序章 城塞
序章 城塞
〜アルカノス暦 752年 タニアレン王国領 タニアレン城〜
「―伝令……!!」
「どうした………!」
タニアレン城に突然伝令が飛び込んできたのは、真夜中の1時ごろだった。
「…………シルベスタ帝国軍の侵攻により……、フォレスディア王国が………滅亡しました……!!」
「………何?」
突然の伝令に、城内にいる人間に、旋律が走る。
「帝国軍は、フォレスディア王国領から進路を変え、タニアレン城へ進行中!!あと2時間ほどでグラン城塞へ到達します………!!」
「………わかった。下がってよい………。」
タニアレン王、ジャン・ルイス・タニアレンは、伝令にそう告げる。伝令は王に一瞥し、後ろに下がる。
「………陛下!すぐに飛空戦艦をグラン城塞に集結させ、帝国軍を迎え撃つべきです!!」
タニアレン王国軍、先攻工作部隊隊長のバース・シアンが王に申し出る。
「……うむ……では、…………、」
「俺が出よう。」
一人の顎鬚の生えた若い男が、国王の前に飛び出してくる。
「……うむ、ロエル将軍か………。」
「陛下、私がグラン城塞に出て帝国軍を迎え撃ちます。」
ロエルと呼ばれたその男は、国王の前で跪き、自分が出ると申し出る。
「……だが、あのフォレスディア王国を滅亡させたほどだ。かなりの数の艦隊であろう。……帥には第8艦隊と、戦艦ヴァルキリーを授ける。バースの部隊を率いてグラン城塞へ赴き、帝国軍を蹴散らして参れ。他の部隊も、城の警備をする部隊を除き、第8艦隊に続け。これ以上帝国に好き勝手させてはならぬ。」
「御意。」
ロエルは、そう言うと、自分の軍隊とバースの部隊を連れ、飛空船のドッグへ歩きだした。
「……ここで、帝国軍に杭を打っておかなければ…………!!ロエル将軍、……生きて還るのだぞ!!」
国王は、ロエルの無事を祈りつつ、衛兵と共に避難していった。
†
〜アルカノス暦 752年 タニアレン王国領 国境付近 グラン城塞上空〜
ロエル率いる、第8艦隊と、国王の部隊は、グラン城塞へと辿り着いた。ロエルは、戦艦ヴァルキリーの指令室にいた。
「……この戦い、地上戦になるかもしれん。兵達に、武器の準備をするように伝えておけ。」
「仰せのままに。」
ロエルは、兵長に指令をする。
「―伝令!!帝国の艦隊と歩兵が現れた模様です!!」
「やはり、帝国軍め、地上戦と空中戦の両方で来たか!もう歩兵は降ろしてあるのだな?」
「はい。歩兵は先ほど小型機でグラン城塞に向かわせてあります。」
伝令役の兵士はそう告げる。
「よし、それではこれから帝国軍艦隊に突撃する!!」
ロエルの命令で、第8艦隊と戦艦ヴァルキリーが帝国の艦隊の方向へ動き出す。
帝国軍の艦隊も、第8艦隊の動きを察知したのか、迎撃体制に入る。
「全門斉発!撃方始めッ!!」
戦艦ヴァルキリーのすべての大砲が、帝国軍の戦艦に向けられた。その砲身から、無数の魔力を帯びた砲丸が一斉に打ち出された。帝国軍の艦隊の彼方此方で砲丸を受けて火達磨と化した戦闘機が流星の如く帝国の艦隊が展開しているところの下の谷底に落ちて行く。
「うむ、これで帝国(向こう)の艦隊はかなりのダメージを負った筈だ。よし、全艦へ伝えろ!我等、第8艦隊はこのまま帝国艦隊へ突撃する!」
ロエルの顔に勝利の笑みが浮かぶ。
「―ロエル将軍!!」
そこに1人の兵士が指令室に入ってくる。
「どうした!?」
「………はぁ………地上に配置した歩兵部隊が………ふぅ………、全滅!!あと、グラン城塞に………ひぃ………駐在していたロスクリー将軍の部隊も………はぁ………壊滅状態に陥っています!!!」
兵士が、息も切れ切れに状況を説明する。この兵士は、ロエルに援護を求めるべく、下の城塞から逃げ帰ってきたようだ。
「分かった。私が城塞に赴く。他の者は私について来い。」
「ロエル将軍!!ロエル将軍!!!」
「……なんだ!?」
また兵士が、指令室へ入ってきた。
「ん?お前は……陛下の衛兵じゃないか………!なんで此処に…………。」
なんと、指令室に入ってきたのは、タニアレン城で国王の周りを警備している筈の衛兵だった。鎧には、返り血や刀で斬られたような傷が付いている。
「……おい!城で何があった!!陛下は…………陛下は無事なのか…………?陛下は無事なのか………?」
ロエルは血眼になって、衛兵を問い質す。
「…………ロエル将軍が第8艦隊を引き連れて城を出てすぐ、帝国軍の兵士を引き連れたジャスティス共が…………、陛下を……陛下をぉぉぉ!!」
「………なんだって?そんなバカな………、別働隊が………、しかもジャスティスが………!他の艦隊や将軍達が残って居た筈だろ………?」
「……他の艦隊は、全て帝国軍に制圧されてしまいました………。私は、そのことを将軍に告げるようにと………それから、早く逃げるようにと陛下の最期の指令を遂行するために………ここまで飛空船で飛んできたのです………!」
「―なんだって…………!?」
ロエルは、この訃報を聞き、顔に怒りの表情を露にする。
「………おのれ……帝国ッ………!!陛下を………陛下をォォォォォォォォォォォ!!
………許さん!!帝国め!!許さんぞォォォォォォ!!」
ロエル、そして戦艦の兵士は、目から涙を流しつつ、国王ジャンの死を悼む。
「………許さないッ………!!この陛下の無念………3倍にして帝国に返してやるッ!!無線機を寄越せ!!」
下級兵士が無線機を持ってきた。ロエルはそれを引っ手繰る。
「全艦に告ぐ!!我等が城を発った後、タニアレン城がジャスティス共に奇襲を受け、ジャン国王が崩御された。今残っている戦力……、いや、タニアレン城の人間は、恐らく我等第8艦隊の我等のみだ。しかし、この第8艦隊には、5万の兵力がある。このまま帝国に攻め込んでも十分戦えるであろう。この戦力で、我等の前の帝国軍を…………シルベスタ帝国を滅ぼし………、陛下の悲願を我等で達成するのだ…………!!」
ロエルの涙の怒号で、第8艦隊の士気が一気に上昇する。
「これから帝国艦隊への突撃を試みる。目標、帝国軍重巡……!!」
ロエルの声。刹那、ヴァルキリーが帝国艦隊へ向けて移動を始めた。そのほかの重巡、軽巡の戦闘機なども、それに続き、帝国艦隊へ向けて飛んで行く。
「突撃ィ!!」
軽巡の戦闘機が、帝国艦隊、特に重巡目掛けて銃弾を撃ちながら突入する。帝国の重巡の艦数隻が、炎を上げ、眼下の峡谷へ墜落して行く。そこに帝国の軽巡が応戦に出てきた。
「よし、軽巡!後退せよ!!」
ロエルの指揮で、軽巡の戦闘機が恐ろしいスピードで引き返してくる。帝国軍は、深追いはしてこない。
「……帝国艦隊の重巡の艦はかなり撃沈したようだな!!」
ロエルの適切な指揮で、帝国艦隊の重巡の半分は撃沈していた。
「ロエル将軍!前………前を…………!!」
兵士は、ロエルに前を見るようにと促す。
「どうした?」
ロエルは前を向く。
「……なっ……なんだあれは………?」
ロエルは、驚嘆する。なんと、ヴァルキリーの前には、ヴァルキリーより一回り大きい戦艦が鎮座していた。
「ばっ……馬鹿な………、さっきまであのような戦艦は居なかったぞ………?む?……あの光はなんだ……?」
なんと、その戦艦の先端部分が、眩いばかりの光を出している。刹那、その光から、一筋の光線のような物が放たれた。
「―なっ………!!」
光線が、戦艦ヴァルキリーを貫いた。
「第1エンジン、やられました!!」
「なっ、なんだと……?」
主力となる、魔石機関のエンジンが破壊されたため、戦艦が少し傾いた。
「……すぐに魔石機関の復旧作業に係れ!!第1エンジン無しじゃ帝国には勝てんぞ!!」
ロエルの怒号が、ヴァルキリーに響きわたる。
「将軍!!またあの光が!!しかも、さきほどの物よりも強い光が………!!」
「何ィ……?」
またその戦艦の先端が光を纏っている。
「―さっきより光が強い………、あれからさっきのような光線が出てきたら………!!嫌な予感がする…………!!」
そのとき光線が、しかもさっきの物より大きく、鋭いものが発射される。
―シュルルルルル………
その光線は、さっきの物より凄まじい速度で、轟音を立てつつヴァルキリーに迫ってくる。
刹那、ヴァルキリーが、光線がぶつかる恐ろしく大きい音と、地震が起きたかのような揺れに見舞われた。
「―魔石が逆転し出したぞ!!」
「-1000!!-2000!!-3000!! まずい!!第2エンジンの出力がっ……!!」
戦艦の乗組員が、計器を睨みながら叫ぶ。
「どうした!?」
ロエルが、慌てている乗組員に問いかける。
「先ほどのショックで、第3エンジンが崩壊……。第2エンジンも、先ほどの光線の高濃度の魔力を吸い込み、魔石が逆転を始めた模様!!……魔石が臨界を越え、複合崩壊を始めました……。このままでは………、魔石が暴走し、爆発してしまいます……!!」
ロエルの嫌な予感は的中した。
「どうにか成らないのか………!!」
しかし、そのときには、もう遅かった。
エンジンの方から、恐ろしい量の、目に見えるほど強大な魔力が司令室に流れ込んできた。その魔力は戦艦ヴァルキリーを、そして、グラン城塞と帝国艦隊を包み込む。
―ギィィィィィィィン………
エンジンが恐ろしいほど高く、これまでに聞いたことの無いような高音を上げる。
「……まずい!!魔石が………!!」
エンジンの方から、閃光が迸る。
「……くそ!!陛下の無念………、晴らすことが出来なかったか………!!」
戦艦ヴァルキリーの全パーツが、第2エンジンの魔石に引き込まれ、圧縮されていく。刹那、ヴァルキリーが蒼い炎と化した魔力を纏い、爆発を起こす。
その爆発は、第8艦隊を、帝国艦隊を、城塞を………ヴァルキリーの周りのもの全てを飲み込んでいった。