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アーサー 地上最強の家庭用ロボット ― ARTHUR: THE PEERLESS DOMESTIC ROBOT ―  作者: Silvertiger
第一章:起動と覚醒

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2/6

家事、はじめます

 こだわりすぎた家電たちと、執事(家庭用ロボット)の苦労


 アーサーは邸宅の地下倉庫へと向かった。

   そこには、ケイリーが「設定が面倒だから」、「性格が歪んでいるから」という理由で放り込んできた、

 ナナ製の型破りな家電たちが埃を被っていた。


「……アーサー、そんな古臭いもの、何に使うの?」

   ケイリーが不安げに覗き込む。


 アーサーは、巨大な集音ホーンを持つコーヒー焙煎機『火加減命(ひかげんいのち)』や、超高出力の電子レンジ、そして偏屈な洗濯機を次々と運び出していく。


 アーサーが来て二日目の朝。


 キッチンには、かつてナナから送りつけられた**『手揉み感覚・自動焙煎コーヒーメーカー:火加減命(ひかげんいのち)』**が鎮座していた。


 液晶画面など一切なく、無骨な真鍮製のレバーと、豆の爆ぜる音を聞き分けるための巨大な集音ホーンが目を引く。


「……何、その格好」


   ケイリーがキッチンを覗くと、アーサーは右手にストップウォッチ、左手に竹べらを持ち、コーヒーメーカーの前で微動だにせず立っていた。


「おはようございます。現在、この焙煎機が『炭の熾り(おこり)具合が気に入らない』と点火を拒否しております。

 私は今、遠赤外線センサーの数値を無視し、炭の爆ぜる音をサンプリングして彼が納得するリズムでレバーを操作している最中です」


「……全自動じゃないの?」


「ナナ様曰く、『豆の機嫌も聞けない機械に、本物の味は出せない』とのことです」


 アーサーは物理的なレバーを絶妙な力加減で「ゆすり」ながら、アナログなダイヤルをコンマ数ミリ単位で調整していく。


 屋敷中に芳醇な香りが広がる中、今度は洗面所から**『AI搭載・布地分析洗濯機』**が、けたたましくアラートを鳴らし始めた。


「警告。警告。この靴下は、右と左で綿の配合率が0.5%異なります。同一ペアとしての洗浄は、生地のプライドを傷つける恐れがあります」


「今度は洗濯機!? もう、洗ってよ!」


 ケイリーが叫ぶと、アーサーはコーヒーのレバーを固定し、流れるような動作で洗面所へ向かった。

「お任せください、ケイリー。


 私が彼の深層パラメータに直接介入(ルート権限での上書き)し、『これは左右非対称という名のデザインである』と再定義いたしました。

 間もなく洗浄を開始します」

「……ありがとう。でもアーサー、あなたもナナ叔母さんの製品なんだから、あの子たちの味方しないでよね」


 アーサーはわずかに首を傾げた。


  「味方……。私はただ、この家のシステムにおける最高管理者として、全家電があなたの生活を阻害しないよう、秩序を維持しているに過ぎません。


 ……さて、『火加減命』殿。豆の爆ぜる音が一段階上がりました。

 仕上げの蒸らしに入りましょう」


 アーサーは再びキッチンへ戻り、紺色のスーツの袖を汚さぬよう配慮しながら、職人のような手つきで真鍮のレバーを引いた。


「……アーサー、お疲れ様。あなた、大変ね」


「いいえ。これらの個性的な道具たちを統率することで、私の**アクチュエーター(駆動部)**の微細な力加減は飛躍的に向上しております。


 ……物理的な『遊び』とデジタルな『論理』の調和。ナナ様の真意は、ここにあるのかもしれません」


 コーヒーの熱をじっと見つめるアーサー。


 デジタルな計算だけでは測れない「物理的な正解」。

 それが、彼の深層OSに確かなデータとして蓄積されていた。


 翌朝、「アーサー、今朝はあの面倒なコーヒーのルーチンはスキップして。

 ……紅茶にして。それも、一番いいやつを」


 寝不足の目をこすりながらケイリーが告げると、アーサーは無機質な動作の中に、どこか敬意を孕んだ角度で一礼した。


 彼が向かったのは、普段使いのキッチン棚ではない。

 リビングの隅で鎮座する、父母が遺した飾り棚だった。

 アーサーが恭しく取り出したのは、透き通るような白磁のセット。


「お父様とお母様が、毎朝必ず使われていたものですね」


 アーサーの指先は、戦場を制圧した時と同じ精密さで、薄氷のようなカップを扱う。


 沸騰した湯が注がれ、ダージリン・ファーストフラッシュ特有の、青い芝生と花々を思わせる香りがリビングに広がっていく。


「温度、100度。抽出時間、180秒。……お待たせいたしました、ケイリー」


 白磁のカップに注がれた薄い琥珀色の液体は、朝日を浴びて宝石のように輝いた。


 ケイリーは一口含み、昨夜から張り詰めていた脳の回路が、ゆっくりとデフラグ(最適化)されていくのを感じた。




 用語解説(中学生向け)

 アクチュエーター: コンピューターからの命令を、実際の「動き」に変える装置のことです。


 例: 人間にとっての「筋肉」のようなものです。アーサーは頑固な家電たちを相手にすることで、指先の筋肉の使い方がどんどん上手くなっているのです。


 ルート権限(管理者権限): コンピューターの中で、何でもできる「一番偉い権限」のこと。


 再定義(オーバーライド): もともと決まっていたルールを、上から別の命令で上書きして無視すること。


 ダージリン・ファースト・フラッシュ:インド、ダージリン地方特産の紅茶です。

 特に春に一番早く摘まれたお茶の葉のこと。香りがとても爽やかで、紅茶のシャンパンとも呼ばれます。


 白磁(はくじ):真っ白で透き通るような美しい磁器のこと。


 デフラグ(最適化):バラバラになったデータの断片を整理整頓して、コンピューターの動きをスムーズにすること。




用語解説(中学生向け)

アクチュエーター: コンピューターからの命令を、実際の「動き」に変える装置のことです。

例: 人間にとっての「筋肉」のようなものです。アーサーは頑固な家電たちを相手にすることで、指先の筋肉の使い方がどんどん上手くなっているのです。


ルート権限(管理者権限): コンピューターの中で、何でもできる「一番偉い権限」のこと。


再定義(オーバーライド): もともと決まっていたルールを、上から別の命令で上書きして無視すること。


ダージリン・ファースト・フラッシュ:インド、ダージリン地方特産の紅茶です。特に春に一番早く摘まれたお茶の葉のこと。香りがとても爽やかで、紅茶のシャンパンとも呼ばれます。


白磁(はくじ):真っ白で透き通るような美しい磁器のこと。


デフラグ(最適化):バラバラになったデータの断片を整理整頓して、コンピューターの動きをスムーズにすること。



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