第1話
──答えてよ、人の子よ。
われらが虐げられるのはなぜ。
汝らの為を思い、この力を以て絶え間なく奉仕して来たわれらが、地獄の業火に焼かれるのはなぜ。われらの苦心の上に立っていた汝らが、わが同胞を焼き尽くし笑っているのはなぜ。
なぜ、なぜ、なぜ?
声を枯らし叫ぼうとも、この問いは届かぬ。
ある日突然、世界が裏返り暗黒に染まったあの日突然、喉の奥へと押し込まれた理不尽はなぜ。
この問いの答えはなに。
届かぬのなら、命で以て汝らに問い、呪い続けよう。
──人間よ。
あの日々は偽りであったのか──
***
世界は広い。どれほど冒険者たちが繰り出そうとも、まるで次々生成されてでもいるかのように、秘境も魔境も尽きはしない。
「皆さんは今日で冒険者養成校を卒業し、晴れて冒険者となりました。
現在の冒険者ランクは、駆け出しのC1です。冒険者のランクに関わらず、受けられる依頼は自分の2ランク上、今ならC3ランクまでに決まっています。
それでは、活躍を期待しています」
校長の言葉が終わるとともに、夢の国たる学校外へ250人の新たな冒険者たちがわっと飛び出す。
目指すは討伐モンスターの最高峰、S5ランクのブラッディコンドル。
300年以上前、モンスター討伐が始まった頃から標的とされ続け、未だかつて達成されたことのない絶対王者だ。
四天王と呼ばれる今世紀最強のSランク冒険者たちであろうと、依頼を受けることも許されない魔鳥。
固有能力とも呼ばれる異能力の全盛の時代、現在のSランクに相当するであろう冒険者たちが総力を挙げても倒せなかった邪悪と力の化身。
それを、倒すために。
今日もまた、多くの冒険者たちが夢の入り口に立ち、彼我の距離に圧倒されて散って行くのだ。
今となっては、知る人も無い彼女らのように。
***
「四天王のシェリルが隣町にいるらしいぞ!」
そんな声を信じて、一目会ってみたいと希望を胸に、養成学校の宿舎を飛び出したC1ランク冒険者───つまりド素人の僕は今、あろうことか町外れの通用門の前で、
警備員さんに止められていた。
いきなり高レベルモンスターに会っちゃってやられそうとか、めんどくさい美人に目つけられて困ってるとか、そういうパターンじゃない。
そもそも町、出てもないのだ。外がどうなってるか見たこともないのだ。
「あのー、そろそろ俺、出たいんすけど……」
十八歳で養成校卒業って、かなり遅いほうだ。もうとっくに成人している。
だいたいの冒険者は、十八歳ごろにはもうBランクくらいには到達してるのだ。
僕だって早くモンスターを討伐してランクを上げたい。
これまで延々と馬鹿にされて来たんだから、今度こそ見返してやる。
……と、思ったのに。
「ダメだ!C1なんかじゃ即死だぞ!Aランク以上のパーティでないとここは通せん!」
出れなきゃランクも上がらないでしょ。
「そんなヤバイんすか」
「A4ランク案件だ!マンティコアが暴れている!」
「マンティコア……」
だから四天王が来ているんだ。
「四天王が来てるって聞いたんすけど、シェリルだったら後方援護っすよね?先鋒誰が───」
「ウロームだ。組合の要請で四天王が二人も出て来ている。お前の手に負えるものじゃない、分かったらさっさと帰れ!」
上から目線な話し方はイヤだが、確かに言っていることには一理ある。
仲間も戦闘経験もない僕が行っても、敵のランク上げにちょびっと貢献するしかできないだろう。
ここは引っ込むのが賢い。
……そして。
深夜、みんなが寝静まった頃。
町の中を巡回する警備員さんたちが通り過ぎた隙をついて、落ちかける腰のナイフを押さえながら一目散に門へと走る。
誰が大人しく引っ込むか、絶対隣町まで行ってやる。箱入り成人男性なんて、酒の肴にもならない。
門に取り付いて閂を引っ張る。
ちょっとくらい音はするかなと思っていたが、実際、予想の3倍くらいの音が出た。
全身の毛が逆立つ感じのあの音だ。
ギィィィィィィィ……!
嗚呼、終わった。
「何をしてる!!」
全力疾走してくる警備員さんから逃げるべく、僕も全力で門を押し開ける。
「ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!」
隙間から滑り出て必死に走る。
ある程度離れれば、警備員さんも追いかけて来ないだろう。
「待て!止まれ!」
叫びながら追ってくる警備のおじさんをぐんぐん引き離す。
こう見えて足の速さには自信があるのだ。
養成校時代、『成績ビリでイマイチパッとしないけど、足だけは無駄に速いイケメン』なんてわけの分からない仇名で呼ばれていたのは伊達じゃない。
……ほとんど悪口だ。
まあそんな僕だから、振り返りながらでも警備員さんくらい余裕で引き離せる。
「駄目だ行くな!!」
どんなもんだい!とか思いながら、走るだけ走っていた僕は、阿呆なことに毛の生えた巨木に激突した。
ここで南国の木だぁー、とか思っちゃう人は、よっぽど危機感がない。
もしかしなくてもこれは──
養成校で教わった。夜は魔物が活発になるんだ!僕の馬鹿!!
──マンティコアだぁぁあ!!
「うわああああああああ───」
サソリの尻尾がとんでもないスピードで迫りくる。
必死に飛びのくけれど、何しろ速度が違いすぎる。
尻尾の棘が脇腹に食い込む。
そのまま吹き飛ばされ、天高くから落ちた僕は──
***
「…………かわいそうに……」
桃色の和服姿の少女が、胴を裂かれて吹き飛ばされてきた若い男に手を合わせる。
「よみがえって」
強く念じ、固く目を閉じる。
逆再生のように、傷つけられたと同じ速度で傷が塞がる。
マンティコアは速い。
尾の先端速度は音速を超えるため、再生は一瞬だった。
「だいじょうぶ?」
砂地の上に倒れたままのラントに向けて、少女は声をかけた。
ラントは状況を把握できていないようで、瞬きを繰り返している。
「あなた、マンティコアに襲われて殺されちゃったんだよ。まだ討伐できてないのに、むりして外に出たらだめ」
「殺された?」
「うん。マンティコアは人間を食べちゃうんだよ?すごく危ないの。あなただって、ふきとばされてなかったら食べられてた。そんなにだいじな用事があったの?」
「別に大事でもねーけど───てか」
照れたように頭を掻き、ラントが目をぱちくりする。
「君の方が危ないだろ。そんな動きづらい格好で一人で、しかも非武装⁈四天王案件なんだろ?」
「ふふ、四天王のおしごとだねえ」
少女はくすくす笑っている。
「養成校の先生って、みんなAランクのすごい人たちでしょう?死んじゃった人をよみがえらせる先生、いた?」
「え?そりゃ、いねーけど……」
そこまで言って、はっとしたラントが盛大にのけぞった。
「シェリル⁈君が⁈」
「おおあたり」
けらけら笑うシェリルは涙まで出ている。
「よみがえってくれたら、次はマンティコアをやっつけなきゃ」
「……!!」
ものすごい勢いで迫り来るモンスターを見つめるラントの表情には、恐れと、夢見心地な期待とが入り混じっていた。
***
四天王の戦闘……!
僕じゃなくたって心臓バクバク体温上昇、いてもたってもいられなくって……!くらいやっちゃうだろう。
C1ランクのペーペーの僕が、初めて出会った冒険者が四天王なのだ!
Aランクごときのモンスターなんて、S2ランクのシェリルにかかればすぐボコボコにされちゃうに違いないのだ。
だから、お淑やかに向き直ったシェリルがにっこり笑った時はポカンとした。
「がんばってね」
ごく薄い紅色の、柔らかくしなやかな手が肩にのせられる。
黄金比の神々しい笑顔が僕を見つめている。
正直なところ、鼻血出してぶっ倒れかねないくらい可愛い。
その辺の美人が全部ジャガイモに見えるくらい、容姿も仕草も雰囲気もめちゃくちゃ可愛い。
……いや、鼻の下伸ばしてる場合じゃない。全くない。
「???」
今、なんて言った?僕?僕がやるの?
「頑張って。何回負けても、よみがえらせてあげるから」
ほんと何言ってるかわからない。
かくして、僕の初戦闘──と言うか、スーサイドパレード──が始まった。
キツいなんて言葉がユルい。
3殺され:1攻撃くらいにしかならないんだから。
攻撃が入ってもほとんどダメージはないし、これで削れているのかも分からない。
攻撃されて、致命傷を負って。その瞬間に生き返る。
身体より精神が壊れそうだ。
40回くらい殺されて、10と何回か目のパンチが当たった時だ。
とつぜん、ほんとうにいきなり砂煙が湧いた。
気をとられて叩きのめされ、宙を舞う僕の目に映ったのは──
***
「うおらアアアアア!!」
地鳴りと揺れ。衝撃波に桃色の袂がはためく。
砂埃が渦を巻いて視界を奪い、ゆっくりと収まっていく。
甦り、着地した僕の目に映ったのは、鋼鉄のナックルをつけた筋骨隆々の大男。
──それから、背骨が変に折れ曲がっているマンティコアだった。
初めまして、またはお久しぶりです。花都です。
ド●ゴンクエストが好きで、王道のファンタジーが書きたくなって始めました。剣と魔法のファンタジー世界!魔王討伐!冒険!ワクワクしますよね!
まあ、ラントは王道の勇者像とはだいぶ離れているんですけど。さっそくやられまくってるけど、この子魔王とか倒せるのかなぁ、、
のんびり更新していくので、ゆるりと待っててもらえたら嬉しいです!




