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シマエナガ見てキレる話

作者: 椋の木
掲載日:2026/03/24

 白い、というより眩しい。一面の銀雪と木々の中で、目当ての小鳥の群れを探してえっちらおっちら雪をかき分けながら歩く。基本的にインドアの人間がわざわざ北海道まで出向き、食道楽ではなく野鳥観察に勤しんでいるのは随分と急な話からだった。どうにも随分ひどい顔をしていた自分を見かねての事らしい。


「シマエナガ? ああ、あのデブ鳥ね」

「丸っこくてかわいいと言え。しばくぞ。いや、今更だけどキンカム読んでたら出ててさあ」

「あれに出てくる野生動物って大体食われてないか?でも小さい鳥だしそんなに食うとこないか」

「もちろん食料エンドです」

「知ってた」

「つーわけで北海道に行きます」

「脈絡というものをご存知?」


 シマエナガ、エナガの北方系亜種であり、国内の他亜種との違いは黒い眉斑がなく、頭部全体が白いことだという。その差異が北海道という「島」でのみ見られたために「シマ」エナガ、「雪の妖精」とも呼ばれるようになったこの鳥のキュートさの理由だというのがこの旅行の言い出しっぺの言である。

 かれこれ数十分と群れで動くというシマエナガを探しているが、これがまあ見つからない。そうではない動物はちらほら見ているのだが、こんなところでも物欲センサーが影響しているとでもいうのか。つい最近ソシャゲで爆死したばかりなんだが。


「ネットで見つけるのは難しいとか書かれてたし、もう撤退せんか」

「まだだ、まだ終わってない」

「俺の体力は終わりを迎えそうなんだけど」


 複数人交代によるラッセルといえども、新雪が容赦なくインドア派のなけなしの体力を削り、俺はまあまあグロッキーだった。目的は果たせず、疲労だけが溜まる。最近の自分の状況を改めて突き付けられているような感覚すら覚えている。疲労の増加と反比例するように気分が落ち込んでいく。もう一度切り上げを提案するよりも早く、双眼鏡を振り回していた友人は本命を見つけたらしい。


「あ、群れ見っけ」

「マジ?あー、ほんとだ」


「ゴーゴー!」と、ようやく見つけた本命へ見失わないように近づいていく。

 よさげなポジションに着くと同時、競馬場で見たことのある高そうなでかいカメラを構えて撮り始めた友人を「そこまでするか?」と横目で見ながら、こちらはスマホを構える。あまりの意気込みの違いに、実家の使えるかわからないデジカメでも持ってくればよかっただろうかとよくわからない不安を覚えながらシマエナガを画角に入れた。

 やはり白い。語彙が消失したのかというくらい雑な感想ではあるが、本当に白いのだ。冬の北海道とはいえ今日は晴れているため、積もった雪に埋もれているとかでなければ何かがいるとわかりやすい。これがもし吹雪いていたりするならば吹雪とシマエナガを見分けることは不可能だろう。迷彩としての白。しかしながら、自分たちのように大抵の人間はその白を適応機能として、機能美とは見ない。見てくれ、ガワとしての白にばかり価値を見出している。

 身勝手に嫌な重ね方をしている自覚はある。けれど今の自分にはそれがどうにも我慢できなかった。

 外面が良ければなんでもいいのか?本質とは呼べないものが本質よりも価値を持ってしまっていることが正しいとは到底思えない。見てくれだけを必死で取り繕った、中身のない嘘だらけの張りぼてであっても構わないとでもいうのか。馬鹿げている。そんなもの自分の目が節穴でないと誤魔化すための方便でしかないだろう。どいつもこいつもそんな奴らばかりだ。


「はあ」


 意味のない怒りだった。凡そシマエナガに対して向ける感情ではないし、出てくる感想ではない。どうして北海道まで来た上で鳥を見てキレているのか。そういえば、勝手にキレていたせいでスマホを構えるだけ構えてシマエナガの写真は一枚も撮れていない。これでは何のための北海道旅行なのか分かったものではない。いや、正直酒と飯目当てのところは多分にあるのだが、流石に一枚も撮らないのは座りが悪い。何かしら良い感じのやつを一枚、とスマホを構えなおそうとして気付く。


「あー。やっちまった」


 白は既に飛び去っていた。当然ながら一緒にいた群れごといなくなっている。写真自体はまあ、友人が撮ったものがSNSにでも上がるだろうから取り合えずは良しとしよう。しかしながら、画面内のシマエナガが飛び立っても全く気付かないのは中々に酷い。自分でも思っていた以上に参っていたようで、友人が気分転換を考えるのも当然のことだったか。酒だ。酒飲んで飯食って寝よう。ここは何が美味いのか。


「これ神の一枚だろ!は?天才かもしれんこれはマジで。シマエナガ、あまりにもラブリーチャーミーな敵役すぎる。は?当たり前のことをぬかすな。あのねぇ……」


 差し当たってテンションがぶっ壊れてしまっている友人を正気に戻すところから始めよう。何を言っているのか意味が分からない。人格分裂してないか?だいぶ怖いぞ。




「え、写真撮ってないの。何しに来たのお前。弩級の馬鹿かな?」


 店に入って初っ端がこれときた。酒もまだ届いてないんだけど?俺の気分転換という話は一体どこにいったのか。気分転換は建前で、本当はこいつの趣味でしかなかったのかもしれない。大きめの出費をするためのだしに使われたのではという疑念がふつふつと湧き上がってくるが、一度キレたおかげか気分転換にはそれなりになっているのでつつきにくい。それにしても弩級の馬鹿は言いすぎだろ。


「いやね、俺だって別にただボーっとしてた訳じゃないよ。シマエナガのあの白から着想を得てだね、資本主義の欺瞞と人間の思考がどれほど張りぼてでいい加減なものなのか大いに憂いていたのだよ」

「就活が上手くいかなくてイラつく、で事足ります」

「夏井先生で切り捨てるのやめて?」


 ようやく解放されたみたいな顔でグサグサと容赦なくこちらを刺してきやがる。そんなにウザい感じだったのか?


「大体ねえ!お前の真っすぐさは美徳だけどね。融通利かな過ぎるから就活においては短所になるに決まってるのよ!見てくれを最低限でも整えられるのが社会的な人間というものでだね!」

「声でかいし、説教やめろや。あと右手のチューハイいつ手にいれた?そんなタイミングなかっただろ。」

「あのねえ!君ねえ!」


 毎度のことながら酔うのが早すぎる。くそっ、俺も早くそっち側にいかないと。素面で説教受けるなんて地獄すぎてやってられない。


「すいませーん!注文いいですかー!」


 この後滅茶苦茶説教されたのでシバきまわした。

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