序章「宵山の桃夜叉姫」
依頼1
「任務(弍) 糺ノ森掃討作戦」
依頼主 下鴨神社神主 鴨原右京
概要 「糺の森に棲みついた妖邪集団を滅殺、数が多いため仙道師1人または2人を求む難易度は低いが双姫を要請する」
――「あの刀、間違いない桃夜叉姫だ!みんな逃げろ!!!!」
その声を皮切りに妖邪が一斉に戦うことを放棄して逃げていった、その背後には少女が刀を構えて立っていた。
少女は構えた刀を下ろして気だるそうにしていた。
「ねぇ、これ弍の仙道師でもよかったやつだよね、もう戯雨出していいよね」
少女が刀に話しかけると、刀が男に変わった。男は夕影といい、彼女の式神の1人だ。
「アンタねぇ、たしかに数が多いだけかもしれないけどアンタの魔仙が一番向いてるのよこういう任務には。ただ戯雨を出すのは正解ね、鴨原の坊やだって結界くらい張れるでしょ。最大火力で出しなさい。アタシは坊に頼んでくるわ」
そう言い残し、夕影は飛んでいった。
「まあ、夕影は一人でも大丈夫でしょ。戯雨出てきて力を貸して」
すると、耳飾りが光だしそこから推定10歳くらいの少女が現れた。大きなあくびをしていかにも寝起きかのような態度で出てきた吐息に少し酒の匂いが混ざっていた。
「桃樺、この時間にわしを呼び立てるのは珍しいのう。なんじゃ燃やすんか?ここ鴨坊のとこじゃろ、あやつはわしらの焔に耐えられる結界張れるんか?そこが心配じゃ、ジジイに怒られる」
この仕事は地元の神社や寺との結びつきが強く古くからの知り合いのようなものなのだ、各神社の神主は私ら仙道師が存分に力を振るえるように結界術を覚えるのだ。結界は主に外へ妖邪を逃さないのと周囲の建物への影響を少なくするものだ。
「卯月ちゃん、こっちは大丈夫やで、、、、多分な」
冷や汗をかきながら自信なさげに話す青年は下鴨神社神主の鴨原右京だ。
彼は結界術に類稀なる才があり最年少で神主になった。
桃樺と紫帆とは、昔馴染みで年が同じなことから3人で依頼を受けることが多い。
「あれ、あんた今日調子いいじゃん。いつもならへこたれてるのに、当代はどしたの?年取りすぎて法印を忘れた?」
下鴨神社の当代は、卯月家の味方をしてくれる数少ない御人だ。桃樺はそんな当代を慕っており家族もみんな当代のことが大好きなのだ。
「爺さんは寝てる、もう歳やし、ところで卯月ちゃん、戯雨殿酒臭くない?火力調整気をつけてや!爺さんの結界だって酔った戯雨殿の火力は防ぎきれなかったんやし。ほらあそこ」
右京が指を指した先には燃えて根っこだけ残った杉の木があった、桃樺は申し訳なさそうに目を逸らしたが戯雨は頭を掻きながら笑っていた。
「それは坊の実力不足じゃろうが!右京は神童、結界術の才能は晴明のクソガキにだって負けとらん!!桃樺はあのクソガキを超える逸材じゃがの!!!」
安倍晴明、彼女たち仙道師の祖となる人だ。かつて陰陽師として無双していたが麟鐘羅が渡来してから仙道を修め後に陰陽道と仙道のいいとこどりで仙道師と言う道がひらけた。
「神童も大きくなればただの人って言うやんほんまに戯雨殿!それに今は修行中の身、出来るとは思うけどあんまり期待しないでや!!」
そういうと、右京は右手の中指と人差し指を立て合わせ目を瞑り指先に力を込めた。
するとあたりは夜よりも暗い宵闇となり、辺りの音が消えた。
「ほう、今までも数多の結界を見てきたが右京のやつまた腕を上げたな。これなら遠慮なく燃やせるな」
そう言うと戯雨は桃樺と目を合わせ合図を送る、そして桃樺は影絵で狐を2匹作って詠唱を始めた。
「汝、我の命によりて全てを劫火滅却せよ。舞え、花鬘」
唱えると今まで少女だった戯雨は桃樺の手にすっぽりとハマる扇になっていた。
(桃樺いつでも準備はできてるぞ)
「右京、あんた結界にだけ集中しなよ。燃えてたら三人して当代の爺さんに怒られるから!
10分耐えてくれればいい」
そう言うと桃樺は扇子をバッと開き思い切り振り抜いた。すると扇子からとてつもなく高温の焔が放たれ辺り一面に広がった。
一瞬で燃え広がり逃げ回っていた妖邪も一瞬で灰になった、しかし問題はこの後だった。
「あっつ!!!なんやねんこれ!!手が燃えるって!!!ヤバいって」
右京が悲鳴を上げていた、次第に結界に穴が開き始め焔が外に漏れ出ようとしていた。
「あ、やべ。踏ん張れ右京あんたならできる!」
人間体に戻った戯雨と桃樺が口を揃えた。
「んな他人事みたく言いやがってほんまに熱いやん、手が燃える」
今にも泣きそうな声で右京は叫んだ、その様子を見て桃樺は笑ってしまった。
結界が破れ焔が漏れ始めて笑ってられなくなり始末書を覚悟した、その刹那に冷気を感じほっと息をついた。
次の瞬間には氷で結界は塞がれていた。少女とオネエが空中でひらりと舞っていた。
「ももかちゃーん!!!」
「ちがうだろ紫帆、とうかだよ!!と・う・か!」
「しょうがないでしょ!昔からなんだから癖になってんの!!」
いつも通りケンカをしながら夕影と紫帆が現れた。
式と親友の登場により桃樺は一息つき彼女たちの元へ向かった。
「夕影、あんたどこまで読めてたの?流石アマテラスに仕えただけのことはあるね」
八咫烏である夕影は天照大神に仕えていたと自称している。そんな神の時代から生きてるのに
見た目は20代後半に見える、頭の回転が早く戦況を見通すのに長けている。
「んもぉ〜、桃樺ったら買い被りすぎよ!!坊やの結界じゃ戯雨の最大火力は防ぎきれないなって思って紫帆を呼んだのよ!!とはいえ右京の坊や、前よりも腕を上げたんじゃない?」
右京は照れながら頭をかいていた。紫帆は桃樺に耳打ちをした。
「ねぇももかちゃん気づいてる?」
紫帆が額に汗をかきながら桃樺にささやいた。
彼女は困るとよく冷や汗をかく、森に入ってからある違和感を抱えていたが紫帆の様子を見て確信に変わった。
「たしかに妖邪はどれも弱い、正直弐の仙道師でも問題なかった。でも・・・・数が多すぎる、こんな集団を成せるなんて」
――妖邪は群をなすことはできるが階級の低い妖邪は知能が低くしっかりと組織を組むことはできない、組織を組めるとしたら裏で手を引いてる者がいるかあるいは階級の高い妖邪が頭に立ち組織を作っているかのどちらかだ。
基本的に後者なのだが、前者の事例もたまにある。
妖邪を手引きしたものはその場で処分しなければならないと言う暗黙のルールがある。
階級が壱以上の仙道師は一度は経験している。
「もしかして、気のせいだったりしてね」
「妖邪だったらまだいいよ、クズ仙道だったら後味が悪い」
話していると背中にとてつもない妖気を感じてみんな身構えた。
「潜伏か・・・・玉桂、行くよ!」
桃樺と紫帆、2人で戦う時は基本的に紫帆が前衛で桃樺が後衛を努めている。この二人が組めば格上だって倒せる程の阿吽の呼吸で会話はなくとも連携が取れる。
紫帆は目を閉じ、詠唱を始めた。
紫帆の霊器である氷寣は周りの水分を氷へと変え刃を成す。それ故毎回詠唱をし集中を高めなければならない。
「我、冰寣を繰る者。汝、我の呼び掛けに応え双刃を成して全てを刻め。雪獄風花」
紫帆がそう唱えると、あたりの温度が下がり始めた。
両手に氷の刃を持つ紫帆を見て桃樺はいつも疑問に思ってた。
「あんたの手大丈夫なの?いつも思うけど」
いつも冰を手にとってるのに、霜焼けひとつ起こさない紫帆に疑問を抱いていた。
「冰って言っても仙力だから、冷たいけど手は痛くならないの」
談笑も束の間、主が何か呻いている。妖邪は妖力で立場が決まる、例え言語を失っていようが強ければその場の王になれるのだ。
『ニンゲン、、、、、コ、、、コロ、、、、ス』
『ユルサナイ、、オレ、、、ナカマシンダ』
妖邪はまだ低級のうちは流暢に喋るが、強くなるにつれて言葉はこちらの同情を誘い釣り上げるための餌にしか過ぎない。階級の低い仙道師の死因の八割は心の隙を狩られて殺される。
「紫帆行くよ、ボーナスゲットだ」
「玉桂、いくよ!その三日月、やがては日を討ち取らん。穿て、射日」
今までもふもふうさぎだったが、詠唱により
三日月を模したような弓になった。
桃樺が弓を構えると紫帆は妖邪に向かって切り掛かった、2人の連携は特に指示を出すことなくお互いのやりたいようにやる。だが、長いこと組んでいるため考えていることがなんとなく分かる。
「よし、まずは足を、、、、って硬い!」
双刃はパキリと折れた。敵の妖邪も組織を束ねるだけあって賢い、足に妖力を集中させて攻撃を防いだ。雪獄風花は切れ味こそ鋭いものの致命的な弱点がある、それは刃が脆いことだ。
「……っ紫帆!!」
紫帆の頭上、そこには妖邪の拳が迫っていた。
刹那、桃樺は躊躇うことなく弓を引いて放った。邪を穿つための矢が心臓部を貫き妖邪は一瞬で塵となり消えた。
桃樺は仙力のほとんどを一撃に込めたため目の焦点が定まらずその場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫!?桃樺ちゃん」
「まあ発作的なやつだよ」
桃樺はフラフラと息を切らしながらそう答えた、もう紫帆をあんな目に遭わせたくない。
そのために強くなったのだから。
一呼吸おいて紫帆のお腹が鳴った。
「こんな時間だし、お店も開いてないから肉まん食べて帰ろうよ!いつものコンビニで!!右京くんもくる?」
「行きたい気持ちはあるんやけど……それよりも文月ちゃんこれ見てみ」
周囲を見渡すと木々は焦げて焼け落ち、枝も無惨に散らばっていた。
例えるなら地獄そのものだった、紫帆は汗が止まらなくなり桃樺に泣きついた。
「ももかちゃん!どうしよ、始末書だよこれ」
「あぁ、、、、、、右京、うまく誤魔化しといて」
二人は颯爽と逃げていった。
こうして、今宵の戦いは幕を閉じた。
下鴨神社内に右京のため息と叫び声を残して
「はぁ疲れた、、、、、このおてんば姫どもがぁぁぁぁぁ!」




