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後朝の使いは自転車で

作者: 朱雀 鳴
掲載日:2025/12/31

伊頼(これより)さまからの文、今日も遅いのかしら」


 私は脇息に頬杖をつきながら、ため息を漏らした。


 逢瀬の翌朝、殿方が愛を伝えてくれるお手紙。早く届けば届くほど、愛情は深いとされるけれど……この前は昼過ぎに届いた。

 私はそれほど高貴な家の生まれではないし、伊頼さまはいつも言葉少なげで冷たい気がする。


「……私、愛されていないのかも」


 やっと想いが通じ合ったと思ったのに。素敵な伊頼さまを疑いたくないのに。


 なんだか、泣きそう。


 そのとき、甲高く耳障りな音が辺りに響いた。

 私は御簾(みす)の間から恐る恐る外をのぞく。


 少年が見たこともない乗り物にまたがっていた。前後に車輪がついているけれど、牛車(ぎっしゃ)ではないし、馬みたいな生き物ですらない。


 少年と目が合った。


「はじめまして!」


 声変わりしたての声で元気に挨拶する。


「先日、伊頼さまの侍童(さぶらいわらわ)になった者です! 文をお届けに参りました!」


 ふみ……?


 うそっ、もう!?


 少年は乗り物から降りると、私のもとまで来て、文を差し出した。


「あ、ありがとう」


「――姫君さまは、文が遅いことを気にしているのではないですか?」

「! どうして、それを?」


 随分と大人びた話し方だし、心でも読めるのかもしれない。


「道が悪くて、届けるのに時間がかかる。そう、他の侍童から聞きました」

「じゃあ、今まで遅かったのは……」

「はい、姫君さまが心配しているようなことは何もないですよ」


 少年がかわいらしく微笑む。


 ……よかった。

 うれしいのに涙が出るなんて、変ね。


「それに、これからは遅くなりません。俺にはこいつがあるので!」


 少年がジャジャーンと言って、両手を広げた。


「それは? 殿方の間で流行っているの?」

「自転車、もっと言うと、マウンテンバイクです。前世から持ってきちゃいました」


 前世!


「すごいわ! 何をしていたの?」

「あはは、今とたいして変わらないですよ」

「そう……」


 運命の人とか大恋愛とか、聞きたかったのだけれど。


「でも、姫君さまの喜ぶ顔が見られたので、自転車に乗っていて良かったです」


 ……そうね。


「ありがとう!」


 少年ははにかむと、そろそろ帰らなきゃ、と離れた。


「あ、言い忘れてましたが、道以外にも理由がありそうですよ」

「?」


 少年が自転車にまたがる。


「それじゃ!」


 あっという間に行ってしまった。

 静かになって、私は文を開く。


「……まぁ!」


 侍童は確かに愛を運んできてくれたみたい。

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