最終話
デュアリスをしばらく走らせていると、目的の建物が見えてきた。灰色のコンクリートで建てられたら円形のここは、異様な雰囲気がある。何度見ても気味が悪いと、くわは思った。
建物の前にデュアリスを停めると、刀を持って降りた。目の前にはあさみが乗せられたらと思われるデュアリスが、ドアが開いた状態で停まっている。
「待ってろ」
そう呟いて、建物の中に入った。
通路を進んで行くと、懐かしい円形の広場に出た。左右に黒いガラスに囲まれ、ガラスの奥は見えないが、視線を感じる。
「くわ!」
あさみの声にハッとした。声がした方を見ると、あさみが吊られていた。
「待ってろ、いま助ける!」
「くわちゃん、ゲームだと言ったろ」
咄嗟に声がする方に刀を投げた。刀はガラスに弾かれて虚しく転がった。ガラスの向こうにはあの男が煙草を吹かしながら立っていた。
「すんなり助け出せる訳ないだろ」
入ってきた通路が閉じられ、反対側の通路から刀を持ったサイボーグが十人現れた。
「さあ、六号! 久しぶりに楽しいショーをやろうじゃないか!」
男の笑い声が広場に響き、十人の男たちが刀を抜く。
「くわ、逃げて!」
あさみが泣きながらそう言った。
くわは、転がった刀を拾いながら、
「大丈夫、絶対に助け出すから」
なかば、自分に言い聞かせるように言った。五人の男たちが刀を抜いた。
「無理だよ。死んじゃうよ」
あさみの涙声を聞きながら、深呼吸する。
一人が斬りかかった。くわは、それを防ぐと、残り四人が一斉に斬りかかってきた。
上から。左から。右から。斜め上から。
ありとあらゆる方向から刀が迫ってくる。防ぐのがやっとのくわは、考える間もない。円形に広がったこの場所に隠れる場所もない。そして、相手は五人。完全にくわが不利だ。
だが、やるしかない。
振り下ろされる刀が見えた瞬間に、その男にタックルした。不意をつかれた男は倒れ、男の腰にあった短刀を抜いて、喉を斬り裂いた。
くわは、横に転がって距離をとったつもりだったが、起き上がる隙をつかれて、顔に蹴りを喰らって吹き飛ぶ。
手で鼻血を拭うと、短刀をしっかりと握った。
二人が斬りかかる。それを横に転がってかわすと、振り下ろされる刀を刀で防ぐと、短刀で鳩尾を突き刺す。その隙をつかれて、背中を斬られた。痛みを耐えながら刀を振って威嚇する。それから今度は攻撃に移る。
刀を振るが防がれるが、短刀で脇腹や腕を斬っていく。血が吹き出し、浴衣に飛び散る。とどめを刺す為に、刀を横に振って首を斬りとばす。
「くわ!」
あさみの声が聞こえたと同時に背中を刺された。腹から刀の先端が飛び出している。口から血を吹き、短刀を振り返りざまに目を突き刺した。
それから背中に刺さった刀を抜いて、二刀流になった。
左から振り下ろされる刀を防ぐと同時にもう片方の刀で喉を突き刺すところで床に手をついた。
「大丈夫!? くわ!」
上からあさみの声を聞こえ、くわは血を吐き出して手で拭う。
「いやー、凄いショーだ」
男が拍手しながら出てきた。
「ただの殺戮には飽きた。これこそがエンターテイメントだ! 命のやりとり。彼女の為に命をかける! 感動的だね」
くわは、刀を使って立ち上がる。
「彼女を放せ」
「あー、そうだったな」
男はスーツの懐に手を入れて、イタリアのベレッタ90-TWOを取り出す。すると、銃口をあさみに向けた。
「やめろ!」
銃声が響く。
しかし、撃たれたのはあさみではなく、吊していた紐だった。紐がなくなったあさみは、そのまま床に落ちる。あさみは目をぐっと閉じて死を覚悟した。
でもいつになっても衝撃もなく、痛みもなかった。恐る恐る目を開けると、くわが下敷きになっていた。
「くわ」
下敷きになったくわが、咳をしながら出た。そこであさみはくわを抱き締めた。
「バカ。心配したよ」
くわは、あさみの温もりを感じながら身を任せた。
「人斬りがね」
苦笑いしながらベレッタを構えた。くわの頭に照準を合わせて。その瞬間、彼の目に光る物が映った。そして、彼は引き金を引く事なかった。彼の額には人工血液がべっとりついた刀が突き刺さっていたからだ。
くわは、ようやく安堵の溜め息を漏らした。これで全てが終わった。長かったように思えたが、終わってみるとあっという間に感じた。
「もう終わった」
くわは、優しくそう言って泣いているあさみを安心させた。
「帰ろう。君の帰る場所に」
「一緒にだよ」
「え?」
あさみは涙を拭きながらくわから離れ、
「一緒に家に帰ろう」
笑みを浮かべながらそう言った。初めて会った窓越しに見たそっくりだった。あの笑顔と。
酷い文ではありますが、最後まで読んでいただいてありがとうございます。最後の空想科学祭という事で、参加して悔いはありませんが、自分に対してとても悔しいです。あっ、あとは評価のレベルをもっと下げれば良かったと後悔してます。