルドだ。そこの紙に署名したら俺にその紙を渡してくれ」
ヴァルドが、アレンに一枚の紙とペンを手渡した。
「そんだけ、おしゃべりできるなら、もう体は大丈夫だろう。そこのテーブルで書け」
――…どこにそんな根拠があってそんなことを…
アレンは、そんなことを思いながら、まだ痛む体を引きずりベッドから出て、テーブルに向かいつつ、その紙を見た。
ギルドの契約書だった。
「……え?」
その紙に書いてあった、ギルドの名前を見て、アレンは一瞬凍りついた。
―――ギルド名、暗黒の(ダーク)騎士―――
その名前は、どこかのギルドに所属している人間なら、だれでも知っている、有名なギルドの名だった。
――……そうか……!!ヴァルドって、暗黒の(ダーク)騎士のギルドマスターの名前じゃないか………!!
「なにボケっと突っ立っている。さっさと書いてくれ」
ヴァルドが急かす。
「……えっ、ほんとにいいんですか?」
「あ?何がだ?」
「………いや、こんなギルドに入れてもらって………」
アレンは、少し動揺しながら聞く。
「いいから契約書出してやったんだろうが…」
「…で、なんでオレなんかを……」
「面白そうだから」
ヴァルドは、アレンの質問をこの一言だけで片付けた。
「…書きましたよ」
「よし、じゃあ、これからほかのギルドメンバーに会わせてやる。ついて来い」
ヴァルドは、ギルドの契約書をアレンから引っ手繰ると、契約書をさっきとはまた別の引き出しにその契約書を突っ込んで外に出た。
「なにタラタラしている。早くついて来い。俺ぁグズは好きじゃねぇんだ」
「……あ、待ってください………!」
「なんだ…?」
「ここ一週間、何も食べてないんです。なんか食わせてください」
「…………ついて来い。なんか食わせてやる」
アレンは、ヴァルドを追いかけて外に出た。
†
―――数分後―――
アレンは、地面に積もっている、雪に足を取られつつ、ヴァルドを懸命に追いかける。アレンは、あまりなれていない雪に四苦八苦している。だが、アレンは、久々に腹がいっぱいになるまで食事を取れて、少し上機嫌だ。(そのせいで、ヴァルドの財布がガリガリに痩せ細り、ヴァルドが不機嫌になっているのは、アレンには内緒である。)
「ヴァルドさん、そういえば、この村はなんて名前の村なんですか?」
アレンは聞く。
「………着いたぞ」
ヴァルドが、一軒の家の前でいきなり立ち止まる。しかし、アレンは、急に止まれず、思いっきり雪で滑ってこけてしまった。
「…あいたたたたたたたたたた………」
「……何してんだ……」
ヴァルドは呆れたような口調で言う。アレンは立ち上がる。
「おい!おい!アミノ!!居るのか?」
ヴァルドはその家の扉を叩く。
――これから会う人は、アミノって人なんだな……
「入るぞ!!」
アミノの家には、鍵が掛けられていなかった。
「来い、アレン」
ヴァルドは、ズカズカとアミノの家へ入っていく。
「……あの、さっきの質問には答えて………」
「……ここは、スノーフォールって村だ」
ヴァルドは、アレンの質問に答える。
「ついて来い。……アミノのやつ………また研究室に閉じこもってんのか…ったく……あの狂科学者が………」
「…えっ?………あ、待ってください!……狂化学者って……………?」
「………会えば、分かるさ…………」
それだけを言い残し、ヴァルドは薄暗いアミノの家に消えて行く。アレンもそのあとに消えていった。
アレンとヴァルドは、地下へと繋がる石畳の階段を下りていく。階段の下からは、何やら嫌な気配を感じる。しかも、外よりも気温がかなり寒い。
「…ここ、寒いですね……」
「…んああ、いつもの事だ」
ヴァルドは冷静に答える。
――……狂科学者って………どんな人だろ………
アレンは、少し…………、いや、かなり不安げに階段を下りてゆく。
「……ここが、アミノ(やつ)の研究室だ」
ヴァルドが、えらく厚そうな、大きい扉の前で立ち止まる。ヴァルドは扉を開ける。その瞬間、おぞましい魔力に混じった血の匂いが、凄まじい速度でアレンの鼻へ吸い込まれて行く。
「………ゲホっ……ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ…………なっ………なんだ………この匂い…………!!!」
その匂いが、嗅覚を破壊せんとばかりに、アレンの鼻の神経を刺激する。
「アレン、大丈夫か……ゲホっ。ここに初めて来るやつはいっつもそうやってなるんだ………ゴホっ……。」
ヴァルドも、この匂いには慣れていないらしく、かなり咽ている。
「………さて、アミノはどこにいるかな…」
ヴァルドは、研究室の奥へと侵入して行く。アレンもそのあとをついて行く。
「……!」
アレンは、何かに躓いた。だが、ヴァルドはアレンが躓いたのに気づかない。アレンは足元を見る。
「………ひぃ!!」
死斑の出た、人間の死体だ。なんと、アレンの足元には人間の死体が転がっている。
「………ひっ……?……ひえぇ…………!?」
アレンは、その場で腰を抜かす。
「おやおや、私の実験体を蹴っておいて、謝りもしないなんて…………、そんなに私の実験体のコレクションにされたいのかネ…………ククククククククククク…………………」
「……!」
奥から不気味な声が聞こえてくる。
「………誰だネ……君は………」
その声の主は、恐ろしい程邪悪な魔力と血の匂いを纏いながら、研究室の奥から現れ、恐ろしい目つきでアレンを睨みながら、にじり寄って来た。蛇の胴体のような質感の腕と、魔物のような眼。その人間と魔物を混ぜた合成獣のような姿もさることながら、手に持っている、血糊がべったり付着している解剖刀がアレンをさらに恐怖のどん底に突き落としていく。
「あっ、……あああああの、ヴァ、ヴァ、ヴァルドさんの、お、おおお、おおオトモダチで、ででで。そうDEATH…………」
アレンは、かなり動揺している。
「ホウ、餓鬼………、ヴァルドのオトモダチなら、勝手に私の研究室に入っても良いと言うのかネ……?」
その男(多分アミノ)の握っている解剖刀が、妖しく光る。
「い、いいい、いいいいいいいいいいいえ、め、めめめめめめ、滅相も御座いません!!!ああ、あぅああああああああああああああぅああああああ貴方様の言うとおりで御座いますうううううううううう!!!」
アレンは、明らかに動揺している。(まあ、こんな状況なら、普通そうなるだろうけど………。)
「あ、ああああああああの、ヴァ、ヴァヴァヴァアッヴァヴァヴァヴァルドさんは………?」
アレンは、かなり動揺しつつ、聞く。
「ヴァルドだぁ?来てないヨ…………。で、わたしの言うとおりなのだと言ったネ?………じゃあ、私の研究室に無断で入ったことの報いを受け給えヨ………?」
男は、どこからか、注射器を取り出す。
「……餓鬼……、強くなりたいかネ……?」
「………えっ?」
「……じゃあ、君を改造してあげようかネ………。ククククククク………」
「……字が違ーーーーーーーーーーう!!!」
アレンの絶叫など気にもせず、男は注射器を掲げて近づいて来る。
「……なに、遠慮は要らないヨ……」
「ひっ…………、ひいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」
注射器が、アレンの腕に差し込まれる。
「…そのガキは、確かにお前の言うとおりだとは言ったが、誰も改造してくれとは言ってないぜ……アミノ」
そこに、ヴァルドが現れた。
「ヴァルドさん!!!」
アレンが、安堵の声を上げる。
「いままで何処居たんですか!?」
「……そこの落とし穴に落ちた。ほら、そこ」
アレンは、ヴァルドの指差す方向に目をやる。そこには、ぽっかり大きな穴が口を空けていた。
「チっ……、居たのか、ヴァルド……。あれは、落とし穴じゃないヨ………。この間魔法の研究で、魔法で空けてしまった穴だヨ……」
アミノが、ヴァルドを睨みつつ、あの穴の空いた原因を説明する。
「……で、この餓鬼は何だネ………」
アミノがアレンを睨みながら問う。
「…んああ、昨日拾ってきたって言っていたガキだ」
ヴァルドが説明する。
「………あ、ああの、アレンって言いま………」
「餓鬼……で良いだろ………?」
アレンの自己紹介が、アミノの毒舌で一蹴された。
「………」
アレンは、俯く。
アレンは、アミノの研究室を見回す。
棚には、人間の手や足や、ホルマリン漬けの人間の臓器や、頭部、まだ臍の緒の付いた赤子(その臍の緒は、用途不明の機械に繋がっている。)が。作業台の上には、性別も、人間すらも分からないほどにばらばらにされた死体が横たわっている。
「…で、本題に入るが……」
ヴァルドが、しゃべりだす。
「アレンをうちのギルドに入れた。無論、明日の旅にも連れて行くつもりだ」
「話はそれだけかネ……?」
アミノが立ち上がる。
「話が終わったなら帰ってくれ給えヨ。私は忙しいのだヨ……。別にその餓鬼連れて行こうが焼き殺そうが私には関係ない。はあ、実験したいネ………。解剖したいネ………。分裂させたいネ………そこの餓鬼………」
アミノがまた、殺意を込めた眼でアレンを睨む。アレンは、寒気を感じる。
「……じゃあ、そろそろ次行くか。すまんな、アミノ。邪魔して」
ヴァルドが、研究室から出る。
「…………今度ここに来るときは、3,4体ぐらい死体を持って来い…………餓鬼ィ………!!」
「はっ、はいいいいいいいいいい!!!」
アレンは、慌ててヴァルドのあとを追いかけていった。
†
「ヴァルドさん……」
「………なんだ?」
「………次会う人は、まともですよね???……少なくとも、さっきみたいに危ない人じゃあないですよね………?」
アレンは、恐る恐る聞く。
「…あ?会えば分かるさ……」
ヴァルドは、適当にアレンの質問に答える。アレンは、うろたえる。
「…さて、次はここだ。ここの店員だ」
ヴァルドは、ある所で立ち止まる。そこは、道具屋だった。
「入るぞ、アレン」
アレンは、恐る恐る扉を開ける。
「―――いらっしゃい!!」
アレンの前に現れた店員は、さっきまで想像していたアミノみたいなのではなく、ごく普通の少女だった。
「あっ、ヴァルドさん!あと、隣の人はだれ?」
(よかった………!!普通で………!!)
アレンは、安堵の溜息を吐く。
「ああ、こいつか?昨日言っただろ?拾ってきたガキの事
「うん」
「その現物がこれだ」
ここでアレンは、人生で初めて、物扱いをされた。
「……アレンです」
「アレン君ね。わたしはネーアって言うの。よろしくね」
少女―――ネーアは、ニコニコしながら言う。
「こいつをさっきギルドに入れてやったんだが………」
「えっ????ほんとぉにぃ?旅には連れて行くの?」
ネーアが目をキラキラさせながら、ヴァルドに歩み寄る。
「ああ、連れて行くさ」
ヴァルドが面倒くさそうに答える。
「わーい!!やっと同年代の人がパーティーにはいってくれた〜!」
「……適切に言うと、俺が強制的に入れたんだがな」
ヴァルドが言うと、アレンは苦笑する。
「ところで、ネーア、ちょっと買いたいものがあるんだが……」
「薬なら、わたしが買っておくわよ」
「そりゃあ助かるね。あ、そうだ、それから………」
―――5分後―――
ネーアは、ヴァルドとのやり取りを終えると、ずっと放置されていたアレンの方を向く。
「ねぇねぇ!アレン君って、年いくつなの?どこから来たの?どうやって来たの?好きな食べ物は?お友達何人くらいいるの?家の住所は?てか、君名前なに?」
アレンは、ネーアの質問攻めに四苦八苦している。
「え、えっと、年は15で、アルメスから徒歩で来て、好きな食べ物は……、パンかな……。友達は4,5人くらいで、住所は覚えてない………。んで、名前はアレンです。………えっと、それから…………」
アレンは、とりあえず質問全部に答えた。それから序でに、家族構成から、自分の家の間取りから、聞かれていないようなことも片っ端から答えてやる。
「………んっと……、年は同い年で、アルメスって、ここと変わらないくらい田舎ね。で、そんなところから徒歩でこんな所まで来たの?で、…………え〜〜っと、好きな食べ物はパンで?え〜〜と、え〜〜と………」
アレンのこの質問攻め返しに、ネーアも混乱してしまっている。
「……まあ、わたしと同い年の人がパーティーに入ってくれて本当によかった。ヴァルドさんはあんなのだし、アミノさんとは話す気にはなれないし………、あ、そうだ、これあげるよ!」
「……え?なにこれ?」
ネーアは、どこからか、黄色く輝く石を取り出し、アレンに手渡す。
「見たこと無いの?魔石よ」
「……魔石ぃ?」
「そうよ。これを武器に埋め込めば、その武器の攻撃範囲や威力が上がるし、身に着けておけば、攻撃を受けたときに防護のシールドを展開してくれたり、魔法を使うときに消費する魔力の消費を抑えたりできるの。あと飛空船のエンジンや機械類の動力源に使われているのよ。いくらアルメスが田舎だからって、魔石機関の機械とかあるでしょ?」
ネーアは、訝しそうな顔で聞く。
「……ふぇ?魔石機関?なにそれ?」
アレンは、首を傾げる。
「え〜〜〜〜〜〜?見たこと無いの?飛空船とか?」
ネーアは、驚嘆する。
「……ま、まあいいわ。旅の途中で見ることができるから。
あ、でも注意!魔石には、傷とか付けたりしちゃ駄目だからね。下手したら魔石の魔力が暴発して、爆発起こすから」
「………爆発………???」
アレンが、口をあんぐりと開けて驚く。
「ま、だから、取り扱いには気をつけてね。……って言っても、落としても防護シールドが展開して傷なんか付かないけどね。あ、ちょっと貸して」
ネーアは、糸を取り出し、魔石に重ね、なにやら呪文のような言葉を詠唱する。刹那、魔石と糸が光を発し、糸と魔石が融合していく。
「………すげえ〜」
それを、アレンは感心したように眺める。
「はいっ、できた」
ネーアは、魔法で魔石のペンダントを作っていたようだ。
「ありがとね。大事に使わせてもらうよ」
アレンは、首に魔石のペンダントを掛ける。
「すごいな。魔法でこんなもの作るなんて………」
「そんなにすごくないよ、魔石のおかげで、魔力の消費抑えられたし、楽に出来たわ。まあ、これがあれば、少し勉強すればアレン君にも魔法使えるようになるよ」
ネーアは、ニコニコしながら話す。
「おい、アレン、ついて来い。もう日が暮れる」
ヴァルドが、扉の外から戻ってくる。
「明日は早い。もうそろそろ宿屋に行って寝てろ。これから宿屋に案内する。いくぞ」
ヴァルドが、また外に出て行く。
「じゃね!アレン君」
ネーアが手を振ってくる。アレンも手を振り返し、ヴァルドについて外に出て行く。
「もう予約は取っておいた。飯食ったらさっさと寝るんだな。宿屋は、あの建物だ」
ネーアの道具屋の外でそう言うと、ヴァルドは、自分の家の方向へ歩いていく。
「……じゃあ、また明日」
アレンもヴァルドにそう言うと、宿屋へと歩いていった。