第4話
最後の花火が打ち上がり、名残惜しいように花火の音がこだまする。その音を目を閉じて聞いていると、急に肩が重くなった。見ると、あさみが肩に頭を乗せて寝息をたてていた。疲れが溜まっていたのだろう。
起こさないようにゆっくりとあさみをだっこすると、階段をおりて建物を出た。
建物の外は暗く、静まり返っている。風が吹くと、草が音を立てて揺れる。本当に静かだ。
その中を起こさないようにゆっくりと歩いて、家に向かった。あさみの寝顔を時折見ながら。
突然、後ろの木から鳥が飛び立つ。同時に懐かしい感覚が蘇った。奴らだ。五感を集中させ、敵が何人か探る。が、先制された。
黒いジャケットを着た男が、宙で体を捻って、蹴りを放つ。それを左足で防ぐが、勢いに負けてよろける。
「・・・・・・くわ?」
あさみが起きた。
男が素早く拳を放つが、後ろに下がり、透かさず鳩尾に蹴りを放つ。くの字に吹き飛んだ隙にあさみを降ろす。
「逃げて」
短くそう言うと、二人目があさみの背後に現れ、あさみを屈ませながら体を捻って左の回し蹴り。しかし、これは簡単に防がれる。
後ろからタックル。まともにくわはそのまま草むらに倒れる。上から振り下ろされる拳を二回防ぐと、次の拳をかわして腕を捕まえる。男の顔面に膝蹴り。
怯んだ隙に起きると、あさみが連れて行かれていた。くわはとりあえず、足元の男の顔面を踏み潰してから追いかけた。
あさみを連れて走る男の前に一台の車が急停車した。見覚えのあるデュアリスだ。ドアが開くと、二人の男が降り、入れ替わるようにあさみが乗せられる。
「くわ!」
それっきりあさみの声は聞こえなくなった。その代わりに別の声が聞こえた。しかも鼓膜に埋め込まれているスピーカーに。
『また会ったな、六号。心配してたぜ? あれから俺の所に来る金が二割も減って大変なんだよ』
三人の男がくわを囲む。その奥であさみが乗ったデュアリスが土煙をあげて走り去る。
『一つゲームをしよう。お前はあのあさみとか言う女を助ける事が出来るかだ。簡単だろ?』
一人が、刀を抜く。
『お前が勝ったら好きにしたらいいさ。俺が勝ったら、そうだな。まだ若いからな。性処理として飼うのもいいな』
刀を持った男が突っ込んでくる。くわは土を抉って飛ばす。それが目くらましとなり、ほんの一瞬の隙をついた。喉に手刀を打ち込み、刀を握った手を蹴り上がる。
刀が宙に舞う。
刀を捕まえると、そのまま振り下ろす。
人工血液が吹き出し、男の右肩から脇腹が斬られて、体がズレて倒れる。
「僕は人斬りだ。お前ら全員斬り殺す!」
それ言葉が合図になり、残りの二人がくわとの間合いを一気に縮める。腰から短刀を抜きながら。
左からの攻撃を刀で防ぐと、腰を蹴った。
続いて左からの攻撃を防ぐ。刀が削れる音を聞きながら、相手を押し返す。
後ろから振り下ろされる攻撃をかわして、腕を斬り落とす。人工血液が切断された腕から噴水のように吹き出す。
後ろから水平に攻撃してくるのを防ぐと、素早く刀を逆手にして体を突く。刀が貫通し、人工血液が大量に付着している。
刀を抜くと、もがく男の首を斬り落とす。
『お見事』
くわは腕を斬り落とした男を見下ろすと、容赦なく頭を串刺しにした。
「次はお前だ」
足で頭を押さえ、刀を抜き取ると、停められていたデュアリスに乗り込む。エンジンをかけてアクセス全開。あさみが連れて行かれた場所には検討がついた。くわが人を斬る場所だ。金持ちが窓から殺戮を見る場所だ。
二度と行かないと決めていたが、あさみが連れ去られた。彼女を助ける事が出来るのは自分一人だけ。博士でもあさみの母でもない。サイボーグである自分だ。殺戮マシーンの自分だ。