第3話
隣町に用がなくなって、結局街に戻った僕は、あれから突然英雄になった。
養成校時代、さんざん馬鹿にしていじめてきたB3ランクの同級生も、二言目には冒険者は諦めろとか言ってきた学年主任も、脈打つ右腕の紋章を見るや、ころっと態度を変えて僕をチヤホヤしだした。
お前はやる奴だと思ってたとか、それだけの才覚があってC1ランクなんて見る目がないとか何とか。
挙げ句、ウロームにもらったそれが羨ましいと手書きで真似する馬鹿まで出る始末だ。
ほんと、高速手のひら返し選手権とかあったらこいつら全員優勝だと思う。
と、それはさておき。僕は晴れて冒険者としての生活をスタートした。
まずはそこらに湧くスライムの群れ退治。
雑魚モンスター討伐なんて王道のCランク案件だけど、実は群れると結構厄介だ。
スライムの場合、当たり前だけど体が全部スライムで出来ている。
だから物理攻撃だと武器やら体やらがネットネトになっちゃうし、無機物系のモンスターは魔法もちょっと効きづらい。
中でもスライムは格別で、低級モンスターのくせに魔王並みに魔法が効かない。
最低でもBランクにはならないと、スライムに通用する魔法なんて誰も持ってない。
あんまり厄介すぎて、身を守るために嫌がらせに特化したんじゃないかって学者たちが口を揃えて唱えてる。
だけど正直、そんなこと研究する暇があるなら、スライムに効く汎用アイテムの一つでも作って欲しい。
ここまで来たら、もう誰だって分かると思う。
低ランク案件というか、高ランクな人たちがやりたくないから押し付けてるだけ。
でっかい火の玉とかすんごい台風とか出して、全部まとめて吹っ飛ばして欲しい。切実に。
そうこうしながら任務を終え、スライムまみれでベッタベタのドッロドロになった僕は、英雄から変態へと一瞬で転落。
若い女性たちから遠巻きに金切り声を上げられ、人の心は当てにならないなあとか悟りを開く羽目になった。
もう僕、ランクが上がってシェリルたちに会う前に、仏陀になっちゃうんじゃなかろうか。
***
どうにか宿屋まで戻り、シャワーを浴びて復活。
ズタボロのメンタルと泥のように重いバイタルを抱え、夕方からは稽古に入る。
この町の宿は養成校の寮だから、学校らしく裏手に訓練場があったりする。
ごく普通の、小学校のグラウンドみたいな砂地の奥に、一列に丸い的があって、魔法使いとか銃使い、弓使いがそれぞれに武器を向けてる。
とは言え、そのどれでもない僕は近接が専門だから、こっちじゃなくて──
「おおう、英雄殿じゃないか!」
向きを変えたら、急におっさんが視界に乱入してきた。
「ちょうどいい、手合わせしてもらおう!!」
え、だれ?
「似てるか?この模様?!」
自慢げに掲げたムキムキの左腕には、武骨な盾と、マジックで描かれたタトゥーもどき。
似てはいるけど、手描きなのを差し引いてもなんかダサい。
……おっさんじゃなかった。まさかまさかの同級生じゃん。18歳でこれは老けすぎじゃない?
「ここからあの的を撃ち抜いた方が勝ちだ!準備はいいな、英雄?!」
僕、まだ何も喋ってないんだけど。
というかジョブは?その見た目と装備で遠距離なの?!
「いやあの……先やれば?」
「阿呆か!英雄殿の勝ちに決まってるだろう、俺は近接だぞ?この距離では無理だ!!」
バカだ。バカに絡まれた。
やっぱり近接かい。
「あー、俺も近接なんで……」
「そうか!ではお先にやらせてもらおう!」
さっき自分で無理って言ってたよね?
「オオラアアアアアア!!」
聞いちゃいない。やっぱただのバカだ。
──と思って踵を返しかけた僕は、目尻のきわが一瞬捉えた光景に、声を失った。
「…………ふっ、ははは」
厚さ五十センチはありそうな的が、びっくりするくらいキレイに陥没している。
クレーターの中心には太い槍。
というより、人間の腕くらいある太さ、長さの尖った鋼の棒を、僕がなんて呼べばいいか分からないだけ。
***
僕は出会った初めての仲間は、頭の中まで筋肉でできてそうなすごいバカだった。




