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第3幕「泡沫の夜に天の河と月の眩耀を夜行列車で」

依頼 「人魚たちの怒りを鎮め無力化せよ」 

               (特例)


依頼人 天川泡


内容「怒りによって我を失った人魚たちを無力化してほしい、殺しは不可とする」


※本件は壱の仙道師の現場裁量により特例処理。


 七夕────織姫と彦星が唯一逢うことを許された特別な日、いつも曇り空だが今この時だけは満開の星空が広がっている。


「ねぇ、綺麗な夜だね」

 今にも灯火が消えそうな瞳で青年を見つめる少女とそれを抱える青年だけが星空の下に囚われていた。

「もう喋ったらあかん、回復に専念やで」

「ううん、自分の終わりくらい見えてるよ。だから最期に言わせて────────」




─────6月初頭。

 日差しが強くなり日傘が欲しくなる頃、明晴高校ではいつもの雑談が教室を花咲かせていた。

「ほんでな、あの依頼の後にひとりになったら背後から気配がしたねん。」

 青年は稲川淳二のような話し方で語っていた。

「は?何それ、疲れてて幻聴でも聞こえたんじゃないの右京」

「あはは、ももかちゃんは怖いの苦手だもんね」

「いやいや、そういうんじゃないけどさ…………

ってうわぁ!!」

 桃樺がそっぽを向いた隙に紫帆が背中をツーっと撫でた、桃樺は思わずびっくりして跳ねてしまった。

「ちょ……ちょい待ち、卯月ちゃんもっかいやってやそれ」

 右京が大爆笑しながら煽ると、桃樺はゴミを見るような目で右京を見た。

「右京……泣かすよ?」

「いやいやいや、ごめんて!コミュニケーションやん!」

「もう!二人とも喧嘩しないの!!」

 右京が煽ってそれを桃樺が買い、紫帆が仲裁に入る。そんな風景をクラスメイトはいつも通りの光景として笑っていた。

 担任の先生がドアを開け入ってくるなりため息をついた。

「また喧嘩してるのか……まあいいお前ら席につけ、今日はみんなに大事な話がある。入ってきてくれ!」

 ドアを開けると、そこにはクリーム色の髪を靡かせ絵本の中から飛び出してきたような美少女が立っていた。

「………天川泡です、加茂川近くに住んでます。好きなものは……アイスです。よろしくお願いします」

 泡はにこりと笑顔を右京に向けた、クラスの男子は恋愛に飢えているのでヒューヒューと口笛を鳴らし女子たちは泡の肌の綺麗さに見惚れていた。

「席は……鴨原の隣が空いてるからそこに座ってくれ!鴨原、天川さんはこっちにきて日が浅い

から卯月たちと放課後に辺りを教えてやってくれ」

 思春期の男女がいきなり二人きりは良くないだろうと担任の気遣いにブーイングする男子もいたが桃樺は珍しく乗り気だった。

「あたしは構わないよ、日が浅いなら色々気になるでしょ。京都だしね────あたしも天川さんのこと知りたいし」

「そうだね、私たちおすすめのカフェとか色々教えてあげるから楽しみにしててね!──明晴高校へようこそ!泡ちゃんって呼んでも良い?」

 桃樺の含みのある言い方を掻き消すように紫帆が熱烈歓迎をした、泡はあまり馴染みがないのかカフェという単語に目を輝かせた。

「うん!!楽しみ!!よろしくね紫帆ちゃん!」

 ──紫帆は、一瞬の違和感を覚えた。

「あれぇ?天川さん僕は?隣の席やで?よろしくな!」

 泡は少し照れたように、よろしくと右京に握手を求めた。

「うん、よろしくね。う……鴨原くん」

 右京は手をしっかり握りぶんぶんと握手をした、泡は慣れていないのか顔を真っ赤にしていた。

(………ああ、やっぱりこの子は)

 桃樺は、疑問が段々と確信に近づいていった。





 いつも通りの授業を終え、みんな帰り支度をし始めるころに右京は考え事をしていた。

「んー、やっぱりあそこがええんかな………それとも」

 ぶつぶつと何かを呟いている右京を見て紫帆は心配になって声を掛けた。

「どうしたの?右京くん、珍しいじゃん」

「ん?あぁいや、今日天川さんにどこを紹介しよかなって思って。文月ちゃんはなんかアイデアはある?」

「そしたらいつものファミレスなんてどう?そこで話しながら明日以降どこ行こうか決めようよ!泡ちゃん、アイスもあるよ!」

 鞍馬山の一件以降、紫帆は判断するのに時間を要さなくなった。

右京は感心しつつ、大きく頷いてみせた。

「決まりやな、卯月ちゃんもそれでええ?」

「うん、あたしはどこでも」

 いつも通りのそっけない返事だが、今日はいつもと違っていた。紫帆が桃樺に仙言で話しかけた。

『ねぇ、ももかちゃん朝から様子変だよ?泡ちゃんがどうかした?』

『いや、ちょっと引っかかるだけだよ。』

 二人が話してる中、泡が不思議そうに首を傾げていた。

「ねぇ、二人は何をしているの?」

 純朴な聞き方に右京は饒舌に解説してみせた。

「これはな、僕にも分からへん。二人にしか通じないもんがあるんとちゃう?」 

「なにそれ!!鴨原くん説明適当すぎない!?」

(───懐かしいな、右京くんのこういうとこ

嘘をつくときいつも左手を首に当てるもんね)

「そんなことないで!ほな、いこか!!」

 こうして、4人はファミレスへと向かった。


───ファミレスにて。

 いつも、桃樺と紫帆が隣同士で右京が一人になるのだが今回は泡が隣にいるためいつもよりも華があるなと双姫は思った。

「今日はあたしたちが奢るから好きなの食べてね!泡ちゃん」

「ほんと!?うーん、迷うなぁ………みんなはどうするの?」

「ほな、僕はハンバーグにしよ!!天川さん、ここのハンバーグは絶品やで!」

 迷ってる泡に気を利かせて右京は先に注文を始めた。

「そしたら、みんな同じやつにしよっか!右京くんは今日もご飯特盛?」

 右京は食べ盛りの男子高校生、必然と特盛にいくのが性なのだ。

「迷ってんねん、僕このあと夜に神社同士の会合にでなあかんから食いすぎると後で困るんや。

ジジイどもは若者に食わせたがるからな」

「そうなんだ、泡ちゃんはご飯は普通盛りでいい?」

 紫帆の提案に泡は迷ったが、答えを出すまでが早かった。

「大盛りでもいい?お腹減っちゃって」

「わかったよ!ももかちゃんは普通盛りだよね」

 桃樺は首を縦に振った、イヤリングは熱を持ったように赤く染まっていた。

『夕影、まだ出てこないで。』

『桃樺、こいつはそうだよ』

────仙道師の中の暗黙の了解で人と友好的な妖邪は手を出さないというものがある、これは仙道師だけに通じるものであって式からすれば屠る敵でしかないのだ。

「ねぇ?アイスの食べたいな!いいかな?紫帆ちゃん」

 場の空気が一瞬にして崩れた、妖邪だから少しズレてるとこもあるのだろうと納得して桃樺は夕影を仙力で押さえつけた。

「天川ちゃん、どないしてそんなアイス好きなん?今の時期は美味しいけれど!」

「ん?うちじゃあまりアイスは食べられなかったから」

 桃樺の眉がぴくりと動いた、詰めるなら今だが公共の場で魔仙は使えないという気持ちがせめぎ合っていた。

「卯月ちゃん………あー、ほら家庭の方針でアイスは食べちゃだめとかあるやん?泡ちゃんはちなみに何味が食べたいとかあるん?僕はチョコ味が好きやで!!」

「わたしは、いちご味かな!ももかちゃんは抹茶だよね?」

 桃樺は、二人のフォローで落ち着いた。

 この時、耳飾りだけはまだ熱を持ったままだった。

 ────この後、頼んでいたハンバーグがきて舌鼓を打つ4人だった。泡はハンバーグを一口食べてその幸せを噛み締めていた。

「いっぱい食べてな!天川さん、それにしても食べ方綺麗やな。特別編入やろ?今までどこにいたんや?」

 泡は透き通るほど綺麗な髪に翡翠色の瞳、見る人みんなが日本人ではないと思うような美貌を持っていた。

「……川が綺麗なとこだよ、スカウトされて特別編入してきたって感じ」

─────特別編入とは、高い仙力を持つ若者を特例で入学させて仙道師としての道を歩ませるためのもの。勝手にレールを敷かれるのは賛否両論なのだが、民衆の意見を聞いてられるほど人手に余裕がないこの世界にある暗黙のルールだ。

「川が綺麗なとこか!!今度連れてってや!二人も行きたいやろ?」

 紫帆は、行ってみたいと目を輝かせていたが桃樺は何かを掴んだようにボソリと呟いた。

「………川?」

 睨みつけるように泡を見る桃樺に対し、泡は一瞬ビクッとしたがすぐに笑顔を取り繕った。

「うん、川だよ。今度卯月さんも行こうよ!」

 明るく握手を求める泡に桃樺は軽く手を握ってすぐに放した。

「卯月ちゃん、なんか変やで?やっぱハンバーグじゃなくて違うのが良かったん?」

「右京、あんた時間は大丈夫?もう帰らないとまずいんじゃない?ここはあたしが会計持つから詰め込んで帰りな」

 右京がスマホに目をやるとギリギリの時間だった、右京は急いでハンバーグを詰め込み咀嚼をしながら走って帰っていった。

 ──3人になり、気まずい時間が流れていく。

「ももかちゃんわたし達ももう暗いし帰ろ?泡ちゃんも一緒に帰りましょ?」

 紫帆の提案に二人は頷いて店を出た。

 紫帆を送った後、桃樺と泡の間に気まずい沈黙が入る。

意外にも口火を切ったのは桃樺だった。

「ねぇ、泡の言ってた”綺麗な川”連れて行ってよ」

「卯月さん、私が何かした?したなら謝るけど身に覚えがなさすぎるよ」

 ──桃樺は相手に詰め寄る時は、縁を囲むように逃げ道を狭めていく戦法をよく使う。

「引っかかってるだけだよ、ただねさっきの発言でその引っ掛かりが全部解けた。朝と違って顔に何かついてるよ」

 泡は慌てて顔を触った。手で何か引っ掛かる者をこそぎ落とすように。何もない感触に泡は安堵しため息をついた。

「もう、卯月さん変な嘘はやめてよもう!!虫かと思ってびっく────」

 言い切る前に泡の喉元には、刀が突きつけられていた。

「なんで、虫を落とすのに下から上に引っ掻いたの?虫なら普通は手で煽って払うもんでしょ?」

「そんなもの人によって違うでしょう!?どうしてそんなに失礼なことを言うの?」

 泡もカッとなってしまい売り言葉に買い言葉で返してしまった。

だが、桃樺は冷静だった。

「下から上に、まるで鱗を剥がすみたいだよね。そしてこの慌てぶりは………」

「海姫でしょ?右京に擦り寄って何をするつもりなの?」

 質問に泡はニヤリと笑うだけだった。

────烏の鳴き声だけが二人を包み込んだ。





「やっぱり桃樺ちゃんは騙せないかぁ……」

泡は、ため息をついて鴨川の坂に座り込んだ。

桃樺も同じように座り込んだ。

────9年前。

 右京、紫帆、桃樺がまだ小さかった頃3人で遊ぶことがほとんどだった。

「なぁ、うづきちゃんは人魚を見たことあるか?」

 3人はみんなの家の距離が同じくらいの加茂川でよく集まっては遊んでいる。

「なにそれ?人魚ってお姫様のやつ?」

「ちゃうちゃう!日本の人魚は本当に人面魚みたいな感じでそんな可愛くないねん………ここ出るらしいで」

 右京が手を前にして幽霊のようなポーズをして桃樺を怖がらせようとしていたが、間に紫帆が入り右京を睨んだ。

「右京くん!ももかちゃんを怖がらせないで!

ももかちゃん、大丈夫だよ多分可愛い子達だから!」

 紫帆が桃樺の頭を撫でると、桃樺は照れくさそうに笑った。

「ねぇ、みんな何して遊んでるの?」 

 聞き覚えのない声に、3人が横を向くと金髪が綺麗に輝く少女が立っていた。

「私たちはここでお話ししてたの!あなたはなにしてるの?」

 紫帆が聞くと、少女は意地悪そうな顔をした。

「さて、何をしてたでしょう?」

 桃樺と紫帆が頭を悩ませてると、右京が自信ありげに答えた。

「あれや!なんか探し物やろ?眉毛が下がっとるよ」

少女は眉毛を両手で隠して照れていた。

「正解!じゃあ何を探してると思う?」

 紫帆と右京は頭を抱えたが、桃樺は何か言いたげな顔をしていた。

「きみ、人じゃないよね?流れが違う」

「んー、じゃあ証拠はある?」

「だってここはあたし達以外来ることはないしそれに髪が少し湿ってるよ」

 少しの間があったが少女は拍手をして桃樺を讃えた。

「正解!私は泡音。この川に住んでる人魚の一族だよ」

 ──────そして現在へと繋がる。

「え?あの時の子!?」

 桃樺は今まで出したことないくらいの声を出した。

「桃樺ちゃんを見つけた時少し驚いたよ。すぐに正体バレるんじゃないかって」

 ──桃樺は生まれつき仙力が高く、相手の仙力の流れを読むことができる。

人と妖邪で流れ方が違うので当時は人がそれ以外かで見分けていた。

「驚いた、それなら声かけてくれたら良かったのに泡は昔から恥ずかしがり屋さんだよね」

「だって、バレると色々とやりづらいんだもん………右京くんは覚えてないみたいだけど」

 右京は普段は鋭いが突発的なものなので記憶力はあんまり良くない、言われれば思い出すがそれまでは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするのだ。

「どうしてまた右京に……泡、もしかして?」

 後の言葉を汲むように泡はうん、と頷いた。

桃樺は、複雑な顔をした。

「応援したいけど、泡と右京じゃ時の流れが違うよ?ましてや人魚なんて特に人と刻む時間が変わるんだから」

 桃樺の言葉に泡は何か言いたそうな顔をしたが桃樺は話を続けた。

「あと、泡あんた丸薬飲んでるでしょ?さっき顔を擦ったけど鱗を取るような動きだったよね?どうしてそこまでして?」

泡は困ったように笑い、言葉が詰まっていた。

気まずい沈黙が川を流れていった。


──丸薬とは、妖邪が一時的に人間になれる秘薬である。

飲めば何日かは人間の姿になれるが──その代償は寿命。泡はそれを知りながら、それでも人間の姿を選んでいた。


  桃樺は身内には極度の心配性になる傾向がある、泡はそれを分かっててわざとバレるような行動をとっていた。

「やっぱり……桃樺ちゃんには敵わないな……そうだよ、私にはもう残された時間は少ないの」

「だから……右京くんに最後に逢いたくなって……好きなのあの子が………運命に裂かれるものだとしても最後はあの子のそばにいたい、叶うならばずっと………………ずっと」

 妖邪と人間の恋は過去に何度かあったが、妖邪側がいつも置いてかれて悲哀にみちて暴走して狩られるのがオチだ。

「言いたいことは分かった、できる限り協力はするよ………どんな結末を迎えたとしても決して逃げないこと、これだけは絶対約束して。もし……もしも暴走したら──容赦なく斬るから」

「分かった、桃樺ちゃんと話せて良かったよ」

(こんな大口叩いてるけど、ちゃんと泡を斬れるかな…………) 

「うん、ありがとうね。でももしそうなったら私が依頼を出すから」

二人は結託の握手を交わして帰路についた。

──桃樺は一瞬川の流れが変わった気がしたが

気に止めるとこはなかった。



─────翌日、学校にて。

「あ、右京くんおはよ!なんで男の人なのにそんなに髪伸ばしてるの?」

 いきなりの爆弾発言に桃樺は凍りついた、昨日は涙ぐみながら話していたのに恐ろしく早い切り替えに寒気がした。

『ちょっと泡!いきなり髪の話はまずい、まずは天気の話から広げるの!!』

『えー!?天気の話こそ何も起こらないじゃん!!少しでも広がる話題にしないと!』

 桃樺と泡が目で会話してる前で右京はポカンと口を開けていた。

「え?どしたん?二人とも、髪長い方がカッコええからやで?ほら男前やろ?」

 騒ぎを聞いて飛んできた紫帆は冷や汗をかいていた。

「聞いたよ、なんか泡ちゃんが右京くんの髪をいじって一触即発だって!!ももかちゃんもどうして止めなかったの………ってあれ?」

 聞いた話と違い、殴り合ってるわけでもなく朗らかな雰囲気に唖然として紫帆は頭を抱えた。

───右京の髪の長さは明晴高校七不思議の一つとされており、男性にしては長く肩甲骨まで伸びた黒髪をまとめている。

その髪が尾骶の辺りまでくると災害が起こると密かに囁かれている。

「え?だって右京くんが髪を伸ばしてるのって背中まで伸ばしてこの学校乗っ取るんじゃないの?」

「はぁ?そんな訳分からんホラ吹いたんはだれやねん!!ほんまに呪うぞ!!」

 桃樺はギクリとしたそれを紫帆は見逃さなかった。

『ももかちゃん…………もしかして』

『だってぇ………そんな冗談が尾を引くなんておもわないじゃん』

 だいぶ前にクラスメイトに右京の髪のことを問われ、面倒くさくて吐いた嘘がここまで広がるとは思ってもいなかった桃樺はどうやって火消ししようか悩んでいた。

「はぁ………まあええわ。──ところで天川さん今日空いとる?卯月ちゃんと文月ちゃんも、今日うちの森のたぬきたちの定期検診やねん手伝ってや!」

 ──下鴨神社では、狸を放し飼いしており妖邪の侵入や低級の妖邪の撃退を行なっている。

狸に込められた仙力や諸々の健康状態年に1回を診るのだ。

 桃樺は、仙力を読むのに長けているため毎年呼ばれている。

「あたしは構わないよ、紫帆と泡もいいよね?」

『泡……近づくチャンスだよ!』

『うん……!』

「狸って可愛いから好きだし行きたい!」

「うん、わたしも行きたいかな」

 みんなの言質が取れたところで右京は、うんうんと首を振った。

「決まりやな………!!!じゃあ放課後に動きやすい格好で来るように!夜ご飯はいらん言うといてや、僕が奢るで!あと、動きやすい服装できてな!」

 ───右京には作戦があった、転校生である天川泡を早いとこ馴染ませて文月サイドに引き込もうという遠大な作戦だ。

(こうしておけば、なんとかなるはずやな─泡)

 ────放課後、下鴨神社境内にて

「うわぁ!!もっふもふがたくさんだね、右京くん!!!」

 泡が幼い少女のような満点の笑みを浮かべてはしゃいでいた。

「そやろ?こんな太っちょばっかりでもやる時はやる子たちやで………って痛いな!!太っちょ呼びが気に触ったん???」

 桃樺と紫帆には懐いているが、何故か昔から右京は狸たちに舐められて……同列扱いされているのだ。

「右京くん、昔からこの子たちに懐かれてないよね。言葉が軽薄だから?」

 紫帆は何気なく言ったが、右京は図星を突かれたようで少ししょげたような表情をした。

「え?ひどない?一応ここの人間よ?なんで3人の方が懐かれているん……さては、女の子相手やから浮かれてるんちゃうんか??」

 右京はもふもふの群れに飛び込んだが、みんな一斉に避けて古株の狸は右京の頭に乗っかった。ずっしりとした重さに右京は倒れかけた。

「ちょっと、右京くん大丈夫?」

 慌てて泡が手を差し伸べると、右京は少し握るのを躊躇ったがすぐに握って立ち上がった。

「天川さんすまんやで、助かったわ!!」

 右京は何事もなかったかのように狸たちを捕まえに行ったが耳を真っ赤にしていた。

───色恋に敏感な年頃の双姫は、それを見逃さなかった。

『──ももかちゃん、あれって』

『そのまさかだよ。しいちゃんは右京の方に行ってあげて』

 紫帆は、分かったと頷き右京の方へ向かって行った。

「泡、右京のやつあたしたち以外の仲良い女の子いないから耐性がそんなにないの。ごめんね」

「ううん、大丈夫!!今のは心配になったからだから……やっぱり覚えてないのかなぁ」

 泡のところに狸たちにが来て慰めるようにもふもふを捧げるのだった。

───一方、右京は狸たちに踊らされていた。

「おい!待てや!!大人しくせんと、鍋にすんで!!!」

 両手を上げ追いかけ回しても一向に捕まる気配がしなくて右京は疲れ切っていた。

「もう!そんなんだから捕まらないんでしょ。

ほら、みんな診察すぐ終わるからおいで〜」

 紫帆が、手を挙げるとみんな一列に並んで待機していた。その差に右京はがくりと項垂れていた。

「どうして………僕、ここの人間なのに……もしかして舐められてるんかな……」

「それはないよ、右京くんのこと信頼してるからみんな安心してるんだよ!」

 狸たちに問いかけるとみんな頷いた。

紫帆が他の方向を向くと、狸たちは舐め腐った顔をでベロを右京に向けて出していた。

(………こいつら…………)

 右京が怒りに震えている。それを横目に紫帆は口を開いた。

「泡ちゃんってさ、多分人じゃないよね。人というには仙力が溢れているのがわたしでも分かるもん」

 右京は少し目を逸らしたが、すぐに顔を作りいつもの顔になった。

「そんな訳ないやん!!文月ちゃん、考えすぎちゃうん?文月ちゃんで分かるなら僕だって分かるよ。卯月ちゃんくらい繊細なら話は別やけど」

「───じゃあ、分かってるよね?あの子が何者でどこから来たのかも」

 ──紫帆は記憶力がよく一度会った相手の情報を九割ほど記憶しておけるのだ。

 細かい詮索は桃樺に任せていたが、会って仙力をみたら泡の正体はすぐに思い出せた。

「………何言ってるん?そもそも妖邪ならうちに入学できへんよ。俺が妖邪なら丸薬の一つでも仕込んで来るけどな。」

「右京くん………焦ると一人称が俺になるよね。

本当は分かってるんでしょう?」

 右京は焦ったりすると「僕」から「俺」に変わるのだ。

長年の付き合いの紫帆から見た右京の唯一の弱点だ。

「あんな、文月ちゃん。……滅多なこと言うもんじゃないで。」

 右京は少し怒っていた、肝心な時に相談できない自分と言われたくないことをはっきりと突きつけてくる紫帆に。

「君らと一緒にいれば妖邪か人かの見分けなんてつくようになるわ!!僕だって、天川さ………泡の正体くらいとっくに分かっとる!丸薬の代償、そして目的も全部!!でも───」

「でも、願いが叶えば泡になって消えちゃう。って言いたいんでしょ?だから知らない体で過ごしてる………そうでしょ?」

 ──丸薬がもたらす副作用は妖邪によって異なるが人魚の場合は願いが叶えば泡となって消える、すなわち寿命を前借りしている状態なのだ。

「もうな、あの笑顔を見ることはないと思ってたんや………でもあの顔を見るたびにこのままずっと知らないままでいれば失うことはないなんて思ってしまったんや」

 右京の目は悲しみに満ちていた、乱れた呼吸だけが辺りに響いていた。


次の瞬間、紫帆の手のひらは右京の頬を引っ叩いていた。

「鴨原右京!あなたが今しているのは何もせずに殺すのと同じことだよ。」

 紫帆の瞳は、怒りに揺れながらも真っ直ぐだった。

「ああして笑っている今だって寿命までどんどん歩みを進めているの。だったら願いを叶えた方があの子のためだよ?」

 右京は軽口を叩く余裕があるわけがなく言葉を選ばずに吐き出した。

「んなもん、分かっとるよ!!でも……少しでも長く生きさせてあげたいんや、僕はずっと………俺はずっと初めて会った日から好きやったんや!!」

 吐き出した途端、胸が焼けるように痛んだ。隠してきた言葉は、もう二度と飲み込めなかった。

 紫帆は一瞬だけ黙ってその言葉を受け止め、それからまた強く言い返した。

「だったら……私たちがいるじゃん!桃樺ちゃんに相談すれば道だって開けるかもだし!」

「それも分かっとるよ………でも卯月ちゃんに頼めば残る道は消滅しかないやろ」

「それは………」

 紫帆が言い淀んだところで桃樺と泡が来た。

桃樺はこの気まずい雰囲気を瞬時に察したが泡は気にする訳でもなく右京に話しかけにいった。

「右京くん!あっちのたぬきさんは終わったよ!次は何したらいいの?」

「もう終わりや……今日はもう帰ってええで、ありがとうな」

 右京は何事もなかったかのように答えたが、その声はかすかに震えていた。

「そしたらみんなでお菓子食べよ!!水羊羹持ってきたよ!!」

「あぁ……じゃあせっかくやしみんなで食べよか!!抹茶味ある?」

 検診を終え一息ついたあと、解散した後桃樺は紫帆に事の顛末を聞いた。

「本当に……?右京が?」

 桃樺は騙されていたと思い悔しそうな顔をした。

「うん…泡ちゃんはわたしが見ても分かるくらい右京くんのことが好きなのは分かってるけど──」

(殺すしかない……なんて言える訳ないよね)

 紫帆は掌を強く握り、言葉を潰した。

「まあ、その辺は分かってるけど問題はこれからじゃない?紫帆はどうしたいの?」

「わたしは………最後まで二人を応援したい!結果はまあ見えてるけど」

「なんて言ったって私たちは女子高生ですから!」

 紫帆は自慢げに鼻をふんすと鳴らす、桃樺はそれをみて安心した。

「了解だよ、しいちゃん!あとね殺す以外にも方法はあるよ、条件は厳しいけどね」

 紫帆はなんのことか分からなかったが、桃樺を信頼しているのでとりあえず大きな返事をした。


───同時刻、下鴨神社にて


「ったく……文月ちゃんめ、あんなでかい爆弾置いて帰ったら気が動転してまともに歩けんやん」

 右京は神社から家に着くまでに3回転んだ。

「泡音が好き……なんてのは自分でも分かっとる、でもあんな形で現れるなら思い出の中で留めときたかったんや」

「あぁ、こんな時自分が嫌になる。泡音がどんな覚悟で俺に会いに来たかも知らないふりをせなあかんのは流石にキツい………………隠れてないで、出てきたらどうや??天川さん……なんてな!!」

 すると、声を向けた方にある木がガサガサと揺れ少女が前に転げた。

──流麗な黄色にいくつも木の葉がついていた。

「いてて……右京くんよく分かったね!流石だね」

「まぁ、僕にかかればチョチョイのチョイスやで!天川さんはどしたん?なんか忘れ物?」

 右京はいつも通り振る舞っていたが声はいつもより上擦り、表情までは取り繕えていない。

「んー?右京くんなんか変………まあいいや、右京くん私の正体見抜いてるでしょ?」

 あまりにも、とてつもなく直球すぎる投げかけに右京の喉が詰まる。

 いつもなら、すぐに返すが喉元まで出かけた言葉がずっとつっかえている。

────動悸が治らないなか、その言葉をグッと飲み込んで深呼吸をした。

「正体……?なんのことや、君は転校生の天川泡やろ?それ以上でもそれ以下でもあらへん」

「昔から変わらないね、気が動転すると人の呼び方が名前から君呼びになる……そんなところも可愛くて好きだなぁ」

 必死に取り繕った言葉も直球に返され、立つ瀬がなくなっていく。

「誰かと勘違いしてるんちゃう?」

 冷たく言い放ち反応を窺ったが、泡は引く気配はなかった。

「勘違い?そんな訳ないでしょ!!私………私は……………」

 泡の目から涙がポロポロと垂れる、右京は掛ける言葉もなかった。

「右京くんに、会いにきたんだよ?他の誰でもない妖邪だとしても分け隔てなく接してくれて、それに……それにね愛してると言ってくれたじゃない!!」

「あんな、天川さん。さっきから熱く語ってくれてるとこ申し訳ないんやけど、多分それ人違いやで?僕は天川泡なんて人に会ったことはないねん。」

「天川さんもしかして少女漫画好き?だとしたら読みすぎやで!?僕がそんな大層な人間な訳ないやん!!だって僕やで??」 

 生きてる時間が違う、ここまで粘れば引いてくれるだろうと思っていたが予想は大きく外れた。

「そんな捻くれてるところも、少し泣き虫なところも全部知ってるよ。今だって泣きそうな顔してるよ?」

 泡が、涙を拭おうとすると右京は思い切り泡の手を弾いた。

今まで溜め込んでいた言葉が一気に吐き出された。

「だから知らん言うてるやろ?勘違いもここまでくるとお花畑やな。俺はお前なんか知らんわ分かったらここから出て行けや、祓うぞ?」

 今までにないくらい冷たく言い放たれ、絶望の淵に立っていた。そこから上がらせてくれたのは顔の乾燥だった、丸薬の効果切れだ。

「………帰るね」

 そういって後ろを振り返り、走り去ってく泡から涙が真横を飛んでいた。

右京はただ手を伸ばすしかできなかった、姿が見えなくなった後に右京はしゃがみ込んだ。

「泡音、君はそっちの世界で幸せになるんや………俺だって幸せにしたいよ、でも生きる時間が違いすぎる。」


────辺りは静寂に包まれた、涙の跡と鱗だけを残して。


(今は悪役だっていい……それで泡音が生きながらえてくれるなら)




 ────泡は加茂川を歩いていた、空からは雫がポツリ、またポツリと落ちてきていた。


「人間との約束を鵜呑みにすると馬鹿見る、父上の言ってた通りになったな………」

 泡は空を見上げた、何かを考えていないと先刻の右京の顔を思い出してしまうから。

「あの顔は全部見透かしてる顔だったなぁ……私の残された時間は何日だろう」


────同日、昼頃


「泡ちゃん!右京くんの弱点……特徴教えてあげるよ!」

 昼休みに入り泡と紫帆、桃樺はガールズトークに華を咲かせていた。

桃樺は、興味を示さなかったが泡は興味津津だった。

「右京くんはね、優しいの!でも優しさが足を引っ張ってて最後は自分が悪役に回る、自分を勘定に入れないタイプなんだよね!そして一人称は僕から俺になるの!」

「え?そうなの!?知らなかったよ!!!」



─────現刻、加茂川


 泡は昼の会話を思い出し、思わず笑ってしまった。

「紫帆ちゃんの言っていたことは正しかったなぁ………でも」

言葉を濁すように手を水に入れると、目の前に扉が現れてノブに手を掛けた

(そんな優しさはいらないよ、右京くん──)

 ノブを回す間一滴の涙がこぼれたが扉を開ける前にはいつもの笑顔に戻っていた。

 

「みんな、ただいま!!!!」


────鴨原家、右京の部屋

「やっちまっなぁ……」

 ため息だけが部屋に響き、すぐに静寂が包み込んだ。

「忘れられるわけないやろ……」

 右京は、桔梗の押し花の栞を切なげに撫でた。その後何もない天井に小指を差し出した。


──────7年前。

 泡は気付けばほとんど毎日三人と一緒に遊ぶほど打ち解けていた。

「ねぇ、泡ちゃん!あっちに綺麗なお花畑があるんだけど行かない?」

 泡は加茂川から出たことがないので陸の絶景を見たことがなかった。

 紫帆の提案に泡は目を輝かせて顔をブンブンと振った。

「ほんと!?行ってみたい!!!!」

「でもな泡ちゃん、父殿の許可は取らなくてええんか?バレたら怒られるんちゃうの?」

 右京は泡の心配もしてるが、何よりもこちらにまで飛び火することを恐れていた。

「泡、あたしたち待ってるからお父様に許可とってきな」

 この時の桃樺と紫帆の階級は肆で、同世代では最強格だが完全に守り切れるほどではなかった。

「うん、わかった!!そしたら少し待ってて!」

 泡は、川に飛び込んで飛沫が落ち着く頃には人魚の姿になり颯爽と川を昇っていった。

 見届けてから桃樺と紫帆は右京の方を向きニヤニヤしていた。

「右京、あんたは止めると思ってたよ。だって人魚相手に喧嘩売るほど馬鹿じゃないもんね!」

「そうだよ!なんかあったらどうするんやって必死で止めると思ったもん」

 紫帆は右京の声真似をしながら脇腹をつついた。

「いやな?そら本当は怖いで!?でも、あの笑顔はずるいよー」

 話してる途中で右京は顔を赤らめた、二人は乙女の勘が働き見合わせて満面の笑みを浮かべた。

「右京、あんた………」

「右京くん…………もしかして」

 こうなった二人は止められないのを知っていたので俯きながら白状した。

「そ……そやで!!!好きになっちゃったんや!!!」 

 右京の声はあたり一帯に響いた。

 少しの静寂のせいで右京は恥ずかしくなり顔を覆った。

「好きになったって誰を?桃樺ちゃん?紫帆ちゃん??」

 声の方を見ると泡が、人間の姿に擬態して立っていた。

「ねぇ?右京くん、恋しちゃったの???」

 泡は恋バナもしたことがないので夢中になっていた。

右京は当人にそんなことが言えるはずもなく狼狽えていた。

「内緒や!!!!!それより父殿はなんて??」

 右京の声は上擦り、心臓は跳ねるくらいバクバクしていた。

「んー??お父様は二つ返事で許可してくれたよ!!」

 ピースした指をパクパクさせながら泡が答えた。

「おん、そしたら行こか。な!!文月ちゃん!卯月ちゃん!!」

 強引に歩き出す右京に質問を投げ続ける泡が続き、呆れながら幼馴染の恋路を作ると決めた二人の姫が花畑に向かった。

「泡ちゃん、着いたよ!」

 近くなったところで紫帆が泡の目を隠して案内していた、右京が手を引こうとしたが照れて繋ごうとしなかったので桃樺が先導して歩いていたのだ。

 紫帆が目から手を離すと泡の眼前には夢の世界のような花畑が一面に広がっていた。

「これ、夢じゃないよね?」

泡が声を振るわせながら聞くと、桃樺は笑いながら泡のほっぺたを優しくつねった。

「ひはひよ、ほうはひゃん」

「あはは!ごめんごめん!!でも夢じゃないでしょ??」

 桃樺が手を離すと泡はほっぺたを摩りながら目の前に広がる花畑に夢中になっていた。

「ほら、泡ちゃんこれあげるで!」

 右京はその辺にあった花を摘み、泡に手渡した。

泡はなんの疑念も抱かずに受け取った。

「これはなあに?いい匂い!」

 いつも通りの反応に、右京は少しがっかりしたが紫帆は花を見てニヤリと笑った。

(やっぱ右京くんは土壇場に強いなぁ……)

「泡ちゃんこのお花はね……チューリップって言ってね、花言葉は──愛の告白だよ」

 泡はぽかんとしたが、すぐに理解し顔が貰ったチューリップよりも赤くなった。

「右京くんの好きな人って私!?!?」

 右京は、余計なこと言いやがってと紫帆の方を睨んだが紫帆は知らんぷりをして口笛を吹いていた。

男として、ここで日和って言わないのはダサいと思い深く深呼吸をして泡の方を向いた。

「よく聞いてな、泡ちゃん!今はこんなのしかあげれへんけど大きくなったらいっぱいのバラの花を持って迎えに行くからな!楽しみにしといてな!」

 右京は早口で勢いまかせに告白した、三人はぽかんとしていて右京はそれをみて冷静になれた。

「ほんまやで?………好きなんや泡のことが」

泡は状況を理解したのか顔を真っ赤にしながら俯いていた。

「本当に??約束だよ???」

 そう言って、泡は小指をためらいがち差し出した。

 泡自身も分かっていた、種族間の恋愛はどちらかが必ず深く傷つくことを。

「当たり前や!もし破ったら針でもなんでも飲んだるわ!!!」

 右京は差し出された小指に自分の小指を重ね指切りげんまんをした。


─────現在、鴨原家

 「……やくそく………やから…………」

 右京は、行き場を無くした小指をたたみグッと拳を握った。

 次第に現実に引き戻され右京の思考が鮮明になってゆく。

「って今何時や!?…………あぁ、今日は非番か」

 カレンダーを見るとバツ印がついていたのでほっと胸を撫で下ろした。

 右京は一つ気になっていることがあった、先ほどから窓がコンコンと小石を投げられたような音を響かせていたのだ。

「誰やこんな時間に、狸か?ご飯はあげたはずやろ」

 右京はカーテンをバッと開いた、そこには意外な人物が立っていた。

「あら、随分と酷い顔だわ、そりゃあんなこと言えばそん顔になるわね。男前が台無しよ?」

男?は右京の額を指で弾いた。


────????

「ただいま!!」

「あれ、泡音じゃん!!もう帰ってきたの?」

 泡音がドアを開けると、少年が出迎えてくれた。

「うん!河も元気してた??」

 河は元気よく頷いた。

───海姫は成人になると変化が完璧になる、それまでは人間界へ赴くことは禁忌とされているのだ。

「にしても泡音さ、戻ってくるの早くない??

もしかして……人間になんかされたの?」

 河が訝しげに泡音を見る、泡音は目を逸らして口笛を吹いたが下手くそなあまり笑われてしまった。

「まあいいや、お父様のところには行った?心配してたから早く行ってあげて」

「うん、分かったよ………ありがとうね」

 泡音は河の頭をワシワシ撫でた、人間だとちょうど思春期に差し掛かる年齢で最初は照れていたが段々と笑顔になっていった。

「河には気を遣わせちゃったな……お父様のところに行ったら間違いなく最悪になる───」

 泡音の顔から笑顔が消えていた、父の部屋の前に立ち大きく深呼吸をして部屋の門を叩いた。

「お父様、泡音です。入ります」

 門を開けると父と母が腕を組んで立っていた、その顔は娘を歓迎するものではなくなぜ帰ってきたのかと叱責するような顔だった。

「泡音、彼岸山丹を飲んだ者がどうしてここにいる?今だって人間の姿のままではないか」

 ────彼岸山丹(丸薬)

「泡音、あなたの願いは人となりもう一度あの少年と会い人として短くとも添い遂げることなのではないのですか?」

 父と母から歓迎されていないことが分かり、顔を背けたが言い逃れもできないと思い全部打ち明けることにした。

「実は、あの少年………鴨原右京に覚えていない、祓うぞと言われ泣く泣く戻って参りました。遺された時間は微々たるものですが家族で過ごしたいと思いここにいる次第です」

 「どうして………まだこんなに………」

 泡音の言葉を聞き、父は深くため息を吐いた。母は、膝から崩れ落ちた。

「まあいい……ところでその畏まったのやめん?俺も疲れるし、どんな姿でも俺の娘であることは変わりない。母さんだって………っていつまで泣いてるんや!!送り出す覚悟で飲ませたんだからいつまでも泣かないでくれ!な?」

「だって………せっかく戻ってきてくれた娘があと少しで死ぬなんて辛いじゃない!娘にこんなこと言わせるのは親失格よ!!」

 泡音の父は、京都一帯の海姫を統率できるだけの力がある。性格は豪胆で湿っぽいのを嫌う性格だ。

「そうだよね、お父さん……でもこれは私が決めたことだから」

「そりゃ、娘の決めたことは全力で見守るし応援もする………でもこの落とし前はあのクソガキに付けさせなければならん」


 泡音は、抗えない運命に顔が引き攣った。

父のこのあと言うことが、手に取るように分かるからだ。

「娘を傷つけられて黙ってるのは親失格や……戦争や、戦争日は7月7日昼。あのガキ共がいる明晴高校に殴り込む。」

 父が机を思い切り叩き怒りを露わにした。

「待ってよお父さん!!!いくらなんでも話が極端すぎるよ!!戦争なんてしたらただの憎み合いだよ?」

 泡音の言葉に、動揺する父だが咳払いをして泡音を黙らせた。

「あー………言葉が悪かった。とりあえずお灸を据えてやるで!!命は取らん!だが、仙道師として終わらせてやる」

 泡音は止められない運命に絶望して言葉を失ったが同時に覚悟も決まった。

「これは私が引き金になった問題です、私も前線に立ち戦います…どうせ死ぬなら華々しく家族と共に散りたい。」

 父は天井を見上げ考え込み、渋々頷いた。


────後日、この話は海姫たちに一気に広まった。


門を開けると父と母が腕を組んで立っていた、その顔は娘を歓迎するものではなくなぜ帰ってきたのかと叱責するような顔だった。

「泡音、彼岸山丹を飲んだ者がどうしてここにいる?今だって人間の姿のままではないか」

 ────彼岸山丹(丸薬)

「泡音、あなたの願いは人となりもう一度あの少年と会い人として短くとも添い遂げることなのではないのですか?」

 父と母から歓迎されていないことが分かり、顔を背けたが言い逃れもできないと思い全部打ち明けることにした。

「実は、あの少年………鴨原右京に覚えていない、祓うぞと言われ泣く泣く戻って参りました。遺された時間は微々たるものですが家族で過ごしたいと思いここにいる次第です」

 「どうして………まだこんなに………」

 泡音の言葉を聞き、父は深くため息を吐いた。母は、膝から崩れ落ちた。

「まあいい……ところでその畏まったのやめないか?俺も疲れるよ、どんな姿でも俺の娘であることは変わりないよ。母さんだって………っていつまで泣いてんの!!送り出す覚悟で飲ませたんだからいつまでも泣かないでよ!」

「だって………せっかく戻ってきてくれた娘があと少しで死ぬなんて辛いじゃない!娘にこんなこと言わせるのは親失格よ!!」

 泡音の父は、京都一帯の海姫を統率できるだけの力がある。性格は豪胆で湿っぽいのを嫌う性格だ。

「そうだよね、お父さん……でもこれは私が決めたことだから」

「そりゃ、娘の決めたことは全力で見守るし応援もする………でもこの落とし前はあのクソガキに付けさせなければならないよ」


 泡音は、抗えない運命に顔が引き攣った。

父のこのあと言うことが、手に取るように分かるからだ。

「娘を傷つけられて黙ってるのは親失格だ……戦争だ、日は7月7日昼。あのガキ共がいる明晴高校に殴り込む。」

 父が机を思い切り叩き怒りを露わにした。

「待ってよお父さん!!!いくらなんでも話が極端すぎるよ!!戦争なんてしたらただの憎み合いだよ?」

 泡音の言葉に、動揺する父だが咳払いをして泡音を黙らせた。

「あー………言葉が悪かった。とりあえずお灸を据えてやる!!命は取らん!だが、仙道師として終わらせてやる」

 泡音は止められない運命に絶望して言葉を失ったが同時に覚悟も決まった。

「これは私が引き金になった問題です、私も前線に立ち戦います─どうせ死ぬなら華々しく家族と共に散りたい。」

 父は天井を見上げ考え込み、渋々頷いた。


──── この噂は瞬く間に海姫の一族全体へと回覧板で広まっていった。


発信:海姫の長(親父)

日付:7月7日 昼

集合:明晴高校前(正門)


――標的――

鴨原右京(とその取り巻き) — ちょっとお灸入れたるで!


――目的――

うちの娘を弄んだツケ、きっちり払わせろ。体面は保たせつつ、思い知らせたれ。


――やってええこと(ざっくり)――

・命は絶対禁止や!そこだけは守れ。

・未成年・婦女子には手出し禁止!**親分の面子やぞ。

・派手にやってええ、でも後で笑い話になる程度に頼むで。


――準備して――

・泡音は前に立つ(本人の希望や)。みんな、前に出すんやで。

・武器は各自持参。ただし、使いどころは考えろ(無駄撃ちはアカン)。

・単独凸禁止!伝令の合図を守れ。「あいつ来たで!」ってやつな。


――一言ツッコミ(親父からの軽口)――

「おい、頭でっかちな奴は黙っとけ。殴るんやなくて見せしめや!帰ってきて嫁に飲まれるんは勘弁やで!」


 


――終わりに――

やるなら一発で魅せろ。やり過ぎは禁物、手加減も甘くするな。気合い入れて行け――


 海姫は武闘派な性格で、久々の大仕事に盛り上がっていた。随所から気合いの入った声が聞こえてくる。

「よっしゃ行くで!」 


「おう!弁当は誰が作っとるんや?」


「そんなもん知らん!戦利品で賄えるやろ!」


「死ぬなよ〜って誰か言えや!命だけはアカンで!」


「わかっとるわ!親父の顔に泥塗らしたらただじゃおかん!」



 六


─────7月7日早朝。

「あかん、今日も寝れんかったわ。薬効かんやんけ…………」

右京はあの日から不眠に悩まされていた。

(寝ようとするとあの時の泡の顔がちらついて目が冴える………)

 回らない頭を回すために右京は窓を開けて深呼吸をした、早朝はまだ涼しく澄んだ空気が肺を満たすのを感じた。

「さ、今日もがんばろかな!!……って夕影殿やん、どしたん?」

「あんたがそんなんだから桃樺に様子を見に行ってやれって言われてるんだよ、今日は学校行けそうなのかい?」

 ───あの日以降、右京は極度の睡眠不足で学校を休んでいた。

「右京あんた、あれじゃ気絶だよ。何が引っかかる?もしかしてあの人魚か?」

 右京は的を射抜かれたようにハッとしたが、すぐに表情を戻したつもりになっていた。

「まさか、そんなわけないやん?あれや、ゲームがおもろくてのめり込んでただけやで!」

「ふーん」

 右京は声色はいつもと同じだが、顔は引き攣っていた。

(──これじゃ、厳しいわね……でも今回は右京が鍵だ。)

「右京、厳しいことを言うようだけど今日は学校に行きな。桃樺と紫帆も心配してるよ」

 夕影はぼんやりと未来を視ていた、そこには倒れた少女を抱える右京の姿があった。

最悪を回避するためには右京を引き摺ってでも学校に行かせるつもりだ。

「流石に今日は行くで……なんだか腹の底がムズムズするし行かんと体が鈍るで」

 右京は珍しく目も合わせず淡々と答えた。

「それは何よりだ。あと、その栞だけは持ってきな。気休めくらいにはなるだろう」

 夕影が栞を指差すと右京は大事そうに胸ポケットに閉まった。

「言われなくても、大事なお守りやし……持ってくよ」

 右京は荷物をまとめて学校へ向かった。

 道中、妙な胸騒ぎがしたが不眠で歩くだけで精一杯だった。

「みんな、おはようさん!……ってあれ」

 教室に入ると全体の半数がいなかった。

「おはよう、右京。あんたひどいクマだけど大丈夫なわけ?」

 桃樺は言葉は強かったが表情は焦っていた。

「んー?大丈夫やで!!ちょっと寝不足なだけやで、狸がキューキューうるさくて敵わんわ」

 右京は気を遣わせないように普段通りをやっているが、目元のクマだけは隠せなかった。

「右京くん、狸ちゃんたちよりも右京くんのクマの方が見てて敵わないよ……保健室行く?」

「いやいや文月ちゃん、大丈夫やから!!!…それにしても教室やけどインフル流行ってるん?」

 紫帆は呆れたように質問に答えた。

「今日は七夕だよ?弱い妖邪がいっぱい湧くから階級の低い仙道師の経験としてほとんど駆り出されるじゃん!」

 妖邪も季節の行事が好きで酒盛りをするのだが、酒が入りタガが外れて暴れ出すから沈静化のために学生を刈り出して事にに当たるのだ。

「あぁ……すまんやで、ちょっと頭が回ってないんや」

 桃樺は右京の異変を見逃さなかった、そしてあの事とも合点がいった。

「もしかして、泡となんかあったの?あの子も最近来てないし」

 右京が休み始めた次の日から、泡は学校から姿を消し行方をくらませたのだ。

「なんもないよ、天川さんは特例やし飽きたんちゃうの?」

「ダウト、随分ドライじゃん………なんか知ってるでしょ」

 もう隠しきれない、そう思い右京はため息を吐きながら白状した。

「実はな──────」

 桃樺と紫帆は幼馴染の恋路にトキメく反面、あまりにも残酷な運命に心が重くなった。

 桃樺は、事の顛末を聞いて頭を抱えた。

「右京、海姫は身内への情がとてつもなく厚い。──そして今日は七夕で学校も手薄になる………あたしが何を言いたいか分かる?」

 右京はさらに深いため息をついた、紫帆は瞬時に理解し学長室へ向かおうとしていた。

「二人ともよく聞いて、これから学長室へ話をつけて来るから私が戻ってきたら準備をするよ」

 紫帆は、教室を後にした。

「分かったよ紫帆───出ておいで玉桂、戯雨」

 桃樺の声に呼応するように依代は光を帯びた。

 教室の空気が一瞬で変わった。 

光が消えて少女と白兎が飛び出てきた

「桃樺!!久しぶりに暴れるのか???」

「今何時じゃ?わしはまだ寝てたいのじゃ」

 玉桂はいつも通り元気に、戯雨もいつも通りにだるそうにしていた。

 クラスメイトが、ざわつき始めたところで桃樺は手を叩き静まり返した。

『夕影、多分右京とは別行動になると思うから夕影は右京について』

『分かったよ、桃樺』

 夕影は雛鴉に化け右京の肩にちょこんと乗った。

「私たちは中衛になると思うから忙しいよ、二人とも頑張ろうね───ご褒美もたくさ

んだよ今日は」

 そんなことを話しているうちに、紫帆───そして見覚えのある青年も一緒に入ってきたのだ。

「おいおい、右京は女の子に振られてご機嫌ナナメかな?」

 聞き覚えのある声に右京は顔を上げた、そこにはかつて敵対していた八衢烈の姿があった。

「烈……お前がなんの用や、冷やかしなら帰れ」

「そんなこと言って良いのか?俺はこの姫さんに頼まれてここにいるんだぜ?なぁ、文月の姫さんよ」

「実はね───」

────数刻前、学長室


「失礼します」

 紫帆は学長室に入り、事の経緯とこれから起きるであろうことを説明した。

「人と妖邪は相容れないもの、妖邪は討つべき対象……………皆に伝達だ、三の陣を敷くんだ」

「三の陣…?そんな、学長先生殺しはダメですよ!向こうには天川泡……クラスメイトだっています」

 三の陣とは、学園に何者がが侵入した時に徹底排除するための布陣だ。

「しかしなぁ文月よ、今残ってるのは弍以上の仙道師だけだし人魚たちが可哀想なくらいだよ」

「………今回、鴨原がカギとなる。不殺も鏖殺もあやつ次第だぞ。今日来るとしても昼過ぎくらいだと思うから今日の授業を止めて作戦を練ろう」

「分かりました、そうしたら先輩方に指揮をしてもらいましょうか」

 紫帆は、学内でもトップクラスの実力を持つが年功序列を重んじる性格なので階級が下でも歳上を立てることができるのだ。

「んー、そしたらなぁ」

 学長は悩んでいた、普段ならそれでもいいが今回は海姫一族だし下手な指揮者なら全滅もあり得るからだ。

「いや、ダメだ。今回指揮を執るのは文月、卯月と後は………」

「そしたら、八衢烈なんてどうでしょう?

階級も私や卯月と同じですし、そして何より近接での指揮は彼の方が適しているように思えます。」

 紫帆の提案に学長は少し悩んだ

──先日の鞍馬山の件以降、烈は八衢を破門になったのだ。

(まぁ、これも何かの兆しかな)

 学長は一人で頷き、紫帆に命を下した。

「学長の名の下に文月、卯月そして八衢を指揮官とし三部隊を結成する!この三部隊はそれぞれ役割を与えよう」

 ───学長が与えた役割は、紫帆の想像を超えるくらい緻密なものだった。


第一部隊 文月隊

全体を俯瞰して的確な指示を出す後衛部隊。

戦局全体の流れを読む紫帆の判断が、他二隊の命運を左右する。

冷静さと分析力が求められる司令塔。


第二部隊 卯月隊

中距離からの支援を主とし、戦況を見極めて前衛部隊を押し上げる中衛部隊。

式神との連携が肝で、桃樺の判断ひとつで戦線が一気に変わる。

最も柔軟性と瞬発力が問われる位置。


第三部隊 八衢隊

最前線で敵と対峙し、陣を敷いて一網打尽にする前衛部隊。

烈を中心に、符術による制圧と拘束を得意とする。

最も危険な役割だが、その分、戦の趨勢を握る切り札でもある。


─────現在。

「ざっくり説明したけど、二人は異論ある?」

 紫帆は、聞くだけの確認をとった。

「主……紫帆の指示ならあたしは囮でもなんでもやるよ」

「まぁ、文月の下につくのは癪だが学校の危機ならばしょうがねぇ……手を貸してやる」

 桃樺と烈は首を縦に振った、それをみて紫帆はにっこりと笑い次の指示を出した。

「仙道師の動きは、指揮である二人に任せます。結界師の動きは各部隊に配置するので上手いことやってね」

「あと、右京くんは前線の烈くんサイドね。前線が何かと大変だから……って右京くん?」

 右京はどこか上の空で話を聞いていないようだった、名前を呼ばれるとビクッと跳ねた。

「え?なんや文月ちゃん??」

 右京は、声色はいつも通りだが表情が固く強張っていた。

「右京くんは烈くんと前線ね」

「あぁ、そういうことか。ええで、前線だろうがなんだろうがなんでもええよ……………どうでもええ」

 いつもならば軽口を叩いて腹の底を悟らせない男だが、今回ばかりは流石に堪えていた。

「おい右京、お前に何があったか知らねぇがお前の指揮権は俺が握っていることを忘れるなよ。間違っても勝手はするな」

「そんなん言われんでも分かっとるよ、それがどこにも属してない八衢を破門されたカスでも

な」

 右京の言葉に教室がざわつき始めた、言葉を受けた烈はポケットに閉まっていた符を取り出す寸前だった。

 パン!と手を叩き紫帆はこの場を宥めた。

「二人ともそこまで!!右京くん、何があったかは知らないけど人に八つ当たりだけはしないで───今の右京くんをみたら泡ちゃんが悲しむよ……」

紫帆は慰めるつもりで言ったが、右京には届かなかった。

「泡音はもういないねん!!」

 乾いた叫びが教室一体に響き渡った、初めて右京は声を荒げた。

「泡音は、丸薬を飲んどった……これが何を意味するかわかるやろ?だからこれが最善なんや」

 この言葉に憤慨したのは桃樺だった。

「泡……いや泡音はあんたに会いたい一心で……あんたに全てを捧げる覚悟でここに会いに来たの────最低だよ、あんた」

 吐き捨てるように言って、桃樺は教室のドアを力任せに閉めた。

 静まり返る場の中、口火を切ったのは紫帆だった。

「式神使い……ももかちゃんは特になんだけど人ならざる者が自分に従うのは生半可な覚悟ではないと思ってるんだよね───さっきの右京くんの言葉は不誠実に聞こえちゃったんだろうね」

「………分かっとるよ」

 右京は取り繕うわけでもなく小さく頷くだけだった。



─────ほぼ同刻、高校近くのコンビニにて


「なぁ親父、この辺暑すぎで干からびるんやけど」

「うっさいわ!もうちょいで着くからアイス食べて気張れや、暑苦しい」

 泡音の父は、海姫の男十数人を連れて学校へと向かっていた。

 海姫の男の一人が暑さでダウンしてしまったので休息を取っている。

「久々の人間界なんですし、もう少し楽しいことしましょうよ」

「なんや、出る前は気合いはいっとったのにもうあかんのか!!もう向かうで!!」

 泡音の父の一声でブーイングをしながらも一同は歩き出した。

「これ終わったら宴会でもしましょうや!なんて言ったって今日は天の川が綺麗に見えるし、星見酒なんてどうです?」

 この提案に父はまたかと呆れた様な表情をしたが、すぐに笑い飛ばした。

「悪くねぇな!泡音はまだ酒はダメだぞ!好きなジュースなんでも好きなだけ買ってやるからな!!!」

「………うん!ありがとう!!お父さん!!」

 泡音は学校が近づくにつれて足取りが重くなっていった。

(───これから私たちがやるのは友達を傷つけること。でもね右京くん、引き金を引いたのは君だからね)

 泡音は、水でチューリップを形取りすぐに握りつぶした。



───数刻後


「お前ら学校に着いたで……なんか少なくない?」

「お父さん、今日は七夕でしょ?階級の低い仙道師たちは街に出て任務中だよ」

 泡音のツッコミに父は頭を抱えた。

「え?ほんま?来る日間違えたかもしれへんわ」

 父のボケに男たちはドッと湧いていたが、泡音は何も言わずに手に水を出した。

「……………水月・矢」

 手を弓を撃つように構え、そこには水流で渦を巻いている矢が射出を待っていた。

「────射出」

 学校の周りには結界を張ってあるがそこまで強固ではないためあっさりと破られた。

「おいおい、もう来たのかよ」

 異様な気配に烈はいち早く気づき、部隊へ号令をかけた。

「前線部隊!!これより人魚共を排除する、卯月と文月はそれぞれ支援だ!」

 烈の号令と共に一斉に符を起動させると、炎が舞い上がった。

「うお、これじゃ通れへんやんか!!それにこの炎どこから湧いてきたんや!!」

 敷地を跨ごうとした瞬間に炎が上がって海姫たちは思わず体が跳ねてしまった。

「そうしたら、こういうのはどう?」

 泡音は手に水を出し形を槍へと変貌させた。

「水月・槍」

 水でできた槍を思い切り薙ぐと炎の間に隙間ができたので、そこに一斉に矢を放った。

 すると、炎は消えた。

「よっしゃ!!これで入れるで!!!でかした泡音!!」

 父は泡音の頭をワッシャワッシャと撫でた、髪は少し乱れたが泡音は嬉しそうだった。

「えへへ、恥ずかしいよ〜!!」

「お前、天川泡だよな?お前のせいであの阿呆が使い物にならねぇんだ……まあいい、焼き魚にしてやるよ」

 親子の団欒に水を差すように烈は挑発を入れたが、海姫たちには効いておらず寧ろ笑い飛ばされた。

「あいつやばない?焼き魚やって、ところでこの前食べたカレーの話したっけ?」

「いや、してないっすわ」

 海姫たちも自然と煽ったが、父が皆んなを制止した。

「お前らやめろ!口喧嘩をした訳とちゃうやろ?」

「お、少しは話の分かるやつが出てきたな。単刀直入に言うぞ───」

 烈の手には数多の符があった、武器へと変換できる変刃符だ。

「俺たちはお前らが手を出さない限りはこっちも手荒な真似はしない、手を引け魚共」

 父は頭を掻きながら少し考えた。

「んー、君は一つ勘違いしとるよ。君が言う阿呆がうちの娘を泣かせた、それに対するお仕置きなんよこれは」

「鴨原右京、そいつを差し出せばこっちも手荒な真似はしない。むしろ平和に片付くならそれが一番やと思うんやけど」

 烈は、背中に冷たい汗が伝うのを感じていた。

───だが、目は死んではいなかった。

「おもしれぇ、要はあいつを出さなけりゃ口実ができる訳だ。そしたら答えは一つ──」

「お前ら、相手は生半可な奴じゃねえぞ!用心してかかれよ!」

 烈の合図と共に無数の符が宙に舞い、剣や槍に変化して飛んでいった。

対する海姫たちも水を矢へと変化させ応戦していった。

(卯月、援護はまだかよ───)

 



─────中衛、桃樺サイド

 桃樺は、先刻の怒りがまだ収まらずに屋上で一人考え込んでいた。

「右京のやつ、あそこまで馬鹿だとは思わなかったよ」

 桃樺がそう呟くと、戯雨が姿を現し桃樺の隣に座った。

「なぁ桃樺、右京はそこまで考えなしな男ではないぞ。海姫の泡音……確か人間の男に惚れて丸薬を飲まされたと風の噂で聞いたのじゃがな」

「え?それなら一族も破門のはずじゃないの?」

 ─丸薬を飲むことは一族を見捨てるも同然、飲んだら最後二度と元の姿には戻れなくなる。

「そしたらどうして泡……泡音は戻れたの?」

「桃樺、もうあやつは天川泡ではないのじゃぞ。鞍馬の時でもその甘さでピンチになってるではないか」

 桃樺の弱点、それは身内には弱いところだ。

情を持ってしまうとそれがたとえ敵になろうとも刃を向ける手が震えてしまうくらいに。

「でもさ、あたしたちは友達になれたのに残念だな………」

「んなもん、右京へ近づくための鍵として扱われたに過ぎんのじゃぞ───もし今、あやつが桃樺を殺しに来たとしてお主はその喉元に矢を射抜けるのか?」

 桃樺は反論しようとしたが、返せないくらいに言われ言葉が宙に舞った。

 気まずい空間が流れてお互い黙っていると遠くで爆発音が聞こえた。

「あれは………玉桂!!!」

「おうよ!!まかせろ!!」

 合図と共に玉桂はくるりと回った、すると三日月を模したような弓へと変化していた。

「射日───纏」

『おう!』

 玉桂が返事をすると桃樺の左の瞳に三日月の模様が浮かんだ。

「桃樺、これは一体なんじゃ?」

 初めて見るものに戯雨は驚きを隠せなかった。

「これは、あたしが考えた術だよ。神器に換装できるなら式神たちの力を自分に移すこともできるんじゃないかってね」

 戯雨は自分の目に狂いはなかったと思うと同時に、桃樺の仙力が不安定に揺らいでるのを感じた。

「それ、即席じゃろ?長くは持たない上に式神の一部を自分に付与するということは代償はでかいはずじゃ、速攻でゆくぞ」

「やっぱり分かる?でも、数の有利を崩すには圧倒的な火力で押さないと───あたしは援護が役目だから」

 桃樺は戯雨の心配を振り切るように弓を構えた、鉉を引くとそこには月の色をした矢が複数装填されていた。

「戦闘開始だ玉桂、戯雨」

 矢を放つと海姫たちの放った矢を正確に射抜き相殺していった。

(長くは持たんじゃろうし、最悪わしが首根っこ掴んで止める)

 戯雨は心の中で呟き焔を矢に変えて構えた。

「狐火・鳳仙花」

 焔が紅色から青へと変わり海姫たち目掛けて飛んでいった、戯雨は短期決戦を狙っていた。 

(耐えろよ……桃樺)


────前衛、烈サイド


「これじゃ、ジリ貧だな……右京あれをやれ!」

 前衛の状況はやや押され気味でジリジリと距離を詰められていた。

 指示を受けた右京は、周りの結界担当に軽く指示を出し烈の横に立った。

「お前なぁ、まだいじけてんのか?」

「いじけてへんよ別に、これも僕が巻いた種やし」

 右京の顔は未だに晴れないままだった。

「まあええわ、要はこいつら殺せばええんやろ───結界刀」

 右京の手には青白く光る結界でできた刀があった、刀が形成された後すぐ右京は海姫たちに向かって斬りかかった。

制止役の夕影はどこかで暗躍していた。

「おい!待てアホ!!」

 ──烈の声が一体に響いた、だが右京の耳には届いておらず斬りかかる寸前に黄金色に輝く一筋の光が海姫たちの攻撃を相殺した。

「卯月、おせぇよ」

 海姫たちの攻撃が相殺され仙力の残穢が雨のように降った。

 海姫たちが混乱してるなか、泡音だけは矢の放たれた方を見ていた。

「桃樺ちゃんはあそこね、ちょっと行ってくるね」

「お、おう。あんま無茶しちゃだめやで」

 泡音はどこか嬉しそうに軽い足取りで桃樺の方へ向かっていった、足元に水の波紋が浮かんで波紋がどんどん大きくなっていった。



───後衛、紫帆サイド


 戦闘開始して少し経ち陽射しが傾き少しの静けさを孕む頃、紫帆は芳しくない状況にため息を吐いた。

 桃樺の仙力を込めた氷塊が少しずつ溶け始めていたからだった。

「ももかちゃん、無茶し過ぎだよぉ」

 各部屋に分かれて指揮陣は各々指示を出していた。

紫帆は主力3人の状況を見て指示出しをしていた。

「紫帆、お疲れ様。少し煮詰まってるんじゃない?はいお茶」

「夕影ちゃん、ありがとうね」

 夕影はぽんとお茶を頭に置き、一息つくよう促した。

 お茶をこくりと飲んで少しの休息の後夕影は首尾を訪ねた。

「いやぁ、どうもこうもないよぉ!ももかちゃん以外先走り過ぎだよ……右京くんに関しては掛かり気味だし」

「途中まで右京を見てたが、桃樺がいなけりゃ戦争になってたよ……あの子なりに責任感じてるわね」

 嘆く紫帆を横目に夕影は少し考え込んだ。

「紫帆、ここの指揮はアタシに任せて桃樺のとこへ行きな───動くわ、本丸が」

 夕影の一言に紫帆は慌てて氷寣を持ち部屋を飛び出した。

「紫帆、桃樺を頼んだよ」

夕影の声に、紫帆は一瞬だけ振り返った。

言葉の奥に、何かを託された気がした。

屋上へ駆ける途中、陽は落ち、月が反対から顔を出していた。

「ももかちゃん、待っててね…それまでこないでよ───泡ちゃん」


─────中衛、桃樺サイド


「こりゃまずいな、桃樺の仙力に底が見え始めとる」

 戯雨は自分自身の焔の火力が落ちてきているのを感じ桃樺の限界が近いことを悟った。

「まだ大丈夫、殺さない戦いって思ったよりしんどいね」

 他の中衛メンバーの援護はあれど、核を担う桃樺の負担は相当大きいのだ。

 呼吸も荒くなり矢を引く腕に力が入りにくくなったが、それを隠すように桃樺は笑ってみせた。それでも海姫の矢は緩まなかった。

 相手の攻撃が緩まないのを感じ苦笑いし始めたところで屋上のドアがパタンと開いた。

「調子はどう?一回休も?」

 桃樺が息を荒げながら後ろを見ると、紫帆がにこりと立っていた。

「戯雨もほら、休んで!お茶持ってきたよ!」

 戯雨と桃樺は少しの違和感を持ったがすぐに消え紫帆からお茶をもらった。

「海姫さんたちも強いよね、泡音ちゃんもあの中にいるのかな」

「ねぇ?桃樺ちゃん」

 桃樺と戯雨は少しの違和感が大きくなって確信へと変わった。

「ねぇ、紫帆……今度一緒にコスメ買いに行こうよ」

「いいね!桃樺ちゃんは青系似合いそうだよ」

 桃樺は矢を構え紫帆に向けた、紫帆は両手を上に上げた。

「ねぇ、あんた誰?」

「誰って文月紫帆だよ?桃樺ちゃん疲れてるなら休も?」

 恐らく何者かが紫帆を騙っているのだと思い桃樺の怒りは頂点に達し腕の血管は浮き出ていた。

「二人きりの時はねあたしのことをももかって呼ぶんだよ紫帆は」

「もう一度だけ聞く、あんたは誰だ?答えなければお前の首と胴体が別れるぞ?」

 桃樺の問いに、紫帆はニヤリと笑い輪郭がぼやけて一帯に水溜りができた。

 そこに立っていたのは泡音だった。

「流石だね、桃樺ちゃん」

「やっぱり泡音か、こんなとこに来てあたしの足止め?」

 泡音は首を縦に振るだけだった、少しの沈黙の後再びドアがバタンと勢いよく開いた。

「ももかちゃん、戯雨ちゃん大丈夫………って泡ちゃんなの?」

 紫帆は今までと少し違う泡音の姿に戸惑っていた、天川泡の魔仙を見たことはなかったからだ。

「紫帆ちゃん、天川泡は仮の名前だよ。今は泡音だよ」

「泡音………え!?昔遊んだことあるよね!!

懐かしいなぁ」

 紫帆の反応が予想外だったため少し戸惑ったが、泡音は深く息を吸って吐いた。

「あのね、二人がいるならちょうどいいや。

こうなったのは大体私のせいなんだけど、この戦いを止めたいんだ。もちろん殺し合いになるのは無しで」

「桃樺ちゃんには前に少し話したよね……お願い、みんなを止めて!このままだと双方に悪い影響しかないの」

 泡音の陳情を双姫は考え込んだ、しばらく悩んだ後口を開いたのは紫帆だった。

「分かりました─文月紫帆、卯月桃樺の名の下受理します。報酬は?」

 紫帆は今までの状況を見るに、報酬は分かりきっていたので深くため息をついた。

「うん、私の命をあげる。人魚だったら生き血を売ればたくさんお金になるし、お肉だって多分美味しいとおもうんだ───」

「それに、もうこの世に未練なんてものは無いしね………唯一の未練は右京くんに謝れないことかな」

 泡音は、正門の方を遠い目で眺める。右京のいる方を。

 紫帆は予想外の返答に言葉に詰まったが、桃樺は動じることはなかった。

「泡音、あいつはそこまで馬鹿じゃないよ。今ああして前にいるのはあんたに謝ろうとしてるからだと思うんだよね────夕影!!」

 桃樺が叫ぶと、夕影は大きな羽音を立てて屋上に舞い降りた。

「前衛はあいつに任せておけば問題ないから右京を連れてきて、烈は人の扱いだけは得意だから」

「任せな、アンタらはそれまでに話をつけときな」

 そう言って颯爽と飛び立って行った夕影を見送った後、紫帆は持ち場に戻り桃樺と泡音だけが残った。

 顔が夕陽に翳りお互いの表情が見えにくくなってきた中、先に話し始めたのは桃樺だった。

「にしても泡音、流石にこれはやりすぎだよ!

直接また来るとかあったじゃん!」

「ごめんね桃樺ちゃん、父上がどうしてもって引かなくてね。でもお互い互角が続けば撤退すると思うんだよね」

 泡音は簡潔に事の経緯を話した、桃樺はそれを聞いて呆れたようにため息を吐いた。

「そりゃ娘がそんなこと言われて帰ってきたら怒るだろうけどさ、みんな強いよね。だって今日残ってたのはうちの中でも上澄の連中だよ?」

「倍返ししたる!って息巻いて来たはいいけど右京くんを見た途端フル稼働しちゃったから大変だよもう………」

 桃樺はこの子も苦労したんだなと同情の眼差しを向けた。そしてある提案を泡音に持ちかけた。

「泡音、右京と一緒にいたい?」

「うん、叶うことならね……でももう無理なんだよ」

「実は、一つだけあるんだよね」

 桃樺はニヤリと笑った、泡音はなんのことかさっぱり分からず首を傾げた。



────前衛サイド

 日が落ち影が消え始める頃、海姫たちと烈たちは限界を迎えていた。

「お前ら、強すぎやろ………今頃学校の中入って暴れてるはずやったのに、ほんまに学生?」

 泡音の父は、肩で息をしながら座り込んでしまった。正門からから5歩分しか進めておらず途方もない苦労に辟易していた。

「いやいや、おっさんたちもやるじゃねぇか!

いろんな妖邪を屠ってきたがあんたらみたいにしぶといのは初めてだ」

 烈も限界を迎え座り込んでしまった、お互いもう戦う雰囲気はなく雑談混じりになっていた。

「そういや、泡音が戻って来ないやん。主役がいなきゃ宴できないやん!なぁ?お前ら」

「泡音だけじゃなく、見学に来てた河もいねぇぞ」

 河は今後のために戦い方を見てみたいと申し出て今回の戦いにこっそりとついて来たのだが先刻から姿が見えなくなっていた。

「え?ほんま?久々の人間界にワクワクしすぎたんかな」

 父の言葉に一同はドッと沸いた。

「おい、右京!屋上行くよ、捕まんな」

 座り込んでいた右京をガバっと抱えて颯爽と飛び立っていった。

「鴨原右京ってもしかしてあいつ?」

 父が烈に聞くと、烈はそうだと頷いた。

「うわ、泡音のやつめっちゃ強い奴好きになっとったんや。あいつもしかして泡音のために………」

「おっさん、あいつは自分を勘定に入れないで物事考える奴だから相手を考えて自分が傷つくことを平気でする奴なんだよ」

 烈の言葉に、父含む海姫たちは感動していた。

「人間にしておくのは惜しいな……天狗が海姫ならきっと大成してたやろうな」

 そう言ってもう引き上げムードを出していたのだった。


────中衛サイド


「ちょっと夕影殿、どしたん急に?僕あっちやねんけど」

 右京は下を指差して、持ち場に戻すように促したが夕影は聞く耳を持っていなかった。

「もう向こうは戦意は無くなってるよ双方ね、でもあんたのケジメはついてない」

 泡音のことだとすぐに察し、複雑な顔をした右京だが降りようと抵抗することはなかった。

 屋上に着く前、そこに泡音がいるのに気づき降りた瞬間から顔を上げることができなかった。

「ねぇ、右京くん顔を上げて」

 あの日から今日までずっと焦がれていた声が聞こえ顔を上げると、手を思い切り振り上げている泡音の姿があった。

「ちょっと、泡音!!」

 桃樺の声虚しく、バチンと乾いた音が響き桃樺は顔を顰めて手を合わせた。

「痛ったいなぁ!!久々に会ってやることがこれかいな!!…………どうしてここまできたんや?次会ったら祓う言うたやろ天川泡ちゃん?」

「あのね右京くん、あの時右京くんが言ったこと全部嘘だって分かってるよ彼岸山丹の代償を知ってたからだよね」

 全て見透かされたようで右京は言葉を見失い身振り手振りで誤魔化すしかなかった、泡音は続けて話し始めた。

「知ってる?彼岸山丹の代償は寿命の九割を持ってくる代わりに望む姿になれるやつなんだけど、海姫は長寿だから飲んでも人の一生とほぼ同じなの」

「右京くんは、自分が先に死んで私を悲しませるんじゃないかって思ってるんだろうけどずっと隣で生きてけるんだよ?」

 右京は海姫の寿命の長さをど忘れしていた、桃樺も妖邪が飲む例を聞いたことがなく、断片的な情報しか知らなかった。

「右京、あたしたちは酷い勘違いをしてたようだね…………夕影、少し離れよう。会話が聞こえないくらい離れてよう」

「ああ、そうだね………」

 夕影の言葉は珍しく歯切れが悪く、桃樺は仙言で話しかけた。

『なに、なんか視えてる?』

『いや、離れるならほんの少しの方がいい───いやな胸騒ぎがするんだよ』

『了解』

 桃樺と夕影は、二人に意味深げに手を振って屋上の時計台の上に座った。

(二人とも、後悔しないでよね)





 陽の火照りは消え去り月の優しい冷光が皆んなを照らす頃、青年と人と成った少女が向かい合い月光だけが二人を照らしていた。

「なぁ泡……泡音、さっきの話って本当なん?」

 右京の問いに、泡音は笑顔で頷いた。

月に照らされた泡音は清流のように透き通って見えた。

「うん、本当だよ?──本当の気持ちを聴かせてほしいな」

 泡音の言葉に右京は少しほっとした。

月に照らされながらも火照りを隠せていない顔は今にも沸き上がりそうだった。

「あのな泡音……僕は、いや俺は初めて会ったあの日から君のことが好きだったんや。今でもそれは変わらん、天川泡として俺の前に現れた時もすぐに分かったんやで?」

 まさかの告白に泡音は驚いた、そんな時から気づかれているとは思っていなかったのだ。

 泡音は何かを言おうとしたが、右京は今まで溜めた想いを吐き出すように話を続けた。

「覚えとるか?一杯の花束持って迎え行くって言うたやろ俺、今持ってないんやけど大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。そんなのが無くてもね、でも針千本は飲んでよ?昔約束したでしょ?」

 痛いところをつかれた右京は、悔しそうな顔をしたがすぐに笑顔になった。

「え?覚えてたん??しゃあないなぁ……今度針は怖いからアレ飲むわ!!トッポ」

「まぁ、冗談はええとしてここからは真面目や───天川泡音さん、僕の隣でずっと笑っていてください」

 いつになく真剣な顔をした右京に違和感しか感じなかった泡音は吹き出してしまった。

「天川は偽名だよ!!うん、これからも隣で笑い合おうね」

 こうしてここに人間と、元妖邪の恋が成立した。


「この氷は……いやな感じがする。屋上行かなきゃ」

 ───幸せは長くは続かない事を、氷塊だけが示していた。

 月は、二人を見下ろしていた。

今は、この世界は二人だけだと説き伏せるように。


────後衛サイド   少し前

 後のことは桃樺に任せ、指揮を執るために紫帆は教室に戻った。

 一息ついて、ふと盤面を見ると先ほどと変わっていた。

「んー?なんか違和感あるなぁ……夕影ちゃんが何か細工したのかな」

 先程まで夕影に任せていたので何がしたのだろうと思いそのまま進めようとした時、氷塊の一つにヒビが入り猛烈な勢いで桃樺たちの方へ近づいていった。

「この氷塊の仙力は………誰?」

 桃樺の物でも無ければ泡のものでもない、ここで紫帆は違和感の正体に気がついた。

「一つ多い……このままじゃ上の皆んなが危ない!!」

 紫帆は今更動くことのない盤面を放っておいて急いで屋上へと駆け出した。

 

「鴨原右京……姉さんを傷つけたことは血で償ってもらうからな」

 

───屋上


 月明かりが二人を照らしている頃、桃樺はあまりの甘さに苦虫を潰したような顔をしていた。

「いや、良かったよ?良かったけどさ……甘すぎない?あれは」

「いやいや、何はともあれ丸く収まって良かったじゃないか。向こうは戦闘意欲ないし、ある意味無力化みたいなものだろう」

 それもそっかと、桃樺は月を見上げた。

今夜は七夕にしては珍しく雲一つない晴空だった。

 桃樺はボーッと空を眺めてると、下から気配を感じた。

 いつもなら具体的な感知も出来るが先ほどの消耗が激しかったため、仙力の大きさでしか完治できないでいた。

『桃樺、何ボーッとしてるんだ。誰か来る』

 夕影が仙言で話しかけたが、桃樺はワンテンポ遅れて返事をした。

『………分かってるよ、あの下の様子だともう終わったってしいちゃんが言いに来るでしょ。でもあの二人の甘さに見たら胃もたれするかもね』

 桃樺の笑顔は緊張感がなく疲労が隠しきれていなかった。

「なぁ泡……今日めっちゃ星綺麗とちゃう?」

 右京は辿々しく泡に話しかけるがそれを見て泡はクスクスと笑いながら頬を突いた。

「右京くん、なんか緊張してない?いつもならそんなこと言わないでしょ?」

「……あ、バレとる?いやぁなんか実感湧かんくてなぁ、ほんまに泡が僕のこと好きでいてくれたなんて嬉しすぎて今にも心臓が飛び出しそうなんやで?」

 二人は未だに綿菓子の如く甘ったるい世界を作っていた。

 足音は二人の耳にも入るくらいまで近づいてきていた。

「ん?誰か来るん?文月ちゃんかな……ちゃんと報告せんとな!」

「うん、ちゃんとごめんなさいもしないとだしね。でもこれは弟だね。」

「へ?泡に弟おったん?初耳やわぁ!」

 右京は轢かれたカエルのようなポーズで驚いた、その会話を聞いて桃樺と夕影は胸を撫で下ろした。

 足音が止まり、扉がガシャンと開いた。

そこには泡の弟の河が立っていた、河の顔には嘘くさい笑顔が引き攣っていた。

 こちら側へ来ない河を不思議に思った泡と右京は河に優しく声をかけた。

「アレが弟くん?いい子そうやん!」

右京の言葉を聞き河は舌打ちをした。

「どしたの河、こっち来なよ!紹介したい人が………………え?」

 刹那、河は刃物を持ち右京目掛けて突進してきた。

「は?…………え………夕影!!」

 桃樺は朝影を構えたが、反応が遅れて二人の間合いは桃樺じゃ到底間に合わないとこまで詰めていた。

(ッチ、間に合わないか)

 桃樺が舌打ちをした瞬間、赤い飛沫が舞い桃樺と夕影は時が止まったように思えた。

 右京と河の間に泡が庇うように入り、泡の鳩尾部分にとても深く刃物が刺さった。

「河………どうして」

 泡はその場に倒れ込み、右京は理解が追いつかないまま泡を抱き寄せ河を睨んでいた。

「夕影は救護班、そして紫帆を呼んできて」

「紫帆はもう来る!救護班を呼んでくるよ!」

 夕影が飛び立ってすぐ、紫帆が上がってきた。

 状況を瞬時に飲み込み、紫帆は河の足に氷塊を打ち込み機動を封じた。

「泡音ちゃん!!大丈夫??ちょっと我慢してね」

 紫帆は、素早く刃物を抜き瞬時に傷口を凍らせた。ただの短い応急処置だが泡は少し楽そうな表情になった。

 河は膝立ちを姿勢で、ここにいる人間3人に錯乱状態で吠えた。

「どうして姉さんがあんなになってお前らは生きてるんだよ!!姉さんは前に泣きながら帰ってきた───鴨原右京!!お前だけは差し違えてでもぶっ殺してやる!!」

 桃樺は、刀を首元に近づけ跳ね落とす勢いだがそれを止めたのは泡だった。

「………桃樺ちゃんやめて……おねがい…これ…以上誰も………」

 傷つけさせないで、そう言い切る前に泡は気絶してしまった。右京は急いで泡を抱えて端にいった。

「でも、こいつは──」

 桃樺は怒りで震えていた、身内のお願いと今ここに握っている怒りのどちらを取るかの瀬戸際に立っていた。

 紫帆は震える桃樺を嗜め河の前へ立った。

紫帆の手には雪華が握られて震えることなく喉元へ突き立てた。

「泡ちゃんごめんね」

 泡に謝ったあと、紫帆は雪華を振り上げた。

斬りかかろうとした瞬間、夕影が猛スピードで飛んできた。

 飛んできてすぐ、夕影は紫帆を羽交締めして動きを封じた。

「紫帆落ち着くんだ、こいつを殺したところで産むのは憎しみの連鎖だけだよ───だから落ち着いてくれ」

 紫帆は、一度深く深呼吸をし平静を取り戻した。次に夕影は河に一切の同情なく言葉を吐き捨てた。

「今すぐ親父のところに帰んなよ、このことは報告してあるから後で絞られな」

「あの二人はもう子供じゃない、好きに生きさせてやんな」

 夕影の言葉に河は納得し、穴の空いた足を引きずりながら消えていった。

『夕影、紫帆……戯雨と玉桂も力を貸してここから大仕事だよ』

 桃樺の言葉に一同は疑問を抱いたが、疑うことなく頷いた。




 今年の七夕は月明かりと星が眩く輝き幻想的な夜行を繰り広げる中で結ばれた縁が解けかけいた。

「右京くん、綺麗な夜だね……」

 泡は声を絞り出すように喋りかけた。

「アホ言え………こんな綺麗な夜だってお前が生きとらんとこの目には色が入らん。今は治すことに専念しいや」

 右京は精一杯の強がりを見せた。泡から見たら上を向いていたが、右京は涙で下を向けないでいた。

「……もう自分の限界くらい分かってるよ…………あ、その栞持っててくれてたんだ」

 右京の胸ポケットに入っていた栞を抜き愛おしそうに眺めた。

「あぁ、これは泡がくれたやつやからな。ずっと大事に持っとったで……この花……桔梗の花言葉知っとるか?」

 右京は溢れ出るものを一度グッとしまい込み、精一杯のいつも通りを作り笑顔で言った。

「花言葉は変わらぬ愛……どんなになっても僕が泡を思う気持ちは変わらんよ、せやけどこんな終わり方あんまりやろ」

「泣き虫なとこは変わっていないねぇ……右京くん」

 泡は声を振り絞り右京の耳元で愛を囁いた。

「最後に言わせて……私は、最後を迎えるのが右京くんのすぐ近くなんてすごく幸せだよ………でも、それでもずっと一緒にいたいよ。」

「───笑って?」

 右京は溢れ出る涙をなんとか引っ込めてこぼれ落ちないように下を向いた、今できる最大限の笑顔を作って。

「アホ言え、俺はお前を一人で閻魔さんのとこへは行かせんよ?」

その言葉を聞き泡の震える瞳が、何かを求めるように右京を映していた。

右京はその意味を悟り、静かに目を伏せた。

 右京は結界刀を小刀くらいまで縮小させ自分の喉元へと突き立てた───満足そうに笑いながら。

 今星空は、二人だけを照らしていた。現世からの旅立ちを歓迎するように。


「よし、条件成立」

 少女は、疲労でふらふらになりながらも立ち上がった。

後ろに友と力の分け身を携えて。



 私は夢を見た、とても永くて温かい幸せな夢。

添い遂げたい人と同じ歩幅で歩き最期は同じ棺桶に入る、そんな夢を。


「───あなたは何を考えてんの!!!」

 夢の雰囲気が変わった、見慣れた男女が取っ組み合いの喧嘩をしている。

(……やめて!)

手を伸ばしても、声を出しても二人に届くことはなかった。自分の置かれた状況を瞬時に理解した。

「あんたはどうしたいの?」

 もう一人見慣れた少女に問いかけられて答えに詰まった、もうどうしようもないからだ。

 私は問いかけた、どうすればいいのかと。

少女は意外にもあっさりと答えた。

「そりゃ、あいつのそばにずっと立っていることだよ。それであいつをドン底から救い出せる」

 でも方法なんてものはない、もう声も手も届かないのだから

────私は死んでしまったのだから。


「………じゃあ………どうするのよ」

 目が覚めると、先ほどと同じ綺麗な天の川が私の瞳に映り込んだ。

「ちょっと右京くん!!何考えてるの!!」

 紫帆は、右京の血迷った行動に慌てて対処していた。

「うるさい!!泡がいないなら俺も生きてる意味なんてもんないんや!!!」

「……右京くん?……………右京くん!?」

 泡は力を振り絞り、水を弾き出し右京の手に固く握られていた刃物を弾き飛ばした。

「へぇ……文月ちゃんも水属性を使えるんか、当てつけか?」

「今のは私じゃないよ」

「…は?今そんな冗談いらんねん……って冷た!!」

今度は顔に水飛沫が思いきり飛んできて右京は思わずのけ反った。

「なにすんねん!!!文月ちゃんとは言え許さへん………え?いやいやちょい待て」

 右京は顔を上げると先ほどまでの怒りはどんどん冷めていった。

「泡、どうして?さっき………は?」

 理解が追いついていない右京に泡はまっすぐ抱きついた。

「なんで……死のうとしたの!このバカ!!」

「いやいや、あの目は一緒に……って目やん!そっちこそなんで生きとるん!?どういうこと!?」

「笑って?って言ったのにどうしてそんな結論になるの?私は………私は……………」

「あなたに生きて笑っていてって想いだったんだよ?それなのに……このバカ!!」

 泡は右京の胸に顔を埋め大きな声を上げながら泣いた、右京は何が何だかわからず混乱したまま泡を優しく抱きしめ頭を撫でた。

「それに関してはあたしが説明するよ」

 桃樺はこの状況に胃もたれを感じながら説明を始めた。

「簡潔に話すと泡は右京、あんたの式になったんだよ」

「条件を満たすのにギリギリすぎたけど…それは二人の想いが重なって合致することなんだよ」

 桃樺の言葉に右京はポカンとした顔をした。

「え?そんな簡単に式の契約ってできるん?」

「あのね、それが難しいから式神使いは超少ないんだよ?無理やり調伏させることもできるけどそんなものに信頼なんてものはないから、それにあたしが文月派の人間じゃいられなくなる」

 ──式の契約は力でねじ伏せるパターンと、信頼を重ねてお互いの想いが合致するパターンがある。

 前者はシンプルで主流だが、桃樺は後者以外での方法を知らなかったのだ。

「それって私と右京くんがラブラブになったからってこと?」

 泡の素っ頓狂な質問に桃樺は崩れ落ちた。

「まぁ、大体そう!!もうほら泡もすっかり元気でしょ!?」

 泡の刺し傷もすっかり治りスキップできるくらいには元気になっていた。

「良かったね泡ちゃん!これからも右京くんと一緒にいれるね!お風呂の時はのぞいちゃだめだよ?」

 紫帆の冷やかしに泡は顔を赤くして手をブンブンと振った。

「そんなことしないよ!?」

「いや、泡は僕のこと好きすぎやからなぁ。僕のボディビル大会も見たいやろ?」

 真っ赤になった泡はポカポカと右京を叩いた、右京はこのじゃれ合い一つとっても幸せを感じていた。

「いちゃついてるところごめんだけど、泡は依代はどんなのにしたい?」

 ──式になると、主へ分け身として身につけられる依代を預けなければならないのだ。

「んー、そうだなぁ」

「僕に似合うめっっちゃカッコええやつにしてくれな!!!」

 桃樺と紫帆は右京がいつもの調子に戻ったことに安心した。

「右京くんは結界を使うもんね……そしたら腕輪なんてどう?」

「ええなぁそれ!!!!僕の正装は狩衣やからめっちゃ似合うやん!いいセンスやで!!」

 褒められて泡がふふんとドヤ顔をした。

「よし分かった、そしたら泡は腕輪の形を頭にはっきりと思い浮かべて」

 泡は思いきり目を瞑り、理想の腕輪を思い浮かべた。

 桃樺は詠唱を始めた、すると泡が光始めて光が消える頃には右京の腕に腕輪がついていた。

 周りは銀で縁取られて、中心部分には水が滞留することなく流れ続けている少し太めの腕輪だ。

「おお!ごっつええ感じやんけ!泡、これからもよろしくな!!!」

「うん!よろしくね!」

 なんとか丸く収まり安心したら桃樺は今にも倒れそうだった、式の調伏にはとてつもない仙力が必要になるのだ。

「あのさ、倒れる前に言うけど……泡は仙力が高いから右京のそばを離れない限りは天川泡として動けるから学校にもまた通えるよ」

 そう言い切って桃樺はその場に倒れ込んだ。

倒れる直前に泡が水を出し、右京は周りを覆う膜のように結界を出した。

 咄嗟の行動に紫帆は幅が広がるとニヤリと笑い、右京と泡は口をあんぐり開けた。

「結界と水って噛み合いが凄くいい、右京くんはこれから神社の結界師として生きてく?それとも仙道師になる?」

 右京は神童と呼ばれるほど結界師としては仙力が高い、それに泡の仙力が混ざれば前線で戦えるくらいになるのだ。

 だが、右京の答えはあっさりとしていた。

「いや?僕は結界師として生きてくよ?」

「だって、泡の魔仙と僕の結界合わされば敵なしやん?それに僕が前線に出たら誰がおてんば姫達の手綱握るん?」

 あまりにもあっさりしすぎて紫帆は次に喋ろうとしたことを忘れてしまった。

「えーと……ああもう!手のかかる子がもう一人増えたじゃん!」

「文月ちゃん!?僕のこと手が掛かる思ってたんか???」

 紫帆と右京の絡みに泡はきょとんと眺めていた、それに気づいた紫帆はさっき言いたいことを思い出した。

「思い出した!泡ちゃん、これからは家族も同然だからね。また4人でファミレス行こ!右京くんの奢りでね」

 泡の顔にいつもの笑顔が戻った、月夜に照らされる太陽の如く輝いていた。

「うん……うん!!ありがとうね紫帆ちゃん!」

 こうして、とてつもなく長い1日が終わった。



 

 あの海姫殴り込み事変から1週間、僕らはそれなりに忙しくしていたんや。それはもう目が回りすぎて宇宙が見えるほどにな!

 文月ちゃんと卯月ちゃん、僕と泡で海姫の親玉もとい泡の親父さんに話をつけてきた。

 親父さんは最初こそ睨め付けてきたが生きている事実に納得して笑顔で僕に泡を託してくれた。

 河はというと、仙力に蓋をされ外出禁止を言い渡されて不貞腐れていた。泡の一声により外出禁止は解除されてたんや、意外にちょろいやん。



「いやぁ、今までで一番しんどい1週間とちゃうかった?」

 ファミレスに行き開口一番右京は項垂れていた。

「でもお父さんと話してる時の右京くんかっこよかったよ?行ってすぐ土下座はどうかと思ったけど」

 泡のツッコミに桃樺と紫帆は飲み物を吹き出しかけた。

「確かに、あれは傑作だったよ。ね?しいちゃん」

「うん!だって入ってすぐに流れるように土下座するのは反則技だよね」

 右京は泡の父に会うなり非礼を詫びるために流れるように土下座をしたのだ、そこにいる一同がポカンとし桃樺だけはゲラゲラ笑っていた。

「あそこまでせんと、筋は通らんでしょ!娘をこれからずっと預かるわけやし………もし未来が違うものだとしても僕は同じ道を辿ると思うで」

 突然の告白に泡の顔は沸騰寸前だった、紫帆は二人をうっとりと眺めていたが桃樺は胃もたれしそうになっていた。

「右京、烈はどうなったか知ってる?あの後学校もろくに来てないじゃん」

「んー?なんか秋の晴明大祭で決着つけるとか息巻いてどっかいったで」

 ──晴明大祭、毎年9月に行われる明晴高校の体育祭的な催事。

 内容はシンプルで、家ごとに5人選出し5番勝負を行う。あとは徒競走など王道もやる。

「へぇ、面白いじゃん。」

「晴明大祭?」

「そっか!泡ちゃんは初めてだっけ!!えっとね」

 紫帆が説明しようとしたところを右京が制止して止めた。

「あれや……えーと……………まず五大名家ってのがあるんやけど」

「右京、あんたほんとに分かってんの?そこからだと閉店まで話すことになるよ」

 右京が頭を悩ませていると、泡がヨシヨシと撫でた。

右京は途端に閃き手をポンとした。

「要するにあれや、各家の代表を5人ずつ集めて生き残り戦をするんや!最後に立ってた奴の家が勝ちってやつとシンプルなタイマン勝負があるで!」

「そう、それで私とももかちゃんはそのタイマンの方に出るのね!応援してね」

 泡は初めてのことに今から目を輝かせてワクワクしていた、一同は日常が帰ってきたことを改めて実感しほっと胸を撫で下ろした。



───けれど、この日常はまた喧騒に包まれることをここにいる誰もまだ知らないでいた。



 


「烈、お前はどこまでいっても混血の穢れたガキなんだよ」

 男は血を吐きながらそう吐き捨てた。

「親父、俺はあんたを殺してこの腐った八衢を変えてやるよ。相伝なんてクソ喰らえだ」


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