第一話 ~少女の秘密、エルミタージュ ☆彡
新章スタートです☆彡
池上 紗耶香、16歳。
成績優秀なクラス委員。
縁の薄いメガネの奥から覗く、ぱっちりとした二重が印象的な美少女。
そんな彼女は黒絹の髪を靡かせて、今日も朝一番に教室へと飛び込んだ。
誰もいない教室には机の木目が硬質に朝陽を弾く。
それは、静寂な空気とあいまって人を寄せ付けない雰囲気を醸し出す。
だが、窓際の後方の席。
そこには…今日も彼が居なかった。
”彼”が失踪、行方不明となってから半年が経つ。
その日から少しも変わらぬ光景に、少女がこぼした溜め息が朝の清冽な空気の中に霞となり溶けた。
いつからだろうか。
“彼”が気になり始めたのは。
まつ毛が長いな、とか。
指が細長くて、白くて、桜色の爪が綺麗だな、とか。
いつも弄っている携帯と、電話する時の携帯がなんで違うのだろうな、とか。
それらがとても気になりすぎて。
目線がその幼さの残る顔に留まっていると……、
時に仲の良い友達から意味深な笑みを向けられ慌てて背けたり。
でも、また視線が引き寄せられて、結局、後でからかわれたりもして。
けれど、“彼”は気がつかない。
何故なら、携帯の中の「世界」に夢中だからだ。
さりげない様子を装って確かめた所、「スペルマスター」というゲームだと分かった。
自分でも少しだけやってみたが、馴染めなくてたまにINするだけになってしまった。
またある時は“彼”を題材に薄い本を同人即売会で発表した事もある。
どSメガネな乙女ゲーのキャラ、日向君が女装した彼を攻めるシチュエーションのシナリオの中で
まるで乙女の様に瞳を震わせた姿の”彼”をあらゆる角度から描いた。
描けば描くほど。熱を帯びた情念が胸の奥底から湧き上がって止まらなくなる。
少女の少し歪つな恋心。
それは彼女だけの秘密、エルミタージュ。
(ソナタ君……。貴方は今、どこにいるの?)
その…はずだった。