後朝の使いは自転車で
「伊頼さまからの文、今日も遅いのかしら」
私は脇息に頬杖をつきながら、ため息を漏らした。
逢瀬の翌朝、殿方が愛を伝えてくれるお手紙。早く届けば届くほど、愛情は深いとされるけれど……この前は昼過ぎに届いた。
私はそれほど高貴な家の生まれではないし、伊頼さまはいつも言葉少なげで冷たい気がする。
「……私、愛されていないのかも」
やっと想いが通じ合ったと思ったのに。素敵な伊頼さまを疑いたくないのに。
なんだか、泣きそう。
そのとき、甲高く耳障りな音が辺りに響いた。
私は御簾の間から恐る恐る外をのぞく。
少年が見たこともない乗り物にまたがっていた。前後に車輪がついているけれど、牛車ではないし、馬みたいな生き物ですらない。
少年と目が合った。
「はじめまして!」
声変わりしたての声で元気に挨拶する。
「先日、伊頼さまの侍童になった者です! 文をお届けに参りました!」
ふみ……?
うそっ、もう!?
少年は乗り物から降りると、私のもとまで来て、文を差し出した。
「あ、ありがとう」
「――姫君さまは、文が遅いことを気にしているのではないですか?」
「! どうして、それを?」
随分と大人びた話し方だし、心でも読めるのかもしれない。
「道が悪くて、届けるのに時間がかかる。そう、他の侍童から聞きました」
「じゃあ、今まで遅かったのは……」
「はい、姫君さまが心配しているようなことは何もないですよ」
少年がかわいらしく微笑む。
……よかった。
うれしいのに涙が出るなんて、変ね。
「それに、これからは遅くなりません。俺にはこいつがあるので!」
少年がジャジャーンと言って、両手を広げた。
「それは? 殿方の間で流行っているの?」
「自転車、もっと言うと、マウンテンバイクです。前世から持ってきちゃいました」
前世!
「すごいわ! 何をしていたの?」
「あはは、今とたいして変わらないですよ」
「そう……」
運命の人とか大恋愛とか、聞きたかったのだけれど。
「でも、姫君さまの喜ぶ顔が見られたので、自転車に乗っていて良かったです」
……そうね。
「ありがとう!」
少年ははにかむと、そろそろ帰らなきゃ、と離れた。
「あ、言い忘れてましたが、道以外にも理由がありそうですよ」
「?」
少年が自転車にまたがる。
「それじゃ!」
あっという間に行ってしまった。
静かになって、私は文を開く。
「……まぁ!」
侍童は確かに愛を運んできてくれたみたい。




