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第2話

 一体何が起こったのか。


 どこからともなく大声がしたと思えば、いつのまにかマンティコアがやられてる。

 

 さっきまでの僕の苦労はなんだったの?


 ちょっと――どころじゃないけどちょっとだけ、悔しい気分になる。

 

 なんだあの人。絶対関わったらダメな部類の人じゃん。

 

 大男はこっちに歩いてくる。

 

 マンティコアが、倒されたことに今気づいたみたいに倒れた。

 

 衝撃で舞った土煙が、その人のシルエットだけ写をしてる。

 月を背景に、大男の影が揺れる。

 

 煙を抜けて出てきた。一眼見ただけでも只者じゃないことが分かる。

 

 なんとも言えない威圧感。


 オーラってやつだろうか。

 シェリルともまた違う、重くて熱いプレッシャー。

 

 呆気に取られてた僕は、気づいたらその丸太みたいに太い腕に頭を掴まれて、持ち上げられてた。

 

 掴まれたっていうか、握られたっていうか。

 

 それが物凄く痛い。

 例えるなら、巨大な万力に挟まれて容赦なくギリギリ閉められてる感じ。


 ナックルの内側が頭に押し付けられるし、何より握力が半端じゃない。

 僕の頭がミシミシと嫌な音を立ててる。

 

 やばいこのままじゃ馬鹿になる。


 嫌だ。これ以上馬鹿になったらあああああぁぁ。

 

 むかついて力一杯腕を押すけど、もちろんびくともしない。

 押しても引いても捻っても。


 何?鋼鉄かなんかなの?この人の腕。

 

 やばい、視界が歪んでくる。

 

「彼はわたしが見つけた。ウロームは手をださないで」

 

 痛い痛い痛い。

 

「見つけたってどういうことだ。自分の実力も知らない愚か者にこうして教育をしてやるのも俺たち四天王の仕事だろうが」

 

 痛いって言葉でも足りないんじゃないか?これ。

 

「ん、でもウロームはざつ。言葉たらず。彼がしにそう」

 

 シェリルが僕を指さすのが微かに見える。

 

 なんか出そう。

 さっき食堂で食べたものが、やばい。

 それだけは嫌だ。この男は良くても、シェリルの前でだけはあああ!

 

 あ゛。

 

 いきなり手を離されて、僕は尻餅をついた。


 結構高いところから落ちてお尻の骨が痛いけど、それよりも頭が、ズキンズキンと痛む。

 

 出そうになってたのはギリギリセーフ。

 最後の衝撃で奥に戻った。

 

 頭が回らない。もしかしてほんとに馬鹿になった?正常な思考ができないんだけど。

 

 あれ?さっき俺たち四天王って言ってたよね。

 

 僕は頭を上げた。

 シェリルの次に出て来たし、マンティコアを一瞬でやっつけたし。やっぱり。

 

 あ、頭ちゃんと回る。よかった。

 

「痛えんだよオッサン!」

 

 なんでやねん。

 

 頭を握られたせいだ。

 やっぱりバカになったんだ。慰謝料を請求したい。

 

 見上げる。

 

 全ての自信をへし折りそうな圧倒的な強者感が、そこにはあった。

 

「なんだよ威勢いいじゃねえか、俺が誰か分かるか?」

 

 出会って早々頭潰しかけておいて、分かるか?じゃないよ!


 ってツッコミは飲み込んで。

 

「二人目の、四天王」

 

「誰が二人目だ小僧。俺が一人目だ」

 

 理不尽すぎない?

 

「ばんごうは彼に会ったじゅんばん。だからわたしがいちばん」

 

 シェリルがウロームを見上げて抗議する。


 シェリルが頬を膨らませてる。かわいい。

 

 四天王って聞いてもっと凄い人を想像してたけど、案外そうでもないのかな。


 威圧感とかは凄いけど、ただの変な人だ。やり取りを見ても平和で楽しそう。


 実は遠くないのかも。

 

 僕はそう思いながら、彼らの後ろに倒れてるマンティコアを見る。


 ……前言撤回。


 今世紀最強の冒険者さまでした。はい。

 

 僕なんて、彼らの足元の土のなかのミミズみたいなもんです。

 

    ***


 

 この世界は、広大な六つの大陸と、その他の小さな島々でなっている。


 今いる島は、三番目に大きい大陸から続く列島の一部で、列島は、その一部がもう一つの大陸に繋がっている。二つの大陸を繋ぐ道だ。


 

 ラントの住む島は、平和だった。


 主に観光地として知られていて、ここに来る大陸の冒険者は、殆どが休暇(バカンス)のためであり、この島にあるダンジョンは、そのおまけ程度の存在だった。

 

 だからこの島の冒険者は、みんなが海外を目指しているのだ。

 

 世界は広い。それは地図を見ても分かることだ。

 

 しかしその殆どがまだ解明されておらず、まだ未知のモンスターなども、山程いると言われている。


 未知のダンジョンも、そこには多く聳え立っているだろう。

 

 最近、ダンジョンは大昔からあったとかいう説が発表されて話題になった。


 でもダンジョンは突然現れるから、まだまだ謎は解明されていない。


 ダンジョン内部のメカニズムも、まだ分からない。

 

 古代文明の産物か、自然に生成されたものなのか。それは、人が知らない場所なのだ。

 

 海の向こうに、未知の大陸があるかもしれない。何もない平野に、見たことのない民族がいるかもしれない。

 

 霧に隠れた密林。

 

 閉ざされた水晶の洞窟。

 

 溶岩の海。

 

 氷塊の大陸。

 

 謎が謎を呼ぶ、古代遺跡。

 

 冒険者の開拓は人間のエゴだと反対する者もいるが、それでも彼らは、探求を続ける。

 

 心躍る未開の地。好奇心、浪漫。

 

 今日も新しく、どこかの街で冒険者が誕生する。

 

 世界を冒険をする公的に認められた仕事だ。

 

 それだけではなく、冒険のために身につけた戦闘能力や知識など、様々な能力が一般人の助けになることもある。所謂何でも屋の様な仕事としても、冒険者は人々に知られているのだ。

 

 この孤島に四天王が来たのも、この島で新しく発見されたダンジョンの調査を依頼されたからだ。

 それも冒険というよりは、何でも屋としての仕事といった方が良いだろう。

 

 現地の冒険者が発見し探索をしようとしたところ、入り口からすぐのところに高ランクのモンスターが沸いているところを発見したらしく。

 後の調査により、その奥に大空洞が広がっていることが確認された。

 

 それで四天王が組合(ギルド)からより深い調査のために、派遣されたという訳だ。

 

 マンティコアと遭遇したのは、全くの偶然。というより、報告を受けて急きょ依頼が付け足された形だ。

 

「この頃人手不足で、俺たちが直接行かないといけない事も少なくない」

 

「ん。人は多いけど、みんな弱っちいから」

 

 ラント自身も、まだまだ弱い。魔法の成績だって、お世辞にも良いとは言えなかった。

 

「なんでそれを僕に?」

 

 ラントはまだ痛む頭を押さえながら、尋ねた。

 

 世間では四天王と呼ばれ持て囃される人達。

 ラントも彼らに憧れていた一人だった。

 

 しかし逆に言えば、彼らと同等の強さを持つ者が、他に二人しか存在しないということになる。

 

 それがどういうことか。分かるだろう。

 

「正直大変。こんな小さい島にも私たちがいかないと、私たちしかかてないから」

 

「だから、もっと強い人材がほしいってこった」

 

 ラントは急な展開に混乱し、目を見開いたまま固まっている。

 さっきのシェリルの無茶振りから、ずっと流れは変わらない。ずっと流れは止まらない。

 

 ラントはまだ冒険者の中でも最低ランク。

 四天王なんて雲の上の存在。彼らにとってすれば、ラントなんて道端の石ころに過ぎない存在の筈。

 

 なのに。


 

「やっと見つけたから」

 

 ラントの頭には、?マークが大量に浮かんでいる。

 それでも、憧れの存在の言葉に、応えたいと思った。

 

「少年、名は?」

 

 ラントはシェリルを一度見て、答えた。

 

「ラント」

 

「ラントか。良い名だ」

 

 ウロームが笑い、ナックルを外した。

 

「どういうことだよ」

 

「先輩からのアドバイス。冒険者は、偶然の出会いも大切だ。運と、縁。そうだ」

 

 ラントは首を傾げた。

 

「手、出してみろ」

 

 ラントは言われるがままに右手を掲げ、ウロームに見せた。

 

 程よく筋肉の走っている腕。冒険者養成校時代、鍛え上げた柔軟な肉体だ。

 その身体は、C1ランクとは思えないほど出来上がっている。


 ……魔法が苦手すぎて、必死で筋トレしたんだよなあ、なんて感慨はいったん置いておいて。

 

 その筋肉質な腕に、入れ墨のような紋章が刻まれていった。

 

 植物の蔓のような、ドラゴンのような、それでいて鳥にも見える不思議な模様。

 

 ラントは、手の甲から前腕にかけて刻まれたそれと、2人を交互に見る。

 

「これが俺の固有能力ってやつだ。養成学校で習ったか?」

 

 ウロームが言った。


 彼の固有能力である“付術刻印”。

 その能力は、まだ明かさない。

 

「俺は魔法が使えない。その代わりのようなものだと思えばいい」

 

 ウロームの台詞とほぼ同時に、マンティコアの形が崩れていく。

 

 そのままアイテムだけを落とし、消えていった。

 

「ウロームは脳筋」

 

「なんか言ったか?」

 

 ウロームがシェリルに向かってデコピンの構えをする。

 

「わー、ぼうりょくはんたーい」

 

「棒読みじゃねえか!」

 

 この間に入ることを恐れたのか、それよりも自分の腕に夢中だったのか、ラントは二人のやり取りの中に入らなかった。

 自分の腕から目を離さず、十八歳らしく目を輝かせていた。

 

「これが固有能力か。やっぱり魔法とは違うな」

 

 一応養成校で習ってはいたのだが、生で見るのは初めてだった。

 

「ん。ぜんぜんちがう」

 

 シェリルがウロームの足を叩きながら答えた。

 

「もう、脳筋は足もかたい」


 

 この世界には魔法というものが存在する。


 それは得意不得意はあれど、使おうとすれば誰でも使うことが出来る。


 のだが、問題はそうでない方の特殊な力。


 

 固有能力の方だ。

 

 この世に死人を復活させるような魔法なんてものは存在しない。


 そんな魔法があれば、世界の秩序が崩壊してしまう。

 

 ならなぜラントは生き返ったのか。

 その答えは単純だ。

 

「今はまだ、ラントは修行の身。まだ早い。ゆっくり覚えていけばいい」

 

「できるだけ早くしてほしいけど」

 

 ウロームが腕を突き出した。殴るわけではなく、ラントに向かって。

 

「この紋章が助けになる時が来るだろう」

 

 紋章の脈が、自身の鼓動と重なる。

 

「島を出れるようになったら、私たちをさがして」

 

 シェリルの微笑んだ顔は、ラントの心を完全に溶かした。


 

 しかしラントは、まだ勇気がなかった。

 

 漠然としていた憧れが、急に現実味を帯びて来た。

 まだ依頼も受けてないのに、冒険者になったばっかりなのに。

 

 嬉しかった。

 嬉しかった。


 それでも。

 

 戸惑いを、隠しきれなかった。

 

 ラントには、自信が無かった。

 

「でもなんで僕に、養成校の成績も全然良くなかったし…………」

 

「43回」

 

 言葉を、シェリルが遮った。

 

「え?」

 

「43回しんで、それでも戦った」

 

 一拍言葉の間が開き、そこに追い風が吹く。シェリルが髪の毛を抑えた。

 

 学校では劣等生として同級生に揶揄われ、その同級生が上に上がり、後輩と肩を並べた。

 

 先生にも、諦めた方がいいと諭された。

 向いてないのかもと諦めそうにもなった。

 

 それでもラントは。

 

 それでもラントは、ここまで来た。

 

「大丈夫。君は強い」

 

 シェリルの透き通った声が、ラントの背中を押した。

 

 唇を噛んだ。必死に涙を堪えた。

 

 ラントは顔を上げ、ウロームを見る。

 漸く頷き、拳を前に出した。

 

「こんな顔じゃカッコ付かないな」

 

「安心しろ。充分格好良いぞ」

 

 ウロームの拳と、ラントの拳が重なる。

 

 

 それは、全ての物語の、始まりの合図だった。


 

     ***


 

 帆が風を受ける。

 港とビーチ一面に、四天王を一眼見ようと集まった島民が手を振っている。

 

 シェリルが照れ臭そうに小さく手を振り返した。

 

「あたらしいダンジョン」

 

 前髪を押さえ、柵にもたれかかったウロームに言う。

 その表情は、手を振った時のそれではない。

 

「何もなかったね」

 

「ああ。入り口は高レベルだったのに、期待外れだったぜ」

 

 高波が足元にかかる。

 

「だが、本当にただの空間だったって事が分かっただけでも良かったんじゃないか?」

 

「でも、にしてもおかしい。ウロームも分かってるでしょ?」

 

 潮風が着物の袖を揺らす。

 

「こんな何もない島にマンティコアがでるなんて」

 

 船の甲板から、振り返る。

 大波に揺られ、船が傾いた。

 

「やっぱりこれは報告の通りだったってことか」

 

 ウロームが頭を掻いた。

 

「ん」

 

「ラントにも強くなってもらわないとな」

 

 スパンカーが傾く。

 

「ん」

 

 観光帰りの子供たちが、駆け寄ってくる。

 

「はぁぁ。帰ったらまた会議か。帰ったら早速やるぞ、他の奴らにも連絡を入れる」

 

 ウロームが面倒そうに溜息をついた。

 

「がんば」

 

 シェリルが背中を叩いた。精一杯の背伸びをしたからか、その後、少しよろけた。

 

 ギルドのエンブレムを掲げたメインマストが、風を上手く受けている。

 

 ヒーロー物の人形を見せられ、二人は顔を見合わせた。

 

 二人の後ろに、島が小さく映った。

見に来てくれてありがとうございます。花都です。


この作品、もともとは知人とリレー小説をしていて出来たものです。

なので今回の分は私じゃなくて、知人が書いてくれた話。文体が前回とちょっと違ったと思いますが、書いた人が違うのです。


途中で辞めちゃったんで、次の話からは全部私が書いてます。

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