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勇者じゃない俺が「下がっていろ」と言われたので、足元の聖剣を拾っただけです――報酬100億円で館無職になりました

掲載日:2026/04/27


 俺は勇者じゃない。


 勇者召喚に巻き込まれただけの、おまけだった。


「うわっ、なんだここ」


 目が覚めたら草原だった。


 空は青い。

 草は緑。

 遠くに町。


 目の前には、顔のいい女が浮いていた。


「起きたわね」

「どなたですか」

「女神」

「雑」


 女神は俺を見下ろした。


「あんた、勇者召喚に巻き込まれたのよ」

「俺、勇者なんですか?」

「違うわ」

「違うんだ」

「本物の勇者は別にいるわ」

「じゃあ俺は?」

「おまけ」

「帰っていいですか」

「だめ」


 終わった。


 剣もない。

 魔法もない。

 説明もない。


「どうすればいいんですか」

「町に行きなさい」

「それで?」

「適当に生きなさい」

「雑すぎる」

「死なないように、最低限のチートだけあげる」

「最低限なんだ」

「文句言わない」


 女神の姿は消えた。


 ただ、声だけは頭に響いてくる。


 草原に俺だけが残った。


 スライムがいた。


 ぷよぷよしていた。


「……倒すの?」


 落ちていた棒で殴った。


 効かなかった。


「いてっ」


 たぶん一ダメージ。


「女神」

「なに」

「勇者じゃないのに異世界しんどすぎない?」

「頑張りなさい」


 やっぱり俺は勇者じゃない。


 でも、落ちていた棒を拾うことくらいはできた。


     ◇


 町に着いた。


 市場へ行った。


 路地裏から声がした。


「兄ちゃん、ちょっとこっち来い!」


 奴隷商人だった。


「うわ、イベントだ」

「ボコって」

「女神、指示が雑なんだよ」

「いいから」


 俺は言われた通りにした。


「チート」


 奴隷商人は倒れた。


 路地裏に女の子がいた。


 耳が長い。

 痩せている。

 怯えている。


 逃げる力もなさそうだった。


「大丈夫ですか」


 女の子は、俺の服の裾をつかんだ。


「ご主人様」

「やめてくれ」

「ごしゅ……」

「略しても駄目」

「ごしゅ」

「負けた」


 女神が言った。


「その子はルーナ。ヒロインね」

「本人の意思は?」

「知らないわよ」

「おい」


 助けた。


 というほど格好よくない。


 ただ、見捨てられなかった。


 拾った。


 そんな感じだった。


     ◇


 数日後。


 本物の勇者が来た。


 ちゃんと勇者だった。


 聖剣。

 仲間。

 まっすぐな目。


 魔法使い。

 戦士。

 僧侶。


 完全に昔やったRPGだった。


「俺じゃないの? 勇者」

「違うって言ったでしょ」

「じゃあ俺、何するんですか」

「勇者についていきなさい」

「なんで」

「近くにいたほうが話が早いから」

「雑」


 俺は勇者に頭を下げた。


「あ、あのー。ついていってもいいですか」

「もう四人いる」

「ですよねー。すいません」


 女神が言った。


「そこをなんとか」

「俺が言うの?」

「早く」


 俺はもう一度、頭を下げた。


「あのー、そこをなんとかお願いします」


 勇者は困った顔をした。


 それから、うなずいた。


「そこまで言うなら、特別だぞ」

「ありがとうございます! 助かりました!」


 ルーナが俺を見た。


「ごしゅ、なんかダサいです」

「言わないで」


 俺は勇者パーティーの五人目になった。


 正確には、おまけだった。


     ◇


 魔王城はでかかった。


「でっけー」

「ごしゅ、感想が小学生です」

「城とか初めて見たんだよ」


 戦いはすごかった。


 勇者が前で戦う。

 魔法使いが撃つ。

 戦士が受け止める。

 僧侶が回復する。


 俺は後ろにいた。


 何もしていなかった。


「下がっていろ!」


 勇者が叫んだ。


「はい」


 言われなくても下がっている。


 最初からずっと下がっている。


 魔王は強かった。


 勇者たちは必死だった。


 俺は何もできなかった。


 だから、無傷だった。


 その時。


 勇者の聖剣が弾き飛ばされた。


 聖剣は床を滑った。


 俺の足元に来た。


「……あ」


 落ちていた。


 だから、拾った。


「勇者様!」


 投げた。


 勇者が受け取った。


 光った。


 魔王が倒れた。


「え?」


 俺は言った。


「俺、剣を拾っただけなんですけど」


 勇者は笑った。


「あれがなければ終わっていた」

「いや、でも、拾っただけですよ」

「それが必要だった」


 ルーナが俺の袖をつかんだ。


「ごしゅ」

「なに」

「やっぱり、ちょっとダサいです」

「そこは褒める流れじゃないの?」

「でも、私も拾われました」


 ルーナは袖を離さなかった。


 俺は勇者じゃない。


 魔王を倒したのも俺じゃない。


 でも、聖剣を拾った。


 それだけは、俺にできた。


     ◇


 王都に戻った。


 勇者は英雄になった。


 姫様が告白した。

 勇者も受け入れた。

 王様が泣いた。

 国中がお祭りになった。


 俺は端で拍手していた。


「よかったなあ」

「ごしゅ、完全に親戚のおじさんです」

「俺の出番もう終わったし」


 その時。


 王様が俺を呼んだ。


「そなたも魔王討伐に貢献した。望むものを言うがよい」

「えー」


 考えた。


 剣はいらない。

 爵位もいらない。

 領地とか絶対めんどくさい。


「お金ですかね」


 王様は笑った。


「よかろう」


 金貨の山が出てきた。


「女神」

「なに」

「これ、どのくらいですか」

「日本円で、だいたい100億円ね」

「は?」


 100億円。


 一生遊べる金額だった。


「よかったじゃない」

「でも、この世界ってインターネットあります?」

「ないわよ」

「じゃあ、けっこうきつくないですか?」

「贅沢言うな」


 スマホはない。


 動画サイトもない。


 コンビニもない。


 家系ラーメンもない。


 100億円あっても、やることがない。


「どうしたらいいんですか」

「スローライフでもしたら」

「農業ですか?」

「そうね」

「嫌です」


 ルーナが俺の袖を引いた。


「ごしゅ」

「なに」

「大きい家、欲しいです」

「それだ」


 家を買うことにした。


     ◇


 城も見た。


 でかい。

 寒い。

 広すぎる。


「これ、いらないですね」

「いらないです」


 町はずれの館を買った。


「結構いいじゃんね」

「ねー」


 館にはメイドがいた。


 銀色の髪。

 落ち着いた目。

 きれいな姿勢。


 俺は思った。


 俺のビーナスだ、と。


「わたくしの名前はラミィと申します。よろしくお願いいたしますね、ご主人様」

「またご主人様ですか?」

「はい?」

「呼び名がかぶってて、わかんねーぞもう」


 ルーナが笑った。


「ごしゅ、よかったですね」

「よかったのかこれ」


 その夜。


 ラミィさんはシチューを作ってくれた。


 ルーナが食べた。

 俺も食べた。


 うまかった。


「ご主人様、そろそろお休みなさってください」

「あっ、はい」

「明日の朝はモーニングコートをご用意いたします」

「毎日着るんですか?」

「はい」

「異世界、思ったより面倒くさいな」


 ルーナが俺の隣で丸くなった。


「ごしゅ」

「なに」

「ここ、あったかいですね」

「そうだな」


 俺は勇者ではなかった。


 魔王を倒したのも俺ではない。


 俺は、落ちていたものを拾っただけだ。


 路地裏にいたルーナ。


 勇者の聖剣。


 使い道のない金貨。


 寒い城の代わりに見つけた館。


 その館にいた、やたら有能なメイドさん。


 俺は何も成し遂げていない気がする。


 でも、拾ったものを置く場所はできた。


 ルーナは俺の袖をつかんだまま寝ている。


 ラミィさんは廊下の向こうで、明日の支度をしてくれている。


 勇者じゃなかった俺には、これくらいがちょうどいい。


「女神」

「なに」

「俺、勇者じゃなかったんですよね」

「そうね」

「ですよね」

「でも、拾うのだけはうまいわね」

「褒めてます?」

「別に」


 俺は笑った。


 勇者じゃなくてもいい。


 拾ったものを、

 捨てずに済んだ。


 それで十分だった。

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